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幼馴染みの恋愛展開

作者: 豹炎

初めまして。


豹炎と申します。


処女作に加えグダグダな文ですが宜しければ読んでください。


それと、今後のために感想、批評等を書いて貰えると嬉しいです。

 高校に入学して早くも、七ヶ月が経った。

季節は秋。コートがなければ日々を通学も段々と辛くなってくる十一月だ。


 準備のいい、俺と同学年の学生ならばこの時期には自分の進路への準備に取り掛ったり、そこまでしていない学生でも大抵は自分の具体的な進路の選択に悩んでいるのだろう。

 あいにくと俺は、この手の話を友人と話し合ったことはない。どうせ来年には担任になる教員とじいちゃんとで進路相談をして、その後にどんな話をしたのかとか互いに話し合ったりするんだし、態々持っていない話のタネで会話をするのは無理だからする必要はないだろう。と言うか進路云々以前の問題が1つ


俺は“あいつ”の世話をするのに忙しくて、それどころではないのだ。





「お―…おい」


 おいおい、おいおい…うるさいな…今、俺が気持ち良く寝ているのが分からないのか…誰だ? 俺の安眠を邪魔するのは…


「おい徳仁《のりひと》起きろ!! 歴史のテスト終わってテスト回収だぞ」


 俺の後ろの席にいる数少ない友人で中二の頃からの付き合いである、井上凱《いのうえかい》の声で俺は夢から覚める。

 軽く頭を振り眠気を覚まして、凱から問題用紙に挟んだ解答用紙を受け取り、その上に自分の分のテストを乗せて前の席の奴に渡す。


「真面目で成績優秀なお前がテスト中に寝るなんて珍しいな。この三年間で初めてじゃないか?」


 凱が後ろから顔を近づけ話かけてきた。


「当たり前だ…中間とは言え、学校の成績を決めるテストで何度も居眠りなんかしてたまるか…」

「まぁ、ごもっともな意見だが…で、…どうしたんだよ?」


 テスト監督の教員がテストの枚数を数え終え教室を退室し、一気に教室内がうるさくなった。……眠気の残る頭に響いて小さいけれど頭痛がしてきた。


「何がだ…寝起きで頭が寝惚けてて頭が回らない…主語を言え…主語を!」

「「「ひっ…!?」」」


 若干の苛立ちを込めて言った瞬間、周りにいる人間の何人かが短い悲鳴を上げる。それを見た凱は呆れたように俺を見て、小さな溜め息を吐いた。


「あのな…徳仁。おまえの容姿で今みたいに突然キレたら大抵の人間はビビるぞ」


 ……なんだろうな、慣れているハズなのに容姿のことを指摘されると心が痛むのは……。


 けれども凱の言うことは確かに正しく、俺の容姿はとてつもなく恐い。酷いのではなく恐いのだ。しかも自覚できるくらいに……具体的に言うなら一昔の前のヤンキー見たいな容姿だ。

 つり上がった凶悪な目付きに、茶髪。トドメに左眉にあるキズが余計にヤンキーな恐さを際立たせていた。しかし、髪型だけは唯一、一昔前まえのヤンキーから駆け離れて、パンチパーマではなくセミショートだ。

 だが髪型一つでヤンキーや不良のイメージが払拭出来るわけでもなく、付き合いのそれなりに長い凱以外は、少し俺が機嫌を悪くすると悲鳴を上げて今みたいに逃げる。

 しかし、学校の勉強の成績は上から数えた方が早いくらいだし、じいちゃんとの二人暮らしで家事全般は得意になり性格は家庭的だって近所の人にはよく言われる。

 だってのに…地面で転んだ子供を起こしてあげたら、顔が恐いと泣かれてしまい、オロオロしていたらその光景を見た親が、カツアゲと勘違いして警察を呼ぼうとしたりで、踏んだり蹴ったりだった。

 なんなんだ? この警察署直行コンボは…? 好奇心は猫を殺す、って言葉があるが、親切心は見た目が恐い人間を警察署に連行させるのか?


「顔が恐いのは自覚している…夜中に鏡に写った自分の顔でビビったこともあるしな」

「自覚しているなら気を付けろよ。あ……そうだ、なんで普段真面目なお前が居眠りなんかしたんだよ? 昨日なんか有ったのか?」


 正直あんまり思い出したくは無いんだがな……凱は一つ気になることがあると、本人に訊き出すまでしつこく訊いてくるので、それは勘弁したいため、俺は渋々だが口を開き、凱の質問に答える。


「テスト勉強に付き合わされた……」

「はぁ? テスト勉強に付き合わされたって……もしかして、高峰憐《たかみねれん》の勉強にか!?」


 俺の交友関係はかなり少なく、その中で徹夜で勉強を教える関係と言うと俺が面倒事を見ている“あいつ”をまっさきに思い浮かべたのだろう。


「そうだけどお前……、声量が高いから声のボリュームを下げろ」


俺が進路どころではなく、面倒を見ている“あいつ”こと高峰憐。

産まれた時からの付き合いで家も隣同士の幼馴染み。

隣の家に幼馴染みがいる確率は実際には低い筈なのだが実際にいるのだからなんにも言えない。

 迷惑を掛けられている身としては愚痴の一つでもこぼしたいのだが、憐の目の前でそんなことを口にした日には大喧嘩になることは確実なので、余計な争いを避けるためにも言わないでいる。


「マジかよ!? あの高峰憐と一緒に勉強って……幼馴染み特権か!?」

「そうなのか? いや……なんだろうなぁ……俺としてはそんな特権要らないんだが」

「徳仁、テメェ!! 嫌味か!? 嫌味なのか!?」


 何故か凱は突然キレだした。俺は何か逆鱗に触れることでも言ったのだろうか?

 しかも、怒りを露にしているのは凱だけではなく、どうやらクラス中の男子もだ。周りの怒りが籠った視線に気付いて見渡したから分かった。

 ただ、俺が視線を向けると目を剃らすのは止めて貰いたい……睨んでないです、元々……じゃないけれどこういう目付きなんです。


「なぁ…凱、俺は何かお前の逆鱗に触れる様なことでも言ったのか?」

「言っただろうが!! お前の今の一言は高峰ファンクラブの会員、全員に対する侮辱と嫌味と蔑みだ!!」


 高峰ファンクラブって……あぁ、在ったなそんな非公式ファンクラブが。憐の奴がいろいろ愚痴ってたな……いや、それ以前にファンクラブって学校の生徒一個人に対して存在するってあり得るものなのか? 学園アイドルも一種のアイドルだがそもそも学園アイドルなんて他校で聞いたことがないし、都市伝説の一種だとばかり思ってたもんだから、高校に入ってから憐が学園アイドルになった(された)時はかなりビックリした。……つうか、ファンクラブを立ち上げた暇人は高校で勉強をして大学に行く気は有るのだろうか?


「あのなぁ……侮辱と嫌味と蔑みって、別に俺はそんな意味で言ったんじゃないし、その意味のどれか一つも含めて言った覚えもない。

お前達ファンクラブの会員が、憐の事をどうゆう風に見ているかは知らないが俺の知っている、高峰憐って人間は学校で振る舞っている様な優等生じゃな……っ―!?」


 突然の寒気に襲われる。真っ先に思い付く心当たりの幼馴染みを、俺は周りを見渡し探すが憐の姿はクラスが違うため当然ながら見当たらない。恐らく憐なら、現場に居なくても野生児並の感の鋭さで俺がなにを言おうとしていた事を当てるに違いない。 目の前の凱より、憐の方が厄介で恐いことは、年齢=幼馴染み歴の俺には染み付いてよくわかっていることなので、口を閉じて担任のホームルームが始まるまで凱の愚痴に付き合うことになってしまった。




 ホームルームが終わる共に、凱の愚痴を聞かされる前にクラスから逃げることにした。

 廊下を早歩きで通り過ぎ玄関にまで辿り着く。上靴を脱いで片手に持ち、自分の下駄箱を開けて靴を取り出そうとして、外靴の上にある紙に気が付く。

 それを手にとって見ると、杉山徳仁と俺の名前が書かれたハート型のシールで封をされた手紙だった。

 これはもしかして……噂に聞くあの……。

 俺は急いで玄関を立ち去り、家に帰る途中にある公園のベンチに座る。視界の端で、鳩に餌を上げていたおじさんが逃げていくのが見えた気がしたが、恐らくは気のせいだ。

 そんなことよりも、目の前のもしかしたら人生の岐路を決めることになるかもしれない手紙の方が何倍も今は大事だ。


「……開けるぞ」


 誰が聞いている訳でもないが、ラブレター(と思われる手紙)なんて貰ったのなんて初めてなので緊張している心を少しでも紛らわしたかった。


『明日の放課後に校庭の屋上に来てください。

私は自分の気持ちをどうしても抑えられないので、この気持ちを直接貴方へ会って告白したいです』


 文書から判断して、真っ先に考えた果たし状の線が薄れて少し安心する。筆跡も一見は女子に見えるが、こっちは筆跡鑑定なんて技術を持ち合わせてないので一概には安心出来ない。しかし、文書と掛け合わせると女子の可能性がかなり高いのは事実だ。


「俺にも春が来たかな……」

「なにをバカなこと言ってんのよ」

「おわぁ!?」


 いきなり声をかけられ反射的にラブレターを握り潰して鞄の中に隠す。

 声がする方を見ると目に写ったのは腰まである黒髪を束ねたポニーテールと見馴れた凛とした美しい顔立ちにうちの学校の指定制服の上からコートを着た俺の幼馴染みだった。


「憐……な…なんでここにいるんだ?」「その質問に答える義務はないけど義理はあるから答えてあげる。徳仁が下駄箱の前で何かを見つけた後、そわそわして通学路に入ったからここにいるかなって思って。そしたら案の定ここにいて何かを読んでるじゃない」


 こいつ……自分で言うのもなんだがバレない様に細心の注意は払ったそれもほぼ完璧に……しかし憐は俺の僅かな浮かれを見破りやがったのだ。年齢=幼馴染み歴は伊達ではないか!


「で…なんなの、その手紙は?」


 ラブレターと正直に言っても良いのだが、ラブレターではない可能性もある……と言うか呼び出しの手紙だしな。それで、告白の呼びつけの手紙じゃなかったら確実に笑われる。笑いすぎた後、しまったって顔をしてラーメン屋で奢られるのがオチだ。……想像しただけで惨めな気分になってくるな……中学生の学園祭あとの二の舞だけはイヤだな……あの時は告白して失敗したからだったけど……。


「言えない」

「む…何よ? 私に話せないの?」

「そうだ…つうか言いたくない」

「…………」

「…………」


 憐はジッと俺の顔を覗き込む。少しムッとした様な雰囲気だったがしばらく経つとため息を吐いてベンチを立った。


「まぁ…いいわ。幼馴染みって言っても一から十まで話さなきゃイケない訳じゃないし」


 そりゃそうだな、と口にはせずに憐の言うことに頭を縦に振って肯定する。

 幼馴染みってのは付き合いの深い友達の事だ。だから普通の人間には入って来られたくない心の領域に入るのも赦せる。だが心を全部、赦せるかと言うとちょっと違うだろう。

 血の繋がった家族にだって知られたくないことのひとつやふたつを人間は誰しもが持っているものだ、それこそ全部を許せるのは子供の時くらいだけだ。

 事実、憐の事は小さい頃は家族と同じくらい好きだったし今だって好きだ。ただそれは声にして言うつもりはない。だが、子供の頃と今は違う。二次性徴を迎えれば体つきだって変わってくるし性別が違えば悩みも変わってくる。全部が昔のままとは行かないのだ。しかしそれなら、ぐだぐだと憐の周りで昔どおり毎日、家事をして時々泊まりに来る憐に昔どおり布団を用意したり、二人きりの部屋で昔どおりに学校の話をしたりする俺は、何なんだろう?

 幼馴染みで兄妹同然とは言え年頃の男と女なら普通はしないことだ。


 あ~考えるの止め! 考えてもわからない……『普通』を考えるならおかしなことだが、その『普通』の基準が分からないんだから、今の関係がどうゆうモノなのか、何て分かりようがないじゃねぇか!


「なに、ウンウン唸ってんのよ。早く帰るわよ」

「あ……? あぁ……ってさりげなく一緒に帰るんだな」

「何よ……一人で帰るより二人の方が楽しいし良いじゃない…」


 憐の拗ねた顔が子供っぽくて思わず苦笑した。気が強い奴だが寂しがりやな所や素直になれない所は昔ちっとも変わっていないで安心する。何だかんだで優等生の仮面を被ってるだけあって気遣いだってまわるし、さりげなくフォローしてくれる事もある。そう言う優しい所が長く幼馴染みをしてこれた理由だし、義理堅い奴だから信頼もできる。


「なに笑ってんのよ…」

「いや…なんつうか……兎っぽいなっ―痛っ!?」


 手を出すのは早いがな……頭を殴られた。




 二階建ての二軒家、一つの表札には高峰、もう一つの表札には杉山、つまり俺の自宅だ。憐も俺に付いてきて一緒に玄関に入っていく。


「「ただいま」」

「いただきます」


 何時もと変わらず居間の方からじいちゃんの声が聞こえてきた。


「ねぇ徳仁、おじいちゃんボケた?」

「今更だろ。この前、俺が作ったクリームシチューをスパイシーとか言ってたし」

「スパイスでも入れたの?」

「んな…分けねぇだろ。ボケじゃないなら味覚障害だ。カレーはクリーミとか言ってたしなぁ…」

「牛乳入れすぎた?」

「バカ野郎。俺が味付けを失敗したことなんかあったか?」


じいちゃんのボケた返事に対していろいろ話している内に靴を脱いで居間に辿り着く。


「ただいまじいちゃん」

「ただいまおじいちゃん」

「お~徳仁に憐ちゃんいつの間に帰ったのかの?」

「いや今帰ったから、ただいまって言ってるんだが」

「かっかっかっ! それもそうじゃの。憐ちゃんは今日は泊まっていくのかい?」

「はい、今日は久しぶりにお邪魔します」

「なぁに、気にすることはないよ」

「憐、風呂沸かしてくるから、適当に寛ぐか制服でも着替えてこい」

「良いわよ…お米磨いでご飯炊いとくから」


 空気が瞬間凍った。……なんだと…? あの憐が俺を手伝う!? 昼の弁当から夜食まで俺に作らせ一切炊事を手伝わないあの憐が!?


「憐……有り難いが米は洗剤で洗っては…」

「そんなことはしないわよ!! 徳仁は私をなんだと思ってるの!?」

「えーと家庭的とは正反対の女?」

「……」


 やばい……逆鱗に触れたか!? だが明日の天気予報は槍に違いないと思う俺が何処かでいるのも確かだ。


「………」


ん…? 今なんか憐がなんか言ったような……。


「少し前から朝ごはんは毎日私が作る様になったんだからご飯を炊く位は出来るわよとにかく、徳仁はお風呂のお湯を淹れてきて」

「あ…あぁ…」


 結局ずっと、憐のターンで俺は逃げるように風呂場に向かった。




 飯も食べ終わり、風呂から上がった俺は自分の部屋に戻り鞄から手紙を取り出してもう一度だけ読んでゴミ箱に捨てた。

 本当は取っておきたかったが握り締めたせいで、グチャグチャになり、無理矢理押し込んだせいで手紙は破け、文もすり切れて紙を繋ぎ合わせないと読めない紙屑になってしまった為ゴミ箱に放り入れた。


「はぁ…告白ね…」


 コンコンとノックする音が聞こえた。


「入って良いぞ」

「入るわね」


 入ってきたのは湯上がりの寝間着に着替えたポニーテールの髪を降ろした憐だった。


「おい……ブラジャーはどうした?」

「着けるわけないでしょ。寝る時に下着を着けないことくらい知ってるでしょ」


 トスンと俺のとなりに腰を降ろして憐は言った。

 湯上がりの憐からシャンプーのいい匂いと寝間着に張り付いた胸の形が見えて思わずドキッとするが、理性と本能は9:1の割合で理性の圧勝だ。幼馴染みを押し倒す程、人間を止めた記憶もない。


「ねぇ…徳仁。私って女の子っぽくないかな?」

「あぁ…? いきなりなに言ってんだよ?」

「結構真面目に聞いているから真剣に答えて…自分で言うのもの何だけど顔だって良い方だしスタイルも整ってる。胸だって成長途中だよ?」

「すまん。俺に言ってくる意味が良く分からないんだが……まぁお前の言うとおり胸の成長は知らないが他は頷けるな。俺から見ても贔屓目なしに可愛いと思うしスタイルも良いと思うな」

「……本人を前にして堂々と親父発言出来るわね」

「お前から言ってきたんだろうが。それにお前でもなきゃこんなこと堂々とは言わねぇよ」

「っ……馬鹿」

「ただもう少し、素直になった方が良い」

「性格の話?」

「お前の本心の話だよ。全部とは言わないが、俺は大体お前が何を考えるかとか何をして欲しいのかとか言わなくても分かるが他のやつはそうでもないだろ?」


 そう言うと何故かは分からないけど憐は一瞬だけ嬉しそうな表情になった。それは本当に、一瞬だけだったが確かに俺は見た。


「俺だって何時までも、お前と一緒って訳じゃないからな。俺やお前が恋人見つけて、付き合ったら今の様にいるってのも無理だろうしな。お前が恋人見つけたら俺がソイツにイチイチアドバイスしても―」


 そこから先の言葉は頬の痛みと共に告げられなくなった。


「……憐?」

「あ……っ―ごめん…」


 部屋から去ろうとする憐を止めようとして、明日の屋上で来る誰かにされることを思い出し、掴もうとした手を止めた。

 明日、もし俺が告白され受け止めたら憐をもうこの家に泊める事も出来なくなる。憐の腕を掴むことは明日の告白を門前払いで断るのと同義だった。


「あ―…ちくしょう…」


 恐らく今の俺の顔は般若も裸足で逃げ出すくらい、酷い顔だろう。だが板挟みに合っている俺にはそんなことはどうでも良かった。

 だが、憐はその後二時間程家を出ていき、翌日、引き留めなかったことを後悔することになった。




 朝七時、朝食と昼食を作り終えた俺はじいちゃんを起こしてから憐を起こしに行った。


「憐…朝だぞ起きろ」

「んぁ…徳仁……水……喉乾いた」


 憐の顔色が赤いため額に手を当ててみると案の定、熱があった。

 恐らくは昨日出歩いたのが原因で風邪を引いたのだろう。ここら辺は夜になると秋でも十度を下回る。飛び出していったからコートも着なかったのだろう。

 つきっきり看病してやれれば良いが、学校も行かなくちゃイケないのでそうもいかないし、じいちゃんは高校の同窓会があるから態々潰させるわけにもいかない…それ以前にボケたじいちゃんに預けるのは危険だ。

 病院に連れていって、帰ってから寝ついたら学校に行こう。朝飯を食べる前にまずは着替えさせなきゃな……試練だ…。




「はい。ではそう言うことで、俺の遅刻の理由は適当に誤魔化して置いて下さい」

『うーん杉山君が良いなら良いんだけどね……』

「俺のやってることは『普通』じゃないし、憐のファンクラブの奴等が知ったら偉いことになってしまうんで」


 憐の両親は二人とも他界しており、じいちゃんが憐の後継人をしている。その為こう言う事態が起きた場合は俺かじいちゃんしか病院に連れていく人間が居なかった。


『わかったわ。理由はこっちで適当に作っとくから高峰さんの担任の先生には私から伝えるわね』

「有り難うございます」


 携帯電話の通話を切って、電源を切り、憐の元へ向かう。

 憐は高熱で寝たり覚めたりで浮かされている状態、着替えは自分で何とか出来たがそれが限界だったらしく、直ぐに布団で眠った。

 俺はタクシーを呼び近所の小さい病院、と言うよりも診療所に向かった。


「徳仁……」

「なんだ?」

「手…握ってて」

「分かった」

「徳仁の手…冷たいね…気持ち良くて落ち着く…」

「憐の手は熱いな…熱いが悪くない」

「徳仁…ずっと手握っててくれる…?」

「……そりゃ無理だな。学校に行かなきゃイケないから。だが、家に帰ってお前が寝付くまでなら一緒に居て手を繋いでてやるよ」

「徳仁…」

「なんだ?」

「ありがとう」

「…どういたしまして」




 学校に着いたのは昼飯時だった。憐にはお粥を食わして布団が汗で濡れてない俺の部屋で寝かしたのだが病院から帰って二時間強、憐のアレしてコレしてにはかなり参った。殆どが手を握ってくれだの傍に居てくれなどの甘えだった。別に良いのだが、憐の部屋の布団を干さなければイケなかったり、お粥作らなきゃいけなかったので少し時間がかかって今に至る。遅刻も態々、嘘をつきたくないが憐とのことでいろいろ噂を立てられると面倒と言うこともあるし、何でテメェが遅刻する理由があるんだと言われたらそれまでで、憐を病院に連れていけなくなる。

 無視すりゃ良いが、憐はアレでナイーブな所も有るから無視するってのは憐には無理のため大人の教員達に事情を話して誤魔化しに付き合って貰う事になったのだ。


「おはよう」

「おー、徳仁、一緒に昼飯食うぞ」


 教室に入った瞬間、購買部の餡パンを食べていたが凱が食べるのを中断して、俺の机に自分の机をくっつける為に移動させながら手招きする。

 朝からいろいろあったが、親友の何時もと変わらない行動を見て、また自分の取り巻く環境が変わっていないと安心できた。


「弁当やるよ…憐の分だったから量は少ないが餡パンもありゃ足りるだろ」

「お…マジか!?」

「憐が風邪引いたからな、弁当詰める前に気付いたからじいちゃんの弁当箱に詰めてきた。毎日、餡パンだけじゃ栄養が片寄るぞ」

「サンキューなら毎日三人分の弁当がてら俺の分も作ってくれよ」

「材料費くれるなら作ってやるって言ってるだろうが」

「ケチだな」

「食材はタダでほいほい貰えないからな。そんなシステムだったら全国の主婦は家計簿なんかつけねぇし泣いて喜ぶ」


 弁当も食べ終わり、弁当箱を軽く水で流すために水道に向う。


「高峰の体調はどうなんだよ?」

「お前な聞くにしても廊下は止めろ。誰が聞いてるか分からないんだしよ」

「あぁ…悪い悪い……で、どうなんだ? 小声でなら答えられるだろ」

「解熱剤を飲ませてお粥食わして寝かせたから、夕方には完全とは行かないが大分元気を取り戻してるだろうな」


 洗い終え、水を切った弁当箱を凱から受け取る。


「そうか……所で徳仁…」

「なんだ?」

「お前、高峰のこと好きなのか?」


 凱は今更な質問してきやがった。


「あのな……俺は好きでもない人間の面倒を見るほど暇人じゃないぞ? 確かにアイツの苦手な部分もあるが、その何倍も憐の良いところは知っているし……」

「いやな、そう言う好きじゃなくて…女性として好きかって訊いたんだよ」

「女性として…?」


 ……女性って対象でと言われると、どうなんだろう? 憐は殆ど家族みたいな存在だ。

 好きかどうかは分からないがふとしたことで『女の子』を感じたことはあった。

 例えば昔は負けていた腕相撲に全勝した時、憐の非力差を感じ自分とは違うんだとも思った。風呂から上がった後の憐なんかにはいい匂いとか色っぽさとかを感じて可愛いなと思ったこともある。悪乗りして昔みたいにじゃれたとき、たまたま憐の胸が背中に当たった時もそうだ。女性なんだと意識したことはあったが幼馴染みの感覚が抜けなかったからか凱の言う好きかどうかは分からなかった。


「わかんねぇな…」


 けれど改めて振り返ってみるとかなり恥ずかしかった。憐との思い出を遡ってく内にだんだん顔が赤くなるのが分かる。


「まさか…本当に…」

「いや…いろいろ昔の事を思い出していく内にだな恥ずかしくなってきて……」


 かなり昔の―小学生位の思い出の一つを思い出し、俺は口を閉じた。


『結婚は分からないけど、キスはしてあげるよ』

『…じゃあその時までファーストキスは取っておくから……約束よ?』

『うん』


真っ赤に目が腫れている憐と身体中から感じる痛みの記憶。


「アレ…?」

「どうした?」

「あ…いや…ちょっとな…」




 憐SIDE


 夢と現実の境が分からない中冷たい何かだけは現実だと理解して握り締めていた。

 それは、私の大切な人の手。それだけは曖昧な境界線で唯一の現実だった。

 私の大切な人…徳仁。生まれた時からの幼馴染みで家族の居ない私が一番心を赦せる人で、私を気遣ってくれる兄とも言える人だ。 私は徳仁が好きだった。切っ掛けは八年前、私の両親が死んで通夜も終わった後だった。

 当時はまだ生きていた徳仁のお父さんが私の後継人をしてくれていた時だった。私は一遍に両親を喪いまさしく人生が百八十度かわり、この世の不幸を全て背負った気で居た。


『ねぇ。憐ちゃん一緒に外に遊びに行こうよ。憐ちゃんがしたいこと僕は何でも付き合うよ?』


 毎日部屋に篭っている私の隣に座ってずっと徳仁は呼びかけ続けていてくれた。今思えば、それは徳仁の気遣いだって分かる。当時の徳仁は外で遊ぶより家の中でおままごとしたいって言う女の子みたいな考え方の男の子で、寧ろ外へは嫌がる徳仁を私が無理矢理連れ回していた。だけど、あの時の私は徳仁の気遣いに気付かずただ煩わしくて早く居なくなってくれと思っていた。


『何する? かけっこは憐ちゃんの方が速いし…山は今からじゃ遅いしね……あ…キャッチボールなんてどうかな…元気のない憐ちゃんでもお話ししながらキャッチボールすればきっと楽しく…』

『うるさい! 私の事はほっといてよ!』

『心配だからほっとけないよ…憐ちゃんどうしたら何時みたいに元気になってくれる? その為なら僕は何でもするよ』

『だからほっといて!』

『ほっとく以外で! このままじゃ憐ちゃんの為にならないんじゃかって思うんだ…だから…』

『もういい! 徳仁なんか大嫌い!』


 我慢できなくなった私は徳仁を突き飛ばして部屋から飛び出そうとした。けれど…


『まってよ憐ちゃん!』


 徳仁の手が私の手を掴まえて部屋から飛び出すのを止めた。


『いい加減に付きまとわないでよ!』

『あぅ…』


 けれど結局、私はその手を振り払って家を飛び出しがむしゃらに町の中をさ迷った。

 結局はそんなことをしても惨めなだけだった。商店街に行ってもお菓子をねだる相手もいない、公園に言っても私だけがお母さんの迎えがない。ついこの前までは居た人が居なくなって寂しくてつぶれそうだった。


『お母さんもお父さんも何で私を置いて死んじゃったんだろう……』


 気付いたら、よく三人で遊びに来た川原に来ていた。そこで思い出に更ける内にいっそ私も死んじゃおうかなと思って川の方へとゆっくり歩いて行っていた。


『ダメだよ! 憐ちゃん!』


 その時、息を切らせた徳仁がこっちに向かってくる。私はそれがイヤで小石を徳仁に向けて投げた。それは徳仁の左眉にあたりソコから血が出ただけではなく転んで川原の石に身体をぶつけた。


『あ…徳仁…?』


 返事をしない徳仁が心配になり私は徳仁に駆け寄った。


『徳仁!』

『憐ちゃん捕まえた』


 むくりと起き上がった徳仁に私は抱き締められた。


『あ…徳仁! 騙したわね!?』

『ごめんね…けどこうしてないと憐ちゃん居なくなっちゃいそうだから…』

『……別に良いわよ…どうせ私なんて一人ぼっちなんだから…このままお母さんとお父さんの所に言ったって…誰も悲しまないもん…』

『……憐ちゃん…それ本気で言ってるの?』

『なによ!? そうじゃない私が死んだって誰も悲しまないし、生きてたって一人ぼっちなんだもん!』

『憐ちゃん……痛いから覚悟してね』


 徳仁の言うとおり、初めて私に対して怒った徳仁のビンタは本当に痛かった。


『何するのよ!?』

『馬鹿な憐ちゃんの目を冷まして上げたの。目の前に居るんでしょ? 憐ちゃんが居なくなって悲しむ人。憐ちゃんの友達の僕が』

『えくっ……』

『僕は憐ちゃんが死んじゃったら悲しむよ? それに憐ちゃんは一人じゃないよ。僕がいてお父さんが居ておじいちゃんがいるでしょ? 憐ちゃん…もしも悲しいなら、寂しいなら…辛いなら僕に吐き出していいよ。僕は憐ちゃんの全部を受け止めるから…』


 徳仁は言った通り私の全てを受け止めてくれた。その間ずっと私を抱き締めて居てくれた。


『じゃあ帰ろうか?』

『うん…ねぇ徳仁…今日ね私…徳仁にいっぱい貸りが出来たじゃない?』

『そうなの?』

『そうなのよ! だからね徳仁が将来誰にもお嫁さんに来て貰えなかったら私が来てあげるわね』

『ええ~別にいいよ。そんなことより憐ちゃんは好きな人が出来たら幸せにして貰いなよ。僕は憐ちゃんが幸せなのが一番嬉しいから』

『む~違うの! 私が徳仁の所に行きたいからで…あ……』

『そうなの?』

『……うるさい! そうじゃなきゃ十年後にキスとか……でどうなのよ?』

『結婚は分からないけど、キスはしてあげるよ』

『…じゃあその時までファーストキスは取っておくから……約束よ?』

『うん』


 家の前に着いて、別れようとした時、徳仁は手を離さなかった。


『憐ちゃん僕の家に来なよ』

『でも…』

『ほら。今日から出来るだけ一緒にいるよ。憐ちゃんが居なくならないように』

『うん…お邪魔します』

『憐ちゃん違うよ…今日からこの家ではただいまって言って良いんだよ』




 目を冷ますと私の部屋の次に見馴れた部屋…徳仁の部屋だった。


「随分懐かしい夢を見たわね……」


 額に手をやるとまだ少し熱かった。けれど、熱が大分下がり朝に比べると随分と楽になっていた。

 軽く自己嫌悪に陥り、ため息を吐く。元はと言えば昨日の夜私が飛び出したのが原因だった。昨日、徳仁の言った『素直になれ』の意味を聞いた瞬間、私は冷水を掛けられたような現実をつきつけられた。

 徳仁が言った事は正しかった。何時までもこのままの関係なんて有り得ない。甘えていたのだ有限の幻想にすがりつき徳仁の優しさと今の当たり前の幸せに…。

 徳仁が言った事は私の幻想を木っ端微塵に砕くものだった。本当だったらあの時…私が一時期に恋人を作ったときに終わる筈だった。だけど徳仁の優しさと幾つかの偶然が繋ぎ止めたのだろう。

 けれど崩壊はもう加速しているのかもしれない……徳仁が初恋をした日から。

 どんな人だったか知らないけれど徳仁がフラれた。それを知ったときはホッとした自分が居ることに自己嫌悪してしまったりもした。けどそんなことよりも、分かってしまったことがあった。

 徳仁は私を恋愛対象として見ていない。好きだと言う気持ちは伝わってくるがそれは飽くまでも家族や友達としての好意だ。胸をわざと当てたときも有ったが特に表情は無反応だった。幼馴染みで有りすぎた故に恋愛対象に入っていないと悟ってしまい、私は一時は諦め、新しい恋を探し、恋人も作った。徳仁はそれを純粋に喜んでくたが素直に受け取れなかった。

 けどいざ、キスをしようと言う時にあの約束が呪いのようにまとわりついて結局キス出来ずに別れてしまった。


「……はぁ…恋愛対象以前に女として見ているかも怪しいわね…」


 家庭的の正反対と言われ流石に私も気づついた…家庭的の正反対って暴力的? とにかくあまりにも酷い表現じゃない。

 けど今更だってのは分かっている。家事は徳仁に任せっぱなしで居たからアレは当たり前の評価だった。


「もう、終わりなのかな…」


 何よりもあの時、私の手を掴もうとして躊躇った徳仁を見たのが一番ショックだった。徳仁の方が正しい筈なのに思わずため息が出てしまう。

 憂鬱な気分で部屋を見渡しているとゴミ箱の近くに入りそびれたと思われる紙キレが落ちていて私はそれを持ちゴミ箱に入れる。


「手紙?」


 ゴミ箱の奥を見ると手紙があった。手紙と言えば徳仁の持っていたモノが真っ先に浮かぶ、イケないと思いつつ誘惑に抗えず私はそれを拾い上げてしまった。




 徳仁SIDE


 屋上の扉を開けるとそこには誰も居なかった。イタズラだったのかと思ったが、遅れているのだとしたら帰るのも悪いので、しばらく待つことにした。

 誰もいない屋上で吹く冷たい風は、俺の頭を冷やしてくれる。

 凱に訊かれて記憶辿っていった内に思い出したのは、左眉のキズを負った時の記憶だった…。


「確か結婚は分からないけど十年後にキスしてやるって言ったんだっけなぁ…」


 やばい…封印したいくらい恥ずかしすぎる黒歴史だ…。だがあの時の気持ちを少し思い出した。


「そういや…憐のこと好きだったんだ…」


 俺は凱にも言った通り、好きでもない人間の面倒を見る程の暇人ではない、例外はあるけどな。それは小さい頃からも変わらなかったあの時、泣きたくても泣かない憐を責めて元気付けたくていろいろ考えたりもしていた。

 で結局は憐を泣かせた訳なのだがその後の憐の告白―。


「好きでもない女の子の告白に頷いたりは俺はしねぇよ…」


 俺は憐の事が好きなんだな…凱の言葉で思い出したのは不覚だ。小さい頃からの思いだったとは言え好きだったことを忘れるのは幾らなんでも憐に失礼だと思ってしまった。

 原因は近すぎたことなんだろう。憐との関係はあまりにも近すぎて、その感情を当たり前だと思っていたのだ。


 要は互換―好きの意味がいつの間にか恋愛対象から家族になっていたんだ。中学生の時に恋だと思った感情は今思えば憧れだったんだな…。


「……帰るか」


 そして、俺の想いを憐に言おう。他の男と付き合った事があったからもう覚えてすら居ないだろうが今更だからこそ、言うんだ。


「俺は憐が好きだってな」


 今までの生活を壊す爆弾になるか、今まで生活を強固にする柱になるかは今は分からないが、自分の気持ちを思い出したからには、今より前に進もうと思った。

 十分待ったが来なかったので立ち去ろうとした時、屋上の扉が開き一人の男が入ってきた。


「やぁ…杉山くん」


 誰かと思えば憐と同じクラスの新田照彦だ。俺の顔を見る度に何かと絡んでくる奴で、顔は良いが女関連の悪い噂が絶えなく女子を取っ替え引っ替えにしてるらしい…確か憐に告白してビンタもついてフラれたと聞いたことがあった。噂が本当なら、どうせ今まで付き合ってきた女たちの様に告白すれば付き合ってくれるとでも思っていたのだろう。


「手紙の送り主を大分待ったようだけど送り主は来ないよ」

「あ…? そうか、そりゃご丁寧に教えてくれて有り難うございます。それなら俺は帰るから」


 大体事情は察したが馬鹿の相手をする暇があるなら、家に帰って一刻も早く憐に俺の気持ちを伝えたい。なので新田の横を素通りして屋上を出ようとする。


「って―待てよ!? 帰るのか!? 本当に帰っちゃうのか!? 悔しがらないのかよ! 告白してくれると期待した相手が来なかったんだぞ!?」

「別に…もしも来て本当に告白されても断るつもりだったしな」


 そう言うと新田は有り得ないモノを見る目で俺を見た。


「バカな…顔は極悪でモテる要素皆無の杉山にラブレターが言ったんだぞ!? 人参を目の前にぶら下げた馬や兎と同じハズだ!?」


 えー? 俺はいったいどうゆう風に見られてるんだ? と言うかモテたいと渇望した記憶は一切ないのに…コイツの妄想が確実に入り交じってるな。


「くそ…お前を精神的に叩きのめして見限った高峰を横からかっさらう作戦が…」


 よし、今の頭の悪い作戦は聞かなかったことにしよう。聞いてると新田の痛さで気まずくなる。


「こうなったら…身体で痛めつけて高峰から離れて貰うか」

「がっ―」


 背中に食らった蹴りで俺は吹き飛ばされ屋内に転がる。


「くっくっ…僕はこう見えて格闘技の経験―」


 取りあえずまともに相手をする気はないので、扉を閉めて鍵を掛けた。


「じゃあな…警備員さんに見つけて貰えることを祈ってる」

『って…うわ―!? 鍵閉めたな!? 開けろ…開けろ―!!』


 やなこった…背中蹴りやがった代償だと思え。 新田の叫び声を無視して、玄関に向かう。

 途中の階段の踊り場で大勢の生徒を引き連れた凱に出会い驚いた。なんせ全員が殺気を放ち辺りをキョロキョロと見回して何かを探しているのだ。


「徳仁! 新田は何処にいる!?」

「屋上だけど…この集団はなんなん―」

「野郎共!! 高峰憐へと向かう毒牙…新田照彦を処刑する! 俺に着いてこい」

「「「イエッサー!! 会長!!」」」

「高峰ファンクラブ出撃ぃぃぃ!!!」


 全員が凄まじい殺気と足音を発しながら階段をかけ登り消えていった。

 そんなことよりも…凱…お前だったんだな…ファンクラブを立ち上げた暇人は…つうかテメェ迷いなく俺に聞いてくるってことは屋上で新田と俺が会ってたのを見てやがったな……。

 まぁ良いさ…帰ろう…。校庭で雄叫びと悲鳴が聞こえたがアレは新田が処刑されたからなのだろうと思い、気に留めないことにした。




「ただいま」


 憐の返事がないためまだ、目を覚ましてないのだろうと思い、リビングで私服に着替え学ランをハンガーに掛ける。ズボンは後で二階に持って行くため立たんで自分の椅子に掛けておく。

 俺は手を洗ってから林檎の皮を剥き食べやすい様に一口大に切り皿に乗せ、フォークと昼間の内に冷ましておいた白湯と一緒にお盆に乗せて二階へと運ぶ。


「入るぞ」


 一言だけ言葉を発して俺は扉を開けた。

 憐は壁の方を向いて布団にくるまって寝ている。


「お帰り徳仁…」

「起きてたのか?」

「今起きた…」

「あ…悪い俺が起こしちゃったか」

「ううん…今が自然に目をさましたからそんなことはない」

「そっか…林檎を剥いたけど食うか?」

「食べる」


 お盆を部屋の中心に置いてある卓袱台に置いて林檎を乗せた皿とフォークを憐の前に持って行く。


「水は飲むか?」

「後で良い」


 俺は卓袱台の前で胡座を掻いて座り、憐にどう告白切り出すか悩んでいた。早い方が良いとは思うのだが憐の体調が悪いため、今に切り出すのも悪い気がする。


「あ~憐…体調はどうだ?」

「結構良くなった…ありがとうね徳仁」

「いや…それなら良いんだがな…」


 何でだろう…なんか知らないが空気が重い。


「あのさ、もし明日体調が良くなったら朝から話したいことが有るんだ」


 俺は結局、告白するのは明日にすることにした。憐も大分回復したらしいが今日発病した生粋の病人だし、そんな人間に告白するのは生死が掛かってる時だけ良い。只、気になることがひとつあった…俺が話したいことがあるって言ったとき、憐の肩が震えた気がしたのだ。

 だが俺は特に気に止めず、そして夜になった。




 カチ、カチと短針が1を指した目覚まし時計の秒針の音が、暗く静かな俺の部屋でやけに大きく聞こえる気がする。


「眠れねぇ…」


 告白するっての当然ながら、告白を受けるよりも緊張する事だ。けど、憐相手にここまで緊張するってのは予想外だったりした。

 いや…どちらかって言うと、これは緊張じゃなくて恐怖だった。今までの関係でも充分過ぎる位に、充実していて幸せなものだった。いつだか憐が恋人を作った時終わるとは思ったが、その時は恐怖はなかった。

 それは、自分の気持ちを忘れていたからか? いや…多分違う…。


「俺は自分の手で壊したくなかったんだ…」


 憐から壊してくるなら別に良かった…今の関係を憐から壊すその時、それは憐が幸せを見つけた時の筈だからだ。

 つまり、もし本当の告白を受けても俺から壊さないためにも告白を断っていたのだ。

 …ある意味では逃ていた。憐の両親が死んだ日から塞ぎ込んでいた憐を見て俺は幸せになってほしいと思っていた。けど憐の隣に立つのは俺には相応しくないと考えて知らない内から今の関係で妥協していた。

 つまり、俺は憐を幸せにしたかったくせに自分には出来ないと思って他人任せにしていたバカ野郎って事だ。

 けど今の俺にはもう妥協する気はない、憐のだから俺は隣に居たいこと伝える…。


 ガチャ。


 ……今、扉が開く音がしなかったか…? そう思った瞬間何かがヒタヒタと俺の方に近づいてくる。

 まさか幽霊とかじゃないよな…? 顔は般若面だが、お仲間じゃないからこっちに来ないでくれ―!!

 俺は布団の中で冷や汗を描きながらも恐怖でピクリとも動けない……我ながらなんてビビりな性格なんだ…。

 そして、こっちに近づいていた何かは俺の手を握った。

 俺の手を握った手は柔らかくて懐かしい感触だった。今朝握った、熱の影響で熱くなった憐の手とは違う…小さい頃よく手を繋いで帰った懐かしい憐、本来の手だ。手を握るのは腕相撲した時でも三年前だったし、それがなければ六年ぶりだ。

 俺は目を開けると、電気の付かない暗闇の中でも顔がうっすら解るくらい近い距離で、憐は何かの水滴を俺の頬に溢した。


「憐…泣いてるのか?」

「の…徳仁起きてたの!? ……ごめん部屋に戻るわ…」

「いやいや…待てよ!」


 俺は握ってきた憐の手を離さずに起き上がり電気を点ける。明かりの下に現れた憐の顔は目元は腫れ上がり涙の跡が見受け…つうか現在進行形で泣いている。


「おい、憐どうしたんだ?」

「お願いだから手を離してよ!! ……お願いだから…もう私を心配しないで…これ以上…徳仁の優しさを私に向けないで…それじゃ何時までも私は…」


 憐の言ってる意味はさっぱりだが恐らく原因は俺らしい。


「なぁ…憐頼む…な? せめて泣いてる理由だけは教えてくれ。じゃないと俺はこの手を離せない…それが条件だ」

「……徳仁が悪いのよ…恋愛対象にも見てないのにあんな約束して……ずっと辛かった…私は幼なじみであって一人の女の子として見てくれないじゃない……」


 ん…? この流れはもしかして、もしかしての流れじゃ……?


「あ…あの憐さん?」「ずっと好きだったのに…徳仁は私の知らない内に恋して勝手に失恋して……約束なんて忘れたと思った!! だから私も新しい恋見つけて恋人作ったけど……約束が呪いみたいに離れないでキスできないで破局よ!! 責任取りなさいよ、バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!!!」


 夜中だってのお構いなしで大声を上げながら泣いて俺の胸をドカドカ叩いてくる。ポカポカではなくドカドカと手加減なしなので滅茶苦茶痛い。

 取りあえず理由は分かったが、何故俺の部屋に入ってきたかはイマイチ分からない。


「で…なんで俺の部屋に?」

「……手紙を読んだの…ゴミ箱の中の…悪いとは思ったけど誘惑に逆らえなくて…それで話したいことが有るって昨日の夕方に言ったからもうこの生活を終わらせるんだって思って……それで、どうせ終わるんなら最後に徳仁の手を握りたくなって…」


 合点が言ったが、まさか憐を此処まで追い詰めていたなんて想いもよらなかった。ちくしょう…昨日までの自分をぶん殴りてぇ…。


「もう良いでしょ…言ったんだから離してよ…これ以上徳仁を好きで居させないでよ……」

「離さねぇ…絶対に離さねぇよ…今この手を離したらもう俺の前からお前は居なくなるだろ…」

「っ…一昨日は掴まなかったじゃない……なんで躊躇って、あの時みたいに掴んでくれなかったの? 何で今は離してくれないのよ…!!」


 力いっぱい、引き剥がそうとする憐だが俺はそれでも憐の手を離さなかった。だが引き剥がそうと暴れたせいで、バランスを崩して俺と憐は布団に倒れ込んだ。


「間違わないためだ」


 憐は俺の上に押し倒す形で乗っかっていた。俺は手を離して、代わりにその状態の憐が何処にも行かないように精一杯、抱き締めた。


「ごめん…憐……辛い思いしてきたんだな…けどさもう、俺は妥協しないから…他人任せにしないから俺の気持ちを聞いてくれ」


 そして、俺はこの想いを憐に伝える。


「俺は憐が好きだ。憐を幸せにしてあげたい。…俺が憐を幸せにしても良いか?」

「あ…」


 意味はきっと分かってくれた筈だ。俺の想いは届けた。後は憐の返事しだいだ。


「それって…私の思ってる通りに受け取って良いの?」

「あぁ」

「なら行動で示してよ…勘違いじゃ―」


 俺は憐の言葉を口を塞いで黙らせた。


「約束より二年早かったがこれで良かったか?」

「馬鹿……徳仁、私もアンタが好きよ…」


 その夜は子供の時以来に二人で手を繋いで眠った。

 結局、俺達の恋愛はとても普通の恋愛とは言えなかったし、一歩間違えれば真っ逆さまの綱渡りの様な告白もあまりにも近すぎた俺達が遠回りをした結果だ。けれど、俺の幸せはちゃんと掴めたのだから、これで良いんだと思う。これが俺達、幼馴染みの恋愛展開の模様だ。




 おまけ


 徳仁と憐が修羅場をしていた頃の一階。


『おい、憐どうしたんだ?』


 杉山俊三《しゅんぞう》、六十七才。趣味はカラオケと釣り。今まで就寝中だったが二階が煩くて起床。


『責任取りなさいよ、バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!』


 何やら二階が修羅場中なので空気を読んで静かになるまで、布団の中でじっとしていた。


『俺は憐が好きだ。俺は憐を幸せにしてあげたい。…俺が憐を幸せにしても良いか?』


 杉山俊三、六十七歳。見栄を張りたいお年頃、昨日の同窓会でクリミーとスパイシーの意味が反対だったことが発覚。素で間違えてたお茶目さん。


『それって…私の思ってる通りに受け取って良いの?』


 杉山俊三、六十七歳。ボケてないのに孫達からはボケ老人扱い。帰宅時のいただきますは、単にオヤツを食べる時間に孫達が帰宅した間の悪いドジなお爺さん。つうか六十代はボケる歳じゃない。


『馬鹿……徳仁、私もアンタが好きよ…』

「青春じゃのぉ…二人とも早よう曾孫を見せておくれよ」


 杉山俊三、六十七歳。実は二人の恋を当時から見守っていたお爺さん。

 だから、後継人も引き受けたりした。陰ながら二人の繋がりを繋ぎ止めていた優しい二人のおじいちゃん。

後書きを読んでいる方へ。


先ずは作品を読んでくれて有り難う御座いました。

処女作でグダグダな内容ですがもしも楽しんでくれた方がいるなら幸いです。


おまけに関して、短編にそんなの要らねーよ。と言う方は申し訳有りませんでした。

言い訳を言わせても貰えば投稿小説の短編を書くのが始めてで、マニュアルは読みましたが勝手が分かりませんでした。

おじいちゃんはキャラ設定はかなり練ったのですが登場する場面を上手く設けることが出来なく、おまけに出る扱いになってしまいました。


では、後書き…と言うより言い訳をグダグダと書くのもこの辺にします。


お目汚し失礼しました。

では、また短編か連載を出した時には宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一年も前の物だが良いものだな。 お二人さん幸せになれよー!! P.S 隠れたじいちゃんの本当の姿すげぇ。
[良い点] とにかく色々パネェ! [気になる点] 見当たらねぇ! [一言] 純愛ものが結構好きなんでテンション上がりすぎて家族に白い目で見られちゃいました。 ……はい、真面目に感想行きます。 最初のコ…
[一言] おじいちゃんがカッコ良すぎてフイタwww
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