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23 試練迷宮清掃01 幼い見た目の迷宮管理者

 今日は迷宮探索の日。

 いつもの癖で日が昇る前に目が覚めた。時間的にだいぶ余裕があるな。寝床で暫く考える。


 昨日はレアと魔女子さんの2人と会い、彼女たちも迷宮清掃に参加すると聞いて目を丸くしたものだ。

 僕はレアによろしくと伝える。レアは暫く考えてから、「ええ」と答えた。魔女子さんにはくれぐれも迷宮を燃やさないようにお願いする。だけど彼女は笑うだけだ。解ってんだろか? 


 レアはわくわくしているようなので、一応師匠の教えを伝えておく。その後は『浄化』の練習につきあってくれた。僕はまだコツがつかめていない。もう少し練習したいが、王樹の花弁を買う余裕はないのだ。

 魔女子さんにも迷宮の心得と、それからレアのことを伝えた。もちろん巫女としてである。魔女子さんは同年代の少女ということで興味深そうに聞いてくれた。小さく笑って「仲良くなれるといいな!」と言っていた。


「朝ごはん用意するか」


 僕は起き上がり、台所へ向かう。

 今朝も簡単なものだ。作りおきの野菜くずを煮込んで塩で味を調えたスープを温め、黒パンを薄く切って少し炙った物を用意する。ルネ用にミルク粥も用意しておいた。彼女は好き嫌いが激しいんだよな。


 朝の支度とごはんを食べ終えた。やはりまだ余裕がある。


「……早めに出るかな?」


 僕は荷物と装備の最終チェックを行う。


 昨日はゴミ屋ギルドでラドックが、僕の胸の高さくらいある大きなズタ袋を5枚用意してくれていた。荷物に加える。

 清掃魔導が使えるミュリ姉さんと、回収魔導が使える僕たちで掃除は手早く済むと思う。ズタ袋はゴミ以外のものを入れるようだ。もしかしたら、冒険者の遺体があった時に使うかもしれない。それ以外にも、良いものがあったら持ち帰るかな。荷物を圧迫するんだけど、あった方が良いのだろう。

 装備も確かめる。腰のベルトにナイフを鞘ごと取り付けた。その重さの分だけ頼りになる。そして武器としてつかう長棒を振ってみた。

 長棒はコツを知らなきゃ邪魔になってしまう。だけど僕は壁沿いに歩く稽古を嫌ってほど叩き込まれてきた。天井に汚れがある場合、この棒を使うかもしれない。


 そんなことをしていると太陽が顔を覗かせた。良い時間である。僕は背嚢を背負った。


「じゃあ、行ってくるね」


 僕は眠っている孤児院に声を掛ける。ふと気配が動き、声が掛かった。


「まってよ、兄さん」

「にいちゃん、おはよ」


 メアリとレジスが眠たそうな顔で僕を呼び止める。


「おはよう、どうしたの?」

「兄ちゃん、冒険者の恰好似合ってるね」

「もう、レジス! あのね、これを持ってって」


 それは大きなパンと濃い青の肩掛け(ストール)だった。パンはとても柔らかいやつで、肩掛け(ストール)は分厚いものだ。なんだか気になる模様が描かれている


「パンは昨日、姉ちゃんが焼いたんだ」

肩掛け(ストール)はわたしとレジスが選んだの。端にレジスが魔絵具でお守り描いたわ」

「使ってよ、兄ちゃん」

「2人ともありがとう!」


 僕は背嚢へ大きなパンをしまい、肩掛け(ストール)を身に着けた。これで味気ない食事ではなくなるし、肩掛け(ストール)はほこりも防げ、いざって時の守りになるだろう。


「じゃあ、行ってくるね! ルネとエリナによろしく」

「いってらっしゃい!」

「無事に帰って来てね!」


 2人に見送られ、僕は気力が湧いてきた。

 さあ、行くぞ!



―――――――――――――――――――――――――――――― 

 冒険者ギルドに着いたのは僕が一番だった。ギルドの開く時間は過ぎているのに扉は閉まっている。冒険者って時間を守らないヒトが多いのは知っているが、職員もか……。

 どっちにしても僕はゴミ屋ギルドから来ているし、ミュリ姉さんを待とう。彼女も朝は早いはずだ。……と思ったところで声が掛かった。

 

「あやー? おっはよ! セイちゃん。今日は珍しい恰好だわねー」


 そちらを向くと、黄緑色のボサボサ髪を掻きながら魔導掃除師ミュリ姉さんがあくびしながらやってきた。


「ミュリ姉さん、おはようございます!」


 背の高いミュリ姉さんは、少し厚手のマントを羽織り、藍色の皮でできた上下つなぎ服である。背中にある掃除用具は重たいはずなのに、彼女は軽々とさげて歩いてきた。


「ミュリ姉さん、腰は大丈夫?」

「えー? セイちゃんも腰の心配? だいじょぶだし、腰じゃないよ。無理しちゃって座ってただけなのにねぇ」

「無理したの?」

「あははー、まぁね。マナ切れで休んでたら、腰痛いん? って見られちゃってさ」


 けらけら笑うミュリ姉さんだが、これでも人見知りらしい。だけど、仲良くなるとすごく話してくれて、面白いヒトだとわかる。僕とは話す機会が多く、すぐに打ち解けた。


「姉さん、今日は気を付けてね」

「あいあい。セイちゃん、うちを守ってね」

「うん。でも護衛がつくよ?」

「えぇ……うち、知らない人と話すの怖いわ」

「そか、でも僕の知り合いの子も来るみたいでさ、ミュリ姉さんも大丈夫だよ」

「子? えと、女の子?」

「神殿の子とゴミ処理場の燃やす子。どっちも女の子だよ」

「へぇ! そかそかぁ……セイちゃん的に、可愛いかんじ?」

「うん? まあ、かわいいと思うけど?」

「へぇ? へへぇ?」


 ミュリ姉さんはにやーっと笑う。


「なに? 姉さん」

「いやいやー、セイちゃんも隅に置けないなぁってさ」

「……」


 そんな話しをしていたら、冒険者ギルドの扉が開いた。


「あ、おはようございます」

「んあー? はぁ……おはよ、早いね」


 扉を開けたのは受付け嬢、朝が弱そうな蛙獣人のお姉さんである。


「あの、僕たち迷宮清掃の依頼で」


 僕たちが要件を告げると、受付のお姉さんはへの字口をみせ、少し考えた。

 

「あー……きいてたわ。どぞ」


 そしてお姉さんはぽやぽやと中へ促し、あくびしながらギルド奥の部屋へと案内してくれる。彼女は無口なうえ、どこを見てるかわからないのが少し困る。

 笑顔っぽい表情がなんともいえず独特だ。


 案内された客間には簡素な応接机と椅子が揃っているようだ。

 僕たちが腰かけ、暫く待っていると扉が開き、1人の少年が入ってくる。すぐに僕たちは立ち上がった。


「おはようございます」

「お、はよ、ございます」


 彼はそれに小さく手を上げる。


「おはようじゃ! 清掃担当の2人じゃの!」

「あ、はい。回収担当のセイと言います」

「よ、よろしく。うち、掃除師ミュリよ」

「朝早く、ごくろうさまじゃ! よくこの依頼を受けてくれた! わ()が依頼主迷宮の管理者(ダンジョンキーパー)のシューじゃ!」


 子供、だよな?

 背も僕の腰くらいしかない。薄緑の宝石のような艶のある髪で同じ色の瞳。耳が少し尖っているが樹聖の民(エルフ)ほど長くない。

 彼は不相応に大きな片眼鏡モノクルと、白い木の皮でできた帽子をかぶっている。服装は動きやすそうだが、身体にベルトのようなものを二重に撒きつけ、瓶や金属が幾つか入ったものが目立つ。また、片手に古めかしい白っぽい獣皮を伸ばして作った羊皮紙(ただ、マナを含む魔獣の皮のようで、獣皮紙とよぶべきか?)を持ち、体と同じくらいの大きな背嚢を背負っている。獣皮紙はときおり輝いている様に思えた。

 しかし、彼はとても可愛らしい顔立ちの幼児である。


「今回は迷宮清掃をたのむぞ! わちも一緒に行くから安全じゃ」

「えーっと、シューさんが迷宮の管理者(ダンジョンキーパー)なんですね?」

「……かわいい」


 ミュリ姉さん、子供は大丈夫そうだ。僕とミュリ姉さんの言葉にシューさんは眉をあげる。


「カワイイとはなんじゃ! わちは(よわい)50を超えておる!」

「え? 50歳!?」


 僕の驚きに、シューさんはバツが悪そうに頬を掻いた。


「まあ、起きたのは6年前じゃがの……」

「僕、迷宮の管理者(ダンジョンキーパー)について詳しくないんですが、その……教えてもらえませんか?」

「それは……まあ、他の者が来るまで説明()ようか」


 シューさんは舌ったらずなしゃべり方で説明してくれる。

 どうやら迷宮の創造主ダンジョンクリエイターの一族である日輪の民・蒼月の民・紅月の民は、生まれた時に迷宮(ダンジョン)を作る力をその身に抱えるらしい。

 

 その熟成のためには50年の年月が必要であり、生まれてすぐに王樹のたもとにある『聖魔創造の泉』とやらへ沈められ、眠り続けるのだ。

 その間、迷宮を管理・創造するための知識が流れ込み続ける。マナも増大するらしく、迷宮ダンジョンに働きかける技能が培われるようだ。

 ただ、泉の中では体の成長が止まったまま、知識だけが流れ込んでくる状態である。

 そして彼は目覚めてから3年で活動を始めるだけの体に成長し、技能が使えるようになるまで2年と半年。

 そして、約半年の旅を経て、王都の冒険者ギルドへ着いたのだ。


「つまり、わちは将来迷宮の創造主ダンジョンクリエイターとなって世界を巡るため、修行でここにおるんじゃ!」


 シューさんは胸を張って締めくくる。しかし、ミュリ姉さんが呟いた。


「じゃさ、シューくんて6歳のお子様とあんま変わらないんじゃないの?」

「ぬ!? 言葉を慎むのじゃ! わちは50過ぎといっとるじゃろ!」

「でもさ、身体はお子様でしょ? カワイイわぁ」

「ミュリ姉さん、シューさんは子ども扱いされたくないみたいだよ?」

「そうじゃ! わちはこう見えても大人じゃ! 大人としてあつかえ!」


 うーん……その姿は大人に見られたい子供が喚いているようでかわいらしい。うちのルネが怒った姿に似ている。ちょっとほっこりするな。


「というか、わちはいずれ世界を巡って迷宮を作ってまわるのじゃ! 尊敬するがよい!」

「おお、世界をですか?」

「当然じゃ! わちは世界のあちこちを見て回りたい! 一度入ったら二度と出れぬ、最高の迷宮を作るつもりじゃ!」


 それは、良いのだろうか? いや、迷宮の創造主ダンジョンクリエイターは感性が独特だし、成長したら意見も変わるだろう。僕は軽く流して話を続けた。


「世界を巡るのはうらやましいなぁ……僕も世界を見てみたい」

「おお、おぬしもか? 良いぞ、世界は!! わちは知っているだけで見たことが無い。だから実際に見て、聞いて、触れてみたいのじゃ。特に、暑くてかなわん地域の火山を迷宮にしたいぞ!」

「おお! 魔女子さんが喜ぶかも? 僕も一緒に行ってみたい!」

「お? おぬしもか……? む。迷宮清掃員を同行させるってのは悪くない考えじゃ。むむ……面白い発想じゃの」

「てか、迷宮自体に掃除させるとかダメなんですか?」

「む?」


 話に興が乗り、僕も発想を語ってみる。シューさんは目を丸くしてしばし考え、そして首をふった。


「……駄目じゃな。特化した機構を増やすとマナが足らなくなって迷宮にならん。それに調整するわちらがめっちゃ大変になる。罠の管理と、魔物の動態にも影響するからの!」

「ふむ……じゃあ迷宮の汚れを食べる魔物を操るとかは?」

「んー粘体生物(スライム)がおるじゃろ。壁や天井に張り付く奴らじゃ」

「じゃあ、行けそうですか?」

「いんや、なんでも食べて綺麗にしてくれるが思い通りには動かん。わちらはあくまで迷宮に働きかけるだけじゃからの」

「ふむ……」

「しかし、おぬしはなかなか面白い発想じゃの! セイよわちと一緒に迷宮作るか?」

「え?」

「迷宮作成には多くの役目がある。ゴミ処理も仕事の1つじゃ! おぬしが良ければ……」


 心惹かれる提案を、ミュリ姉さんが慌てて止めた。


「ええー? ちょっと、ちょっと、セイちゃんは冒険者じゃないでしょぉ?」

「あ、うん」

「旅とか迷宮なんて危ないじゃん。ちょっとお仕事が違うよぉ」

「そう、かな?」

「むむ。そうじゃったな。セイよ、この話は後じゃ。今回の仕事の話をしなくてはな!」


 ミュリ姉さんに止められ、僕たちは妄想話をやめて仕事の話に戻す。


「えっと、何があったんですか?」

「実はの……」


 シューさんが言いかけたところで、ノックの音がした。

 続いて受付のお姉さんが人を連れて入る。


「ねー、別のヒト、来たよ」

「おはようございます!」


 それはアレンとリュシエルだった。

 彼は更に2人の仲間を連れている。彼らは動きやすそうではあるが、それぞれが冒険者としての装備を身に着けていた。

 そのすぐ後ろに神官の正装姿のレアと、いつもより動きやすそうな魔導師姿の魔女子さんが入って来る。


「おや、セイじゃないか!?」

「え!? アレン、護衛は君かい!?」

「セイ、私もいる」

「おはよ、セイ! 今日もよろしくね!」


 ……僕と縁のあるヒト達が一同に会したのだ。

 どういうことだ? 偶然?

 僕は、首をひねった。

 考えても仕方ないんだけど、気になってしまうな。そう思いつつ、僕は言った。


「みんな、縁があるね! 今日はよろしく!!」


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