第10話-新たな②
山の麓に街を作り始めて、数か月が経った。
山の頂上にある私達の家の近所は、やはり、未だに賑わいの一つも見せてはくれなかった。
「俺はこういう場所も好きだけどな」
「陵が言いたい事もわかるけどさ、やっぱり国としてはね」
道場に来る冒険者や腕に自信がある者達、それから何処かの国の物好き貴族がバカンスとして来るくらいで、それ以外に人の出入りはない。
山の麓、今は神王国ヤマトの一階って呼ばれてるんだけど、基本はそこで人を対応するようになったから、商人もここまで登ってくることは無くなった。
冒険者ギルドも近々一階に移動するらしい。なんでも、山登りの途中で行方不明になるような腕のない冒険者も居るらしくて、それを防止する為だとか。
ダンジョンマスター専用のエレベーターはダンジョンマスターにしか使えないからね。
「美玲はそう言うけど、一階は凄い賑やかだろ?」
「まあね」
「こっちは国として、ではなく、俺達の庭とか、そんな感じで使った方が効率的だと思うんだけどな」
「まー、実質的に庭だよね」
今は子供達とドワーフ族と道場に通いにくる冒険者や腕を磨きたい者達しかいない。ドワーフ族はまだ人間が怖いから頂上に留まる事を選んだ。
レイアの奴隷は一階で彼女の手足として色々と働いているらしい。一階はもう立派な街として機能している。私は殆ど一階に対して口出しをしてない。
もう完全に別の国なようにすら思える。
「私さー、ずっと思ってる事があるんだよね」
「どんなこと?」
「一階と頂上で、国を分けるべきなんじゃないかって。
私に国をどうこうする力は無いし、だとしたら、初代女王としてレイアが一階で新たに建国をすべきなんじゃないかなって」
この数か月であっという間に形になった一階を見て、そう思った。
「美玲がそれで良いなら、俺はそれで良いと思うけど」
「まあ、陵はそう言うよね」
国とか興味無さそうだもんね。
「でも、色々とやりたい事があったんじゃないのか?」
「もちろんあったよ。でも、それは国として国が機能してなくても、国を名乗れれば出来ることが殆どだってわかったから」
他国の王様にぺこぺこしたくない。飢えた子供が居たら拾いたい。自分が正しいと思う事を突き通せるだけの力が欲しい。
でも、それって、別に国が発展してなくても何とかなるんだよね。
「ってか、俺達には聖王国を打倒するって目標があっただろ?」
「それは一緒に戦ってくれる人を個別に声を掛けて揃えた方が良いなって感じたんだよね。ルビア、魔王、ちょっと劣るけど炎帝のエリスが今は参加してくれそう」
「あー、国を作ったけど、想定してたよりお眼鏡に叶う人が来なかったのか」
「そういうこと」
国を作って、それから道場の噂を冒険者ギルドに流してもらった。冒険者ギルドって世界規模の組織だから、もっと色々な所から強い人が来るのかなって思ってたんだけど、コイツ強いなって奴が来たって陵から聞いたことが無いんだよね。
せめて、陵に強いって言わせるような人がもう少し集まるかなって思ったんだけど、今の所は集まる気配すらない。ルビアも魔王も国がどうとかあんまり関係ないしね。
「なるほどな」
「後はまあ、単純に国が栄えるのに山の頂上だと、時間が掛かり過ぎて話にならないって感じかな」
「飽きたのか?」
「……そうとも言うかも」
聞こえは悪いけど、簡単に言えばそう言う事になる。
「エネルギー発生所もそろそろ完成するみたいだしね」
「あー、あれ、そろそろ完成するのか」
「これでやっと、エネルギーの供給が安定する……と思ってる」
「魔物とか狩ってこないとだからな?」
「それはどうとでもなるよ。アストレアを仲間に出来て本当に良かった」
「アストレアの空間魔法は反則だからな……」
実はアストレアは一度行った場所には自由自在に転移が出来てしまう。それに気が付いたのは本当に偶然だった。
ある日の暮れのこと。
私はその日は珍しく一人でずっとリビングのソファでゴロゴロとしてた。
アストレアとミリシャが住んでいる部屋からは物音一つしなくて、当然ながら部屋から出て行った音も聞こえなかった。私と同じようにダラダラしてるんだと思ってた。
けど、違った。
急に玄関の扉が開けられたと思ったら、その後にミリシャとアストレアが姿を現した。
外に出てった素振りとか見て無いし、物音一つしなかったけど? って聞いたら“こんな魔法が使えます”ってアストレアに目の前で瞬間移動を見せられた。
因みに別の場所に瞬間移動する魔法を転移魔法って総称するらしいんだけど、それを距離関係なく使えるのは世界の全てを見て回ってもアストレアという存在だけらしい。
唯一ネックになるのは。見た事の無い場所には行けないことだけど、その魔法の凄さに比べたら気にならない。
「アストレアも聞かないと話さないからね」
「まあ、あれはそんなもんだろ」
めっちゃイケメンなミリシャを愛でる事以外に興味が無いから、仕方ない気もする。
「そう言えば、ミリシャが冒険者ギルドで冒険者登録をしたらしいぞ」
「え、そうなの?」
「なんでも、いつか旅をしたいって」
「え、ってことはアストレアも?」
「アストレアは行かないって。死人は何処で誰にタブー視されるかわからないからって」
「そう……なんだ。でもそれって、なんかちょっと悲しいね」
ミリシャがアストレアを好いていて、アストレアはミリシャに対して最早推し活状態になっているのは知ってるから、好き合ってる者同士が一緒に色んな所に行けないのは可哀想だなって思う。
「なんか、アストレアは一瞬でミリシャが居る場所に直接転移出来るらしいから、そんなに気にしなくて良いと思う」
「え、何それ聞いてないんだけど」
「俺もミリシャ経由で聞いただけだし。あと、ミリシャ曰くアストレアってニート気質らしい」
「それでも、一緒に行きたいとは思うでしょ」
「思うけど、ちょっと転移して遊んだら、後は家に帰りたいって本人が言ってたって」
「ええ……、なにそれ……」
「何でも、疲れるから人と話したくないって」
めっちゃ色々と拗らせてるようにしか聞こえない情報ばかりを彼から聞いて、私は思わず眉を潜めた。
「人によって価値観って違うもんね」
「数百年も存在してたら特にだろ」
陵の言葉に頷くことしか出来なかった。
「聖王国に攻め入る時は、アストレアに転移で送ってもらうことになるかな」
「まあ、それが楽そうだよな」
「多分、私の言う事は聞いてくれると思うし」
最高神アラティナがアストレアを排除しようとしたことがあったんだよね。私が全力で拒否したけど。だから、その分の恩は流石に感じてくれてると思いたい。
「流石に聞いてくれるだろ。じゃなかったらアストレアは他の所に行ってると思う」
「まあ、だよね」
アストレアの空間魔法ありきではあるんだけど、遠くに離れた人にメッセージを送れるようになった。もちろんそれ専用の機械は必要なんだけど、取り敢えずは出来るんだよ。
あんまりメッセージのやり取りをし過ぎると、アストレアの仕事が増えるから緊急時のみしか使われない。転移の技術で言葉を転移させてるって感じだね。
その機械を使ってレイアに重要な話があるから、時間が空いた時に家に来てってメッセージを送る。
これからの国のことを、ね。
「帰ろっか」
「ん、だな」
閑散とした街道を抜けて、私達は家に帰った。
**
「な、何ふざけた事を言ってるんですかっ!?」
レイアは美玲の言葉を聞いて大きな声で叫んだ。
「建国してって言ってるだけだよ?」
「それが巫山戯てるって言ってるんですっ!!」
「そ、そうかなあ……」
「ミレイさんが突拍子も無いことを言うのは別に珍しくないです。けどっ! それはあんまりですよ……」
国作りを飽きたから辞めるって、前代未聞だと思うしな。
「一階に比べて頂上は人も来ないし、国として使う必要性もない。だったら、一階だけで国を作った方が良くない?」
「別に一緒でも困らないですよ」
「私が主体になるのを辞めたいんだよね」
「でも、それはミレイさんが国を作るって……」
「まあ、飽きたから辞めるって中々にわけがわからないもんね」
「それはそうですけど、それ以上に私は……」
「私は?」
「せめて、神王国ヤマトに居たいですよ」
レイアの声は確かに震えていた。
「……なんで?」
「私は一人にはなりたくないです。ミレイさんと一緒に居たいです」
泣きそうな顔をしていた。
その表情を見た美玲は瞳をパチパチと瞬かせてた。
「……そっか、ごめんね。うん、そのままで居ようか」
「そうが良いです……」
美玲はレイアを優しくギュッと抱きしめた。
「だとしたら、レイアには王様と同じ権限を持つ立場を与えようかな」
「今ももう既に好き勝手やらせてもらってますけどね」
「ううん、こう言うのって肩書きが大事なんだよ。今から神王国ヤマトの宰相にレイアを任命します。以後、国の繁栄に務めるように」
「ありがとうございます。……なんて、急に決めないでくださいよ。って、宰相が王様と同じ権限って色々と変ですよ」
「細かいことは気にしなーい。もう決定だよ」
「むう……」
「好きにやって良いからさ」
「……わかりました」
彼女達は抱擁しあい、レイアは満足そうな表情をしていた。
結局、殆ど今までと変わらないらしい。
俺の生活も、何も変わらなさそうだ。




