文芸部長を訪ねて
「安藤さん」
俺は授業が終わるとすぐに安藤さんに声を掛けた。
「文芸部にお願いがあるんだけど、文芸部室ってどこか教えてもらえないかな?」
鞄に手を伸ばそうとしていた安藤さんは、座ったまま俺を見上げた。
「図書準備室だけど今日は活動日じゃないから、たぶん誰もいないと思う」
「図書準備室って…図書室の奥の?」
「そう」
安藤さんが言葉少なに肯定する。
「そう、か…あそこは図書委員の部屋なのかと思ってた…」
「一応兼用かな。図書委員も使うことがあるから。だけど図書委員は図書室のカウンターの中だけで用事は済むし、それに文芸部員で図書委員をやっている人も多いから」
「なるほど」
「それで…文芸部に用事だったら、活動日は明日だけど明日で大丈夫?」
「あー…」
明日か…
俺は逡巡した。勢いよく駆け出そうとしたのに立ち止まりたくはない。
「…急ぎなら部長に言ってもらった方がいいかも」
「あ、黒木くん?」
安藤さんが頷いた。
「そうか、確かにそうだね。じゃあ黒木くんに…」
俺は黒木くんを訪ねるために安藤さんから離れようと顔を起こしかけ、黒木くんのクラスを知らないことに気がついた。
「あー、黒木くんのクラスは分かる?」
「A組。たぶん文化祭の準備があると思うし、残ってると思うけど、帰るかもしれないから急いだほうがいいかも」
「確かに!ありがとう!」
俺はA組に急いだ。
「黒木くん!」
俺はA組に入って黒木くんを見つけると真っ直ぐに黒木くんに向かった。
「足立くん?」
黒木くんは振り返って俺を見ると不思議そうな声を出してから、顔色を変えた。
「公平くんがまた何かした!?」
「!ち、違う!大丈夫!そうじゃない!」
俺は慌てて否定する。黒木くんの隣にいた三つ編みの女子が驚いたように俺の顔を見た。
俺は少しだけバツの悪さを感じたけれど、黒木くんを教室から連れ出す。
「ごめん。ちょっとだけ俺に付き合って!」
黒木くんは俺について来てくれた。
俺は言葉ではうまく黒木くんに説明出来そうになくて、黒木くんを連れて美術部室に入った。
黒木くんに昼に仕上がったばかりの絵を見せる。
黒木くんは不思議そうにして絵を見た。
「…あれ?これ…」
「『霞日和』の『雪の中で』」
「…!」
黒木くんが右手を口に当てて絵を凝視した。
「うぁ…」
黒木くんの口から呻くような声が聞こえた。
黒木くんがそのまま絵に見入る。
しばらく動かずに絵を見ていた黒木くんが右手で目を擦った。
そして勢いよく俺を見る。
「『霞日和』を連れてくる」
「…!」
力強くそう言うと眩しそうに絵に目を遣る。
「本人にこれを見せたい。こんな…。僕でもこんなに感動するのに…絶対見せなきゃ!」
「待ってて!」
黒木くんはそう言い残すと美術部室から走り出ていった。




