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心はいつでも繋がってるぜ!


 『王国の蒼剣―ルドルフ・アッヘンバッハ物語―』シリーズは、王道の冒険活劇小説で、文章もさほど難しくなく、シャルロッテのお気に入りである。

 基本的に魔物は討伐されるべき悪い存在なのだが、一度だけ魔物を仲間にする話があったような気がするのだ。


 シャルロッテは心当たりのある巻を次々あたり、その記述を探し出そうとした。そして第七巻の途中で、ついにそれらしい章をみつけた。『ルドルフ・アッヘンバッハと愛馬の絆について』。

 第七巻はルドルフの家族の話とか、彼の仲間だった男のその後とか、よく通っていた酒場の様子など、裏話的な内容が多かったのであまり読み返しておらず印象が薄かった。

 しかしルドルフが魔物と契約していたなら、フェンリルを飼う参考になるかもしれない。


 その章には、ルドルフの愛馬は普通の馬より一回り大きく、どんなに矢を受けてもけして倒れぬ不屈の体を持ち、時に地を離れ空を駆けたことから、スレイプニル――馬型の魔物だったのではないか、と書かれていた。

 ルドルフと馬は強い絆で結ばれており、ルドルフがピンチの時には馬がどこからか現れて手助けしたらしい。

 これはつまり、常に傍にいなくても呼び寄せることのできるなんらかの手段がある、ということなのではないだろうか。


 シャルロッテは、熱心に文字を追っていく。ありがたいことに、ルドルフが馬と契約を交わした際の文言が載っていた。


「えーっと……わがばくぎゃくのとも……エンリケ……君の……君のたてがみは――」


『我が莫逆(ばくぎゃく)の友エンリケ、君の(たてがみ)は朝においては炎の如く勇壮に波うち、夜においては乙女の髪のように繊細でしなやかだ。朝露に濡れる君の湿った匂いを嗅ぐことは我が至上の喜びである。我らは常に共にあり、何者にも別たれない。我らの心臓は隣り合わせに脈打ち、互いの苦境には真っ先に駆け付けるだろう。おぉエンリケ、稀なる賢馬よ、我らの永遠の友情のため魂の契りを交わそう』


 ――よく読むと絶妙にキモいなこの文章。馬だってこんなん言われても困るだろ。

 

 シャルロッテは若干引いた。馬への愛情が度を越している。

 ルドルフ・アッヘンバッハのことは強くてかっこいい正義の騎士として憧れていたのだが、意外な一面を知ってしまった。


 ――俺だって犬は大好きだしふわふわの毛をもふりたいと思ってるけど、乙女の髪とか言うのはちょっと……。これ言わないと契約できねーのかな。


 げんなりしながら読み進める。

 文章は、ルドルフの言葉に応えたエンリケがルドルフに(こうべ)を垂れ、その瞬間ルドルフから放たれた光がエンリケに注ぎ込まれた、と続いていた。


「光? 光……うーん?」


 小説の描写はドラマティックに演出されておりはっきりしないが、これは魔力を与えているのではないだろうか? それとも何か別に要因があるのか?

 シャルロッテはその記述を何度も読み直しながら、考え込んだ。






「こんばんは、昨日ぶりですわね~。いい子にしてましたか? 何か問題はございませんか?」


 昨日と同じように、マルゴットの寝ている隙にヴェアヴァーデン森を訪れる。近くで局地的天変地異があっても目を覚まさなかったマルゴットの眠りの深さは、相当なものである。シャルロッテは安心してフェンリルに会いに行くことができた。


 フェンリルは孤高の佇まいで崖の淵に立って空を見上げていたが、シャルロッテが現れると甘えるように鼻先をこすりつけた。


「あ゛~かわいいですわね~。今までわたくしが犬を飼えなかったのはあなたに出会うためだったのかもしれませんわ」


 シャルロッテはでれでれと相好を崩し、フェンリルの鼻筋を撫でる。


「今日はあなたと契約しようと思ってますの。契約っておわかりになる? わたくしはよくわかりませんわ! でも多分、お互いもっと一緒にいられるように、みたいな……そういうことですわよね?」


 契約とは、当事者同士の合意によって成立する約束、縛りである。

 なので、魔物と契約することが必ずしも魔物との友情を意味するわけではない。むしろ魔物を痛めつけたり追いつめたりして、一方的に従属契約を結ぶほうが一般的である。


 しかしシャルロッテの場合は、既にフェンリルを倒して主として認められているので、新たに従属契約を結ぶ必要はない。

 ルドルフとエンリケのような『魂の契約』、お互いに相手を自分の(うち)に入れ深い繋がりを得ることによって何もかもを把握し、一心同体に近い状態になることを目指しているなら、「お互いもっと一緒にいられるように」という認識は正しいのだ。


「わたくしちゃんと文章を覚えてきましたのよ。まぁ必要なさそうなところは省きましたけど。あと、あなたの名前も考えましたわ! アイスブラックナイトメアシャイニングセイントウルフ、略してメア! いかがかしら」


 シャルロッテは自信ありげに胸を張る。

 さすがにハイパーとかスーパーとかを入れないだけのセンスはあった。本当はもっと長くしたかったのだが、単語が思いつかなかったので諦めた。

 アイスはスキルの『氷の息』から、ブラックは通常時黒い姿だから、ナイトメアは夜っぽいしなんかかっこいいから、シャイニングセイントは白い姿の時はちょっとキラキラしてるから。

 四時間考えて決めた、渾身の名づけである。


 フェンリルは、ガゥ、と小さく鳴いた。


「いいんですのね! 良かった、これからよろしくお願いしますわ、メア。じゃあ早速契約に参りましょう。成功するかはわかりませんが、物は試しですわ」


 シャルロッテは、運動会の選手宣誓のときのように右手をまっすぐ上げた。


「えーっと……我らは常にー! 共にありー! 何者にも別たれないー! 我らの心臓はとな、隣り合わせに! 脈打ち! 互いの苦境には真っ先に駆け付けるだろうー! アイスブラックナイトメアシャイニングセイントウルフ、わたくしの最高で完璧な犬! 我らの永遠の友情のためー! 魂の契りを交わそう!」


 元気いっぱいの誓いの言葉をかます。

 びっくりするほど厳かさがなく、メアは呆気にとられたようにシャルロッテを見下ろした。しかしシャルロッテが、掲げた腕に練り上げた闇属性の魔力を宿して差し出してきたので、慌ててすっと一歩前に出る。

 濃密で膨大な量の闇の魔力はメアの中に無事吸収され、互いの全身がどくんと揺れた。


「あっ、ふわっ!? メ、メア! ヒーーーッ!?」


 自分の中に何かが入り込んでくるような独特の感覚に怖気が走り、シャルロッテは思わず悲鳴をあげた。メアの方も、ぶるぶると震えたあと、耐えきれなくなったように遠吠えする。


「な、なんですのこれ……何が起こってますのー!?」


 もしや何かとんでもない失敗をしてしまったのでは、とシャルロッテは怯えたが、十分ほど経つと気持ち悪い感覚は消え、メアとの強い絆を感じるようになった。

 メアの考えていることがなんでもわかるし、こちらの気持ちもわかってもらえている、という安心感がある。

 メアはほとんど自分の分身であり、一部であり、共鳴する魂なのだ。


 シャルロッテは今までよりさらに愛しい気持ちでメアをみつめた。

 殊更に抱きしめる必要はない。だって、そんなことをしなくても繋がっていることがわかるから。

 メアも敬愛と信頼のこもった瞳でみつめかえしてくる。


「――わたくしと共に生きて、メア」


 シャルロッテの言葉に、メアは当然のように首を垂れると、たっと前足を蹴ってシャルロッテに突撃した。シャルロッテの体積の何百倍もある大きな体は、シャルロッテの胸に前足がかかるやいなやすぅとそこに吸い込まれていき、跡形もなく消える。


 主のいなくなった暗黒の森で、シャルロッテはしばらく胸に手を当て、この閉ざされた陰気で冷たい古巣との別れを惜しんだ。メアの感慨は、シャルロッテのものでもある。そういうふうに、二人は結ばれたのだった。

 

 



 アイスブラックナイトメアシャイニングセイントウルフ フェンリル ヴェアヴァーデン森の番人


レベル 159

生命力 2107

魔力量 650

スキル 咆哮 10

    地獄の裁断 10

    死に誘う爪 10

    氷の息 9

    暗黒迷彩 8

    統率 10

    生命力倍増


祝福 ラティカの刻印

   (創世記の魔物であることを表す印。支配領域内の魔物レベルを大幅に向上させる)


契約 シャルロッテ・ヒルデスハイマーとの魂の契約

   (シャルロッテ・ヒルデスハイマーとの以心伝心、任意の生命力共有、互いの魂への居住が可能になる)


・タイトルちょっと付け足しました。

・評価・ブクマしてくださる方、本当にありがとうございます! おかげさまでやる気が出ます。

 まだ評価してないけどまぁおもしろいかな、と思ってくださる方は、是非していただけると嬉しいです。

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