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10 魔女子さんとの魔導談義

 ずいぶんと遅れてしまった。

 もう魔女子さんは帰っちゃってるかな? 焼却場に着くまではもう少しかかる。彼女と会って会話するのは楽しく、魔導に関して教えてくれるのだ。この機会は逃したくない。


「およっ、キラ、カラ急いでくれるの?」


 僕の焦りを読んでくれたのか、キラとカラが走るスピードを上げる。


「ふたりとも申し訳ない! でも頼むよ」

「グア! グア!」

「グルァ!」


 そんなわけで僕は焼却場に着いた。

 魔獣厩舎につくと二頭ふたりは少し息が荒い。


「ありがとね、キラ、カラ」

「グッぅ、フッぅ、グルルルル」

「フゥァ、グゥァ!」


 喉の奥から声を出してキラが頭をこすりつけてきた。僕はされるままにする。カラもめずらしく素直に甘えてくれた。

 僕は蜜蝋燭(みつろうそく)を取り出して二頭ふたりをねぎらう。もし魔女子さんの仕事が終わってたら残念だな……。


「まあ、急ごう」


 そして僕は排出場所まで走った。



――――――――――――――――――――――――――――――

 焼却場の排出場所へ着くと、いまだに燃やしてなかった魔女子さんがこちらを見つけてじろりと睨む。

 そして、不機嫌そうに唇を尖らせて言う。


「……セイ、遅い」

「え!? あーごめんよ、魔女子さん……。ちょっと神殿で話し込んでたんだ」

「誰と?」


 『聖女』は言わない方が良さそうだよな……僕は少しぼかして言った。


「レ……いや巫女さんの友達ができてさ」


 魔女子さんはさらに不機嫌そうになった。

 あれ? これって、僕を燃やしたいかんじ? でもなんで!?


「巫女さん? 何でよ」

「なんで? いやなんでと言われても……」

「てか、巫女さんがゴミ捨ててるの?」

「そりゃ、ゴミ出しする巫女さんもいるよ? で、ちょっと話しこんでたのさ」

「むぅ……」


 なんだろう、なんて説明するべきだ?

 というかレアの『さとり』や『聖女』を言わずに……。ちょっと抜けた所でも言うか……。


「結構ドジな子でね、ちょっといろいろあって、初めてあった時にゴミひっかぶってさ……」


 その言葉で魔女子さんは少し首をかしげる。


「え? 大丈夫なの!? 困ったわね」

「そそ、でー……」

「なんかあったの?」

「……魔女子さんは内緒話、漏らさない?」

「大丈夫よ。あたし口は硬いもん!」

「本当? 僕の勝手な印象だけど、友人にポロッと言いそうだよね」

「あたし、魔導学院に友人いないもん。問題ないわ!」


 それはどうなんだろう?

 胸張って言うことじゃないだろ……。

 とは思うが、学校を燃やしかけたあぶない子って知れ渡っていたら、たぶん友人はできないか……。って、ん?


「あれ? 僕は?」

「え? ここは学院じゃないでしょ? それにセイは……親友よ!」


 あ、この子勢いだけでしゃべってるな。


「そりゃ光栄だね」

「で、巫女さんはどうしたの?」


 魔女子さんは話題を反らさない。僕は話をつづけた。


「えっとね、ゴミひっかぶって僕も汚れちゃってさ、だから申し訳ないって『浄化』してくれたのさ」

「え、『浄化』? 『聖祈』でしょ? 初級だったと思うけど……悪い霊とかをやっつける」

「うん、そうだよ。でも汚れまで落ちたんだよ! あれはなんかすごかった! 僕も覚えたい」

「ふむー? 魔導職のセイが?」

「ダメなのかな?」

「えと、そ、そんなことないけど……そんなことに聖祈を使っていいのかなーって思った」

「魔女子さんも個人で魔導とか使うでしょ?」

「……どうかしらね?」

「本当? ゴミとか自分で燃やして楽しんでるんじゃない?」

「あははー」


 魔女子さんは照れ笑いをみせた。

 ごまかしたいのかね? それくらいは良いと思う。僕だって家のゴミは自分で回収しているのだ。その程度、ラドックだって何も言わない。

 それに、魔女子さんやレア、あとアレン辺りがゴミで困って僕に頼るなら、回収くらいするだろう。

 友人特典ってやつだ。


「でさ、『浄化』の力が羨ましいと思ってさ、マナ運行覚たから、ちょっとコツを聞いていたのさ」


 その瞬間、魔女子さんはまじめな顔になる。


「え……なんで?」

「え、あれがあればゴミ回収の……」

「いやいや! ……『浄化』でしょ? マナ運行が見えたの!?」

「え? うん、一応ね」


 魔女子さんは信じられないと言った風に僕を見た。


「えと、『聖祈』のマナ運行よ? 『魔導』で、ゴミ回収してるセイが!?」


 さすがに丁寧に教えてもらったとまでは言わない。

 この辺りの考え方は人によって違うが、王都での常識として魔導や聖祈はあまり簡単に教えるものではないのだ。魔導は、素質次第ではあるが貴重な力である。

 そもそもマナの扱いに長けたヒトの特殊性は高い。だけど扱えるようになるためには、時間とお金が掛かるものだ。僕もこの力が使えるから働けている。

 考えの途中で魔女子さんが言った。


「……なるほど」


 彼女は小さく息を吐き、まじめな顔に戻る。


「あのね、これは一般の人にはあまり言わないんだけど、魔導のマナ運行が目で追える人は素質ありってことで、人格次第だけどその魔導を教えても良いのよ」

「あ、そうなの?」


 ゴミ屋ギルドでは、そういうことは言わない。ただ、仕事や技術は見て盗めって言ってた。でもわかんないから聞いたら結構教えてくれる。モルガンにはお世話になったものだ。


「うん、魔導師の慣例だけどね! ……もしかしたら、神殿にも同じようなものがありそう? てか……セイには聖祈の適性もあるの?」

「……さて? というか、教えて良いんだね」

「まあね……もともと、むつかしい魔導ってさ、使える人が少ないわけよ」

「……まあ、そうだろうね」

「でも、それだといつか、使える人がいなくなっちゃうよね?」

「あー……そうか、ゴミ屋の『回収』も『排出』も、使えない人の方が多いもんね」

「適正がいるんだと思うわ。だから、魔導師たちの慣例は続いているのよ」

「なるほど」

「あたしの炎魔導、使える人あまり居ないのよねー」

「僕は魔女子さんの炎、特別だと思うよ」

「んふー、そうかしら?」


 それだけで、魔女子さんはまんざらでもないって顔をする。

 

「てかさ、あたしがセイの『排出の手』観察してたの、気づいてたよね?」

「……うん」

「あたしさ、あの手がでてくるのを覚えたいの! 燃える手って格好よくない?」


 その発想はよくわからない。


「でも、セイのマナは動きが見えなくてさ! 悔しい!」

「見えないの?」

「セイのマナ運行が静かだからかも? もしかしたら、あたしには、セイみたいな素質がないかもだけどね!」

「まあ、無くても良いんじゃない?」

「えー引き出しは多い方が良いじゃん!」

「でも魔女子さんは燃やす役じゃん」

「燃やし方は千差万別よ! あたしはまだまだ満足してないの!! 王都のすべて! 人以外を焼き尽したい!!!」


 実はこの魔女、捕まえといた方が良くないか?


「で、よ! セイは聖祈である『浄化』のマナ運行が見えたんでしょ!?」

「え、うん、まあ」

「だから『排出の手』は聖祈かも?」

「違う、魔導だよ」

「本当?」

「感覚だけど、聖祈じゃないって確信がある。だって僕、使うときに祈ってないもん」

「あら……」

「てか、聖祈と魔導の違いって何さ」

「……魔導書とか? あとは呪文か祈りの違い……ね。だけど、普通は適性が偏るはずよ!」

「どっちもマナ使うのに?」

「えと……そこらへんに疑問持ったことない……。ただ、王樹の葉を使うか花を使うかの違いはあるし……うーん?」

「ふむ……」

「まあわかんないし、良いわ! 今度先生に聞いてみる!」

「あ、うん」

「でさでさ、セイの『排出の手』よ!」


 彼女は話を切り替えた。『わからなければ、悩まなず調べる!』これが魔女子さんの行動原理らしい。僕も気になるし、先生が知ってるといいな。


「あたしね、何とか使いたいの!」

「んー、魔女子さんは他のゴミ屋さんのマナ運行は見た?」

「見てない! あたし、セイの『手』がいいの!」


 なんでだよ……? 眼だけで問う。


「あの手、カッコいいじゃん!」

「さいですか……」

「まあ良いわ、いつか覚えてみせるからさ、セイ! 今日も見せてよ」

「じゃあさ、ゆっくり『排出』するから、見ててよ」

「おー、ありがとう!」


 そして、僕はいつもよりもゆっくりとマナを動かし、『排出』の魔導を行使する。


「『排出の手』!」


 現れた暗めの朱の手は深いゴミを受け入れる闇の中へ、朝から回収してきた全てのゴミが落ちていく。


「……やっぱ、『魔を識る瞳』がいるかなぁ?」


 魔女子さんの言葉から、マナの動きが見えなかったと伺える。


「でもさ、セイは詠唱しないよね?」

「僕のは『神の祝福』でさ、『回収』と『排出』は詠唱の閃きが無かったんだ。他の魔導はいるんだけどね……」

「……魔導書、得てないよね?」

「魔導書を、なに?」

「あー、いや基礎のやつよ、もってるよね?」

「ああ……基礎魔導書のは全部覚えて使えるよ」


 基礎魔導書は基礎となる魔導が記載された本だ。

 『灯火』や『明灯』など結構有用で、使い勝手が良い。ただ高額なくせに、適性が無いと読めないページがあるらしいのだ。特にレジスは読めない部分が多い。絵に関する魔導は吸収していくのにな……。


 僕の場合はセルバンテス先生から渡されたからな……絶対に覚えようと取り組んでいる。おかげで一通り使えるようになった。


「でも、覚えた基礎魔導書は人のでさ、読んで書き写して返したよ」

「ふむ……? えと、そか……詠唱とかどうしてるの?」

「んー、基礎魔導は覚えた呪文を頭の中で復唱して、王樹の葉にマナを通せば発動するよ。魔女子さんだってこの前やってたでしょ?」

「……あー、そうね。うん得てないわね」

「なに? どういうこと?」

「んーとね……。えと、ごめん、セイ。その辺りさ、聞いて来るわ。ゴメン」

「??」


 頬を搔きながらよくわからない言い方の魔女子さんは、すぐに表情を変える。


「ま、良いわ。セイ、あたしも仕事するから、ちゃんと見てなさいね!」


 胸を張る魔女子さんは、なんかじゃらじゃらした杖を構えた。

 火神と契約した彼女は、炎に関する魔導の簡単なものは、王樹の葉も詠唱もなしで発動もするらしい。

 だけど、大規模な炎を使う場合はどちらも必要だ。おそらく、ここで使っているのは、上位魔導なのだろう。


「『神魔の炎柱よ渦巻け!』」


 僕は、魔女子さんが魔導を行使する姿が好きだ。大好きなことをしてるんだなって思える。

 好きこそものの何とやら、その威力は絶大でゴミの山に強大な炎の柱が立ち上った!


明けましておめでとうございます!

本年初の投稿となります。今年も本作にお付き合いください。


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