第10話-新たな
便利ってそもそも、誰かが使いやすいように纏めたりした後の物事につく名称だ。
それを主軸にして使うのって、例えば会社とかだったらまだビジネス的な意味合いで役に立つかもしれないけど、国を立ち上げるってそれ即ち、何かを一から作らなければいけないから、安易に便利な物に頼るべきじゃない。
もちろん、他人の便利を拝借する事によって、国が急速に発展する事もあるから、国としての特色を意識しつつパクって行くのが一番良いよね。
そこまで理解した上で、やっぱり、ミリシャの“鑑定”というスキルはあんまり使う気にはなれなかった。
私もそれなりに料理するのに“料理”とか“調理”って技能名は彼には見えなかった。それは私が使う気にならない主な要因だね。
だって、一つの料理を作る事が出来るだけでお金を稼ぐことだって、方法によっては可能なわけで、だとしたら能力ばっかりに固執すると、色々な物を見落とすのは明確だ。
だから、私はミリシャの能力は極めて局所的な部分で使う事を彼に伝えた。
それから、レイアとミリシャの能力について話してみたけど、その結論が変わる事は無かった。
昨日はレイアとダンジョンを山の麓まで伸ばせるかチャレンジしてた。
一応伸ばす事は出来たんだけど、私の魔力とか神力とか沢山の力が持ってかれたから、街作りは次の日にしようってなったんだ。
そんなこんなで、今はダンジョンにいた。頂上から麓の高さに降りて来ていた。
「昨日は麓にダンジョンを伸ばすので手一杯でしたね」
レイアの言う通りで、山の頂上から麓の高さまで一直線にトンネルが出来ただけになっている。言い換えるとエレベーターの通る道にエレベーターが無いような状態だ。
つまり、街を作れるほどの広さは当然ないし、外への出入り口すらも確保されてない。
じゃあ、そこまでどうやって降りたのかって? レイアがダンジョンマスターらしく壁から地面を生やして、それに私達が乗って、ダンジョン版エレベーターみたいにして降りたよ。
「麓を全て空洞にするってことですもんね?」
「いやあ、流石にそれは天井抜けると思うけど?」
「あ、それはそうですよね……」
これってもしかして、私達だけだと何も出来ない感じかな? せめて建築技術に詳しい人を連れて来ないとって感じかな?
「頂上に戻って、ドワーフ族を一人借りてきましょう」
「ドワーフ族って、建築も出来るの?」
「……多分」
「微妙な感じなんだね?」
「はい……」
取り敢えずここで話してても始まらないから、さっさと頂上に戻ってドワーフ族の家の扉を叩いた。
「建築に詳しい人って居るかな?」
「……また、唐突ですね」
「ごめんね」
グーにちょっと呆れた顔をされた。
ドワーフ族にはエネルギー発生所に使うパーツとかも作って貰ってるから、これで更に建築もって言われると手が回らなくなりそう。
「物作りを関わるのは嫌いじゃないので、構いませんよ」
「あれ、グーが動けるの? ってか建築なんて出来るの?」
「流石に上になってしまうと、自ら物作りに直に触れる機会が減ってくるので。物作りは一通り出来ますよ」
ドワーフ族のまとめ役のグーは物作りでも指示出しがメインみたいだね。
「指示を伝えてくるので、少しお待ちください」
「うん、待ってるよ」
暫くしてグーは家の外に出て来た。
「あ、外に待たせてしまって申し訳ありません」
「あー、良いよ。時短優先だから」
「はい、助かります」
王様の歓待とか一々やってたら日が暮れてしまう。
「じゃあ、ちょっと付いて来て」
私とレイアはグーを連れて、子供たちが出入りしているダンジョンの出入口の前に立った。
「こ、この入口は?」
「あれ、見た事ない?」
「いえ、子供達が入って行くのは見た事がありますが……」
「ここはね、ダンジョンの入口なんだよ」
「ダンジョンっ!?」
「って言っても、魔物は居ないから安心して」
「魔物が居ないダンジョンってあるんですね……」
その反応は少し前のレイアみたいでちょっと懐かしい。
「こちらに来てください」
エレベーター代わりに使っている地面の上にグーを乗せる。
「おおっ!? 地面が沈んで……」
「私が故意にやってるので、焦らなくて大丈夫ですよ」
あたふたとしていたグーにレイアはきっちりと声掛けをする。うん、そういうの大事。
「着きました」
ゆっくりと下に降りた地面は、やがて、麓と同じ高さに辿り着く。私は魔法で火を灯した。
「えっと、壁、ですよね?」
「今からここを、こんな感じで空洞にしていこうと考えていまして」
「!?」
レイアが手を翳した先が、ゴッソリ消えて空洞になった。
「その際に天井が抜けない設計にしたいのです」
「な、なるほど?」
「そこで、建築に詳しい方のお話を伺いたくて」
「は、はあ……」
「今から空洞を作っていくので、天井が抜けないように柱が必要な場所をお教え頂いても宜しいでしょうか?」
「わ、わかりました」
レイアは土塊を退かして、四方に段々とゆっくりと空洞を拡げていく。それに合わせて私も無数の灯りを飛ばして見えない場所を無くす。
「止めてください。それ以上に行くと抜けます」
「どうしたら、伸ばせますか?」
「ここからここと、ここからここに一列に柱を作ってください」
レイアはグーの指示に大人しく従って柱を作っていく。
「もっと広げても?」
「は、はい」
「止めてください。それ以上行くと抜けます。ここからここと、ここからここに一列に柱を作ってください」
レイアとグーの会話だけで、段々と空間が広がっていく。グーの指示はあくまでも天井が抜けない事を意識しただけの物でしかなくて、そこにデザイン性は皆無だった。
やがて、四方に広がっていた一部が外に繋がってしまった。
「おお」
結構時間が掛かってたから、思わず外に繋がった感動で声が出ちゃった。
「あちらにはもう伸ばせませんね」
「では、それ以外の方面で?」
「はい、まだ続けます」
「失礼ながら、レイア様は太古の言い伝えにあるダンジョンマスターでお間違いないですか?」
「その言い伝えは聞き及んでいませんが、ダンジョンマスターですね」
「……なるほど」
グーは少し思案顔になった。何かマズイ事でもあるのかな?
「あ、そこで止めてください」
「はい」
やがて、高さ十メートルくらいの大きな空洞が出来た。外に繋がる穴は四つあった。
「この穴をこのままにするのはヤバいよね」
「そう……ですね。勝手に誰かに入られたら困ります」
正しく山の麓に繋がっている穴を何もせずに放置するのは不味い。
「扉が完成するまでは塞いでおくしか無いんじゃない?」
「それが……私だと、穴が塞げなくて……」
「え、なんで?」
ダンジョンの事を好き勝手出来るのがダンジョンマスターじゃん?
「穴が出来て外と繋がってしまったせいで、穴の周りがダンジョン外だとダンジョンコアに認識されてるみたいで……」
「そんなことがあるんだね。じゃあ、仕方ないか」
私は魔法で岩を作って、穴の外側にゴンって置いた。
「助かります」
今回は思ったより魔力とかそこら辺を持ってかれなかった。なんでだろうね?
後で魔王に聞いてみようっと。
「今日は助かったよ。ありがとね」
「いえ、住む場所は食料も分けて頂いているので」
「また、何かあったら聞きに行くからよろしく~」
頂上に戻ってグーと別れた。
「ちょっと魔王の所に行ってくるよ」
「あ、はい。お気をつけて」
レイアとも別れて、私は魔法を使って魔王城に飛んだ。
「城の入口ってこれかな」
空に浮かぶ魔王城は思ったよりもしっかりと城になっていて、四方は背の高い城壁に囲まれていた。背が高いっていっても、城の方が何倍も高いんだけどね。
「この魔王城にお客様とは、随分と珍しいですね」
「へえ、そうなんだ。魔王ってここに居る?」
「……いえ、こちらには居ませんよ」
魔族なんだろうなあって見た目をしてる。私が魔王って呼び捨てにしたら眉を細めたのが気がかりかな。
「そっか、じゃあ良いや。邪魔をしたね」
ここに居ないってことは、道場にでも居るんだろうし。
私の立場上、魔王に魔王様なんて言っちゃダメだ。もしそうじゃなくても様付けなんてしたくないけどね。
そのまま魔王城から空に飛び降りた。
道場に行ったら、ちょうど陵と手合わせをしている最中だったから、陵が魔王を倒すのを待ってから魔王に声を掛けた。
さっきのダンジョンの出来事を説明する。
「それはダンジョンコアが土を食べてエネルギーにしたのだろう。ダンジョンコアというのは、様々な物質を力に変換する事が出来る」
「空洞を作った時にダンジョンコアが土を食べたから、なんだね。でも、昨日は使ったんだよね」
「恐らく、昨日は山の麓の高さまでダンジョン化していなかったのだろう。だから、地面を掘る力が必要だった。だが、山の麓の高さまで一度掘った事によって、この山をその高さまでダンジョンだとダンジョンコアが認識したのだろう」
「ううん、それってどういう仕組み?」
「それは流石に私もわからん」
「なるほどねえ」
あくまで置いてあった公式を使ってるだけで、中身がどうなってるかはわからないんだね。
「研究熱心な人とか雇えばわかったりするのかな……」
私も気になる仕組みではあるけど、だからと言って、それにばかり時間を避けるかと言われればそうじゃない。
「人間族にそれは難しい気がするな……」
「魔族は居ないの?」
「あー、居るには居るが、ダンジョンに興味はない」
「そりゃ無理だね」
研究者に自分の興味以外の物を研究しろって言ったって、大してやってくれるはずもない。
「そう言う事だ。ダンジョンマスターをやっている知的生命体が、そもそも私以外だとあの小娘しか知らない」
「小娘言うな。そもそもダンジョンマスターって人前に出てこないもんでしょ」
「そもそもダンジョンコアはダンジョンマスターが無くても勝手に動くから、マスターが必要ないんだよ」
「そう言えばそうだった」
陵とルビアの組手が終わった。
「流石に疲れた。次はルビアと魔王な」
「あいわかった。では、また後でな」
「はいはーい」
陵はスッキリした顔で、魔王が座っていた場所に座った。
「楽しい?」
「まあ、楽しいな」
「それは良かった」
陵が楽しそうで何よりだよ。少しだけ彼と他愛ない話をして私は家に帰った。




