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セカイノクジラのType ZERO  作者: 沖田 ねてる
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第四話② 5日目⑤


「何よりもまず、ティンクのことを口にした。意識の上で優先してなきゃ、出てこないわよね」

「そうだにゃー。同じ機械人形(オートマタ)としては、大切にされてるのが羨ましいにゃー」

「えっ、えっ?」


 アリサさんも加わって、二人が話している内容。それを徐々に理解してきたおれは、顔が赤くなっていくのを感じた。


「い、いやそのッ! 違うんですッ! クジラコがいなかったらゲームに勝てないってだけで、そもそもおれはもう恋なんてしないって誓いを……」

「ふむふむだにゃー」

「へー、そうなのー」


 必死になって弁解をするが、シンリューさんもアリサさんも信じてくれている気がしない。ニヤニヤした顔のまま、微笑ましいものを見る目でおれを見ている。


機械人形(オートマタ)も、ようやく認められて来たってことなのかにゃー」

「少なくとも、人間にとって都合の良いモノ、っていうだけには見られてないわね。こんなに好きでいてくれている子がいるんだもの」

「ちょッ! な、何をッ!?」


 おれは声を上げずにはいられなかった。アリサさんの言葉が、胸の鼓動を加速させていく。


「ま。強情も程々にしておきなさいよ。まだ若いのに、もう恋なんてしないなんて、言わないで。やらずに過ぎ去っちゃったら、後悔しかないんだから」


 少し目を細めたアリサさんが、おれに諭すような口調で語ってきた。彼女の言葉が、胸に突き刺さる。


「強情、なんて。でも、おれは」

「あなたに何があったのかは知らないわ。でも、やってない後悔はやった後悔よりも大きい。心当たりがあるんなら、同じ失敗はしないように気をつけなさい」


 やらずに後悔した経験が、おれにもあったから。あれがあったからこそ、おれはもう恋なんてしないなんて決めた。

 でも今、おれの胸の内に灯っているものがあることも、確かだ。いつか心の内側に刺さった小さなトゲが、まだ残っている。


 気が付くと、大きくなってきているような気すらする。それこそが自分の本当の望みだと、言わんばかりに。それを素直に認めるのであれば。


「おれ、は。クジラコを……」

「はーい。失恋の先達によるお説教タイムも、そろそろ終了だにゃー」


 俯き加減になったその時、シンリューさんの明るい声が響き渡った。


「あら。機械人形(オートマタ)にはちょっと難しかったかしら?」

「合理的に考えて、さっさと忘れて新しい恋を探した方がマシなのに。いつまでも引きずってるなんて効率悪いにゃー」

「ふんっ!」

「ブゲハァッ!?」


 顔面を殴られたシンリューさんが宙を舞った。スゲー、シンリューさんって機械人形(オートマタ)の筈なのに、壁際のソファーまで飛んでったんだけど。


「人格プログラムも、所詮は数式よね。忘れないことが言葉にできない重みを生むことだってあるのよ。全く、失礼しちゃうわ」

「ぐるぐるきゅ~」


 フンっと鼻を鳴らしているアリサさんが、おれにはゴリラにしか見えなかった。片手のフックだけで機械人形(オートマタ)をあそこまで飛ばせるもんなの? 筋肉だけで?

 って言うかシンリューさん、無事なの、あれ。リアルに目を回してる機械人形(オートマタ)とか、初めて見たわ。


「とりあえず。あのクジラコちゃんの復元作業は多分一晩くらいかかるから、今日は泊まっていきなさい。ソファーくらいなら、貸してあげるから」

「すんません。そのソファー、今シンリューさんに占拠されてるんですけど」

「ちょっとシンリュー、お客様の邪魔でしょ? さっさと退きなさい」

「自分でやっておいてなんつー言いぐさだにゃー」


 色々とツッコミどころは満載だったが、おれは全て飲み込むことにした。ゴリラがそう言ってるなら、そういうことにしよう。おれも命が惜しい。

 程なくして復活したシンリューさん達にクジラコを任せ、風呂も借りたおれは、一足先に寝ることになった。


 彼らは隣の部屋に作業に行ったので、今暗くなったここにはおれしかいない。毛布をもらって、被りながらソファーに寝転がると、知らない木造りの天井が目に入ってきた。


「……おれ、コトワリのこと、引きずってると思ってたんだけどなあ」


 一息ついて出てきたのは、幼馴染の彼女についてだった。あの日からバタバタしっ放しで全く暇もなかったけど、改めて考えてみれば彼女の行為は明白だ。

 言われたあの時から、彼女の気持ちには気づいていた。前にも言ったけど、それが分からない程、おれも馬鹿じゃない。


「なんでおれ、好きだった、なんて言っちまったんだろ。アイツと付き合いたかったんじゃ、なかったのか?」


 寝返りを打ちつつ思い返されるのは、自分がした返事。それは明らかな、拒絶の返事だった。


「あそこでちゃんと言えてたら、コトワリと付き合うことになってたのかもしれないってのに……」


 後に悔いる気持ちはある。据え膳食わぬは男の恥、なんて言葉もあるくらいだしな。

 だけどおれは、それを選ばなかった。その時の彼女は、なんて言っていたか。


『……そっか、そうなんだね。私以外の、誰かがいるなんて』


「誰か、なんて……アイツしか、いねーよなあ」


 コトワリ以外の誰か。そう聞かれたらおれの中には、該当する奴が一人しか思い浮かばない。

 異常に背が高く、少し天然が入っている機械人形(オートマタ)。ちょっと可愛いを自称している、おれだけのティンカー・ベル。


「なんでこんなことになっちまったんだ、ホント」


 自分でも訳が分からなくて、おれは目を閉じた。今からでもコトワリに連絡すれば、まだ間に合うかもしれない。本来のおれの望みは、彼女だった筈なのに。今おれの心の中にいるのは、彼女じゃない。

 普通に考えて、年単位で想ってきた相手とポッと出の相手。どちらを選ぶのかなんて、悩むまでもなさそうなもんだが。


「う~ん……ッ」


 何故か、おれは悩んでいる。汗をかく勢いで脳みそを回してみるが、答えが出せない。


「空から降ってきた出会いも衝撃的だったし。いきなり好きだなんて言われて嬉しかったし、首をこてんってする仕草は可愛かったし。安モンの麦わら帽子なのにあんなに嬉しそうにしてくれて、ヨイチに嫉妬してる時のブスッとした顔も良かったし。あんなに天然の癖に、おれを守るからってカッコ良く戦ってくれたりもして……」


 あまりにも出てこないので、まずは単純に。難しいことを考えずに、今心の中にあるものを言ってみると。


「――あっ」


 自分で言葉を並べておいて、おれは自分で気が付いていた。なんてことはなかった。驚く程スラスラと出て来た、彼女に対する想い。これが何よりの証拠だ。


「そもそも悩むようになっちまったくらい、いつの間にか惹かれてたってことなのか。だからコトワリに迫られた時も、アイツの顔が浮かんだのかな」


 そっかそっか。おれ、そう想っちまったってことか。時間の長短なんか、関係なさそうだ。もしかしたらネバーランドゲームっつー刺激的な日々が続いてて、一種の吊り橋効果的な部分もあるのかもしれないけども。


「今こう想えてることは嘘じゃない、よな」


 先ほどアリサさんに言われた言葉が頭を過った。


「やってない後悔は、やった後悔よりも大きい……もう恋なんてしないって、思ってたのにな」


 苦笑いしか出てこないおれだったが、今さら悔やんでも仕方ない。もう一度差し伸べられた手すら、おれは取ることを選ばなかった。

 ならば、おれが今後やることは、ただ一つ。


「アイツが直ったら、言ってみようか、な」


 腹は決まった。あとは、やるだけだ。


「……言いにくいけど、コトワリにもちゃんと連絡しんといかんよなあ」


 後始末は残っているが、それもちゃんとこなしておこう。ちゃんと彼女と、向き合う為に。


「ふあーあ。にしても、疲れたなー。あとは明日のおれに、任せるか……」


 決めることを決めたら、一気に眠気が襲ってきた。元々色々あって疲れていたこともあるが、どうしようかと心の何処かで悩んでいたことに決着をつけられたんだ。精神的にも、安心できた面が大きい。

 そのまま睡魔に身を任せて、おれは目を閉じる。明日からゲーム再開だ。元気なアイツと、おれのティンカー・ベルと一緒に。

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