進化したゴブリン、異国に潜入す。第2話
「簡単だったな」
転がる人の死骸を見て、何の感慨すら湧かずに状況の難易度を考えてしまうのは、やっぱり俺がゴブリンだからだろうか。
「……そうだな」
クレアは少し抵抗があったのか、けれども、そう感じたのは事実な様で頷いた。
「盗賊が出てくるってことは、結構近いのか?」
「ああ、そうだな」
やっと待ちに待ったアルセーヌ帝国に、たどり着こうという所らしい。
「軽く剣を洗いたいんだけどな」
「近くに水源は無いからな。難しい」
盗賊を斬り裂いて血塗れになった剣をそのまま鞘に収めるのは抵抗があった。
何度かぶんぶんと振り回して付着した血液を振り払う。
幾分かは落ちたが、けれど、もうこれ以上は落ちることも無いのだろう。
諦めて鞘に収めた。
「それにしても、人間族至上主義……か」
多種の人に優しくない国に潜入しろって、改めて考えてみても、俺みたいなゴブリンに任せる内容じゃねえだろ。
「怖気付いたか?」
「んや、面倒いなって」
どう転んでも面白い、楽しい光景が見られるとは思えなかった。
「それなら、何故引き受けたんだ……」
「王様の命令は絶対だろ。それに、旅をしたかったのは事実だ」
国に引き篭ってたって、変わり映えしない日常を過ごすだけだ。それがつまらないとは言わないけど、少しくらいは違う物も見たいんだよ。
「……なんだよ」
クレアに呆れた目を向けられた気がした。
「いや、何も考えてなさそうだなと」
「ひでぇ」
そんな直球で罵倒されると思わなかった。
「んで、このまま真っ直ぐに進めば良いのか?」
「ああ」
更に数日、歩き続けた。天候が崩れることもなく、特に旅路に支障は出なかった。
「あれだ」
クレアが指差した先には立派な壁が見えた。石積みの壁だ。
「……大丈夫か?」
その指が少し震えている気がして、ついつい余計な気を回してしまう。
「何がだ?」
「いんや、なんでもない」
彼女は気が付いていないのか、もしくは、気が付かないフリをしているのか、それとも気が付いた上で戦おうとしているのか。
「さっさと行こうぜ」
行商人等が並んでいる列に大人しく俺達も続く。冒険者ギルドに所属している証である冒険者カードを門兵に見せると、すんなりと中に通してくれた。
冒険者ギルドとは様々な国に支部を置いている世界的に大きな人材派遣会社だ。野良の戦士を集めて、戦争や魔物退治などに派遣したりする。中には薬草を取ってくるなんて仕事もあるんだとか。
俺は国で上位の冒険者を何度か倒したから、依頼はそんなに受けていないけど、それなりに上のランクに居る。
ランクは上から、オリハルコン、ミスリル、金、銀、銅、黒鉄、鉄、石の順番らしい。ランクが高ければ高いほど色々な義務が発生するらしい。
「他種族を嫌ってる割には、冒険者をすんなり通すんだな」
「結局、人間族だけでは何も出来ないとわかっているのだろう」
クレアはつまらなさそうに呟いた。ま、冒険者ギルドって組織があるから、他種族を排斥しても完全には孤立しない……うん、国としては随分と歪な成り立ちをしてるのな。
「ま、俺はどうでも良いけどよ」
「相変わらずテキトウだな」
「国の在り方がどうのこうのとか、興味ねえよ」
考えてたって面白くも楽しくもない。
「んな事より、宿を探さないとな」
「そう……だな。金はあるのか?」
金……ないな。言われて気がついたけど、この国の通貨なんて持ってるわけがねえ。
「無いなら、貸しだな」
「ああ、いや、多分なんとかなる」
クレアの救いの手を安易には取らない。冒険者ギルドってのは魔物や獣の買い取りもしてるから、きっと道中で倒してきた動物たちにもそれなりに金銭を付けてくれるだろう。
って訳で、冒険者ギルドの支部に向かった。
「こいつら、買い取ってくれるか?」
そこは木造の建物で、冒険者ギルドに所属する職員と冒険者をカウンターで分けていた。
俺はそのカウンターの上に狼の死骸を置いた。
「こちらは銀貨一枚になります」
「ん、他にも沢山居るんだけど、全部買い取ってくれねえか?」
更にもう何体か地面に並べた。
「畏まりました。では、別室に案内させて頂きます」
「あいよ」
案内された別室はそのまま解体所で、きっと買い取ったまま解体して売り捌くつもりなのだろう。
「じゃあ、並べても?」
「はい」
倒した獣や魔物をただひたすらに並べていく。それなりに森の中を歩いていたから、倒した量もそれなりに多かった。
やがて、部屋が全て埋まってしまう。
「一旦はこれだけでいいや」
「……そうですね。そうして頂けると助かります」
受付の女性が驚いた顔をしていた。そりゃそうか、こんなにいっぺんに死骸を買ってくれなんて言う奴は中々居ないよな。
「念の為ですが、冒険者ギルドのギルドカードを提出して頂いても宜しいですか?」
「これで良いか?」
「はい。では、受付の方でお待ちください」
解体所からカウンターのある部屋に戻った。すると、そこではクレアに絡んでいる大柄な男が居た。
「嬢ちゃん、どうだい?」
「だから、さっきから何度も言っているが、パーティには入らないと言ってるだろう」
パーティの勧誘か?
パーティってのは、一緒に行動する冒険者の最小単位のグループのことを指す。
俺が元々住んでいた神王国ヤマトにはその概念は殆ど無かった。
「悪いな。彼女は俺のパーティなんだよ」
流石に彼女を連れて行かれるのはまずい。ミレイ王に何を言われるかわからない。
「なんだぁ、お前」
「彼女も嫌がっているし、過度な勧誘は止めてもらえると助かるんだけどな」
「俺はゴールドランクのウサイ様だぞ? よくもそんなに偉そうな口を聞けたな?」
「へえ、ゴールドランクってそんなに良いもんなのか?」
「んな事も知らねえのかよ。なあ、嬢ちゃん、こんなのより俺たちのパーティに来いよ」
「はあ……、後で見せてやるけど、俺もゴールドランクなんだよ。簡単に取れたもんだから、そんなに高いランクだと思ってなかったんだ。悪いな」
何だか調子付きそうだったから、バッサリと言い切ってやる。
ってか、金ランクなんて大して凄くもねえだろ。
「はあっ!? こんなに若いガキが?」
「若くて悪かったな。んで、どうする?」
俺たちは他の冒険者の目線をも巻き込んでいる。
「なら、俺と戦えっ!
勝った方が嬢ちゃんをパーティに入れるってのでどうだ?」
「却下。ってか、なに馬鹿な事を言ってんだよ。そもそもパーティに入りたいかは彼女の意思だろ?」
冒険者ってこんな低脳が多いのか?
「ゴタゴタ言ってんじゃねえぞっ!」
「意味わかんねえのはお前だろ」
胸倉を掴むの止めて欲しい。服が伸びる。
「そろそろ俺も我慢の限界だ。……殺し合うか?」
俺は一向に構わない。彼の鑑定も終了した。
特出した能力は一つもなく、頭も悪い。負ける気はしないな。
じっと睨み付けてやる。すると、大男は何かを感じたのか少し後ずさった。
俺なんかにビビる奴なんて居るんだな。ちょっと驚く。
俺の国の道場に来ていた冒険者たちは、そんなんじゃビビることすらしなかった。
程度の低いことをしている時点でお察しではあるけど、実力もお察しなのか。
「……わかれば良い。行くぞ」
その大男と会話すること自体が面倒で、俺はさっさと彼から大きく距離をとった。
「助かった」
「ヤマトにはあんな事する冒険者が居なかったから、結構驚いたよ」
「その割には堂々としていたな?」
「怖くないからな。あの程度じゃ」
「そ、そうか……」
クレアは少しドギマギしていた。何でかは知らん、興味もねえ。
「ミリシャ様、換金作業が終わりました」
さて、幾らになったかな。




