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窓際の席の向こう

家から学校が近いというのは、朝早く起きなくてもよいということだ。

時間に余裕があれば、朝飯もゆっくり食べられるし、のんびり歩いて学校まで来ることが出来る。…そう、時間に余裕があれば…。


なぜ人は、持てるはずの余裕を睡眠に費やしてしまうのだろうか…。

…って、まあ昨日は謎イベントのことをつい考えちゃって、なかなか眠れなかったからな。なんとか遅刻しなかったし、今日は仕方がないと思おう。


俺は階段を駆け上がって乱れた息を整えながら、自分の席に向かう。

窓際の席の向こうには、うっすらと雲に覆われた空が見える。席に座りながら外に顔を向けると、中庭が目に映った。

「…」

鞄からペンケースと教科書とノートを取り出して机の上に置く。

鞄を机の横に掛けて身を起こすと、中庭に目が向く。

「…」

なんとなく机に突っ伏して外を向き、中庭を見下ろしてみる。


…多少視界は変わるけど…やっぱりはっきり見るには距離があるよな。


考え込みそうになった俺は、隣からの声で慌てて身を起こした。

「足立?お前何来て早々、寝ようとしてんの?」

「…!…や、違うって!…走ってきたから!疲れただけ!」


まだ起ききっていない俺の頭は、無意識に寝る前の考え事を追いかけようとしたようだ。

呆れたような声に俺が応えた時、チャイムの音が響いた。


 **


授業はまるで集中出来なかった。…いつもは集中出来ているかどうかは、さておく。


俺が森くんに見せられたのは文芸部誌だった。ということはアレを書いたのは、文芸部員のはずだ。

森くんはアレが、ノンフィクションだって思っているみたいだったけど、中庭を見ていた場所がここなんだったら、…距離があり過ぎて、あんな風にはっきりと見えるとは思えない…。


俺は窓の外に視線を向ける。


…オペラグラスを使えば…。

?…ん?…うん?…誰が?…ここからオペラグラス使えば見えるかもだけど、誰が使うんだよ?俺か?

ないない。俺は頭の中でオペラグラス説を却下する。


だからノンフィクションじゃないと思うんだよな。


というか、あの女子が安藤さんだっていうなら、安藤さんに聞けばアレが誰なのか分かるだろう?

中庭の覗き見はともかく、荷物一緒に運んだりとか、傘貸してくれたやつとかは分かるはずだ。森くんは安藤さんに聞いたのか?


…うん。そうだよな。…安藤さんに聞いて分かってるなら、俺んとこには来ないよな。俺そんなことした覚えないもんな。

としたら、安藤さんに聞いてないか、安藤さんは答えなかった。…あ、まったく心当たりがないって答えたとか?…あー、だってフィクションだったら、当然心当たりなんかないよな。

俺は少しだけ安藤さんに親近感を覚えた。安藤さんも昨日の俺みたいに困惑したのかもな。

…ん?でもそれだと安藤さんに心当たりがなくても、森くんは実話だと思ってることになるな。


…うん?…そもそも…どうして森くんは、アレが安藤さんの話だって思ってるんだろう?いくら登場する女子が安藤さんに似てるからといって、これは実話だ!とか普通思わないよな。何か心当たりがあるとか?実話じゃないにしても、事実を元にしたフィクション的な?

森くんはアレを読んで、あの女子が安藤さんだと思ったわけじゃなくて、なんか心当たりのあることを安藤さんから聞いていて、それにアレが似ていたから実話だと思い込んだ?


…あ?それじゃ結局、実際にあったことってことになるか…?


はあ…ダメだ。…やっぱりわけが分からん…。



ちょっと落ち着こうと、俺は溜息を呑み込んで空を見た。

無意識に視線を遠くに向けたけれど、視界の端に中庭が映って思わず眉を顰める。

「…」


アレがまったくのフィクションなのか、それとも事実が含まれているのかは、書いたヤツに聞けばいいことなんだ。つまり聞きに行くべきは文芸部。森くん、文芸部には…

…たぶん既に聞きに行ってる気がする…。行ってないはずがない。きっと行ったと思う。

で、俺のとこに来たということは…、教えてもらえなかった?…ん?あれ?でも森くんが実話だと思ってるなら、探しているのはアレを書いた文芸部員のはず。…あ、実話を元にしたフィクションだったとしたら、書いたヤツがアレに登場する男なんじゃなくて、書いたヤツが何か見聞きしてそれを元に…としたら俺無関係だって分かるはずだよな。


「…」

そういえば…お前が書いたのか?とか言われたな。

…なんでだ?書いたのは文芸部員じゃないのか?…もしかして俺、文芸部員と思われてる?

まさか?そんなわけない…か?


あー、やっぱり考えるには情報が少なすぎる。

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