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朝河家のパフェ

 お母さんの欠点は少ないが、大きすぎるのが問題だった。お母さんの趣味は恋愛で、そのせいで三度結婚し、三度離婚した。付きあって別れてきた恋人も数えきれないほどいるらしい。

 小学校のクラスメイトみたいに、お母さんが女の人として男の人に恋をしているなんて、何となく気持ち悪い。お母さんを避けてた時期もあったけど、今はあんまり気にしてない。きっと、自分の気持ちに正直で、他の人の気持ちも思いやることのできるお母さんのことを、何だかんだ尊敬しているんだと思う。

 お姉ちゃんのお父さんと、僕のお父さんが違う人だと聞いたのは、小学校二年生のときだ。お姉ちゃんのお父さんは、お母さんの二番目の旦那さんで、僕のお父さんは三番目の旦那さんらしい。先生に叱られたみたいにバツが悪そうに、お母さんが教えてくれた。僕のお父さんもお姉ちゃんのお父さんも、子どもに会おうとしないし養育費も払っていないそうだから、お母さんは男の人を見る目がないのだと思う。

 お姉ちゃんと半分しか血が繋がっていないと知って、僕は結構ショックを受けた。お姉ちゃんは僕より三年先に生まれたというだけですごく偉そうにふるまうし、わがままだ。だけど、お母さんの趣味に困らされている者同士、口に出さなくても絆を感じていた。戦友のような気持ちだった。

 同じ生まれで、同じ境遇だと思っていたお姉ちゃんが、実は半分しか同じ遺伝子をもっていないと知った僕は、何だかお母さんにもお姉ちゃんにも裏切られたような気になった。悲しくてむしゃくしゃして、僕は責めるような思いでお姉ちゃんに聞いた。

「ねえ、お姉ちゃんは僕と半分しか血が繋がっていないって知ってた?」

 小学校への桜並木の通学路を歩きながら、お姉ちゃんは何でもないことのように首をかしげる。

「そんなの、前から知ってるわよ。だってあたし、ママがあたしのお父さんと別れてあんたのお父さんと結婚したの覚えてるし」

「それってさ、僕たち半分しかきょうだいじゃないってことじゃん」

 ふ、と小馬鹿にするようにお姉ちゃんは息を吐いた。こういうところが嫌なのだ。唇を噛みしめた僕のランドセルを、お姉ちゃんが勢いよく叩く。

「痛いなあ、やめてよ」

「馬鹿ね。あんたとママだって、半分しか血が繋がっていないけれど、半分しか親じゃないわけではないでしょ」

 そう言われれば、そうだ。お姉ちゃんへの苛立ちがすっと溶けていく。

「それに、家族であることに血の繋がりなんて重要じゃないの。ねえ、きょうだいって何だと思う?」

「え……」

「あんた、パフェって聞いて何を思い浮かべる?」

 きょうだいは分からなくても、パフェは分かる。

「えっと、ヨーグルトにカラースプレーふりかけたやつ」

「それよ」

 お姉ちゃんがうなずく。

「あたしもパフェと言えばそう。クリームとかアイスとかフルーツとかのってるのは、高級パフェ」

 どうやら僕たちが高級パフェと呼んでいるものを、みんなはただのパフェと呼んでいるらしい、ということを僕も知っていた。だけど、貧乏性のお母さんに、グラスに盛ったヨーグルトにチョコレートのカラースプレーをかけたものがパフェだと騙されてきたのだ。だから、朝河家でパフェといえば、どうしても偽のパフェを思い浮かべてしまう。

 したり顔でお姉ちゃんが言う。

「それがきょうだいってことよ」

 つまり、血の繋がりよりパフェの繋がりの方が濃いということらしい。お姉ちゃんと話しているうちに顔も覚えていない父親のことなんてどうでもよくなっていたから、お姉ちゃんの話が正しいということにした。だから、僕とお姉ちゃんは間違いなく完璧なきょうだいなのだ。

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