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05 双月大陸『神話』

 王都には3つの神殿がある。

 それぞれの祭祀ごとに宗派がわかれ、それぞれの神殿が建つ。


 王都の中央に存在する『白金の日輪神殿』

 西に存在する『蒼銀の聖月神殿』

 東に存在する『紅銀の魔月神殿』


 中央の神殿には太陽の神が(まつ)られており、世界を切り開く活力の象徴とされている。

 西の神殿には聖月の女神が祀られており、世界を癒す安らぎの象徴とされている。

 東の神殿には魔月の女神が祀られており、世界に存在するマナの象徴とされている。


 僕が担当となったのは東にある、『紅銀の魔月』神殿だ。

 この教会の成り立ちには双月大陸の神話が関係する。



――――――――――――――――――――――――――――――

 元々、大陸の太陽と月は一対(いっつい)のみだった。


 ある時、大陸には崩壊が起きてしまう。


 ボロボロになった世界が消えてしまう前に、太陽と月よりその力と意思の分け身である二柱(ふたはしら)の神々が世界へ降りた。


 太陽の神は日が照らす昼にしか存在できない。

 月の女神は月が照らす夜にしか存在できない。


 二柱は出会うことなく大陸の崩壊を止めた。


 太陽の神は力の大半を使い、光の杭を世界に打ち込み、大陸の時間を止めて崩壊を止める。

 月の女神は力の大半を使い、闇に月光を混ぜて闇雲を作り、大陸を覆い崩壊から守る。


 太陽の神は残りの力をほとんど使い、崩壊の原因を穿つ。

 月の女神は崩壊の原因となった存在を包み、残りの力をほとんど使って宝珠に変えた。


 太陽の神と月の女神は昼夜交代で宝珠に日月の力を与え続ける。

 そして宝珠は王樹の苗となった。


 太陽の神は大陸の中心への道を拓く。

 月の女神は大陸の中心へ王樹を植えた。


 太陽の神は王樹を鍛え育てた。

 月の女神は王樹に安らぎを与え育てた。


 二柱ともが、世界の中心に王樹を育む。


 そして、止まった世界の中で一人だけ育った王樹は根を張り、支えとなり、世界の崩壊を止めた。


 王樹の成長を見て、二柱は大陸の時間を動かそうと考えた。

 しかし、二柱は王樹を育むことに注力しすぎ、時間を動かすには力が足りない。


 そのために神々は光の杭を抜き、闇雲を切り裂き、太陽と月の光を世界に降ろす必要があった。


 太陽の神は光の杭をすべて抜き、暗闇の雲を切り開く。

 月の女神が落ちていた光の杭を拾い集め、ばらばらの闇雲をまとめた。


 その光の杭と闇雲の塊は、世界の意志と二柱の力を受けて混ざり合い、溶け込み、天地の光と闇を取り込んだ。

 さらに太陽と月の化身たちに磨かれたことで、マナを生み出す魔珠となった。


 そして魔珠は魔月へ転化する。


 さらに魔月は化身を降ろした。

 魔月の化身はその身は女神であるが、日の元では女性の身体で、月の元では男性の空らだった。

 そのおかげか、彼女は日月の中でも存在することができ、太陽と月の化身たちに寄り添い、その手助けを担った。


 魔月の女神は太陽の神に愛され、365の神々を産んで世界へ降ろす。

 魔月の女神は月の女神を愛し、月の女神にとって毒である、太陽の神から受けた力を中和して注ぎ込み、5柱の元素神を産ませた。


 魔月の女神が産み落とした365の神々は大陸の支えである王樹をさらに逞しく育て、その身を世界に隠す。その意思は世界に散在することとなった。

 月の女神が産んだ5柱の神々は元素を(つかさど)り、世界と同化することで、大陸には自然が出来た。


 準備が整いった、日月、魔月の化身たちは今まで止めていた時を動かす。


 太陽の神は太陽に働きかけて世界を照らし、活動の時間を作った。

 月の女神は月に働きかけて夜の世界を照らし、時を緩やかに動かし安らぎの時間を作った。

 魔月の女神は主である魔月に働きかけ、世界にマナを降ろした。


 そして王樹は、世界に撒かれたマナを捕らえ、それを体内で磨いて世界へ放ち、マナを世界のことわりに干渉するための存在に昇華した。


 全ての役目を終えた太陽の神と月の女神の二柱は、二つの月が見える黄昏の刻に出会う。


 二柱は一目で恋に落ちた。


 駄目だと解っていたというのにお互いは触れ合う。

 その瞬間に二柱は砕け散ってしまった。


 砕け散った二柱は消えて、金と銀の欠片が残る。

 魔月の女神は二柱が砕け散る瞬間、泣いた。

 その涙は海を作り、その慟哭は風を作った。


 その後、ひとりぼっちの魔月の女神は二柱が残した金と銀の欠片を袋に詰め、世界を巡る。

 しかしその袋には穴が空いている。金と銀の欠片は世界へ撒かれた。


 その欠片たちは命となって動き始める。


 全てを撒いた魔月の女神は力尽き、その姿を隠すのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――

 この神話を、僕は孤児院の院長エリナから聞かされてきた。


 太陽も二つの月も現実に存在しているし、王都からは遠いけど海もある。

 そして大陸の中央には、王樹が存在感のある姿でそびえ立っているらしい。


 神話には補足があり、太陽も月も分け身を失ったことで、世界を照らす以外の干渉が出来なくなってしまった。


 その神々を祀るのは当然だと思う。

 ちなみに聖月と魔月に分けたのは、神話の影響だろう。


 これから僕が向かう『紅銀の魔月』神殿は、魔月の女神を祀ったものだ。

 魔月は紅く染まる日が多いから、紅銀を用いるらしい。

 神殿はすべて規模が大きい。魔月神殿もその例に漏れないはずだ。多くの人の来訪を受け入れるようになっているし、多くの神職が暮らしている。


 神殿は祈りの場所で、祝福を授け、儀式を主る。

 そのためにも神官を宿舎に住まわせて、祭事を執り行う。

 そして教会の人たちは聖なる祈祷、『聖祈』というマナの働きで多くの人を助けているのだ。

 それは『魔導』と似て非なるものらしい。その役目は治癒や浄化、身体の傷や病を治し、悪い場所を綺麗にする。

 このおかげで多くの人への助けとなり、信仰を集めている。


「『神の祝福』には『神官』『巫女』もある……か」


 才能を持つ人を率先して確保して育てることが現国王の意向らしく、彼らは『日月の学び舎』に在学の時から神殿に通い祈りを捧げていた。

 

 神殿は生活している人が多い。だけど人が生活したらゴミは出る。それは聖人だろうが悪人だろうが変わりはない。そして処理さえすればキレイになるのだ。

 まあ、がんばろうかな。


「グア?」


 ふと、キラがちらりと僕をみる。その目はちょっと心配してるようにも見える。あー、御者の僕がぼんやりしてたかな?


「キラ、大丈夫さ。僕は仕事の考え事だよ」

「グア?」


 あーでも、時間微妙かな?


 いつもは第4刻の鐘が鳴るあたりでゴミ処理場へつくのだが、神殿の回収が入るとお昼のすぐ前になってしまうな。

 焼却担当の魔女子さんと会って雑談するのは楽しみだけど、遅いと会えないかも?

 そんなことを考えながら、僕はキラとカラに声を掛けた。


「キラ、カラ、君たちは教会って初めて?」

「グァ?」

「ググァア!」

 

 話しかけると返してくれる。けど、言ってることはわかんない。火蜥蜴の2頭(ふたり)は気の良い子たちだ。


「これから行く神殿の女神さまってさ、王樹や世界のお母さんてことになるのかな?」

「ググゥ?」

「グァ」


 なぜそんな微妙な顔するのだ?


「僕にとっての母さんはエリナかな」

「グァ?」

「グフゥ」

「エリナは孤児院のお母さんね。まあちょっと問題があるヒトなんだよ」

「グァグァ?」

「グフゥ」


 そんなやりとりをしていたら、紅銀の魔月神殿の大門へとたどり着く。僕は少し緊張しながら門へと進んだ。


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