第2話-旅立ち
私と陵はミリシャとアストレアが来る大分前からリビングに居た。ミリシャに渡す物と伝える事があったからそれの準備と、あと、出立の日は王様が待ち構えてた方がらしくない?
「おはよう、クレア」
陵に何を吹き込まれたか知らないけど、例の道場の生徒が来ていた。アルセーヌ帝国の案内をするから私の復讐に力を貸して欲しいと言われたから、まあ良いんじゃない?って伝えといた。実際に私はどっちでも良いしね。
ミリシャが嫌だって言ったらそれまでだよとは言ったけど、実際に彼が断わるか断らないかはわからない。
普通なら復讐しようとしている人を旅に同行させるはずがない。だけど、何となく断るとは思えないんだよね。
「おはようございます。ミレイ王」
その道場の生徒の名前はクレア、彼女は膝を折って私に頭を垂れた。
「ああ、そんなにかしこまらなくて良いよ」
「は、はい」
それにしても、来た次の日に出て行く生徒を見送る陵は一体どんな気持ちなのかちょっと気になる。
「まあでも、君の復讐は最後だからね」
「……はい」
「先走ったら殺して良いってミリシャに伝えとくから。流石にミリシャの方が彼女よりも強いんだよね?」
実はクレアの方がミリシャよりも強いとかだったら割と洒落にならない。
「クレアがミリシャに勝つのは、まあ、戦いに確実は無いけど……って感じかな」
「そんなに実力に差があるんだね?」
「だってあいつ、俺達に勝てないだけで普通に強いからな」
それでも陵には十秒も持たない……と、我が旦那ながらえぐい強さだよね。頼もしい限りだ。
「えっと、その人って緑色の?」
「ん、ああ、そうそう。いつも俺の周りで剣を振ってた奴」
「確かにガタイは良くて強そうだが……」
「まあ、お前も素人では無いだろうけど、あれは普通に強いぞ。人外じゃないってだけで」
クレアが剣とか荒事に関しては素人じゃなさそうだな~と、初見のイメージで思ってたけど、やっぱり素人じゃないんだ?
「そ、そうか」
「まあ、負けてみないとプライド折れなさそうだし、この街を出て行く前にミリシャと戦ってみれば良い」
送り出すんだから内輪揉めをされても困るし、クレアを連れて行くなら、そこら辺のプライドをキッチリ折って貰わないとね。
まあそもそも、ミリシャが付いて来ることを良しとするかなんてわからないんだけど。
「て、クレアだっけ、その椅子座りな?」
「い、いえ、そんな訳には……」
「早く座って、気に入らないから」
「は、はいっ」
王様だから目線を上にしなきゃとか、死ぬほど面倒くさい。ってか、地べたに膝を付きっぱなしにしてたら、私が下を見なきゃいけないからめんどくさいじゃん。
「朝食を作ろうか。そろそろあの二人も起きてくるだろうし」
ミリシャとアストレアはいつも起きてくるのが遅い。起こす必要も無いから起こさないんだけど、今日の内に出発して貰う予定だから、流石にさっさと起きて来てほしい。
「陵、起こしてきて」
「あいよ」
「レイアは手伝って」
「は~い」
レイアと二人で台所に立つ。
「あ、あの、私は……」
それを見たクレアは本当に困った顔をしていた。
「そこで待ってな。朝食は食べてきた?」
ここに住んでる子供達はかなり早朝から炊き出しをしてるから、もしかしたら既に食べてしまっている可能性があった。
「あ、いえ……」
「じゃあ、クレアの分も作っちゃうね」
「え、いやいや、その、申し訳ないです……」
ごにょごにょ言ってるけど上手く聞き取れないや。
王様が作って出したモノを遠慮して食べないってことは無いだろうから、そのまま遠慮せずに六人前を作っていく。
作るとは言っても、柔らかいパンを人数分スライスして、近場で取れた柔らかい動物の肉をスライスさせて乗せて、毒素分解の効果のある薬草をお洒落に盛り付けるだけだ。
「あ、そう言えばミレイさん」
「ん?」
「これ、もしかしたらミレイさんが前に言っていたドレッシングみたいな物かなって思って行商人から買っておいたんですが……」
そう言ってレイアは長細い瓶に入った液体物を取り出した。
「ちょっと味見しても良い?」
「はい、もちろんです」
銀色のスプーンで軽く掬って口に運ぶ。
んん、これは醤油とニンニクが混ざったような味がする……
つまり美味しい。
「当たりでしたか」
美味しくて顔に出てたっぽい。レイアが苦笑してた。
「うん、美味しい」
それを素直に肯定する。
「ふふ、それなら良かったです」
「可愛いな~もう」
思わず綺麗な銀髪の頭をうりうりしてしまった。
「そう言えば、レイアも背が伸びたよね」
「そうですか……?」
「そうだよ。前まで私の首より下くらいだったのに、今は首くらいじゃん」
「意識してなかったから気が付きませんでしたけど、確かに言われてみればそうですね」
レイアが踵を浮かせて爪先で立った。
「これでもミレイさんには……、わっ!?」
食器を持ったままレイアがつるんっていった。
咄嗟に彼女を抱き寄せて、彼女が持っていた食器を、宙を舞った食器を反対の手でキャッチする。
「……ねえ、レイア、なんで、偶にほんっとに馬鹿な事をするのかな?」
「ご、ごめんなさい」
そりゃあ、食器を持ちながら爪先立ちしてたらすっ転んで当然だ。それが予想出来ないほど頭が悪いはずもない。時たまこうやって子供っぽい所が露出するのは、レイアのちょっとしたお茶目な部分だと思うし私は可愛いから好きだよ。愛でたくなる。
リビングの扉が開け放たれた。
「美玲、呼んできたよ」
「おはようございますっ」
陵に続いて元気良くミリシャが入ってきて、その後ろをアストレアが存在感を消して入ってきた。まさにミリシャとアストレアの雰囲気は対極で見てる側としては本当に面白い。
「あれ、クレアさんじゃないですか。どうしてこちらに?」
「貴殿に同行させて頂こうと思ってな」
「へ~、なるほどぉ。別に良いですけど、リョウ様やミレイ王の許可は取ったんですか?」
ミリシャは一応クレアが身内でない事を理解しているのか、言葉だけでも私達に敬称を付けていた。立ち振る舞いはいつも通りだから、ちょっとした気味悪さがあるのは言わぬが花だと思う。
「良いって言ったよ。でも、ミリシャが嫌なら断っても良いからね」
「いえいえ、俺は人と旅した方が楽しいと思うので、むしろ一緒に来てくれるなら歓迎です」
「流石だね……」
私は気心許せてない仲の人と一緒に居るのは面倒くさいって思っちゃうから、ミリシャの“それすらも楽しめる精神構造”に尊敬の念すら覚える。
顔も良いし、人と一緒に居るのが楽しいって心の底から言えるのって本当に長所で、例え会話能力が低くてもコミュ力お化けになれたりする。
会話能力が高い=コミュニケーション能力が高い、とはならないんだよね。
彼の事をちょっと暑苦しいかもなんて思ったりするけど爽やかイケメンよりは良いかな。爽やかイケメンって行き過ぎると達観してる感じがあって、無性に顔面をぶん殴りたくなるんだとね。
「ほんとに、元がゴブリンだとは思えません……」
「それは本当にそう」
肌が緑色な事以外に彼にはもうゴブリンの要素が無い。レイアも彼の姿形であればゴブリンであっても萎縮しないらしくて、他の人と変わらないように接していた。
「彼、なんでもそつなくこなすので、居なくなったら困りませんかね?」
「むしろ何でも出来るから、行って貰うんだけどね」
アルセーヌ帝国に潜入して下手を打たなさそうな人材は、正直に言って、この国にはミリシャ以外に居ないんだよね。
本当に悲しいけど神王国ヤマトは人材不足だ。遠く離れた他国に送り込めるような、そんな都合の良い人材なんて居ないんだよね。
レイアが持ってる人員は全て奴隷だし、奴隷を送り込むわけにもいかないし、陵は私のボディガードだから行かせられないし、ってか、陵を送ったら王様を討伐してきそうだから絶対に潜入なんてさせられないし……
「はあ……」
「人材不足ですねえ」
ま、そんなこと考えても仕方ないもんね。
「はい、皆も座って~」
ちょうど食事の準備も終わったし、気分を入れ替える為にも朝食の時間にしよう。
カクヨムにて「進化したゴブリン、異国に潜入す」というタイトルで、ミリシャが主人公の物語を掲載します。それに伴ってこちらの更新頻度は落ちます。もし宜しければ、そちらの方も合わせてご覧ください。




