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会いたくないけど会いに行く

お休みが長くなってしまってすみません><

今日から再開します。

またシャルロッテの冒険におつきあいいただければ幸いです。


「はぁ~……。がっかりですわ」


 シャルロッテは意気消沈し、地べたに座り込んだ。突進してくるパイアやケルベロスを片手間に倒しながらため息をつく。

 迷宮踏破を意気込んでいたのに、四階層ぐらいで挫折するなんて情けなさすぎる。だが魔法攻撃無効の敵がいる限り、ほかの攻撃手段がないシャルロッテが先に進むことはできない。逃げ場のないボス部屋にイフリートがいたら完全に詰む。


 アダムの話では、実力ある四級の冒険者たちは四階層を危なげなく攻略することができるらしい。

 六級と五級は三階層まで、四級は五階層まで、三級は七階層まで、二級と一級は相性にもよるが十階層までなら活動できる、というのが相場で、一級のとびぬけて強い冒険者だけが十五階層まで到達している。

 しかしこれは『同じ等級の冒険者四、五人がパーティーを組んだら』という前提があってのことだ。さらに、夜は魔物の強さが二倍になる。つまり、夜間一人で四階層まで降りてきたシャルロッテは破格に強いのだが、先ほどまで「俺、最強!」と調子に乗っていただけに、こんなところで諦めるなんてと悔しい気持ちでいっぱいなのだ。

 

 ――いったん戻って誰か戦士系の奴と組もうかな? でも俺冒険者登録してねーから昼間は入れないし、夜は魔物が強くなるからみんな嫌がって来ないんだよな。俺は美少女だけどセクシーなお姉さんじゃないから色気で釣るとかは無理だろうし……つーかもし釣れてもロリコンとパーティー組むとか嫌だわ。

 それにガキだって舐められてまた人買いに狙われるかも……あーもう、この体めんどくせー!

 

 むーっ、とふくれっ面で白くてぷにぷにの自分の手を眺める。多少土埃で汚れているとはいえ、柔らかそうで箸より重いものも持てそうにない華奢な手だ。 

 体はひ弱、十歳(本当は八歳)、見るからにお嬢様。それで迷宮に潜りたいなどと言っても、馬鹿にされるか心配されるだけだろう。

 あの不愛想な少年は特別口が悪かったが、ほかの冒険者だってあそこまで言わないまでも似たような反応をしてくることはギルドで思い知らされた。

 

 魔法使いは貴重ということだから、魔法を使ってみせたら見る目が変わるかもしれないが、大切にされすぎて冒険に出してもらえなくなったら困る。

 シャルロッテは、少年が去り際に言っていた、「それだけの魔法が使えるなら、脳みそが足りなくても大事にしてくれる組織はいくらでもあるだろう」という言葉が引っかかっていた。

 

 大事にしてくれる組織。『大事』とは具体的にどういうことなのだろう? シャルロッテの意志は尊重してくれるのだろうか。 

 シャルロッテの魔法は一個師団を瞬時に壊滅させられるぐらいの力はある。国や裏社会の組織に目をつけられて軟禁されるなんてことになったら、目も当てられない。

 シャルロッテは贅沢がしたいわけではなく、冒険者として有名になって男に戻って女の子からモテモテになるのが最終目標なのだ。

 そのためには一刻も早く、治外法権的な権利を有し国からも一目置かれる一級冒険者になる必要がある。箱庭で権力者に飼い殺しにされるなどごめんである。

 

 ――だからせめて十五階層までは行かなきゃ……でもイフリートが……ぐうぅ、どうすりゃいーんだ!?

 

 シャルロッテはぐちゃぐちゃの頭を抱えしばし考え込んだあと、はっとして顔を上げた。

 

 ――あれ? そういえばあいつ、なんで今迷宮にいんの?

 

 脳裏に浮かんだのは、タイミングよく助けてくれた少年の姿。

 咄嗟に助けてと口にしたものの、シャルロッテは誰かが来ることを期待していなかった。そもそもシャルロッテが迷宮に入れたのは、夜間迷宮に潜る人間はいないからだ。行けども行けども魔物しか見当たらず、自分一人だけが迷宮にいるのだと思っていた。

 冒険者証を持っているなら、夜に迷宮に入るメリットはない。

 それなのに何故あの少年は今この場にいるのだろう。

 

「……もしかして、わたくしと同じ?」


 少年も、なんらかの事情で人目を忍んで迷宮に入らなければならない身なのだろうか。

 シャルロッテよりは年上っぽいが、彼も子どもということでほかの冒険者から軽く見られて、パーティーを組んでもらえなかったのかもしれない。

 

 ――なーんだ! 散々俺のこと馬鹿にしてたけど、自分だって正規手段で迷宮に入れないんじゃん! 今度会ったら言ってやろー!

 

 少年にやり返す糸口が掴めたことが嬉しくて、シャルロッテはにんまりする。

 

 ――ま、そりゃそーだよな、あいつ強くてすばしっこいけど、まだ体が小さいから重い剣とかは持てねぇだろうし、そしたらぱっと見雑魚だよな。ホントは俺になんやかんや言ってる余裕なんかねーんじゃねーのぉ? ま、パーティー組まんでここまでこれたのは凄いけど、あのムカつくイフリートだって物理攻撃なら対処できるわけだし。でもこの先物理無効敵とか出てきたら、あいつだって一瞬で詰む……ん?

 

 シャルロッテはかっと目を見開いた。

 

 ――俺の逆じゃん! つーことはなんか俺ら、ちょうどいいんじゃねーの!?

 

 あわわわ、と口元を手で押さえる。

 とんでもないことに気づいてしまった。絶対に友達になれない人間が、自分と相性的には抜群という皮肉。しかも夜の迷宮という仲間がみつかりそうもない場所で出くわすという奇跡的な巡り合わせもある。


「いやっ、でも! あの方と行動を共にするのはわたくしの精神に負担が大きすぎますわ!」


 シャルロッテは葛藤した。始終自分を罵倒してくる相手を和やかにいなせるほど、シャルロッテは人間ができていない。

 第一向こうだって、あれほど帰れ帰れと言ってきたのだから、シャルロッテと組むことを了承しないだろう。

 とはいえ、あの少年と組む以外に四階層を突破する方法は思いつかない。

 それに、二回も助けてくれたところからして、根は悪い奴ではない、ような気がする。


「うーん……う~~ん…………面倒ですわね! なるようになれですわ!」


 シャルロッテの頭は、考え続けることに向いていなかった。

 とりあえず少年を探して、話を持ちかけてみよう。そこで決裂すればその時は潔く迷宮から出ればよい。

 

 シャルロッテは少し離れた茂みの中に落ちていた魔石箱を回収し、再び空に浮かび上がった。イフリートが近くに来ていないか注意深く確認しながら、地上を眺める。

 辺りは暗く、少年の姿は小さいので上空からみつけるのは困難だ。シャルロッテはボス部屋を探すことにした。少年が五階層に下りるつもりなら、ボス部屋を張っていれば会えるだろう。

 

 十五分ほど飛び続け、イフリートへの警戒もあって疲れてきたころ、魔物があまりうろついていない場所が目に留まった。巨大な大岩がでんと鎮座していて、目を凝らして見ると、側面に鉄の扉がついている。ボス部屋だ。


「やーっとみつけましたわ!」


 シャルロッテはボス部屋の前に降り立った。

 果たしてそこには、驚愕の表情でこちらを見る少年の姿があったのだった。

 

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