企画会議
私と足立くんはたくさんお喋りをした。
話しながら足立くんはいくつかの絵を描いてくれて、その絵はどれもが私をときめかせた。
だから家に帰ってからも、それを思い出して心がふわふわする。
足立くんは、私が朧げに思い描いていたものを鮮明にして見せてくれる。
私が文字では上手く取り出しきれずに足掻いていたものを、私の前に簡単に出してくれた。
それならもう私が書かなくてもいいのかもしれない。
そんな風に一瞬思いもしたけれど、あんなに『霞日和』を褒められてしまえば、書かないなんて言えるはずもない。
私はノートパソコンを開いた。
いくつかストックしてある次の小説のアイデアを吟味する。
そしてそこに新たに今日思いついた物語の一場面を書き加えた。
翌日の朝、教室に入ると待ち構えていた文芸部長が私をC組へと連れ出した。
そしてC組で足立くんを捕まえる。
私と足立くんはよく分からないままに文芸部長に廊下に連れ出され、そして「コラボレーションしよう!」という宣言を聞いた。
「コラボレーション?」
「そう!足立くんはあの絵を文化祭で展示するんだろう?それならさ、文芸部誌を美術部展にも置かせてもらいたいんだ。それで文芸部の方でも何か美術部と提携するようなものが出来ないかって思って!」
「なるほど。確かに俺の絵だけだと、あれが『霞日和』の小説の場面だとは分からないよな」
「そう。しかもあの話、去年の部誌に載ってるやつだろう?1年生は絶対に読んでないわけだから、あの絵を見て、小説を読みたいと思ってもらえたらバックナンバーの在庫が捌ける」
「え?待って、在庫があるなら俺が欲しい!」
「もちろん!部室にあるから渡すよ!」
にこにこしながら部長が足立くんと話を進める。
「あ、でも俺が勝手に決めるわけにもいかないから美術部長に言っておく」と言う足立くんに、
「僕から話す!美術部の部長は誰?何組?」と文芸部長が詰め寄る。
これはもしかしたら、探していた文化祭での文芸部の新しい企画をみつけることが出来たようだ。
文芸部長はそのまま美術部長のいるB組に私たちを連れて行って、そのまま4人でお昼を食べる約束をした。
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お昼は美術部室で、美術部長の柊木さんと文芸部長の彬良くんと足立くんと私とで食べた。
彬良くんは、足立くんが私の小説を読んで描いた絵のことを話して、文芸部誌を美術部展に置かせて欲しいことと、代わりに文芸部でも美術部展に誘導するような企画をしたいと話した。
詳しいことは放課後にまた話そう。ということで、今日は文芸部の活動日でもあるから、柊木さんと足立くんが美術部員に声を掛けて、来れる部員だけ文芸部室である図書準備室に来てもらうことになった。
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なのだけど、結局放課後に文芸部室に集まったのは、美術部長の柊木さんと副部長の長谷川さん、文芸部長の彬良くんと副部長の彰吾くん、そして足立くんと私。
美術部員は、文化祭ではクラスで色々なものを描いて欲しいと請われて重宝されがちで、急には抜けられなかったようだ。足立くんがそれを聞いて気まずそうな顔だ。けれど文芸部員だって集まっているのは3人だけだ。
だからそれぞれ今日決めたことを部員に伝えてから最終決定しようということにして、コラボレーションの内容を考えることにした。
まずは美術部展に文芸部誌を置かせてもらうこと。足立くんの描いた絵が文芸部誌の4年度秋号に載せた小説のものだから、それ以降の4つの部誌を20部ずつ置かせてもらうことに決めた。
だけどそれだけだと美術部展のメインが足立くんの絵みたいになってしまわないかと心配する意見が出て、それで他の美術部員の絵にも何か文芸部と提携するようなアイデアはないだろうかと頭を捻る。
「絵を見てみないと分からないけど、絵に関連した図書の紹介をつけるのはどう?」
彰吾くんがアイデアを出してくれる。
「文化祭まで時間は少ないけど連休もあるし、それならなんとか出来るんじゃないか?」
美術部展に出展する絵の枚数は16枚の予定だそう。だけど絵に図書を関連づけられるのを嫌がる部員もいるかもしれないから、許可してくれる絵だけ、ということに決めた。
次に文芸部から美術部展に誘導するような企画。…でもこれがなかなか思い浮かばない。
そもそも文芸部の展示は、部員それぞれが自分の好きな作家を紹介するというもの。
だから展示するものから絵に関連させることは難しかった。
「あ、美術部展で絵に関連する図書を紹介するんだから、その関連図書に絵を紹介するポップを付けたらいいんじゃない?」
長谷川さんの言葉で、全員が「確かに!」と頷いた。
展示品から美術部展へ誘導することばかりを考えてしまっていた視野の狭さを反省した。
文芸部の展示は図書室前の廊下で行う。図書準備室は図書室のカウンターの奥に入り口があって入りづらい為、廊下に展示することになっているのだけれど、そこから誘導する形で図書室の中に特設で関連図書を紹介するコーナーを作ればいいだろう。
「急だったし今年はこんな感じでいいんじゃない?」
彰吾くんがそう言うのに全員が頷いた。
「確かに急な話でびっくりしたけど、完成したあの絵を見て思いついたのなら仕方がない」
柊木さんは肩をすくめて、「…それに美術部展に来る人が増やせるなら私も嬉しい」と笑った。
もしも来年もコラボレーションするような何かをするとしたら、それは後輩に押し付けることになるだろう。後輩たちが来年それをしたいと思ってくれるかどうかは今年の出来次第。
「まず私にもその絵を見せて!」
長谷川さんがそう言った。
柊木さんには昼に足立くんが絵を見せていたけれど、長谷川さんは見ていないようだ。
「俺も!俺も見たい!」
彰吾くんも続けて言った。
だから私たちはそのまま美術部室に一緒に行って、絵を見た。
そして彬良くんが『雪の中で』が載った文芸部誌の4年度秋号を美術部員の3人に渡す。
足立くんはそれ以降の文芸部誌も受け取って、嬉しそうな顔をしている。
そんな足立くんに彬良くんが「よかったら僕が書いたのも読んでね。『小栗灯』だから」と勧めていた。




