マジで最強かもしれん
一時間ほど迷宮をうろうろしていると、やけに立派な扉をみつけた。
三メートルほどの高さで鉄っぽく見えるが、実際に鉄なのかどうかはわからない。というのも、迷宮の建材はやけに頑丈で、シャルロッテがどんなに強烈な魔法攻撃をしようともちっとも損傷しなかったからである。
普通の石壁なら、ゴブリンを貫通したレーザービームの余波を食らえば崩れたり穴が開いたりするものなのだが、迷宮壁はびくともしなかった。
これは思う存分魔法をぶっぱなせるという利がある反面、土魔法が使えないという難点もあった。
無から火を生み出すファイアーボールや水を生み出すウォーターカッターのように、土魔法で土を生み出せないわけではないのだが、かなりの時間と魔力がかかるので攻撃には向かないのだ。
つまり、迷宮内では敵の足元から石槍を生やしたり咄嗟に穴をあけて落とし穴に落としたり、といったことはできなくなる。
まぁ変なとこ壊して迷宮が崩落しても困るししゃーないか、とシャルロッテは割り切った。
鉄の扉には取っ手がなかったので、試しに押してみると、重量を感じさせる見た目に反してするりと開いた。
中には通常のゴブリンよりも背が高くがっしりとしたゴブリン一匹と、その配下と思われる通常のゴブリン三匹、コボルト三匹がいる。
いわゆるボス部屋というやつだろう。中に入ると、後ろで扉がひとりでにバタンと閉まり、押しても中からは開かなくなった。
「ま、お決まりですわね」
部屋中の魔物を倒さないと開かない仕様だ。
シャルロッテはボスだけステータスを見てみた。
ゴブリン卿 ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 20
生命力 176
魔力量 90
スキル 打撃 10
噛みつき 10
蹴り技 9
絞め技 9
棍棒術 10
祝福 迷宮神オルネラの加護(迷宮内で死亡後三時間経つと蘇る)
――おー、さすが強い。取り巻き多いし、普通ならパーティー必須だな。
「でもわたくしなら一瞬ですわ! ファイアーボール!」
ボッボッボッ!と魔物それぞれに火の玉が当たり、消し炭になって消える。部屋に入って三秒も経たないうちに戦闘が終わった。
「うふふふ! 楽しいですわね~。わたくし強~い♪」
鉄の扉が開いていき、部屋の隅には下に向かう階段が生じる。
シャルロッテはドロップ品の『ゴブリン卿の指輪』『筋肉増強剤・弱』『ゴブリンの杖』『コボルトの毛皮』と魔石を拾い、階段を降りていった。
二階層も、様子はさほど変わらなかった。石壁と石の床、暗い通路。ただし、今までより天井が高い。
出る魔物は、三メートルの巨体でのし歩く黒豚に似た顔のオークと、軽自動車ぐらいの大きさの黒い犬ヘルハウンドだ。
――ヘルハウンド! また犬っぽいやつかよ!?
シャルロッテは顔をしかめた。
犬の形に似た魔物は、ほかの魔物より殺すのに抵抗がある。
コボルトは犬の顔で二足歩行するという微妙なコレジャナイ感があったからまだいけたが、ヘルハウンドはドーベルマンを凶悪にしたような姿で、なんならちょっとメアに似ている。
似てる、と思った瞬間メアから抗議するような思念が送られてきたが、要はシャルロッテ的に好みの犬なのである。
――いや、わかるよメア、メアはあんな涎たらして牙むき出しにしたりしないもんな! ごめん! でも闇形態の時の姿に若干被らなくもないというか……はい、すみません、メアがいっちゃん可愛くてかっこよくて尊くて強いです。
心の中に住んでいる最高のペットに謝りながら、片手間で魔物にファイアーボールを放っていく。
その中でもなるべくヘルハウンドは避けようとしたのだが、コボルトと同じく『嗅覚鋭敏』を持っているヘルハウンドはシャルロッテの存在に気づくのが早く、口をガパリと開けて向かってくるので倒さないわけにいかなかった。
「はぁ~犬……犬かわいいのに……ここはさっさと抜けることにいたしましょう」
シャルロッテは飛行魔法で宙に浮かび、通路を塞いで邪魔なオークと飛びかかってくるヘルハウンドだけ倒して道を急いだ。
やがてまた鉄の扉を発見したので、中に入ってボスと相対する。
今回はオーク卿、オーク魔法使い、オーク騎士、オーク神官と、火属性ヘルハウンド、水属性ヘルハウンド、風属性ヘルハウンド、土属性ヘルハウンドがいた。
「うーん、卿って貴族ですわよね。何故王がいないのかしら? 不思議ですわ」
言いながら、ファイアーボールで全滅させる。
膨大な魔力量と高いレベルを持つシャルロッテにとっては、ゴブリンもオークも大差なかった。
ドロップ品は、『オーク卿の腕輪』『筋肉増強剤・中』『オークモモ肉』『オークロース肉』『オークヒレ肉』『オークの皮』『ヘルハウンドの瞳・水属性』『ヘルハウンドの瞳・風属性』『ヘルハウンドの牙』『ヘルハウンドの爪』である。魔石の大きさはピンポン玉大。
魔石箱のスペースがなくなってきたので、新しく得た魔石を継ぎ足して箱を大きくする。
階段を降りると、大広間に出た。体育館ほどの大きさの空間で、壁のあちこちに穴が開いている。
その穴から、ズルズルと巨大なオレンジ色の蛇が這い出てきて、シャルロッテは悲鳴を上げた。
昔アオダイショウと遊んだことはあるが、胴体が直径九十センチの蛇にはさすがに危機感を覚える。
「ヒィー! これ駄目なヤツですわ! 絶対毒とか持ってますわ!」
ナーガ ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 6
生命力 130
魔力量 62
スキル 神経毒 6
出血毒 3
筋肉毒 2
絞めつけ 7
丸呑み 3
「やっぱりー! ファイアーボール! ファイアーボール!」
次々と穴から出てくる魔物たちに、ファイアーボールをぶつける。
ナーガのほかにも、自分の何十倍もの大きさの大岩をぶつけてくる小人や、獅子の体に蠍の尾を持つマンティコアが現れたが、いずれも近づいてくる前に消し飛ばした。気分はもぐらたたきである。
そのうち穴から魔物が出てこなくなったので、穴に近づいて覗いてみると、一本道がずっと続いているようだった。奥の方は暗くなっていて見えない。
「うーん……どの穴が正解かわかりませんわね」
とりあえず奥まで進んでみて、行き止まりになっていたら引き返して穴の前にゴブリンの皮を置いておく。
なかなか面倒な作業だったが、穴によっては奥に宝箱があったり回復の泉が湧いていたりしておもしろかった。
今のところ特に回復の必要性は感じていなかったが、念のために魔石で小瓶を作り、泉の水を詰めておく。
何十回目かの挑戦でやっと鉄の扉が出現し、ほっとしながら突入する。
今回のボスは一匹だけで、取り巻きは見当たらなかった。
「潔いですわね! 一人で戦うのはかっこいいですわ! しかも今まで出てこなかった魔物じゃありませんの」
シャルロッテは感心してボスを観察した。
赤黒い皮膚に覆われた、体長四メートルほどの筋肉質な巨人である。巨人からすればシャルロッテなど豆粒のようにしか見えないだろう。
オーガ ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 40
生命力 540
魔力量 196
スキル 打撃 10
蹴り技 10
絞め技 10
棍棒術 10
敏捷 10
変化 9
筋力増幅 10
体力増幅 5
祝福 迷宮神オルネラの加護
ゴブリン、オークの強化版のようなステータスだ。
「レーザービーム!」
シャルロッテは指先から光線を射出した状態で腕を振り、オーガの左肩から逆側の胴まで袈裟切りにした。
ズズ、と斬られたところから体がずれ、オーガの上半分が床に落ちると同時に消えていく。
あとにはドロップ品と、子どもの拳ほどの大きさの魔石が残された。
今回も瞬殺である。
ここに至るまで、ほぼレーザービームとファイアーボールしか使っていない。
「わたくし……最強ですわね!?」
シャルロッテは大いに調子に乗った。