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第1話-道場主の一日③

 俺と美玲、レイアの三人は、夕食の時間を終えてもまだリビングに残っていた。


「美玲、ちょっと良いか?」


 さっき聞いたばかりの国名を彼女の口から聞くとは思わなかったから、一応生徒の話を耳に入れておこう。


「ん? どしたの?」

「そのアルセーヌ帝国の件って、ひょっとして第一王子が関係してたりするか?」

「そうだけど。……何で知ってるの?」


 美玲は目を細くした。


「道場の生徒から聞いた」


 あの女の名前なんだっけな……


「へえ、なるほど。報告ありがとう」

「……どんな国なんだ?」


 流石に気になって聞いてみる。美玲にも俺に話してくれないような話題や内容が沢山あるから、聞けるとは限らないのは重々承知だ。


「まあ、陵だったら話してもいっか。えっとね、アルセーヌ帝国の第一王子って人族至上主義なんだよね」

「へ、へえ?」

「で、つい最近なんだけど、第一王子が王位を継承する可能性が飛躍的に高まったんだよね」

「第一王子だし、それは自然な事だよな?」

「それはそうなんだけど、アルセーヌ帝国って私達の国からそんなに離れてないんだよね」

「へえ、具体的には?」


 美玲は地図を取り出して、神王国ヤマトの場所を指差す。


「ここだね」

「隣じゃん」


 神王国ヤマトが自国と見なしている土地から大きな森を挟んだ先にあるのがアルセーヌ帝国だ。リリアーナが王になったグラティーナ王国の正反対にある。

 

「そうだね。まあ、アルセーヌ帝国側は私達の国から離れてるから戦争を吹っ掛けてくることは無いんだけど、ちょっと色々とね。

 他人種を認めない国は周りにいるだけで邪魔だから、第一王子が王位を継承する前に潰すか属国にするか、それとも別の王位継承者を探すか……」

「別の王位継承者って、それって実質属国だろ?」


 美玲は肩を竦めた。


「なんでも良いよ。レイアも私も多種多様な種族が入り混じった国家を作ろうとしてるから、その邪魔にならなければ。

 それより、ミリシャは喜んで引き受けてくれそうだけど、剣の実力とかはどうなの?」

「ん~、実戦になってみないとなんとも」

「見込みで良いよ」

「見込みか~」


 道場の中で上位の腕は持ってると思う。でも、天地がひっくり返ったとしても俺やルビアには勝てない。


「俺の中では結構強い方だとは思うけど」

「陵を相手にして何分持つの?」

「刀が届く距離なら掛かって十秒」

「ん~、陵に対する質問の仕方を間違えた気がするよ」

「俺もそう思う」


 強かったとしても、俺を相手に十秒持つ相手は殆ど居ない。


「まあでも、切り抜ける力はあると思うから大丈夫じゃないかな」


 俺が言えるのはこれくらいだな。結局いくら技を覚えても、コツや上手いやり方を覚えても使う人次第だしな。


「ミリシャには“鑑定”もあるから、敵情勢を把握するのには向いてるのはわかるんだけど、もし何かがあったらアストレアに私が殺される気がするんだよね~」

「そもそも、さっきの話ってアストレアにはしたのか?」

「ん? それはもちろん。むしろ、私にばかり構ってると良くないからって」

「え、全然想像できない……」


 アストレアってめっちゃ独占欲が強い重過ぎる女ってイメージがあるんだけどな……


「なんか、絶対に私が彼の一番なのでって」

「め、めっちゃ自信あるな……」


 アストレアはいつも寡黙だから、そんなことを言うイメージが全然ない。


「なんかね」

「まあ、ならそんなに気にしなくても良いんじゃないか?」

「いや、流石に死なれたりしたらかなり凹むからね??」


 美玲が言わんとしていることもわかる。これで行った先で死なれたら目覚めが悪すぎる。


「それってどうしようもないと思うんだけど」

「まあねえ……」

「ミレイさんが幾ら気にしても変わらないですよ」


 レイアが俺と美玲の分の飲み物をテーブルに置いてくれた。温かい飲み物だ。


「なんて飲み物なの?」

「ここから遥か東方の地で取れる木の実の葉っぱを使って作られたモノで、ミケンと呼ばれてます」


 甘いけど、甘ったるくはない香りがする。


「ミケンね。好きなの?」

「最近ちょっとハマってますね」

「レイアの流行りか」


 レイアが何処からか仕入れたオススメの品を、夜な夜な三人だけで飲んだり食べたりする。


「あ、結構おいしいかも」

「ですよね」

「甘いけどくどくないから、俺も好きだな」


 フルーツのお茶みたいな感じだ。甘過ぎず、けれども、本当にちょっとしたお茶っぽい苦みがある。


「それなら良かったです」


 レイアは裏表のない笑みを浮かべた。


 彼女がどれだけ頭が良くてもまだ少女だ。一年も立てば背も伸びる。ちょっと背が高くなったな……なんて思うのは、ここ最近のことだ。


「一階の調子はどうなの?」

「調子は良いですよ」

「そっか、それなら良かった」

「ただ、さっきも話してましたけど、アルセーヌ帝国のスパイが増えてますね」

「へ~、大丈夫なのか?」

「今の所は特に問題無いです。護衛の人数も増やしてますし」

「そっか。まあ、何かあったら言ってくれ」


 スパイが増えるって嫌な感じするな。


「どれくらい捕まえたの?」

「十人くらいですかね」

「一か月で?」

「はい」

「よくわかったね?」

「地道な調査と住民の観察ですね。でも、監視に抜けはあると思うので、早いうちにアルセーヌ帝国に反撃出来たらなって思ってます」

「スパイ全員を吊るすのは無理だから、そうするしかないよね」


 スパイって最初っからスパイじゃない可能性もあるから、必ずしも外部からの人間だけがスパイに成り得るとも限らない。

 絶対に有り得ない事だけど、俺がアルセーヌ帝国から金を貰って情報を流したら、それはもうスパイ活動の一環だからな。


「でも、反撃ってどうするの?」

「リリアーナにアルセーヌ帝国との国交の断絶を依頼しました。また周辺国に神王国ヤマトと冒険者ギルドから圧力を掛けます」

「冒険者ギルドって、どこの国に対しても中立なんじゃないの?」

「あ、ああ、そうでした。先に断りを入れるべきだったんですが、リョウさんの道場って冒険者に無償で技術を教えてるじゃないですか?」

「冒険者に限らないけどな」

「まあまあ。それでも他の団体に比べて多くリョウさんが見てくれてるので、交渉のカードとして使わせて頂きました」

「でも、それだけで冒険者ギルドが首を縦に振るかな……」

「元々、多様な人種に不寛容な国家は新たな大地を目指す冒険者にとって目障りなのです。なので、脅されたと言い訳が出来ることが、そもそも冒険者ギルドには渡りに船ですよ」


 話が難しくてよくわからないな。


「ふ~ん。ねえ、陵」

「ん?」

「道場の生徒で、アルセーヌ帝国に詳しい人が居るんだよね?」

「そうだな」

「今から連れて来れる?」

「……今から?」

「うん」

「……今からか。わかった」

「ごめんね」


 唐突過ぎて思わず二度聞いた。


「良いよ。行ってくる」


 靴を履いて、すっかり日が暮れてしまった夜空に繰り出した。



 エネルギー発生所が完成したこともあって街の灯りが煌々と光り輝いていた。

 一年前は真っ暗だった。一年経って、灯りがあるだけで大して発展もしていないこの場所が発展したように見える。


 灯りって大事なんだな……


 道場生の女子寮の扉を叩く。

 

「先生、どうしてこんな夜に?」


 冒険者でよく教えている生徒が扉を開けてくれた。確かこの生徒はミスリルランクだったっけな。


「今日来た新顔を呼んでくれるか?」

「あ~、わかりました」

「夜遅くに悪いな」

「いえいえ、いつもお世話になってますから。ちょっと待っててください」


 女子寮なら、俺じゃなくて美玲が来た方が良かったんじゃないか? なんて思っても、ここに来てしまった以上はもう遅い。


「先生、こんな夜に一体どうしたんだ?」

「アルセーヌ帝国の件でな」

「……何だ?」

「明日以降に国の人って言って良いのかわからないけど、アルセーヌ帝国に向かわせることを決めた」

「それを何で私に?」

「この情報は復讐をしたいと言ったお前に対するおまけだ。そして、俺達は色々とアルセーヌ帝国の内情を聞きたい。付いて来てくれるか?」

「……先生は何を考えている?」

「大切な人の復讐に対する同情、かな。……俺だったら、今すぐに国をひっくり返してでも殺す。だから、なるだけチャンスは早い方が良いだろ?」


 どうしてもな。復讐に固執してしまう程に大切な人を失くした、その後を他人事には思えないんだよな。もちろん、余計なお世話だってこともわかる。わかってるんだけどな……


「取り敢えず、付いて来てくれるか?」

「……わかった」


 前情報は話してやった。そのチャンスを物にするかはお前次第だ。

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学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

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