マジで知能派かもしれん
まだ相手には気づかれていない。
神の啓示スキルでゴブリンのステータスを表示してみる。
ゴブリン ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 2
生命力 72
魔力量 10
スキル 打撃 4
噛みつき 3
確かに、雑魚と言えば雑魚である。メアがいたヴェアヴァーデン森なら生息できないようなステータスだろう。
それでも成人男性の生命力平均が30であることを考えると、一般人にとってかなり危険な存在であることは間違いない。
――あ、でも夜は二倍になるんだっけ? じゃあ昼は生命力36か。まぁ人間の男よりちょっと強い、ぐらい?
小手調べとして、シャルロッテはゴブリンに光魔法を放った。
「レーザービーム!」
光線はまっすぐゴブリンの脳天を貫き、一瞬にしてその生命力をゼロにした。崩れ落ちた体は空気に溶けるようにして消えてしまい、あとには赤い魔石が残される。
迷宮内の魔物は、何故か死んだときに死体が残らず、ドロップアイテムだけが落ちてくる仕様なのだ。
「まぁ、これで終わりですの? らっくしょうですわね~♪」
シャルロッテはにんまり笑って、小指の先ほどの大きさの魔石を拾い上げた。
魔石には、大きさに応じた魔力が含まれていて、これを使って様々な魔道具を作ったり魔法技の威力底上げができるらしい。
シャルロッテが以前作った魔光石とは違って、単体では何もできないただのエネルギーの塊だ。
冒険者は基本的に、魔石とレアドロップの魔物素材を集めてギルドに納品し、報酬を得ている。
ゴブリンの魔石だと大銅貨二枚(約二千円)だとアダムは言っていた。
普通の成人男性よりちょっと強い奴と殺し合いをして勝ったら貰える額としては少ないんじゃないかとシャルロッテは思ったが、ゴブリンのようなポピュラーな魔物だと対策法も確立されていて、チームを組んで戦えば安定して狩ることはできるようだ。
とはいえ、危険なことに変わりはなく、冒険者の死亡率は高い。
行き止まりになり通路が分かれたので左に曲がると、今度は三匹のゴブリンが現れた。
ゴブリン ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 5
生命力 82
魔力量 20
スキル 打撃 5
噛みつき 4
ゴブリン ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 10
生命力 100
魔力量 38
スキル 打撃 10
噛みつき 5
蹴り技 4
体力増幅
ゴブリン ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 4
生命力 78
魔力量 18
スキル 打撃 5
噛みつき 4
――え、レベル差凄くない? 俺以外の人はステータス見れないんだよな? これ、レベル低い奴倒して油断してたらレベル高い奴にヤられるってパターンじゃん。
先ほど倒したレベル2のゴブリンとレベル10のゴブリンだと、昼の生命力で14、夜に至っては28もの差がある。情報を仕入れないで挑戦した者は、予想以上に強いゴブリンと出くわしたとき思うように倒せず痛い目を見ることになるだろう。
もっとも、シャルロッテにとってはその程度の数値の違いは誤差のようなものである。
今回もレーザービームを操って一気に倒し、さくさく魔石を回収した。
うち一つが親指の先ぐらいの大きさだったのは、おそらくレベル10のゴブリンがいたからだろう。
ゴブリンに遭遇するたび一撃で簡単に倒していたのだが、何回目かでシャルロッテは、あれ?と疑問を抱いた。
光魔法で常に煌々と辺りを照らしているのだから、正面でかち合えば同時に相手の存在に気づくのが普通だと思うのだが、ゴブリンが駆け寄ってきたり威嚇したりする様子がないのだ。
試しに、ゴブリンが自分に気づくまで少し待ってみると、だいたい四メートルぐらいの距離に近づくと感知されることがわかった。これだと、遠隔攻撃ができる冒険者はだいぶ有利である。
――へー、ゲームのシンボルエンカウントみたいだな。なんか迷宮の魔物ってシステマチックっていうか、外の魔物ほど生き物っぽくない感じ。
その方が罪悪感なく倒せるからシャルロッテとしてはありがたい。
しばらく歩くと、今度はゴブリン四匹と犬のような顔の魔物一匹が混ざったグループが出てきた。
コボルト ツルゲフ迷宮の魔物
階位 1
レベル 3
生命力 66
魔力量 14
スキル 噛みつき 7
引っかき 6
嗅覚鋭敏 7
犬に似た魔物コボルトは、生命力は低いが、スキルレベルが高い。しかも四メートル以上離れていてもシャルロッテに気づき、飛びかかってきた。これはスキル『嗅覚鋭敏』の効果だろう。
シャルロッテは急いで「レーザービーム!」と唱えてコボルトを貫き、次いで後続のゴブリンたちをまとめてファイアーストームで焼き払う。
ファイアーストームは渦巻く巨大な炎の柱が出現する広範囲攻撃で、どう考えてもゴブリン相手には過剰だった。
いっぺんに殺せるやつと思ってうっかり使ってしまったが、今度はファイアーボール連射にしとこう、とシャルロッテは反省する。
レーザービームは振り回すとスパスパ斬れて便利だが、攻撃範囲が狭い。
ファイアーストームは大雑把に倒せて楽だが、しばらく炎の柱が残るので熱くなる。あと魔力効率が悪い。
ファイアーボールは単体攻撃ではあるが、一度に五十個ぐらいまとめて生成できるし追尾してくれるので打ち漏らしがない。
つまり、ヴェアヴァーデン森でぶっぱなした時のように魔力全開にするなどという無茶な使い方をしない限りは、ファイアーボールが一番使いやすいのだ。
それからのシャルロッテは、敵に遭遇すると即ファイアーボール、落ちた魔石を拾ってリュックへ、という作業をルーティーンのようにこなしていった。
敵を倒すのが簡単すぎて、落ちた魔石を拾うためにかがむのが一番面倒である。
「あ、風魔法で浮かせればいいんですわ~。うふふ、さすがわたくし、賢くってよ!」
自画自賛しながら進んでいく。
魔物素材の『ゴブリンの皮』『コボルトの皮』『コボルトの爪』『ゴブリンの酋長の首飾り』『ゴブリンの杖』などもドロップし、リュックはじきにいっぱいになった。
「うーん、一階層のドロップですし、置いていった方がいいかしら? でももしかしたら超レアドロップという可能性もなきにしもあらずですわ……。あ~、アイテムボックスが欲しいですわ~!」
持ち物を精査しながら、シャルロッテは嘆いた。
取得物は自動的に謎の亜空間に放り込まれるゲームのような機能が欲しい。
そういえば、天使はアイテムバッグのレシピをくれると言っていたが、あれはどうなったのだろうか。今のところ、どこにレシピがあるのかさっぱりわからない。
「まず皮と爪はいりませんわね。首飾りとか杖は貴重かもしれませんわ。魔石はこれからも取れるでしょうから小さいものは捨て……ん?」
突如、シャルロッテの頭に閃きが舞い降りる。
「魔石って鉱物かしら!?」
石と呼ばれてはいるものの、大地から産出しているわけではない。なので賭けではあったのだが、シャルロッテは土魔法を使って魔石を変形させてみた。
「でっ、できましたわー!」
結果、見事赤黒く光る大きな箱ができた。魔石を薄く伸ばし、簡素な箱の形に仕上げたのである。元になる魔石が小さいから今はまだ五十センチ四方ぐらいしかないが、魔物を倒すに従ってどんどん拡張していけるだろう。
シャルロッテはその箱に荷物を全部入れ、風魔法で自分の横にふよふよと浮かせた。
「これでしばらくはなんとかなりますわね。はー、わたくし天才なのでは?」
うまくいったことに機嫌を良くしながら、シャルロッテは一階層を攻略していった。