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11 セイはゴミ処理場で魔女と会う

 レアと別れた僕は、ゴミ処理場へと向かう。

 ゴミ処理場でゴミの『排出』をするためだ。


 僕たち『魔導ゴミ屋』が集めたゴミは、いつまでもそのままにできない。だから『排出』して焼却処理する必要がある。

 これは僕たちの仕事の根幹だ。


 『魔導ゴミ屋』の『回収』は、容量が有限である。

 回収したゴミを(とど)めて置く魔導的領域は自分のマナで出来ているらしい。ずっと『回収』したままだとマナの消耗が起きてしまう。

 そして、放置が過ぎると魔導的領域は壊れ、術者を中心に格納したゴミがその場へあふれてしまうのだ。


 回収量が少なければ……被害は小さいかもしれない。

 だけど僕たちは基本的には大量のゴミを回収している。その大量のゴミに押し潰されたら……悲惨で迷惑な最後となってしまうだろう。


 そんなわけで、僕を含めた魔導ゴミ屋は自分の回収容量に合わせてゴミ処理場へ行き、『排出』を使ってすべてを落とし、焼却処理する必要があるのだ。


 ちなみにゴミの回収容量は、個人のマナ総量に寄る。

 つまり魔導ゴミ屋の能力とは、個人のマナ総量であるわけで、僕はおそらくギルドで1・2を争うくらい大きい。

 これは昔、マナを鍛える必要があり、方法も得た……。現在の僕のマナ総量はかなり大きいのだ。


 まあ……「ゴミの回収量を褒められて嬉しい?」と他のヒトには疑問視されてしまうんだよね。僕は「お金になるからとても嬉しい」と答えているけど……。

 だけど……回収量はゴミ屋ギルドですら自慢にならない。


 なぜならゴミ屋ギルドは個人主義者が多いし、誰かと競う気質が薄いからだ。

 生きてる以上は誰もがゴミを出すし、汚いモノや臭いモノの処理は誰もが嫌がる。

 やる気をムリに引き出す仕事ってこともあり、同僚たちはお互いにあまり興味を示さない。


 だけど僕は、この仕事を楽しんでやっている。

 だっていろんな人と会えるし、道順(ルート)を覚えるときはわくわくした。

 あれって、冒険者がお宝と未知を求めて迷宮へ潜る感じがあるんだよね!


 じつは各所のゴミ集積場って、結構隠れた場所に置かれてて、王都の裏道とか気付かない場所や、めったに人が入らないって場所になる。

 何かを求めて、警戒しつつも勇気をもって未知を探し、発見したら次を求めて王都を巡る。


 そう、宝探し(トレジャーハント)の一種として! 僕はこの仕事に取り組んでいるのだ!


 …………いや、ごめん。宝と思って見つけても、それはゴミです。

 ゴミはどこまでも汚くて、臭いもあるから、発見がっかりなのだ。


 ま、まあ、仕事したぶんだけお金になるってのもあり、僕は容量的にも他の人より色を付けてもらえる。

 さらに商品ゴミは無くならないし日々増え続けてるってわけで、安定している仕事ってのも良い。

 そう……孤児院の皆のためにも、目的のためにも、僕は適度に頑張っているのだ。



 考えを仕事に戻すけど、王都のゴミは多い。

 僕の一日の道順ルートにおけるゴミ量は容量限界の2倍とちょっとである。

 計3回の『排出』で済ます道順ルートを組んでいるが、キラとカラの休憩をいれると、時間的にギリギリとなる。


「今日ちょっと遅くなったし、時間大丈夫かな?」

「グア?」


 僕の独り言にキラが声を上げた。僕はハッとしてそちらを見る。

 しかし、特に異常はない。もしかしたら思考に(ふけ)っていたのを心配してくれたのかな?


「大丈夫だよ、この道は慣れてるよね?」

「グア!」


 キラは僕の声が好きらしい。呟きにも返事してくれる。


「んー……やっぱ神殿入れると、手間だね」

「グァゥ?」


 こんどはカラが小さくあいづちを打ってくれる。

 人通りも馬車通りも少ない安全な道の場合は思考ができる。その間はキラとカラに任せっきりだ。二頭ふたりとも機嫌よく、すいすい進んでくれる。


「……」


 そういえば、これから向かうゴミ処理場には、友人の『魔女』がいるのだ。


 彼女は僕の『回収の手』に興味を持った。

 どうも他の魔導ゴミ屋とまるで違うらしく、他の魔導ゴミ屋の『回収』は穴が出来るだけだと言って、僕の魔導を見極めようとしている。


 恐らくだけど、夢の影響があるから、あんな魔導になったのだけど……あの夢はヒトに言いたくない。ちなみに彼女は……。


「グア!」


 キラの呼びかけで、思考から戻った。

 ようやくゴミ処理場へ続く道が見えてきた。

 かなり大きな建物で、奥の方には大きな穴が開いている。


 このゴミ処理場での処理は中々見ものだ。

 ゴミを燃やす時に広範囲焼却魔導を用いる。


 そして焼却担当の僕の友人は変わり者の『魔女』だ。自分を魔女子さんと呼ばせ、何かのこだわりで名前を教えてくれない。

 魔女子さんは魔導学校の入学初日にやらかし、現在は『放火魔女』と呼ばれている。

 そして、罰則の意味でこのゴミ処理場の焼却処理担当の魔女となった。

 今日は神殿へ行ったこともあり、遅くなってしまったな……彼女はいるかな?

 

「よし、キラ、カラつきそうだね。魔女子さんに会えるかな?」


 僕は二頭ふたりに声を掛け、ゴミ処理後へと向かう。


「グゥ!」

「グアゥ!」


 二頭ふたりも、機嫌よく応えてくれた。



――――――――――――――――――――――――――――――

 王都のゴミ処理場は、数百年前に滅んだ国の魔導大戦によって出来た大穴を利用している。

 当時は攻撃用の大規模な魔導技術が研究されていたらしく、小さな湖くらいの穴が空いていた。

 何故そんな所にゴミ処理場を? との疑問もあるのだが、この場所が最も適しているからと説明を受けた。

 戦の傷跡をゴミ処理場にしているって、ヒトってたくましいのかもしれない。


 この穴はかなり深く、下の方は何やらマナ的な要因が絡んで、おかしなことになっているらしい。だけどゴミ処理には適しているらしく、燃やして残った灰は……たしか、王都から結構離れた村へもっていき、土の魔導を使って再利用するんじゃなかったかな?


 その辺の機構は魔導師だけじゃなく、教会も関わっているって聞いたけど……僕もさすがに調べきれていない。


「キラ、カラ着いたよ!」


 僕の視界の先には大きな施設が見える。王都のゴミ処理場だけあって、かなりの収容能力があるのだ。

 このゴミ処理場は王都の大部分のゴミが集まるらしく、広い魔獣厩舎を設置し、火蜥蜴車サラマンダーキャリッジをかなりの数停めることができる。

 そして、僕たち『魔導ゴミ屋』は身一つで排出場所まで行き、『排出』の魔導をつかってゴミを排出場所へと落とす。


 ここに来る魔導ゴミ屋は多く、特に商業施設を巡るゴミ屋はゴミ処理場が門を開ける朝一でゴミを落とし、それから各々を回るため朝はかなり混雑する。

 僕はちょっと混雑が苦手なので、朝はめいっぱい回収して人気のない時間に来ることにしているのだ。


「キラ、カラ」


 僕は二匹ふたりに声を掛けた。


「グア?」

「グルル?」

「魔女子さんに会いたい?」

「グフ?」

「グアァ?」


 ふたりは良く解らないと言った感じで答える。

 火蜥蜴だから、炎をこよなく愛する魔女子さんとは相性が良いと思うんだけどね。

 そういえばこの辺りでは会わないから、移動は別の方法を使うのだろう。

 ぼくはキラとカラを魔獣厩舎に入るよう促す。


「じゃあ、入っててよ」

「グゥ……」

「ガウ……」


 二頭(ふたり)ともこの魔獣厩舎は好きじゃないみたいだ。心なしかうなだれているように見える。


「ねえ二頭(ふたり)ともさ、ご飯食べて休んでてよ」


 僕はお昼はあまり食欲が湧かないから食べないことが多い。

 しかし、キラとカラにはご飯が要る。彼女たちは火だけを食べるわけでなく、ちゃんとした飼料を荷台へ積んでいるのだ。僕は荷台から彼女たちの飼料をとりだし飼葉桶へと移す。


「グゥ!」

「グア!」


 二人ともちょっと喜んでいる。


「じゃ、ふたりともゆっくりしてて!」


 声をかけ、僕は身分証などの入ったカバンを肩に掛けて僕は排出場へと入って行った。



――――――――――――――――――――――――――――――

 入口で少し時間の掛かる手続きを済ませ、ゴミの排出口へと走る。

 魔女子さんはいるかな?

 彼女は初対面で僕の『排出の手』をじろじろ見ていた。

 さらに、ちょっと話すと僕との趣味が合うことがわかり、話し込んでしまうことが多い。


 彼女は腰までの編み込んだ赤毛と、眼鏡の下に意志の強い青い瞳を持っている。いでたちとしては汚れても良い黄土色のローブ姿に鼠色の帽子、なんかじゃらじゃらした杖を持った、魔女らしい姿だ。


「おー、まだいたんだね。魔女子さん! おまたせ!!」


 彼女を見つけ声を掛けた。

 僕はある本を愛読しているのだが、その挿絵から出てきたのかと思う程に、彼女は魔女っぽい恰好をしている。


 彼女はこちらを見つけて小さく睨み、言った。


「遅いよ、セイ!」


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