第9話-陵とミリシャ②
「リョウ様、お願いします」
「あいよ」
俺はこの身体になって初めて剣を持った。
あんなに大勢の敵の中で一人、近接武器だけで大立ち回りをしたリョウ様は間違いなく俺より強い。
「あ、その前に」
「?」
「お前は何処まで強くなりたい?」
リョウ様の問い掛けに俺は思わず首を傾げそうになった。
でも確かに、目標地点が無いと練習のしようがないか。
「……人を守れるくらいまで」
「じゃあ、いつまでに?」
そりゃ、期間とかも決めないと予定を立てられないよな。
「なるべく早く」
その答え意外、俺の中には無かった。
「だとしたら、力だけに頼るのは止めた方が良い。先に言っておく」
「……え?」
「よく勘違いする奴が多いけど、力だけで誰かを守りたいって思うなら、それは常に世界で一番強くないといけない。
だって、自分が誰か一人に勝てなかったら、その一人が守りたい人に危害を加える事を許すことになるだろ?」
「確かに……」
「だから、お前に必要なのは色んな人を味方に付ける能力だな。
……ああでも、ある程度の力はあって良いと思うから、もちろん教えはするよ。
人を味方に付ける、それに関しての相談は美玲にしてみれば良い。答えてくれるかはわからないけど」
「はい、わかりました」
つまり、この人は自らが世界最強に達していると思っているのだろうか?
「だから、これから先の人生で、近接の技術において俺には勝てないけど、一年くらいで……そうだな、オリハルコンランクくらいの強さには仕上げてやる」
「オリハルコンランク……?」
オリハルコンランクってのは有名な基準なのだろうか? 俺にはわからない。
「ああ、まあ、人類の中でそこそこの強さって感じだな」
リョウ様は困ったように頬を掻いて、言い直してくれた。
そこそこ……か。
「じゃあ、まずは剣を振ってみろ」
「……はい」
リョウ様の前で横に、縦に、剣を振るう。それを彼はとても真剣な眼差しで見ていた。品定めされている感じすらある。
「なるほど、今の今まで我流だったのか」
「やっぱり直さないとですよね」
「直したいならな。でもまあ、剣の振り方ってその通りに振ったから強いってわけでも無いしな」
「そうなんですか?」
「うん」
へー、そうなんだ。
「ただ、我流は才能が無いと行き詰まるんだよ。自分の殻を自分で割らないといけない。
逆に、既にある正しいとされる方法に乗っ取れば、誰かが殻を破った方法すらも模倣できるから、その点が比較的楽になるんだよ」
「なる……ほど?」
「まあ、難しい話だからあれだけど、我流は才能が必要だと思えば良いと思う。いいや、ちょっと俺と戦ってみようか」
「えっ!?」
「そんな慌てるなよ。ボコボコにするわけじゃないんだから」
「……はい」
滅茶苦茶に怖いっ!? いやだって、あの有象無象の魔物の中を一人突っ切って、わけわからない動きばかりで片っ端から殺してった人と剣を向き合わせるって……
「最初はそっちの剣を受けるか躱すかだけにするよ」
「は、はい」
「じゃあ、来な」
リョウ様が片手に持ったのは、いつも持っている黒い鞘の剣?ではなかった。平たくちょっと短めの剣だった。それでも大きさ的には腕一本分くらいはあった。今俺に貸してくれてる剣と同じ大きさの物だった。
「行きますっ!」
**
ミリシャの剣を全てスウェーで躱す。まあ、初心者って感じだな。ある程度の素振りはしてたんだろうなってのは、剣の軌道やブレの無さを見れば理解できる。
……まあ、それでもブレてるけどな。所詮は初心者の付け焼き刃レベルの剣だ。
剣を受ける必要が無いから、俺はただひたすらに躱し続ける。相手の隙があった時に、剣が振れない近間まで接近して軽く転ばない程度に突き飛ばす。
イメージとしてはボクシングのダッキングに近い。この動きはダッキングの技術を実戦向けに俺が改良したものだしな。
「疲れたのか?」
「まだまだっ!!」
彼の少し息が切れてきた。身体の体躯の割に体力が無いなって印象を受けた。
結局、今の模擬戦闘の中で俺が剣を使った事はない。持ってるだけだ。俺は元々武器を防御に回さないから、剣を鍔迫り合わせないのは通常運転だ。
これは彼が上手い下手の問題ではない。
だけど、彼の剣がどれくらい力があるのかも気になるから、彼が振り被った剣を正面から受け止めてみた。
「ぐうっ!」
初めて重なった剣の刃に、彼は逃がすまいと力を掛けてきた。力はまあまあ強い気がするけど、どうだろうな。
取り敢えず言えるのは、剣を使うだけなら困らなさそうだ。
「!?」
彼が俺に掛けていた力を抑えていた腕力を抜く。彼はたちまちにバランスを崩した。俺に対して力を掛け過ぎたんだろう。
「ま、この辺で終わりで良いかな」
倒れた彼の首に剣を当てる。
「……はい」
がっくりと項垂れていた。もう少し善戦できると思っていたのかもしれない。
「一応、基本的な剣の振り方を教えるよ。それで、その用法が自分に必要なのかどうかは、自分で取捨選択しろ」
「わ、わかりましたっ!」
「……あと、ちょっと下がってろ」
そう言った直後に黒の剣士が俺の前に姿を現した。
「何で来ない?」
「今日は気が進まなかったんだよ。悪いな」
ここまで来たのにも関わらず、ルビアは相変わらず仏頂面だった。
「リョウ、私も待っていたのだぞ?」
「お前もかよ。めんどくせえ……」
ルビアの後に姿を現したのは魔王だった。お前ら、本当に俺のこと好きだよな。
**
やばい。
取り敢えず言えるのは、彼らはやばい。
一瞬、ほんの一瞬でさえ、敵意を見せたら、あっという間に殺される未来が見える。
か、鑑定しよう。相手がどんな人なのか、それがわからないと何もわからない。
名 前:グラウディック・バイス・ゴリアレイス
種族名:魔王
称 号:第一〇〇代魔王
性 別:♂
スキル:
闘術 Lv10
統治 Lv10
威圧 Lv10
金剛 Lv10
怪力 Lv10
カリスマ Lv10
自然魔法 Lv10
名 前:ルビア
種族名:神龍(人)
称 号:神龍の力を受け継ぎし者
性 別:♂
スキル:
剣術 Error
格闘術 Lv10
竜魔法 Lv10
自然魔法 Lv3
怪力(龍) Error
うん、ステータスを見ても全然どんな人達なのかイメージが湧かない。
ただ言えるのは、魔王と神龍ってなんだよ!?
もう訳がわからない……
「態々ここまで来て、喧嘩でも売りにきたのか?」
「軽く流す程度に手合わせをしてくれ。道場生ではやはり、相手にならない」
「……やり過ぎて無いだろうな?」
「流石に怒られるようなことはしてない」
「そか、まあ良いや。ってか、お前らでやれよ」
「やった。ただ、飽きた」
「ああ、飽きた」
「飽きたって……」
リョウ様は頭を抱えていた。
「んなこと言ったら、毎日俺と戦ってるだろ。特にルビアはそうだろ?」
「そうだな」
「だったら、俺と戦ったって変わらないだろ。飽きたならそのまま帰れよ……」
そんな彼らにめっちゃ軽い口調で話し掛けるリョウ様って、いったい本当に何者なのだろうか?
前に鑑定した時も彼の種族は“人間?”だったから、多分人間だとは思うんだけど、今現在の彼を取り巻く環境を見ると、本当に人間なのか怪しく思えてくる。
「彼は?」
「剣を教えて欲しいって言われてな」
「ふむ、面白い魔族だな」
お三方の視線が俺に集中した。
ひぃ、こわっ、ドラゴンに睨まれたネズミの気分ってこんな感じなのか?
「ふむ、さっきの違和感は君か?」
「うわぁっ!?」
灰色の肌をした魔王様が、いつの間にか目の前に立っていた。
状況を理解するより叫ぶ方が先だった。
「違和感……ですか?」
「中身を覗かれている、そんな感じがしたな。君から」
も、もしかして鑑定のことか? 確かにアストレアも違和感を感じた素振りはあった。
「……何をした?」
鑑定の事を言ったら間違いなく殺される気がした。けれど、言わなくても殺される気がする。ど、どうしたら良いんだ?
「な、何もしてないです……、見てただけです」
シラを切ることにした。
「ほう……?」
「魔王、弱い者虐めはその辺にしておけ」
「ぬぐう……、そう言われると弱いな」
リョウ様の言葉で俺は魔王からの追求を逃れることが出来た。
でも、リョウ様にはこの能力がバレた気がした。いや、本当に只の直感なんだけど、何となくバレた気がしたんだよ。
「まあいいや、今日は帰ってくれ、明日になったら相手してやるから。今日はやりたい事があるんだよ」
「……わかった」
「そこまで言うなら、今日は我慢しよう」
リョウ様の言葉に彼らは嫌々ながらに頷いた。そして、残念そうな雰囲気を漂わせて帰って行った。
「さて、ミリシャ」
「は、はい」
「色々と吐いてもらおうか」
「は、はいっ!!」
やっぱりバレてた。




