表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/46

現実イベントが面倒臭い


 ◇ ◇ ◇



少し前に降り始めた雨は止みそうな気配がない。

彼女は降り止まない雨を見つめて立っていた。


校庭には水溜まりが出来始めている。

このまま歩いて行ったら、きっと靴下まで濡れてしまうだろう。


傘を持っている生徒は既に帰ってしまっている。

傘を持たない生徒も諦めたように徐々に帰りはじめた。


雨を見つめていた彼女はそのまましばらく佇んでいたけれど、雨の中へと歩き出した。


雨が彼女を濡らしていく。頬には濡れた髪が張り付いている。

髪からは雫が肩へと落ちる。肩は既に雨の色だ。

肩に掛けた鞄は雨を弾いているが、制服は彼女の身体を守ってくれているだろうか。


小走りに駅へと急ぐ生徒の中、彼女は濡れるのを気にする風でもなく、いつも通りの歩調で校門から出ていった。


僕は彼女の後を追いかけた。傘を差しているからあまり速度が出せない。

それでも歩いている彼女には、学校からそれほど離れずに追いつくことが出来た。

「途中まで一緒に帰ろう」

僕は彼女へ傘を差し掛ける。

彼女は傘と僕を見つめる。

「ありがとう」

彼女の声を聞いて、僕と彼女は駅までの道を一緒に歩いた。


僕の傘は二人で入るには少しだけ小さかった。

だから僕の左肩は少しだけ雨が染みている。

雨はまだ止みそうにない。

駅までの道はきれいに舗装されていて雨の中でも歩きやすい。

だけど雨の中を走ってくる自転車が時折水を跳ね上げる。


駅までの道はそんなに遠くはない。しばらく歩くと駅にはすぐに着いた。

僕は傘を閉じる。そしてそれを彼女に差し出した。

「僕の家はすぐそこだから」

僕は彼女に傘を渡すと身を翻す。

雨の中を僕は家への道を小走りした。



 ◇ ◇ ◇



「…」

あー。家は歩いてすぐなんだ。そうなんだ。…だけども俺ムカンケイですが?

「コレ…一体何なんなの?」

俺は開いていた冊子を閉じた。表紙を見る。

「文芸部誌5年度秋号?」

冊子の表紙には、枯葉のイラストの上に『文芸部誌』の文字、そして右下には『5年度秋号』という文字があった。

文芸部?

立ち上がった森くんが、俺の手から冊子を取り上げた。

美月みつきちゃんは俺んだから」

森くんは取り上げた冊子を俺の胸に突きつけると、そう言って俺を睨んだ。

つまり安藤さんのカレシ?


俺は呆気に取られて森くんを見た。

どうやら満足したらしい森くんはようやく俺を解放してくれた。


森くんが歩いていく後ろ姿を見ながら、俺は好きになってもいない女子に失恋したような気分を味わった。

言いたいことがたくさんある。だけどせっかく自由の身になったのに、森くんを呼び止める愚は犯せない。分からないことがたくさんある。というか徹頭徹尾意味不明だ。

謎イベントは、まごうことなき謎イベントだった。謎度の深さに何をどうしたらいいのか、迷うべきか忘れるべきか迷う。


うわー…この現実リアルイベント。…めんどくさすぎないか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ