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はじめてのお友達


 誕生日から一週間が過ぎた。

 あれ以来両親と顔を合わせることはほとんどなく、食事ですら同じ席につくことはなかった。

 というのも、シャルロッテはマナーは問題ないとはいえ身長の問題で食卓の大きな椅子に座ることができないからだ。クッションをいくつも積んだり子ども用の椅子を作らせるなど、やりようはあるはずなのだが、大人仕様の物を使えないなら大人と同じ場にいさせるわけにはいかない、というのがこの国の貴族の一般的な考えだった。

 

 シャルロッテはますます貴族家庭に対する疑問を募らせ、変なのーと思ったが、厳格そうな両親の前で食事しなくて済むのは正直助かったし、意地悪されてるわけじゃないみたいだからいっか、と深く考えないことにした。シャルロッテはくよくよ悩まない性質だった。






 それより重要なのは鑑定である。

本邸に移って人と触れる機会が増えたので、片っ端から鑑定してみた。これにより、やっと一般人の平均ステータスが判明した。

 成人男性の生命力は25~30程度、成人女性は15~20程度である。魔力量は性別関係なく1~10と個人差が大きい。


 例えば、シャルロッテの専属メイド二人のステータスはこうである。



 アンネ(ツルゲフ村)

レベル 1

生命力 15

魔力量 5


スキル 初級火魔法 2

    裁縫 1



 エッダ(ツルゲフ村)

レベル 1

生命力 18

魔力量 4


スキル 初級水魔法(湧水、水蒸気、小水玉、浸透) 1

    料理 2


 初めて見た時はあまりに頼りないステータスで驚いた。

 だが、スキル内容は職務ごとに多少違うものの、ほかの使用人も大差ないステータスだった。これに比べるとマルゴットはスキルが多く、かなり優秀である。伯爵家令嬢の乳母を任せられるだけはある。


 アンネは、明るめの茶色の髪を後ろで束ねた快活そうな少女で、エッダはくすんだ金髪を二つのおさげにしたおとなしい少女だ。

 二人とも年は十四歳程度。行儀見習いもかねて城勤めをし、『領主様にお仕えした』という箔をつけて結婚を有利にするらしい。


 二人とも、可愛くないとまでは言わないが、普通の容姿で、紹介されたときシャルロッテはちょっとがっかりした。

 ろくに肌も手入れしてなさそうだし、メイクもしていない。よく言えば純粋で素朴、悪く言えば田舎っぽい印象の子たちで、十四歳なので当然色気もない。子ども過ぎて恋愛対象にしようがなかった。

 それに、よくメイド長に仕事を言いつけられてあたふたしている様子を見ていると、自分を取りあって欲しいなどという願望はとても抱けなくなる。どう見てもそれどころではない。


 少し打ち解けてきたころ、偉い貴族に見初められたいと思ったことはないのか聞いてみると、二人とも、うーん、と難しい顔をした。


「そりゃ王子様とかかっこいい騎士様が迎えに来てくれるなんてのは、小さい頃は憧れましたけどねぇ。実際あたしらがそういう人と結婚できることはないですよ。お手付きにされてほっぽりだされる、みたいな話はよくあるらしいですけど」


「子どもができたら手切れ金ぐらいはもらえるそうですよ。下手するとお家騒動を危惧した家令に暗殺されるなんてことも」


「ええええ」


 シャルロッテは夢のない世界に愕然とした。現実、世知辛すぎる。


「だからあたしらは、ヒルデスハイマー家に雇っていただけて本当に感謝してます。うちの領主様は使用人に手を出すような方じゃないし、お小さいお嬢様の専属なら若い貴族男性と関わることもないですし」


「メイド長は厳しいけど、ほかの使用人の男性がちょっかいかけてきたら守ってくれますしね。おかげで神の教えに背かずに済みます」


「かみのおしえ」


 馴染みのない言葉を鸚鵡返しすると、エッダは真顔で頷いた。


「えぇ、唯一神エイデスの教えです。『人の子よ、(みだ)りに交わるな。我が祝福は一人と一人にのみ注がれる』。神の教えに背いた者は、自堕落な行為の報いを受けて皮膚が腐り落ちるのです」


「ひ、ひえぇ……」


 シャルロッテは慄いた。皮膚が腐り落ちるのも怖いが、神様にハーレムが全否定されているのも怖い。もしやこの世界の女性は、みんなこのように貞操観念が強いのだろうか。

 顔を引き攣らせたシャルロッテを見て、アンネがエッダに注意する。


「ちょっと、エッダ、お嬢様を怖がらせてどうすんの。大丈夫ですよ、お嬢様。みんながみんなそんなことになるわけではないですからね。貴族の方も王族も側室を持ってないほうが珍しいですし、神官でさえこっそり遊んでる奴はいるんです。あたしも、結婚したら一筋になりますけど、それまではいろいろ試してみたいと思ってるし。エッダはうちの村でも特別信心深いんですよ」


「私たちはエイデス神のお力で生まれてきたのだから、神の教えをなしがしろにしてはいけません」


「はいはい、そうですねー」


 あしらうようにアンネは言い、肩を竦める。どうやら全員がエイデス神の教えに染まっているわけではないようだ。


 こんな感じで、アンネとエッダとの会話は、この世界のことを知るのに非常に役に立った。

 アンネは明るくおしゃべりで、使用人たちの人間模様や故郷の話、暗黙の了解などいろいろ教えてくれる。エッダはおとなしいが気の利く性格で、シャルロッテが何かしたいときや困っているときにすかさず助けてくれる。

 親しい年下の女子といったら、生意気で気の強い前世の妹しかいなかったシャルロッテにとって、二人のメイドは理想の妹のようで癒しの存在だった。

 もちろん、見た目上はシャルロッテのほうがはるかに年下なのだが、身分は上なので、適度に敬意を払ってもらえるのも嬉しい。 


「お嬢様、またあの遊びやりましょうよ! 白と黒の石を並べるやつ。今度は負けませんよ!」


「オセロですわね。よろしいですわよ! またわたくしが圧勝してみせますわ!」


「アンネ、遊んでたらメイド長に怒られるよ……」


「うっ、いいじゃない、お嬢様の遊び相手になるのもお仕事の一環よ!」


 土魔法をいじっているうちにできたオセロやおはじきで遊びながら、わいわい盛り上がったりする。

 この世界で生まれてからずっと、マルゴットのような落ち着いた大人としか接してこなかったから、久しぶりに友達と話しているような気持ちになれて楽しかった。

 厳しいメイド長の目を盗んでクッキーをくすねてきたアンネの武勇伝は前世の悪友を思い出して懐かしい気持ちになったし、エッダが密かに恋している相手の話を打ち明けてくれたときは「女子のコイバナに俺が参加してる……!?」とドキドキしてしまった。


 多分この二人とは性転換できたあとも恋仲にはならないだろうけど、ずっと仲良くいられたらいいな、とシャルロッテは思った。

 

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