第6話
「誰だ?」
俺が運営している道場の、その外から威圧的な雰囲気を感じた。
それは殺気ではなくて、闘志や戦意に近しいもの。
「そこから気がつくとは、流石だな」
金髪の大柄な男が現れた。
「俺は今忙しい。後にしてくれ」
一人の教え子の、剣の振り方を少し矯正している最中で、残念ながら手を離せる状態ではない。
「せっかく我が来てやったと言うのに」
「そっか」
随分と偉そうだが、俺には全く関係ない。
「貴様っ! 少しは興味を持ったらどうだっ!!」
「急に来ておいて何を言ってんだ。ってか、そもそも何の用で来たんだ?」
急に怒り出すなよ。面倒くさい。
「我と戦えっ!」
「後でな」
急ぐ必要なんてない。
「ぬぐぅ……」
「そこで待ってろ」
道場の端、ちょっと縁側っぽくなってる場所を指さした。
道場生を含めて、何人かにアドバイスを終えてからその男の前に俺は立った。
「戦いたいんだったか?」
「我がここまで後回しにされたのは初めてだ」
「随分と偉そうな態度だが、お前、何者だ?」
鼻に触るくらいには大きな態度をし続ける彼に、その正体が気にならないと言えばそれは嘘だ。
「我は闘神の第一使徒であるアズライール」
「本人じゃないのか」
「主君が貴様と戦うわけなかろう」
「ふ~ん。お前ら、そういう態度なんだな?」
お前らのミスで俺達はこの世界に飛ばされた訳だが、それに対しての申し開きは無しか。
「まあ、第一使徒って言うくらいだから、かなり強い方なんだろうが。……まあ、良い、やろうか」
刀を取り出して彼を手招きした。
「その余裕、ぶち壊してやる」
彼は俺に呼応するように、大きな剣を取り出した。
「いつでも良いぞ」
特に試合のような雰囲気すら無いままにそう告げると、彼は眉間に皺を寄せた。こいつ、すぐに怒る。
「行くぞっ」
「本物の殺し合いに始まりの掛け声は無い」
挑発でも何でもなく、俺は彼の掛け声に合わせて振るわれた剣を躱す。
一太刀、二太刀、三太刀、四、五、六、まあまあ剣の速度はあるし、下手するとルビアや魔王以上の攻撃速度なのかもしれないが、それだけだ。
あくまでも、遊戯の延長線上にある最高の攻撃でしかない。
彼は遊びに来てるのか。ということは、刀で相手をするのは間違えたか?
刀を指輪に仕舞い、一端は素手の状態になる。けれど、大きな大振りな剣が俺に当たるわけがない。
「なめやがって」
「悪いな。まあ、楽しもうぜ」
その代わりに、一本の真っ黒い長細い剣を取り出した。その名も“不壊”。
大きな剣に正面から長細い剣を叩き付けた。けたたましい金属音と共に空気が揺れたのを感じた。この剣の特徴は“壊れない”だ。名前の通りの性能をしている。
なんで、刀では無くて剣にしたかって? 見せプには持って来いだろう?
「ぐぅっ!?」
相手の剣戟よりも俺の方が重いっ!!
大剣を打ち返す程の一撃を細い剣から繰り出す。今までの刀の振り方とは違って、完全に押し切るモーションで相手に叩き付ける。
これくらい未知に挑戦しないと、やっぱり、俺自身の成長が見られないな。手段を択ばなければ一手で終わらせることだって出来る。
「なんて力だっ」
「振り方って奴さ」
巨大な衝撃を与えるのに武器の重さは必要ない。もちろん、有効には働くけどな。
しっかりと重心を落として、大地を踏みしめて大剣に剣を叩き付ける。俺の右手にも痺れが残る程に激しく、けれど、それを止める気も無く、更に、より全力で叩き付ける。
「な、何故、我の魔剣が刃毀れをするっ!?」
「そりゃあ、俺の剣が神剣だからだろ」
天照大御神によって授けられたこの剣は普通ではない。間違いなく神の力で編み出された神々の奇跡の証ですらある。
「神剣……だと? 何故貴様が」
「知らねえよっと」
急に睨み付けてきたから、顔面に蹴りをお見舞いしてやった。
「ぬぐぅ……」
「ってか、お前。闘神の第一使徒を名乗る癖して、俺との力量の差にまだ気が付かないのか?」
闘神の使徒って奴も大したこと無いな。かなり手を抜いてるつもりなんだけどな。
「なめるなっ」
「道場内で範囲攻撃は禁止だ」
後ろに跳んで魔法か何かを繰り出そうとした彼に張り付くように追いかけて腕を斬り落とす。ほらな、いつでも出来るんだよ。それくらいなら。
「ぬぐぅ……」
「ここが燃えたり吹っ飛んだら、誰が責任を取るんだ?」
「貴様あっ!」
回復魔法とやらがあればあっさりくっ付くだろう。かなり綺麗に斬ったつもりだし、結合も難しくは無いはずだ。
「さっさと魔法でも何でも使って回復すると良い」
「このままで終われるわけなかろうっ!」
「……お前、一生隻腕で過ごすつもりか?」
「構わんっ!!」
こいつ、糞だるいな。なんで自分と俺の力量差がここまでされて理解出来ないんだ?
彼は剣を振るう。俺はその剣を躱す。もう次に斬り落とせるのなんて首くらいだろう。だから、俺には剣という手段が使えない。流石にこの道場で死人を出す気にはなれない。
「これで終わりだ」
後ろから首に手刀を振り下ろして、そのまま彼を地面に倒した。
「誰かコイツの処理を頼む。あと、回復魔法が出来るやつは居ないか?」
俺の道場生の中には冒険者が多い事もあって、血には慣れているし回復魔法が使える者も多い。俺は使えないけどな。
俺の声掛けに俺と彼の戦いを見ていた者たちが一斉に動き始めた。そそくさと転がった腕を拾って、彼の本体と結合する。もしかしたら障害が残るかもしれないが、それはもう自業自得だ。
「ありがとう。俺は魔法が使えないから助かったよ」
「いえいえ、先生はそんな物が必要ないだけじゃないですか」
回復魔法を率先して使っていた冒険者にそんなことを言われる。俺には回復魔法は必要ないけど、完全に要らないかって言われるとそうでも無い。あると便利なのが魔法だからな。
「ま、良いや。皆も稽古に戻ろう。さっきの戦いは参考になる場所があれば参考にしてくれ」
普段の俺の戦い方とは全く違っただろうから、普段から俺の動きを見ている者たちにも良い刺激になっている筈だ。だと良いなと思う。
今回の出来事が原因で、俺の一番大切な物が傷付けられるとは、夢にも思わなかった。
ある日の出来事だった。美玲が居た筈の俺たちの家が吹き飛ばされた。
その巨大な音は道場に居た俺にも届いていて、思わず身体を走らせるしか出来なかった。
丘に、山になっている場所を登ると、そこには一人の男が居た。その前には力なく膝を折る美玲の姿があった。
辺りに見えるのは戦闘の跡、俺たちの家は半壊、アストレアは既に大地に伏していて、その男の手には誰かの右腕があった。
その腕が誰の物なのか、俺はそれを知っていた。
それは彼女の、美玲の物だ。
この男は俺の一番大切な物に手を出したのだ。
そう理解したが最後、俺の中の何かが外れた気がした。
俺はその男の目前に一瞬で移動し、そのまま流れるように右腕で刀を振るう。
あっさりと躱された。
そのまま距離を詰める。
その男は空へと飛んだ。
俺はそれでも変わらずに、"空歩"で男との距離を詰めて斬り付ける。
お前が誰かなんてどうでも良い。
さっさと死ね。
「我は闘いの神である。第一使徒が世話になっ……「死ね」」
なんか喋ってたけど、その口に刀を振るった。また躱された。
彼の動きは精錬されている。洗練されている。
空を飛んでいるから、倒しづらい。
こいつは誰だ?
何故、どこから、急にやってきた?
どうでも良い。全身全霊を持ってぶち殺してやる。
もう二度と同じ過ちを誰も繰り返さないように、完膚無きまでぶち殺してやる。




