新要素、登場!
ちょっと遅れちゃいました>< すみません。
その代わり内容は長めです。
メイド長、執事、従僕、料理人など、屋敷にいる人間は出くわした時に余裕があれば鑑定したが、特に心惹かれるようなステータスやスキルを持つ者はいなかった。
今まで見た中で最も凄いステータスを持っていたのは、両親である。
コンラート・ヒルデスハイマー 伯爵 王の剣
レベル 18
生命力 161
魔力量 12
スキル 剣技 7
騎馬 8
初級火魔法 3
付与魔術 2
威圧 6
観察眼 5
統率 7
経理 5
木工細工 8
祝福 フェアフォーテン王レオンハルト二世の抱擁
(フェアフォーテン王が己に忠誠を誓った騎士に与える祝福。騎士の生命力を10%向上させる)
オリーヴィア・ヒルデスハイマー 伯爵夫人
レベル 1
生命力 30
魔力量 21
スキル 水魔法適性 5
土魔法適性 2
初級水魔法 5
中級水魔法 2
薬草学 6
刺繍 10
父親は成人男性の平均を遥かに超えた生命力を持ち、レベルも18と高い。
使用人たちが軒並みレベル1で、貴族でも母親のほうはレベル1のままなところからして、おそらくレベルは戦闘をしないと上がらないのだろう。
父親がどの程度戦闘経験があるのかはわからないが、王の騎士扱いをされているのだからそれなりのことはしてきたはずだ。成長率神霊級を持つシャルロッテだから異常に早くレベルが上がっているだけで、本当はレベル18になるのも大変なのかもしれない。
気になるのは、母親はレベル1であっても生命力・魔力量共に高めで、魔法適性を持ち、初級とはいえ魔法レベルも高いことである。
これは血筋のおかげなのか、訓練や勉強の賜物なのか。
アンネにそれとなく聞いてみたが、ステータスが自力で見えることを言っていいのかわからず、いまいち要領を得ない聞き方になってしまった。
「ねぇアンネ、お父様とお母様って、何か凄い力とかあるのかしら。普通の人と違うところというか」
「それはもちろん、領主様でいらっしゃいますから、あたしたちなんかよりずっと偉いお方でいらっしゃいますよ」
「いえ、そうではなくて、魔法の力とか死ににくさとか……」
「死ににくさですか……? 領主様は先の戦争では見事な剣技で活躍なさったそうですが、死ににくいかどうかはわかりませんね。お強いので滅多なことはないと思いますが」
「うーん、なんと言ったらいいのかしら……あの、生命力とか魔力量って、知られてますの?」
「なんですかそれ?」
アンネは不思議そうに目をぱちぱちと瞬かせた。知らないようだ。
――え、マジ? ステータスすら知らんの? もしかしてステータスが見えるのって俺だけ、だったり? いやアンネが知らないだけなのかも。鑑定持ちがめっちゃ少ないとか、貴族しか見られないことになってるとか。
村出身の少女にしては情報通とはいえ、アンネの世界は狭い。ほかの人ならわかるかもしれない。それこそ両親に直接聞くとか。
あの近づきがたいオーラを纏っている父に話しかけるのは気が引けるが、「お父様すごーい」的なノリでいけば嫌がられないのではないか。いやどうかな、「くだらない話をするな」とか言われるかもしれん、とシャルロッテはぐるぐる考えを巡らせる。
そこに、執事が話しかけてきた。四十代ぐらいの、物腰柔らかな壮年の男だ。
「シャルロッテお嬢さま」
「な、なんですの?」
「旦那様がお呼びです。僭越ながらわたくしがご案内させていただきます」
「わかりましたわ。なんのご用事ですの?」
「それは旦那様からお聞きになるのが良いかと存じます」
なんだろう、と思ったものの、深刻そうな様子でもなかったので、あまり気負わず執事についていく。ついでにさっき気になったことも聞けるかもしれない。
案内された先は、執務室だった。沢山の本を背に書類にペンを走らせていた父親、コンラートが顔を上げ、立ちあがる。
「シャルロッテ」
低く深みのある声で名を呼ばれ、シャルロッテはハッと挨拶の作法を思い出した。
「お、お父様、ご機嫌麗しゅう」
なるべく優雅に礼をする。まだこういうことに慣れていないので、うっかりすると忘れそうになる。
「急に呼び出してすまなかったな。お前専用の指輪がやっとできたんだ。これはヒルデスハイマー家の一員であることを示すとともに、いざというとき持ち主を守ってくれる魔法が刻み込まれている。持っていなさい」
血のように赤い宝石が埋め込まれた指輪を渡される。輪の部分は金でできていて、三つ編み状になっていた。輪は大きすぎるように見えたが、つけてみるとシャルロッテの指にぴたりと嵌った。
「ありがとうございます、お父様。大事にいたします」
「うむ。では、もう帰っていいぞ」
「はい。あの、お父様、わたくし伺いたいことが――」
「すまないが忙しい。要求があるならメイド長に伝えなさい。どうしても私に何か言いたいなら今度の面会日に」
相変わらずの無表情でぴしゃりと言われ、シャルロッテは引き下がらずを得なかった。
――自分から呼び出しといてちょっと質問すんのも駄目なんかーい! この人と仲良くなれる気がしねー!
納得いかない気持ちで退出する。
もっとも、忙しいのは嘘ではないのだろう。机の両端に書類が山ほど積まれていた。領主業というのもなかなか楽ではなさそうだ。
自室に戻ったシャルロッテは、そういえば最近自分のステータスは見てなかったな、と久しぶりに見返してみた。
ヴェアヴァーデン森を制圧して以降、特にダンジョン的な所を発見することもできず、レベルが一切上がらなかったので、あまり確認する必要がなかったのだ。スキルレベルは総合レベルと違って訓練だけでも経験値が溜まるため、魔法の特訓を集中的にしたあとは念のためチェックしていたが、誕生日一か月前ぐらいからは衣装合わせや作法の勉強で忙しく、特訓どころではなかった。
まぁ前と同じ数値だよな、と思いながらステータスボードを表示する。だがすぐにシャルロッテは、レベルの上に見慣れない項目があることに気づいた。
シャルロッテ・ヒルデスハイマー 伯爵家長女
階位 2
レベル 304
生命力 3035
魔力量 100000000000
スキル 水魔法適性 10
火魔法適性 10
土魔法適性 10
風魔法適性 10
光魔法適性 10
闇魔法適性 10
魔法創成
水魔法 104
火魔法 135
土魔法 61
風魔法 89
光魔法 50
闇魔法 78
魔法の真髄 42
成長率神霊級
神の啓示
祝福 ナディヤの加護
称号 ヴェアヴァーデン森の征服者
魔物殲滅者
「ん?」
シャルロッテは首を傾げた。
「んんん?」
初めて見た言葉だ。
『階位』とはなんだろう。スキルの方も、『神の啓示』という覚えのないものが追加されている。
「階位って何かしら、レベルではなく? えーっと、『魂の階位。知的生命体に与える影響力を表す。運命・転生・啓示に干渉する』。へーぇ。何故今になって表示されますの?」
不思議に思いながら、今度は神の啓示の説明を読む。
【神の啓示を受けることができる。階位の段階が上がると開示制限が解かれる。階位1:対象の基礎的な能力の開示 2:『階位』項目の開示。それに伴い『神の啓示』をスキルとして開示。世界の存亡に関わるできごとを警告】
つまり、今までシャルロッテがステータスを見れていたのは鑑定スキルのおかげではなく、神の啓示スキルがあるからだったようだ。そして階位という隠された設定があって、階位が上がったことにより神の啓示スキルを持っていることがわかるようになった。
「知的生命体に与える影響力」という階位の説明はいまいちぴんとこないが、上がったタイミングを考えると、おそらく五歳になったこと――いや、指輪を貰ったことがきっかけだろう。今まで人間未満の存在だったのが、正式にヒルデスハイマー家の一員として認められたのだから、以前より影響力のある人間になったと言える。
こんな隠し要素があったのか、と シャルロッテは驚いた。
王様やアイドルは階位が高いのだろうか。この世界にアイドルがいるかは知らないが。
階位が上がることによるメリットがどの程度のものかわからないが、『神の啓示』なんて凄そうなスキルだし、それを成長させるために階位を上げなければならないなら、積極的に行動して人気者になる必要があるだろう。
もとよりシャルロッテは活躍してモテモテになろうと思っていたので、一石二鳥である。
シンプルな一般人のステータスに比べてだいぶ充実している自分のステータスをにまにま眺めていると、何回目かで一番下に新しい文章が加わっていることに気づく。そこだけ色合いが灰色っぽくて見えづらかったのだ。
警告
『魔王誕生』
あと十年で魔王が誕生する。魔王は強力な魔物の軍勢を率い、人類を滅ぼすそうとする存在である
「ま、魔王!?」
シャルロッテは飛びあがった。
――そーいえば転生さしてもらうとき、「魔王倒しまくる感じで」とか言っちゃったんだっけ俺! だからこんなお知らせしてくれんの!? マジかー、世界の命運握っちゃってるじゃん!
あれ? ちょっと待てよ、もしかしてこれ俺が頼んだから魔王出現させてる!? そんなことないよな!? ルドルフ・アッヘンバッハの時代にも魔王いたみたいだし! なんかこう……定期的に出てくるんだよな、多分?
ちょっと焦りつつも、いよいよアニメやゲームみたいな展開になってきた、と思うとわくわくが抑えきれない。
十年後なら準備期間は十分ある。仲間を集めたり、強い装備を揃えたりすることができるだろう。そしてもちろん、性転換薬も手に入れて、かっこいい体で魔王討伐に挑むのだ。
「うふふ~そして清楚な聖女とツンデレの魔法使いと健康お色気剣士に囲まれて王道ハーレムパーティーを組むんですわ~、お姫様に惚れられたりえっちなダークエルフから誘惑されたりするんですわ~、楽しみですわ~」
お嬢様言葉で夢想に浸るシャルロッテに、男になるならまずその言葉遣いを矯正しないととんだイロモノ扱いされてしまうぞ、と指摘できる者は、ここにはいなかった。