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進化したゴブリン、異国に潜入す。第1話

「遠いな~」

「それはそうだろう。聞いてないのか?」

「何も聞いてねえよ」

「……この森を超えれば辿り着く。だが、その森がとても長い」

「へえ~」


 既に歩き始めて早三日が経った。


 俺とクレア以外の動物に出会うことは無かった。豊かな森の中なのに案外野生動物は少ないらしい。


「こうも代り映えしないと肩が凝るな」

「平和なのは良いんだけどな。ちょっと暇だよな」


 彼女の言葉に肩を竦めて見せる。


「何か変な匂いしないか?」

「……するな。何かが焼けた匂いだ」


 お互いに周囲の空気を鼻孔に流し込む。やはり、今までの森の匂いとは全く違う、まるで炭のような匂いがした。


「どっちだ?」

「あっちだ」


 風の流れを読んで原因に向かって足を進めた。


 木々の間を通り抜けてどんどん先に進む。


「待て」


 クレアに手で制された。


「何か見えたのか?」

「……ここから少し顔を出してみろ」


 そう言われて、クレアが指差す方向に木の裏から顔を出した。


 そこには複数の人が居た。その人が囲っている真ん中に黒っぽい何かが……って、まさかあれ、焼かれた人か?


「あれって、どこの所属の人かわかるか?」

「いや、わからん」


 流石に全員が全員フードを被ってる状態じゃ、クレアに聞いた所で意味無いか。


 王に報告した方が良いよな。


『アストレア、聞こえるか?』


 俺は最愛でゾッコンな()()の名を頭の中で呼ぶ。


『ん、どうしたのですか?』


 すると、すぐに彼女の声が聞こえた。


 彼女の名はアストレア。

 右も左もわからない俺がゴブリンの時に拾ってくれて、そして世話をしてくれた人だ。厳密に定義するなら彼女は人では……いや、生物ではない。

 彼女は悠久の時を生きたアンデットなのだ。そして、そんな彼女と“魂の盟約”という契約を交わしているのが俺だ。

 アストレアは今も王が住んでいる家の二階に引き篭もっているから、“魂の盟約”を使って伝えた状況を王に伝えることが出来る。


『国に近い森の中で、焼死体と妖しい人達を発見した。状況をミレイ王に伝えて欲しい』

『ミレイ王は“倒せるなら倒しちゃって”と言っています』


 返事が早い。アストレアの隣にミレイ王が居るのかもな。


『やってみる』

『では、健闘を祈ってます』


 報告は済んだ。


「ちょっと行ってくる」

「……あの人数差だぞ?」

「ミレイ王の命令だからな」

「お、おいっ」


 俺は一気に走り出した。王の言葉の通りに迷うことなく俺は剣で後ろの一人を斬り裂いた。その一人が地面に倒れ伏すと同時に一気に他の人は散開する。

 俺みたいなのがこんな場所に居るって思ってなかったのかもな。最初の一人を斬った感触で明らかに油断していたことがわかる。


「お前たちは何者だ?」


 なんて問い掛けて見ても、誰も答えてなんてくれない。“縮地”を使って、もう一人の脚を斬り離す。その勢いのままもう一人も斬り付ける。


 命乞いを聞く必要は無い。ミレイ王が倒せと言っていたからな。


 ……うん、俺一人と十人以上の戦いなのに苦戦する感じがしないな。敵が振ってきた剣はもちろん躱して、返す剣で腕を斬り落とす。


 拳でも、肘でも、膝でも、足でも、人はあっさりと死ぬ。だからこそ、ちょっと前に戦った狼に比べて俺にとっては容易な相手だった。


 ……やっぱり、殺す事に抵抗はないな。


 致命的なダメージを与える場所はまちまちだけど、首だったり心臓だったりを斬り付け突き刺すことに何ら感慨を受けない。


 やがて、俺の周りには斬殺された死体が転がるだけになった。

 何人が逃げたとか、誰が逃げたとか、わかるはずも無いし興味もない。


 辺りが静かになって余裕が出来た。斬殺された死体の中に一つだけ入り交じっていた焼死体に視線を向ける。


 驚いた。まだ子供じゃねえか。


「……何があったんだろうな?」

「気になりはするが、これだけを見てもな」


 クレアの言う通りだ。幾ら何を考えても何かがわかるはずもない。つまり、この子供のことを考えたり慮ったりするだけ時間の無駄だ。


 この子供に何があったのか気になるが、気にするだけ無駄だ。


 俺の唯一の強力な能力を使ってみるか。生者やアンデットに使うとバレる事が多いからあんまり使わないが、アンデットでもない屍に使ったって誰にも文句は言われまい。


 "鑑定"


 名 前:レノ・ベルセルク

 種族名:人間族

 称 号:ベルセルク公爵の娘

 性 別:♀

 状 態:死亡


 この子が持っていた生前の能力までは、この能力を使ってもわからないらしい。


「……ベルセルク公爵って知ってるか?」

「ん? ああ、もちろんだとも。神王国ヤマト側の森に側しているアルセーヌ帝国領の一端を収める人物だ」


 なるほど、既に面倒くさい事態になってる気がしてきたな。


『アストレア、戦闘が無事に終わった。相手は全滅させた』

『はい、お疲れ様です』


 きっちり報連相をする。俺なんかより王の方が色々と出来るから、そう言った面でもかなり大事だ。


『焼死体を"鑑定"したところ、アルセーヌ帝国のベルセルク公爵の娘である事がわかった。そうミレイ王に伝えてくれ。あと、倒した死体とかをどうすれば良いのかも聞きたい』

『……今、ミレイに確認した。えっと、放置で良いみたいです。後で私達が回収しに行くので』

『わかった。……あれ、でも、アストレアって見た事が無い場所に転移出来たっけか?』

『そうですね。だから……』


「……なるほど、一端こっちにアストレアが来るわけか」

『数日ぶりですね』


 俺と"魂の契約"をしたアストレアは元々時間魔法と空間魔法の使い手だ。

 "魂の契約"によって、彼女は俺が居る場所に転移することが出来る。


 この場に姿を現した勢いのまま、アストレアの超魅惑的な肢体に抱きつかれた。


「数日で大袈裟だろ……」

『ふふ、ミリシャは私の物なので』

「ああそう……」


 アストレアは既に死んでいる。だから、ハグされても暑苦しいなんてことはない。


「良いのか? 戻らなくて」

『……そうですね。すぐに帰ってきて欲しいとミレイに言われているので』


 指摘をするととても悲しそうな顔をした。


「まあまあ、来ようと思えば何時でも来れるんだから」


 アストレアはいかなる時でも、俺の傍に姿を現すことが出来る。


『仕方ありませんね。では、また後日に何処かでお会いしましょう』


 アストレアは俺たちの前から姿を消した。


「……な、なんだったんだ? 今の……」


 クレアはアストレアが居た空間に目を向けて、本当に驚いた様子を見せていた。


「……俺の嫁?」

「そ、そんなに若そうなのに、もう結婚を……!?」

「結婚てか、強引に食われたというか、まあ、アストレアってめちゃくちゃエロいし食われた時に別にそれで良いやって諦めたというか……」

「な、生々しい話はしなくて良いっ!!」


 クレアは顔を真っ赤にして首を横に振った。どうやらその手の話に耐性が全くないらしい。

 結構大人な感じを受けるクレアがそういうのに初心ってのは、一定数の性癖に刺さる気がするな。


 俺もちょっと可愛いって思ったし。


「ちょっと可哀想だけど、ミレイ王が何とかしてくれるらしいから、俺たちは先に進もう」

「わ、わかった」


 そうして歩き続けて更に七日近く経った時に、俺たちの前には初めて喋る人が現れた。

 今までの木々に囲まれた獣道とは違い、馬車が通るくらいに開けた道で俺たちは話し掛けられた。


「お前らっ! 金銭の類を置いていけっ!」


 服装から見ても、言葉を聞いても、典型的な盗賊っぽいヤツらだった。


 合計で十人くらいか。


「……」


 俺は会話に取り合う必要も無いと感じた。だから、無言で剣を手に取って鞘から抜いた。


「抵抗しなければ命は取らねえ」


 そんなの律儀に守るとも思えないしな。


 正面で俺たちに色々と言ってくれた男を上から下に叩き切った。

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