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12 セイと魔女子は雑談する

「おそいよ! セイ」

「魔女子さん、遅くなってごめん。あ、そうそうこんにちは!」

「むぅ、こんにちは……」


 魔女子さんは少し不機嫌そうだったが、鼠色の帽子をとって挨拶をしてくれた。僕もそれに倣う。これ、ある小説の正式礼なんだよなぁ……。

 それから、彼女は唇を尖らせて僕に話しかけてくる。


「あたし、もうちょっとで燃やす所だったよ?」

「あ、もしかして待っててくれた? そりゃ悪かった、ごめんね……。でも、こちらも事情があってさ」

「ふむ、聞いても良い?」


 彼女は片眉を上げ、不機嫌さは隠さない。僕は正直に話すことにした。


「今日、急に魔月神殿が回収先になってさ、あそこで手間取ったのさ」

「ふーん……何でセイが行かなきゃなの?」

「僕『神の祝福』持ちだからさ」

「んむー?」


 魔女子さんは少し考え、そして特徴的な丸眼鏡を直してから言う。


「神殿って身元確かじゃなきゃな入れないってこと?」

「うん。正解」

「ふむ? 何でかな? 参拝者とか入れるじゃん」

「いや、ゴミの置き場所って裏にあるんだよ?」

「あら、そうなの?」

「うん。てか神職の生活に近い場所だからね。そっちは関係者以外立ち入り禁止さ。門番さんに身分証見せて通してもらう必要があるんだ」

「へえ? 誰が行ったかわかるようにしたいの?」

「だろうね」

「でも、じゃあなんでセイが行くのよ?」

「元々行ってた人が……まあ、行けなくなってさ」


 僕は、仕事を教えてくれた悪い先輩の顔を思い浮かべながら話を続ける。


「だから、僕が行くことになったのさ」

「ふぅん」

「魔導学校もそんな感じでしょ?」

「んー、どうかな? 魔導学校は違う気がするなぁ?」

「なんで?」

「ゴミ捨て場に焼却設備があるから、ゴミ屋さん来てない感じよ?」

「それは……たぶん、燃やせるものだけでしょ? うちは回収に行ってるはずだよ?」


 ふと思い出し、僕は首を傾げて言った。


「というか、魔導学校のマナ含みのゴミってさ、特殊な処理方法がいるでしょ?」

「え? そうなの!?」

「うん。『回収』にも資格ってか、技法があるらしくてさ、僕もまだ行けない」

「セイでもダメなの?」

「僕は教わろうとしたけど止められてる。今は年期の入った人が回収してるよ」


 目を丸くした魔女子さん。表情がすぐに変わる彼女はちょっと可愛いらしい。


 魔女子さん……彼女はこのゴミ処理場の焼却担当の魔導師である。世間話の延長で聞いたのだが、彼女も『神の祝福』持ちで、『魔女』らしい。

 だけど、それがどんなものか教えてくれない。『魔導師』よりも希少だというし、人に聞いて調べたところ、魔導師は専門性を一つ持つ魔導のプロだが、魔女は専門性を複数もてる魔導の申し子らしい。

 だけど、彼女は……。僕は彼女との出会いを思い出す。



――――――――――――――――――――――――――――――

「魔女子さんだ……」


 それは初めての挨拶である。初対面の僕は、彼女を魔女子と呼んでしまった。彼女は眼鏡をきろっと光らせ、聞いてくる。


「おや、どのへんが?」

「え、格好が?」


 彼女は小さく首を傾げる。そして自分の恰好を見て、小さく「確かに」と呟いた。


「ふむ? 君は、どなた?」


 失言したかな? 内心で顔をしかめつつも名乗る。


「僕はセイ。魔導ゴミ屋のセイだよ」

「そう?」


 どうやらマイペースな彼女は帽子を取り、優雅なお辞儀をしてくれた。そういう礼を尽くされたら仕方ない。僕も、少し躊躇ためらいがちに帽子を取り、頭を下げる。

 彼女は目を丸くした。


「へぇ、綺麗な黒髪だね! 魔導ゴミ屋で、セイ? どう呼んで欲しい?」


 彼女は好奇心の強いまなざしで僕を見ている。黒髪でも気にしない子か…‥僕は内心ほっとしている。


「えーと? お好きにどうぞ」

「ふむ……ではセイと呼ぶわ! あたしは……あー、魔女子で良いわ!」

「え、気を悪くした?」


 彼女は少し考えた。そして、なにやらいたずらを思いついたような表情で言う。


「少し聞きたいの。『魔女子』が、どこから来たのか? ね」


 これは、単純に僕が読んだことのある物語によるものだ。

 孤児院長のエリナは読書好きな女性で、僕の暮らす孤児院には結構な数の本が置いてある。

 その中に僕の大好きな冒険小説があり、主人公が魔女子さんと呼ばれていた。


「……『魔女子の冒険』という、本だよ」


 すると、彼女はにやーっと笑う。


「やっばり! あれは素晴らしいわ! セイはどのシーンが好き? あたし、あれを読んだから『魔女』に目覚めたまであるのよ!!」


 おや?


 どのシーンか……好きなシーンはたくさんあるけどな……僕もあの本は擦り切れる程読んでいる。

 だから、言った。


「えと……炎の魔導で、ドラゴンと対決するシーンかな?」

「わわ、同じじゃん! アレはわくわくしたよね!」

「うん! 好きなシーンはいっぱいあるけどね! 『魔女子はドラゴンと対峙するの章』はもうびっくりの連続だよ!!」

「本当にね! お互いに魔導ぶつけるかと思ったら、どれぐらいの範囲を燃やせるか? だもん! びっくりだわ!」

「たしかに!」

「あの魔女子さんも燃やしたがりだったのには震えたわ!! あたしの心の師匠だよ!!」

「え?」


 魔女子さんは目をキラキラさせている。

 いや、あれはそう読むもんじゃないと思うぞ? 


 本の中の魔女子さんは、ドラゴンとまともにぶつかったら勝てないからって、機転を利かせたシーンである。

 とても強いドラゴンを自分の得意分野とかに引きずり込み……最小限の被害で世界を救うって感じ?

 いや、結局は休火山が活火山になってしまい、大変なことになったから……良いのか悪いのかは、うーむって感じだったが、それでも、まあ、なんか上手くいった話だった。

 まあ、お楽しみ小説だから良いのだ。


「魔女子さんの凄さと、あっけらかんさは僕もドキドキしたよ」


 危ういって意味でね。


「そうね! あたしさ、魔女子さんみたくなるために、火の神さまと契約したの!!」


 嬉々として胸を張る彼女を、ちょっと、いや、かなり変わった少女ヒトだと思った。



――――――――――――――――――――――――――――――

 それ以降、名前を聞いても答えてくれないのは、彼女のこだわりだろう。仕方なく、僕はずっと魔女子さんと呼んでいるのだ。


 この魔女子さんは燃やしたがりで、考察好きの変わった少女である。

 ちょっとでも疑問がでたら、一気に思考を始めてしまう。的外れな事も多く、その度修正すると、むむーって唇尖らせ納得するまで議論になる。

 僕が間違っていたら『ほらみたこと!』と胸を張るし、自分が間違っていたと納得したら、素直に『まちがってたわ!』と頭を下げることができる。

 色々な意味で面白い人だが、炎好きなところが残念さんとも言えるだろう。


「ふーむ……面白いね。あたし、学校の知らない部分が知れたわ」

「学校だからねー、変な部分もあるんじゃないの?」

「えー、そうかな?」

「てかさ、魔女子さんの派手な魔導、学校ですぐ使えるようになったの?」

「何言ってんのよ! 学校に行く前から習得してたわ」

「え、習わなかったの?」

「火の神さまと契約したら出来るようになったもん!」

「おー、そうなのか……」

「セイもしってるでしょ? あたしって、入学してすぐでここにやられてるのよ?」


 魔女子さんは気怠げに頭を掻く。


「炎の魔導で悪さするからだよ」

「何よ! 炎は万能なの!」

「燃やすだけじゃん」

「ちょっと、セイ! セイ! 今あなた、わかってなかったようだね!」

「うえ?」


 しまった。彼女は燃やすことに関しては強い執着がある。

 でもさ、自分で言ってたじゃん!

 入学式のお披露目で、学校を燃やしそこねたって!!


「良い? 炎は全ての基盤であり、破壊と再生をもたらす……」

「わかってる! 何度も聞いたよ」

「わかってない!! 炎の素晴らしさを、もっと、こう胸に刻んで!!」

「あー! それ長くなる奴! ちょ、まって! 先に『排出』させて!」

「なによ! そのそっけないの! セイ! きみはあたしの理解者だと思ってたのに!!」

「いや、何言ってんの? あおったらすぐ燃える、炎の化身みたいって言っただけじゃん!」

「あたしにとって、最大の賛辞よ! ちょっと君も燃やしたい!」


 うわぁ、魔女子さんは目をキラキラさせているじゃないか!


「何でめたことになってんの!? てか、やめて! 僕は燃えたくないよ!」

「良いじゃん! ちょびっと熱くて痛いだけだから!」

「そんなんだから、ここの担当になったんだろ!? 反省しろよ!」

「むう、わかったよ。学校を燃せなかったのは、要反省ね!」

「そっちじゃない!」

「でもさ、最終的には燃やしたいけど、あたし、学校にある魔導書は得たいんだよ!? この葛藤かっとうが解る!?」

「わかんない」


 魔女子さんは気付いているかな?

 僕たちを職員のお兄さんがこちらを見ているんだよ? もしかしたら、学校に反省してるか通報してるかもだ。

 僕は少し焦った感じで会話を打ち切る。


「この話題はここまで! 仕事、仕事に集中してよ!」

「むぅ」


 魔女子さんはようやく落ち着き、不満げに頬をふくらす。可愛い感じを装っても、僕はもうだまさされないぞ!


「ちぇ、じゃあ『排出』してよ」

「うん、じゃあっと」


 ゴミの排出場所は大きい穴であり、その広さも深さもあってちょっと足がすくむほどである。一番下はよくわからないけど、ゴミはなんとか見えるくらいだ。


 底の方はマナの流れがおかしいらしく、生物が住めないらしい。

 だからゴミ処理場に利用したのかね?


 ただゴミを、溜めすぎると病気の蔓延まんえんになるらしいので、魔導師を呼んで燃やす。

 聞いた話によると、普通に火をつけると燃えにくく、燃料撒いて火をつけるよりも魔導の炎で焼いた方が、効率良くて安上がりらしい。

 だからこの変な子を魔導学校から派遣してもらっているのだ。

 まあ、実際に燃やす瞬間をみせてもらっているが、彼女の魔導はとても強力である。


 これは僕の想像だけど、彼女は学校を燃やそうとする問題児で、不満がある罰を与えると、学校を本気で燃やすかもしれない。だから魔導学校は彼女をここへ罰則奉仕って形で派遣したんじゃないかな?


 ラドックに聞いたんだけど、ゴミ処理現場の焼却処理って魔導師にとってはかなりイヤな(たぐい)の罰らしいのだ。

 でもさ……僕の見立てだとこの魔女子さん、色々な物が燃やせて楽しんでるっぽいんだよなぁ……。

 放火魔『魔女』に燃やすものを与えるって、実はガス抜きって意味が強いのか?


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