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つまりこれってチートってこと?(後)


「ほかにもこんな素晴らしい新作魔法を!?」


「え、えぇ……」


 あまりの勢いにシャルロッテは少し後ずさった。ちょっとピカピカ光らせただけでこれほど興奮されるなら、大規模な魔法は隠しておいた方がいいかもしれない。感動のあまり卒倒しかねない。

 

「たいしたものじゃありませんわよ、土魔法でおもちゃを作るとか、光魔法の応用で映像を空中に映すとか。『クリエイトトイ』『ライトムービー』」


 シャルロッテの乏しい英語知識から引っ張ってきているので、呪文の文法はわりといい加減である。しかし、文法が合っていなかろうが単語の意味を取り違えていようが、発動には問題ない。何故ならこの世界には英語は存在せず、シャルロッテが作った魔法にはシャルロッテの認識のみが反映されるからだ。


 シャルロッテの呪文によって、銀製のティーポットはぐにゃりと曲がり、みるみるうちに形を変えて精巧なフィギュアとなった。せっかくなのでモチーフは目の前にいるユーベルヴェークにする。

 更に、カーテンの少し手前の空間に魔法をかけ、27インチほどの大きさの疑似モニターに映像を浮かび上がらせる。もっと大きくすることもできるのだが、前世使っていたテレビに近い形の方がイメージしやすいのでこうなった。映像は前世好きだったアニメのオープニングだ。


「なんて精巧な……これを土魔法で!? 空中に映像を浮かび上がらせる魔法も初めて見ました、実に素晴らしい! これはなんという魔法なのですか!? 芳醇で濃厚な素晴らしい魔気、もしや上級魔法!? しかしこんな効果を持つ魔法は聞いたことがありません! お嬢様、あなたはいったい何をなさったんですか!?」


「えーっと、わたくし、独学で魔法が使えるようになりましたの。でもわたくしの乳母が使っている初級魔法と違うもののようでしたので、ちゃんとした先生に師事して学びたいと思っておりまして……」


「独学!? 独学であれほどの魔法を!? ということは、あれはもしかしてお嬢様が編み出した魔法なのですか!? て、天才だ……!」


 ユーベルヴェークはわなわなと震えだし、シャルロッテに跪いた。


「お、教えていただけませんか、その魔法について! もちろん新しい魔法を編み出すなどという偉業は並大抵の努力では叶いません、他者に教えるなどもってのほかとお思いでしょう、しかし僕は本当に純粋な気持ちで魔法の真髄を追求しているのです、誓ってお嬢様の功績を台無しにしたりはいたしません! どうかどうか――」


「お、落ち着いてくださいませ、ユーベルヴェーク先生。別にあの程度の魔法ならお教えいたしますわ」


 シャルロッテは慌ててユーベルヴェークの腕を引き、立ち上がらせようとする。

 魔法オタクの情熱を甘く見ていた。シャルロッテとしては、どうも自分のことを舐めているっぽいユーベルヴェークに魔法ができるということを見せつけ褒めてもらおう、ぐらいのつもりだったのである。こんなに大きな反応が返ってくるとは思っていなかった。

 

「あの程度、ですか……?」


 ユーベルヴェークは爛々と瞳を輝かせる。


「確かに攻撃魔法や回復魔法のような劇的な効果があるものではないかもしれませんが、新しい魔法というのはそれだけで途方もなく価値があるんですよ? なにせ魔法というのはまだはっきりとした原理が解明されていませんし、魔法言語である古代アテルニア語は喪失して久しく、我々に残されたのは固定された呪文と魔法遺跡のみ、それもおそらく時代を経たために変質して原形を留めていない……そんななかで新しい魔法をみつけるなんて、それはもう王国史に残る素晴らしい偉業としか言いようがないのです!」


 ぐっ、と拳を握り締め、ユーベルヴェークは力説した。細い声でぼそぼそと話していたのが嘘のような豹変ぶりである。

 シャルロッテの中では、先ほど披露した魔法は生活を楽しくするちょっとしたエンタメというくくりだったのでユーベルヴェークの言葉にいまいちぴんときていなかったが、古代アテルニア語が失われているというくだりになって、え!?と叫んだ。

 

「古代アテルニア語って、失われているんですの!?」


「えぇ、そうなんです、誠に嘆かわしいことに。昔の文献によると、古代アテルニア語を使っていたアテルニア人は、日常的な言葉で自在に魔法を操ることができたそうです。しかし彼らはある時どういうわけか絶滅し――その理由は神の怒りを買ったからとも高度過ぎる魔法技術の暴走だとも言われていますが――それと共に古代アテルニア語も失われ、外国に伝わっていたいくつかの呪文のみが我らに残された魔法となったのです」


「まぁ……」


 シャルロッテはなんとも言えない表情になった。

 

 ――え、じゃあ俺が古代アテルニア語できるのヤバくない? つーかもしかして俺の魔法って思ってたより凄いんじゃ……。天使は古代アテルニア語ができないと魔法が使えないとか言ってたけど、ユーベルヴェーク先生の話が事実なら、今の時代の人たちは誰も古代アテルニア語を知らなくて残りかすみたいな魔法を使ってるってことだよな。天使、持ってる情報がかなり古いのか?

 

 人の生死を管理し転生させる権限があるわりには、世界の知識は結構いい加減なのかもしれない。

 まぁ思ってたよりしょぼいんじゃなくて凄いんならいっか、とシャルロッテは気を取り直した。

 カンストした魔力量、普通は知らない古代言語を知っている、普通は使えない魔法が使える。これぞチートの醍醐味、「さすシャル」への第一歩である。

 とはいえ、どこで古代アテルニア語を知ったのかとか、どうやって新しい魔法を作ったのかと尋ねられても、ちゃんと答えられそうにないのは問題だ。魔法のほうは「天才なので」でゴリ押しするとしても、滅んだ言葉を知っている理由にはならない。


 どうしたものかとシャルロッテが考え込んでいると、ユーベルヴェークがまさにその質問をしてきた。


「しかしお嬢様がさきほど唱えられた呪文は、今まで聞いたこともない響きでしたが、どういう意味なのですか? ご自分でお考えになったのですか? 何か発動にあたってのコツなどはございますか?」


「意味? え、えっと、最初のは、妖精の、踊り?みたいな意味ですわねっ。自分で、そう、自分で考えましたわ! 特にコツなどはございませんので先生も唱えてみたらできるのではないかと思いますわ!」


 とりあえず勢いよく答えたあと、シャルロッテは会話の方向を変えて誤魔化そうとした。


「と、ところでユーベルヴェーク先生、ずっとわたくしのことをお嬢様と呼んでおられますが、わたくしの名前、覚えていらっしゃいますかっ?」


「えっ……」


 ユーベルヴェークはわかりやすく固まった。

 

「…………お、覚えていますよ、なんせ僕の初めての生徒なんですから。えっと……ベアトリクスですよね?」


 一文字も合っていなかった。


「先生、本当に人付き合いが苦手なんですのね……」


 気の毒そうに見下ろすシャルロッテに、ユーベルヴェークは跪いた体勢のまま、きまり悪げに首を竦めた。


 

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