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12 魔女子さんと炎の魔導実験

「さあ! 覚悟はいい?」


 魔女子さんはとてもとてもいい笑顔を見せた。それは右手に浮かぶ炎球に照らされ、とても魅力的に見えた。

 その笑顔を受けて僕は答える。


「もちろん! 僕も魔導が『回収』できるか試したい」


 魔女子さんのお願いは僕の好奇心をくすぐった。こういう実験は大好きである。

 特に自分が出来ることを増やす機会だ。

 もちろん、不安はある。


 そもそも、魔導を『回収』できるだろうか?

 ゴミだと思い込んだらどうだろう?

 それは違う気がする。

 魔女子さんが炎を抱きしめてほしいって言ってんだから、抱きしめる形を……。


「っ……!」


 そのとき、ある考えが閃めいた!


『マナ運行を工夫すれば、『炎球』を『回収』出来るのでは!?』


 根拠はない。だけど魔導に関して、こういった閃きが大きく外れたことは無い。

 ちょっと考えてみるか……。


「魔女子さん、ちょっと待ってほしいんだけど、それ大丈夫?」

「大丈夫よ!」


 魔女子さんは炎球を維持したまま笑った。

 扱う人は熱くないのだろうか? 何かでガードしてる? それとも火力調節してるのか?

 まあ良い。


 僕は閃きを具体的にする。

 例えば、相手が主にしたマナを強くするってのはどうだ?

 そもそも『回収』で扱うマナ運行は、5つのマナ属性全てを動かしている。その強さはあまり意識していない。

 それなら、『炎球』のマナに対応するマナを強めれば……。

 

「……行ける」

「セイ、まだぁ?」

「いや、もう良いよ。だけど、魔女子さん気を付けてね」

「え?」


 僕の『回収の手』は物理的な攻撃を弾く。

 魔導を試すのは初めてなわけで……もし魔導が跳ね返ってしまう危険もある。角度などは考えておくが、魔女子さんも避けられるよう注意してほしい。


「最悪、回収の手が魔導を弾いちゃうかもしれないんだ」

「弾くって?」


 先ほど彼女に説明していたのだけど、解りにくかったらしい。僕はざっくりと説明する。


「例えば昨日、武器持って襲ってきた猫獣人の楯にしたんだ。そしたらその人、同じ勢いで逆方向へ吹っ飛んだよ」

「げ!? なにやってんの!?」

「僕は自警団の手伝いしてるからね」

「あー、前言ってたわね」

「うん。でさ、僕は魔導で攻撃されるの初めてだし、どうなるかわからないんだ。僕、魔女子さんに燃えてほしくない」

「わかった! 元々ゆっくり飛ばすつもりだし、問題ないわ!」

「ああ、速度調節できる?」

「『炎球』を熱くするのは簡単よ。けど、早くするのは難しいの。ゆっくり飛ばすのはお手の物なの! てか、ゆっくり飛ばせば失敗した時、セイも避けれるでしょ」

「へ? ああ、そうだね。じゃ、やってみようか」


 僕は『回収の手』を現すとき、マナ運行を調節する。

 火のマナを強めに動かす。火を打ち消す水を強めたら良いかもしれない。だが『回収』が目的だしマナの同調を意識してみよう。


「いくよ!」


 魔女子さんが右手の炎球をにこりと見つめてから、僕の方へ向く。

 炎が揺れて熱波を放つ。当たったら熱そうだ。

 僕は頭の中に自分の声を響かせた。


 ――あれはマナを含んだ炎。我が回収の手で抱き、取り込むべきもの……


 思い込みは、暗示に近い。

 ちゃんと回収できるよう、発動に更なる魔の言葉を加える。


「『回収の手』よ! ――『魔炎を抱け』!」


 現れた『回収の手』は藍色に少しだけ朱が混じって見えた。


「おし、来い!」

「じゃ! いくわよ! 『炎球』よ! ――『ゆるやかに襲え』!」


 魔女子さんの『炎球』は、言葉通りゆっくりと飛ぶ。

 僕の眼前にある『回収の手』、その両手は『炎球』に合わせて優しく開き、受け止めた!


「おお!?」


 これ、回収できた!?

 『回収の手』は何故か慈しむ様に、包み込むように、炎球を炎の朱を愛でる様な触れ方で挟み込む!

 包み込んだ炎球は跳ね返らず、『回収の手』が一瞬赤く染まり、回収された!


「うわっ!?」


 思わず叫ぶ。

 回収と同時!

 僕のマナ中枢が震える!

 『炎球』の回収で僕のマナが、大きく消耗して行く!

 それは攻撃を弾き返すときと同じ感覚だ。冷汗がにじむ。


 さらに異感覚が現れる!? 

 マナ中枢が震えるような!?

 僕は押さえつけようとする!

 なんだっ!? これ!!

 マナ混じりのゴミを回収した時の感覚に少し似ている。

 だけど似て非なる物だ。

 マナの混じりのゴミを回収した時の、胸に突き上げるような粘っこい嫌悪感がない。

  

 そして感覚がかわる。表現がとても難しいものにだ。

 どきどき……とでもいうべきだろうか?

 わくわく……とでもいうべきだろうか?

 どちらもうまく当てはまらない。


 まとめると、好意か? これ!?

 魔女子さんがどれだけ炎が好きなのか、伝わってくるような……心の震える感じが僕の中に湧きあがる。

 なんていうか、はずかしいような……いや、この好意は僕へ向いたものでないのはわかるよ。

 でも、これ……なんか……。


 耳元で魔女子さんが「愛しい(あなた)・育ちなさい・広がりなさい」と囁いているような……。

 むず痒くてぞわぞわするような、生の感情が叩きつけられているようだ。

 うあーもう……これ、魔女子さん、ちょっと、その……。


「セイ、大丈夫?」


 魔女子さんが僕を揺らす。しばらく惚けていたらしい。


「うわ!?」

「へっ!?」


 近いよ!?

 僕は彼女を見て、一気に距離を取る。

 魔女子さんはぎょっとしたような顔をする。


「セ、セイ!? どう、したの?」

「あ、うん、その、えと、魔女子さんが、どれだけ……」


 うわ、なんだこの感じ、ドキドキがおさまらないぞ!?


「セイ赤くなってる? ちょっと! 大丈夫なの!?」


 心配した魔女子さんが近づいてきた。

 これは、だめだ、うん。

 よくよく見れば華奢で、いつもよりも可愛らしくみえてしまう魔女子さん。変な気持ちになるのを意志を使って抑えた。


「……いや、大丈夫だよ。うん」

「そ、そう?」


 僕は何とか呼吸を整える。

 大きく息を吸って、大きく吐く。


「で、どうだった?」

「えと……」


 動悸が激しい。このままではまずい。調子が狂う。

 僕は呼吸を整え、唇を噛み、何とか頭を切り替えた。


「いや、大丈夫……マナがね……魔女子さんのマナ、いや回収した炎のマナが、僕の知ってるものと違ったからさ」

「何? ……どう違うの?」

「えーと、普段、マナ混じりのゴミはなんか気分悪くなるけどね、これはなんというか、魔女子さんの炎に対する想いって感じ?」


 表現に困るから、僕は言葉をぼかした。


「えー? なにそれ……? よくわからないわね?」

「こればっかりは、感覚だからね……」

「ふーん?」


 この震えはまだ続いている。魔女子さんをうまく見れない。


「こ、こんな感覚受けるの、めったに無いだろね。てか、魔女子さんがどう思ってるか分かった気がする」

「うぇ!? 何言ってんのよ!?」

「あ、いや、炎に対してだよ? うん」

「そ、そう?」


 呼吸を整えていると、胸の鼓動は落ち着いてきた。


「ふぅ……よし、もう大丈夫」

「お! じゃあセイ! 『排出』もお願い!」

「ああ、そうだね」


 僕はいつも通り『排出の手』を現わそうとマナを動かし……!?

 自分の中で火のマナが強く震えている!

 これ、手の中でつなが暴れまわるような感触が、マナ中枢で起きた!?

 制御がっ! できるか!?


「くっ、うわ!?」


 僕のマナ全部が、その震えに引っ張られてしまいそうな感覚!

 だけど、踏みとどまる!

 マナを制御する力を拡大する。マナを大きく消耗した。

 だけど何とか魔導の行使に至る!


「は、『排出の手』よ!!」


 『排出の手』を、ゴミ処理場の中心に向けて現した。その手は何故か赤みを帯びていた!?

 そこから排出口が開く。

 その瞬間!!

 ものすごい勢いで、『炎球』というには激しすぎる速度で、赤く小さい光のようなものが射出された!!

 そして恐るべき熱波を放ち、燃えているゴミの中へ到達!

 着弾と同時に激しく燃え上がった!!


 一瞬の観察だが、『炎球』は魔女子さんが作った、こぶし大のそれより小さくなっている。せいぜい親指大だ。

 着弾した先のゴミは飛び散り、一部を穿つ穴を作る。

 そして、一瞬だけ豪炎の白い輝きを見せたのち、他の炎に混じってしまった。


「……!?」

「セイ……なに? あれ!?」

「な、なんだろう、わかんないよ」

「何かした!?」

「普通に『排出』しただけだよ」

「あんなこと、今までにあった?」

「いやいや、初めて試したんだって!」

「……今のさ、下位魔導『炎球』の威力じゃない。格段に跳ね上がってた!! 中位魔導くらい? いや、もしかしたらもっと強いかも」

「……そ、そうか、魔女子さんもあんな現象初めてなんだ」

「うん……」

「魔導学院では習わないの?」

「……あんなの、習ってない! あーでも、ファニー先生なら……知ってるかも?」

「ふむ……」


 職員の皆さんはいない。この現象に気付いたのは僕と魔女子さんだけだ。

 僕は考える。この現象について。だけど、元の炎球をよく知らないから、もう少し聞いてみよう。


「ねえ、今の『炎球』さ、元のに比べてどれくらい強くなってた?」

「んー、倍以上かな? セイの消耗は?」

「……結構、大きい」

「どれくらい?」

「普段の『回収』・『排出』の数回分消耗してる。量は……」

「わからない?」


 マナの消耗って表現が難しい。


「そうだな……10回連続で『回収』と『排出』を使いまくった程度のマナを、一気に持っていかれた。しばらく休めば取り戻せるけど……ちょっと疲れたよ」

「そっか……」

「でも、すごいね! なんであんな現象が起きたんだ!?」

「わからない。でも危ないわ!」

「そうか、そうだよな」


 呟きつつ、僕は実験を考察する。

 何でこんなことが起こったんだろう?


 『回収』――ゴミを魔導的領域に格納する魔導。

 今回の実験では『炎球』という魔導の発現を回収した。


 『排出』――ゴミを格納領域から吐き出す魔導。

 強く圧縮されたような『炎球』が、一気に射出され、倍以上の威力で弾けた。


 ……そうだ! ゴミは『回収』の後、ぐしゃぐしゃに圧縮されるんだ。

 そのせいで『炎球』が圧縮されたのか?

 ……炎が圧縮されたから、爆発するような力になるんだろうか?

 勢いよく射出されるとは思うが……。

 あ……まて! 『回収』の時に火のマナで同調したから、『炎球』がそのマナを取り込んで、威力が上がった?

 僕は考えを口に出す。


「予想だけどさ……魔女子さんの『炎球』を、僕の『回収』で圧縮して、ついでに火のマナを吸ったから、強くなった……かも?」

「ふむぅ……なるほど!」


 魔女子さんも目を輝かせている。


「『回収』の時の変な感じも気になる……」

「変ってどんな?」

「魔女子さんが炎をどれだけ好きか、聞こえる感じ?」

「え!? えへへー」


 なんで照れるんだろ?

 魔女子さんの動きを気にせず僕は、さらに考えを言葉にした。


「あと、さっきの『排出』さ、なんか火のマナが震えるみたいになってさ、無理して制御したんだ。そしたら、あんな風になった」


 話しながら下を眺める。もう痕跡は見えない。


「あ、震える……? そうか!」


 僕の言葉で魔女子さんは手を打つ。


「ファニー先生があたしに言った講義予定の後ろの方!! 魔導の共振って項目があったわ!」

「共振? どんなことするの?」

「これはだめよ! あたしもまだ教わってないし、学院関係者以外に言えないかもだわ?」


 魔女子さんが眉をひそめた。

 ふむ、魔導学院も制約が多いな。

 いや、下位魔導の『炎球』を中位魔導の威力に強化したわけだから、大っぴらには言えないか……。あれを人が受けたら、致命的な傷を負ってしまう。


「そうか……じゃあさっきの現象、魔女子さんが調べてよ。僕は知らない方が良いんでしょ?」

「うん……ごめん。先生に聞いてみるわ。もしかしたら、研究になって協力してもらうかも?」

「わかったよ」


 そして僕たちは互いに見つめあう。


「でもさ……」

「あれ、すごかったね!」


 二人で笑いだす。

 新しい実験と驚きの結果!

 もしかしたら大きな発見かもしれない。

 僕たちは何か言いあおうとして……鐘の音が聞こえた。


「あー、お昼の鐘ね」

「しまった! 僕、今日は遅れてるんだ! ごめん、魔女子さんもう行かなきゃ! あの、『炎球』について、また今度教えて!」

「もちろん! 炎の同志だもんね!! てか、セイはごはんは?」

「んー、僕お昼はあんまり食べないんだ」

「あら、食べないと力出ないわよ?」

「余裕のある時には食べるよ」

「むぅ、じゃあまた明日ね!」


 そう言って、魔女子さんは大きく手を振った。


「またね! 一応、明日までにマナ運行だけでも練習してみるよ!」

「あ、王樹の葉は使わないほうがいいわよ! 間違って火事にしたらタイヘンだから!」

「学校燃そうとした人が言うの?」

「あたしは良いの!」

「ダメだよ?」


 そんなやりとりをして、僕たちは別れた。



――――――――――――――――――――――――――――――

 ……魔獣厩舎まできて、急に体に気怠さを感じた。マナ消耗のけだるさとは違う。

 なんとなく、火のマナを動かすのが、少しだけ重くなった気がするな……恐らくこれ、さっきの影響だろうか?

 まいったな、どこかで休憩を入れようか。 


「こういうこともあるのか……」


 魔導ってほんとうに奥が深い……。軽く息を吐き、僕は相棒2頭(ふたり)に声をかけた。


「あー……キラ、カラ、おまたせ」

「グア!」

「グゥ!」


 どうやら2頭(ふたり)は機嫌が良さそうだ。


「さあ、行こうか」

「グゥルル?」

「グァ」


 キラとカラが僕を心配そうに見る。目で大丈夫だと伝えると首を振って気合を入れた。

 珍しい体験をしたおかげで、気力は充実している。

 だけど仕事は終わっていない。さあ、頑張らなきゃな!


補足

魔女の権能:魔を統べる妄執

      魔女の情愛はマナで伝播し現象を引き起こす


魔女子さんは無意識に力を振るって実験好きなセイを巻き込み、新たな魔導の可能性を発見しました。


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