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魔法が使える嬉しいな


 

「ぅゅ……んんんっ」

 自分の寝言ではっと目を覚ました

ショックと怒りで体力を使ったのか、また眠ってしまったようだ。

 

 この体めんどくせー、と思いながら、シャルロッテはステータスボードを表示させなおした。一度成功したあとは、「ステータス」と念じるだけで出てくるようになっていた。


 上から順に見ていく。

 性別……はもうしょうがない。物凄く不本意ではあるが、とりあえず考えないことにする。そのうち性転換の薬とかを手に入れればいいだろう。


 伯爵家長女。

 これは、わりといい立場なのではないだろうか。高位の貴族で、しかも長子。スペア扱いされやすい四男や五男より大切にされそうだ。


 そしていよいよ本体性能だ。

 まず、とんでもない数値が表示されている魔力量。これはいい。おそらくこの世界の最大魔力量は千億なのだろう。

 それに比べると生命力が5しかないのは不安だが、特に体調が悪いわけではない。きっとこの数値で満タンなのだろう。成長するにつれて増えていくものなのかもしれない。 

 一般人の平均を知る必要がある。今度あの面倒見てくれるおばさんが近くにきたら鑑定しよ、とシャルロッテは決めた。


 スキルも望み通り全ての魔法適正が揃っているし、魔力自動回復もあり、成長率上昇らしきものもついている。いっぺんにあれこれ頼んだわりには、天使はちゃんと聴き取ってくれていたようだ。


 モテモテになるナディアの加護は、今のところ死にスキルならぬ死に祝福だが、性転換した暁にはきっと絶大な効果を発揮してくれるに違いない。

 待ってろよ、可愛い女子たち! シャルロッテは小さな拳を握り締めた。

 すぐに性転換して、美人でおっぱい大きいお姉さんに囲まれて膝枕してもらっちゃったり「私のシャルくんよ!」「私のよ!」って取り合われたりする天国を実現してやる!


 気になるのは、『鑑定』というスキルがどこにもないことだ。自分のステータスを見られているのだから能力がないわけではないのだろうが――それとも鑑定がなくても自分のステータスだけは見られる仕様なのか?

 もやもやしていると、近くでギイィ、と音がしたので目を向ける。ロッキングチェアから立ち上がった女性の頭が見えた。ちょうどいいので、鑑定をしてみる。




 マルゴット・アンデス 伯爵家使用人 伯爵家令嬢の乳母


レベル 1

生命力 20

魔力量 9

スキル 安全調理 9

    初級火魔法 3

    編み物の極意 8

    裁縫 7

    危機察知 5




 予想はしていたが、乳母だったようだ。

 生命力が20とシャルロッテの四倍。赤子の四倍の生命力というとあまり高くなさそうだが、一般人はこんなものなのだろう。

 魔力量は低い。これに関してはほかの人間のステータスも見ないことには比較できない。いずれにしてもシャルロッテほどの桁違いの数値を持つ者はいないだろうが。


 シャルロッテは、初級火魔法と危機察知スキルに興味を惹かれた。ああみえて戦える人物なのか? それとも、竈に火をつける程度の簡単なもの?

 詳細が知りたいと強く思うと、スキル名の下に新しく文字が現れた。


『初級火魔法: 点火、小火玉、沸騰、乾燥』

『危機察知: 明確な殺意を認識する、十秒後の危険を察知する』


「ぁう~!」


 新しい機能に、シャルロッテは喜んで手足をばたつかせる。ある程度細かい情報も手に入れられるようだ。やはり鑑定は異世界で生きるには必須である。何故かスキル項目には載っていないが、使えているのだから問題ない。

 

 シャルロッテは、マルゴットのスキルについて、戦うには足りないがあると便利なものだという感想を抱いた。

 伯爵家長女の乳母に選ばれるぐらいだからそれなりに優秀な人物なのだろうが、比較対象がないので、これが一般的と考えていいのかいまいちわからない。


 もう少し大きくなって辺りを歩けるようになったら、出会った人々をかたっぱしから鑑定して回ろう。そのときにはきっと、たくさんの可愛い女子とも出会えるに違いない。

 残念なことに今は自分が女になってしまったが、のちのち男に戻れた時のために美少女とは仲良くなっておきたい。まさかモノホンメイドさんに会える日がくるなんてな~、とまだ見ぬ美少女を思ってシャルロッテはにまにま笑った。






 シャルロッテは赤子なので、あまり長時間起きていられない。それでも、一日中ハンモックに吊るされているのは退屈である。

 暇を持て余したシャルロッテは、転生チートのお約束である魔法の練習を始めることにした。


 まずは体内の魔力を感じるところからだ。


 ――えーっとなんだっけ……前読んでた漫画では腹の中になんかあったかいものを感じるとかだったような……。

 あったかいもの……あったかいもの……………ねぇな。


 しばらく試してみたが、なかなかそれらしいものが感じとれない。

 とりあえずこの方法は諦めて、今度は人差し指をたてて呪文を唱えてみた。声に出すと上手くいかないのはわかっているので、脳内で強く意識する。


 ――【ガラハ】


 古代アテルニア語で火を意味する。

 いつの間にやらシャルロッテは、古代アテルニア語という一度も学んだことがない言語を使いこなせるようになっていたのだ。母語となるフェアフォーテン語をあえて選ばず天使に頼んだ甲斐があったというものである。

 お、天使パワーすげーじゃん、と感心する間もなく、指先からバスケットボール大の火の玉が吹き出た。危険を感じるほどの熱気がシャルロッテの顔に当たる。


「ぅぎゃあああ!」


 ――ヤバ! 消えろ! 消えろー!


 慌てて魔力供給を止めることを意識し、指先をぶんぶんとふる。

 幸い火はすぐに掻き消えたが、大声に驚いた乳母が何事かと見に来てしまった。


『まぁ、どうしたのかしら? いつもおとなしくていい子なのに』


 がくがく震えているシャルロッテを見て首を傾げる。


『悪い夢でもみたのかしらねぇ』


 不思議そうに言うものの、炎に怯えた拍子に漏らしてしまったシャルロッテのおしめを替えたあとは、特に気にするでもなくさっさとまた自分の作業に戻った。

 この乳母マルゴットは、よく言えばおおらか、悪く言えば大雑把な性格なのだ。

 変に探られないのは、シャルロッテにとってはありがたいことである。


 ――ビ、ビビったー……。


 まだバクバクと大きく脈打つ心臓を両手で抑えながら、シャルロッテは考えなしだったことを反省した。いきなり火魔法など使うべきではなかった。

 しかし、漫画やアニメやゲームなどのファンタジー世界ではよく出てくるのである。初手火魔法。なんだか派手で攻撃力がありそうでわかりやすくかっこいい。

 ゆえにシャルロッテも、最初の魔法は火魔法、と思い込んでいたのだった。


 ――くそー、俺があのままの姿で転生してたらこんなめんどくせーことにならなかったのに。転生ってか転移? 異世界転移が良かったなー。


 今さらなことを考える。


 ――あ、でも転移ものだと勇者召喚とかでなんか王様にこきつかわれそうになる展開もあるか。やっぱ転生のがいいかな。つーか転生しか選べなさそうだったしな。

 いやー、高一で死ぬとかありえんわー。かーちゃん泣くかな。マジごめん。でも「あんたアホなんだから今からちゃんと将来のこととか考えときな。大学出たら家追い出すよ」って言ってたし、案外食い扶持一人減って楽になってるかも。

 妹の仁菜子は……まぁ普段から俺のことうざがってたもんな。清々してんだろうな。

 友達……あのボケカスやろーども俺が教室抜け出した理由知ってっから、「グラドル目当てで死ぬとかww」ってぜってー大笑いしてるわ。

 あれ、俺これマジで異世界転生大正解……? え……?


 ついでに前世を思い返して微妙にダメージを負う。特に誰かと衝突したりしていたわけではないが、よくよく考えると人望がなさすぎて死を惜しまれている気がしない。

 しかし、暗い気持ちを引きずらないのがシャルロッテの美点である。


 ――いや! 俺が悪いんじゃなくて俺の周りにいた奴らがろくでもねーだけ! これからは「さすがシャルロッテ様~!」略してさすシャルに囲まれる人生を送ってやらぁ!


 すぐに気を取り直して、魔法の練習を再開した。

 赤子の頃から人生の準備ができるなど、この上ないアドバンテージだ。


 ――俺は絶対にこの世界で、サイコーに最強でチート無双するハーレムモテモテ野郎になってやるんだーー!


 熱い決意を胸に、ひとまず害のなさそうな光魔法を、小さく小さく、と意識しながら発動してみるのだった。




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