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18 セイはギルドへ戻って報告する

 アレンと別れた後の仕事はつつがなくくおわった。

 暫く不調ではあったのだが、魔女子さんに教わってマナを鎮める方法に加え、2度目の『排出』を少し早めに入れたことで大分良い。


 その後は急いで仕事をしたおかげで、3度目の『排出』も時間に余裕をもってできた。

 排出が終われば火蜥蜴車サラマンダーキャリッジをギルドに戻し、台車の掃除とキラとカラの世話をする。


 火蜥蜴の元気はトサカに出るらしい。

 赤々としていれば元気いっぱい。黄色だとお疲れ状態、青黒くなれば絶不調となる。

 いま、彼女らは黄色いトサカだ。一日街を走って疲れるのだろう。それでも頭をこすりつけ、遊んで! ご飯! もっと撫でなさい! と訴えてくる。


「わかったよ、キラもカラも疲れてるだろう? ちょっと撫でてからだね」


 このちょっとが長くなることもあるが、今日は僕もマナ廃棄物の不調があった。少し休ませて欲しいかな。

 しかし、2頭(ふたり)も疲れて、それを許さない。


「グア! グア!」

「グゥルル!」

「解ったよ、ちゃんとお世話するから、大人しくしててった!」


 そんな感じで僕は2頭(ふたり)に邪魔されながら、飼葉桶へと飼料を入れる例の紫油食い大ムカデが元になった奴だ。こいつのせいで飼葉桶は独特の臭いがする。

 だけどこの2頭(ふたり)は食事の好き嫌いがあまり無い。実はマナキャベツなど野菜も好きだったりするのだ。2頭(ふたり)は飼葉桶に顔を突っ込み勢いよくがっつく。


 その隙に僕は(わら)ごみを集めて新しい藁に替えておく。こちらのゴミ回収は週3回。朝にまとめて回収するのだ。


「じゃ、キラ、カラ、また明日ね!」

「グゥ!」

「グルルル!」


 作業を終えた僕はギルドへ終業報告に向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――

 ラドックはいつもの(いかつ)い表情をして、机で何かの書類を眺めていた。


 通常、ギルド長は経営が主で、終業報告は別の人が担当である。しかし、『神の祝福』持ちはラドックに報告することになっている。ラドックも『神の祝福』をもっているわけで能力の問題は能力を持った者が管理するべきだからだ。


 僕は少しかしこまって言った。


「ギルド長、本日の回収業務、全て終わりました」


 ラドックは持っていた書類をおろし、こちらを見る。


「セイか! おつかれさん! まずは今日のゴミ量を出してくれ」

「えっと、これ」


 鞄からゴミ処理場で受け取った紙片を渡す。


「ふむ、ここまでになるのか……」


 ラドックはその数字を帳面につける。これが給金の元となるのだ。むかし誰かが改ざんしようとして、ゴミで埋められたことがあるから不正はまず起こらない。


「しかし、今日はすまなかったな! 神殿はどうだった?」

「やっぱ、ゴミ多かったよ。でも巫女さんがゴミ出ししてたのは驚いたな」


 レアが『聖女』だという部分は黙っておく。


「ほう? 新入りの巫女か?」

「どうかな? でも結構な重さのゴミ缶を運んでたよ」

「ふむ? どんな子だった?」


 ラドックも興味をもったらしい。僕はなるべく見た目に印象を移して伝える。


「どんなってのは言いにくい。ただ、変わった子だったよ」

「どんな風にだ?」


 その質問は返答に困る。「暫く目が離せなくなった」なんて伝えられるわけがない。僕はすごくあいまいな表現で伝える。


「えーっと、王都に慣れてない感じ?」

「ふむ? 世間知らずなのか」

「いやーどうだろう? なんというか、教会でも馴染んで無い……かな?」

「なるほど。しかし、そんな雑用仕事するってのは出家した貴族じゃ無いな」

「うん。自分は田舎者って言ってた」


 実のところ、世間知らずな巫女や神官は多い。そのうちの何割かは貴族が何らかの理由で出家した人である。基本的に神殿の上層は貴族と繋がりがある。元貴族には、ゴミ捨ての仕事をまわさないだろう。

 いや『聖女』なのにと思うんだけど、レアは身分が農民、つまりは平民だし、侮られるのかもしれない。


「まあ、教会ではそれくらいかな?」

「あそこには貴族から出家した奴もいるらしいが……。その子、目をつけられてる感じか?」

「いじめられているかもってこと?」

「ああ」

「どうだろう? ちょっと危なっかしいし、友達いないって言ってたけどね」

「ほほう……幾つくらいだ?」


 なにがラドックの琴線にふれたんだろうか? 彼はレアについて突っ込んで聞いて来る。


「僕と同じくらいだと思うよ」

「そうか、悪いがあそこは毎日の仕事になる。頻繁(ひんぱん)に会うならいくらか世話してやんな」

「んー、うん。まあ……気になるし、解ったよ」


 僕は本心をごまかした。ラドックは息を吐き、話を切り替える。


「他になにかあったか?」

「えっとおそらくだけどさ、『紅の戦斧亭』にマナ廃棄物っぽいゴミが混じってた」

「なに!」

「回収後、体調悪くなったからさ」

「そうか。大丈夫なのか?」

「んー、ちょうどゴミ処理場の魔女子さんにそう言った時の対処法を教えてもらっててね。試したら楽になったよ。で、『排出』したら問題ないかな」

「ふむ……」


 僕の報告を聞き、ラドックはしかめっ面で何か考えている。


「どうしたの?」

「魔女子だっけか? 前言ってたな。どんな子だ?」

「気になるの?」

「まあな」

「んー、なんでも燃やしたがる変な魔導師だよ」

「かわいいか?」

「そりゃね……てか、そこ気になるの?」

「いやいや、お前さんの嫁さん候補じゃないか?」

「魔導師だよ? 僕になびくわけないじゃん」


 僕ゴミ屋だし……とは口には出さない。

 実際、この仕事をしていると女の子は近寄りにくくなる。僕は普通の人よりも気を付けているつもりだ。身だしなみは出来る範囲で整えているし、仕事終わりは手と体をしっかり洗う。

 それでも自分が汚れているような気おくれがある。つまりは、女性との縁は遠いと思うのだ。そもそも僕は、やるべきことがある。


「仲良く話してんだろ? ってことは、悲観するもんじゃなかろう?」

「まあ、学校燃やそうとした子だからねー……。僕、家を燃されたくないな」

「そ、そうか、やばい奴なのな」


 そして、ラドックは眉を上げる。


「まあ、そっちは良いか。で、マナ廃棄物に関してだが、どの程度の不調だ?」

「気分が悪くなる程度のものだよ。一応、亭主のマイルズさんには伝えておいたよ」

「お前さん……魔導で『回収』したんだな?」

「え、うん。どうやら冒険者が捨てたみたい。『排出』したら楽になったから、そこまで悪いもんじゃないと思う」

「あのな! マナ廃棄物は、酷いものになると低温で爆発したり、ヒトを発狂させたりするんだぞ? もう少し気をつけろ!」


 急に詰め寄られ、僕は姿勢を正した。


「あ、はい。気を付けます。けど、ゴミ缶の中に混じって解らなかったんだよ。どうすれば良い?」

「ゴミ缶を荷台に積め。『回収』しちまったら……その場で『排出』すれば良い」

「うえっ!? ゴミまき散らすじゃん!」

「自分の命と仕事の評価、どっちが大事だ?」


 真顔で言う。……ラドックはこういう所が格好いいんだよね。僕は(うつむ)いて言った。


「……自分の命です」

「まあ、もし本当にぶちまけたら、俺はお前を叱り飛ばさんといかんし、衛兵も来るだろう。だが、場合によってはそれもありだ」

「うん、あ……はい」

「で、他に何かあるか?」

「んー、気になった報告は終わりだよ、あ、いや、終わりです。ギルド長」

「わかった。すまんが、少し残ってくれ全員へ通達がある」

「……モルガンのこと?」

「集まってから言う」


 恐らく朝の件だろう。僕は軽く頷き、言葉に従い部屋を出ようとする。


「『回収』できちまうか……。いっそ、いや年数がダメか……」

「えっなんて!?」

「なんでもない。早く行け」


 を聞き返してしまった僕に、ラドックは取り付く島もない。


「……はい」



――――――――――――――――――――――――――――――

「みんな、一応伝わっていると思うが、モルガンが亡くなった」


 ゴミ屋ギルドに属する皆をあつめたギルド長ラドックは神妙な顔で言う。

 僕たちは少しざわざわしだした。


「みんな、彼の冥福を祈って黙祷するぞ」

「……」

「黙祷」


 全員が瞳を閉じ、モルガンを想う。


「やめ。目を開けていいぞ」


 そして、ラドックは本題に入った。


「悪いが、これからあいつの道順ルートを振り分けたいんだ」


 その言葉に、意地悪く反応した奴がいる。


「あいつの弟子はセイだろ? 全部任せたらどうだ?」


 僕の同僚、赤毛のちょび髭シリルが言った。

 彼は昔ちょっと殴りかかって来たのを避け、逆にやり返したせいで恨まれている。その間、彼のあだ名が青あざになってしまい、格好が悪かったらしい。


「えと、僕は結構な数を任されてるんだけど?」

「良いじゃねえか、このギルドでも1・2の回収容量なんだろ?」

「移動時間があるんだよ。今でもぎりぎりになんだって!」

「まて! そこまでにしろよ。セイは今、ぎちぎちなんだよ。『排出』が間に合わん辛さはてめえもわかるだろ」

「けっ」


 シリルは時間感覚が甘い。

 それなりに大きな回収容量を持っているのだが、ゴミ処理場の最終時間を逃してしまう事が多いのだ。少しの遅れなら頼み込めば許してもらえるが、あまりにひどいと断られる。


 その場合、ゴミ屋ギルドが持っている仮のゴミ排出場へ『排出』することとなるが、翌朝一番で『回収』しなくてはならない。

 また、朝の道順ルート的にどうしても間に合わない場合、他の人がそれを担当する。

 ……というか、僕が尻ぬぐいすることが多かった。


 僕たち魔導ゴミ屋の給金は回収したゴミの量で増減するし、それはギルドが厳密に管理している。つまりシリルの給金は減らされるし、そっちの分が僕に入って来るのだ。彼はそれも面白くないらしい。

 シリルとにらみ合っている所、ラドックが止めた。


「二人とも黙れ! 話は終わってねえ。てか、セイはこれ以上増やせねえ。距離的にも、だ!」

「ちっ、ギルド長は汚ねえ髪のクソガキに甘ぇんだな!」


 あからさまな挑発である。

 僕はこぶしを握って我慢した。武技の師匠に、喧嘩は止められている。ただ嫌な思いをしてそのままにする程には優しくは無いぞ。


「やめろ! シリル! 話が終ってねえんだよ!!」

「ちっなんだ、クソガキ、腰抜けが」

「……ギルド長、話を続けてください」


 僕は無視して視線を外す。


「てめえ!」


 その態度が気に障ったのかシリルが殴りかかろうと拳を上げた!

 いいぞ! 降りかかる暴力を取り押さえるのは問題ない。その時に、僕の髪を馬鹿にしたぶんの痛い目を見せてやる。

 腰を低くし、反撃の体勢。拳をいなし脇の肋間を肘で打つよう……。


「おいおいーやめとけー」


 しかし、それを後ろから手を回し、止たのは緑髪の大柄兄さんアルノーだ。


「シリルも、セイもぉ、終わってからにしろ」

「僕は何も言ってない」

「てっめ!」

「シリル! てめえいいかげんにしやがれ!!」


 ついにラドックからの叱責(しっせき)が飛んだ。

 彼は面白くなさそうに黙る。


「ギルド長、モルガンはどうして亡くなったの?」


 僕はシリルを無視するような態度でラドックへ尋ねる。


「まだ調査中だ。貴族街で襲われたらしい」


 貴族街……それでみんな鎮まった。

 貴族のごたごたに巻き込まれる事は結構ある。貴族は小競り合いでも武器や魔導を使うため危ないのだ。モルガンはベテランで、そのあたりは気を付けてた筈だ。なのに……。


「葬儀は少し先になる。まあ、皆も気を付けてくれ!」


 そして、ラドックの号令で振り分けが行われる。同時に、ゴミ量を測るよう重量計を配られた。これは重さをはかる魔道具である。これに物を載せて王樹の葉を当てて、マナを流すとその重さが解る。後で空のゴミ缶も量らないといけないがね。

 ちなみに、モルガンの仕事で僕に回ってきたものはレアの神殿だけだ。シリルには睨まれたが、僕は無視を貫く。


 そして会議は終了となり、今日の仕事はおしまいとなった。


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