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第8.5話-ゴブリンの秘話

「アストレア~」


 俺達に与えられた個室の扉は急に開け放たれた。この国の王であるミレイの手によって。


 出会った時も光っていたけど、今も光りっぱなしでちょっと眩しい。


 美しい死人(アンデット・クイーン)であるアストレアは黒い箱に銀色の金属を突っ込んでは、魔力を流して何かを作っているのはわかった。


「今日の分はそろそろ出来るって? 良いね。ありがとう」


 ミレイ王とアストレアが会話しているのだろうということはわかる。アストレアの声が聞こえないのは、恐らくは相手の頭の中に直接話しかけているからだろう。


 結局、俺はここがどんな場所で今がどんな状況かわかってない。


 アストレアに訊ねても“大丈夫ですよ”と言われるだけで、それ以上のことは何も話してくれない。


 ゴブリンだから、あくまでペット代わりに扱われているのだろうか?


 白髪に白い目、透き通るような陶器の肌を持ち、お世辞抜きに蠱惑的な女体をしている彼女に飼われるなら俺には何も不満はない。

 所詮俺も男だし、それ以上にゴブリンと呼ばれる()()()()種族なのだから、そう考えても仕方がないのではないか。


「そう言えば、アストレアはゴブリンに名付けしないの? もしかしたら進化するかもしれないのに」


 それはミレイ王の言葉だった。


 ……進化するってなんだ?


「あー、なるほどね。でも、アストレアくらいなら名付けしたら、された側も進化すると思うんだけどな~」

「それだけじゃない? ああ、アンデットになったら確かに可哀想だよね」

「名前、付けてあげようか? 私が」


 ミレイ王の提案にアストレアは物凄い勢いで首を縦に振った。

 そう言えば彼女は“太陽神の親友”って称号を持ってたよな。

 つまり、どっかの神話に出てくる登場人物みたいに、名付けして進化を促す事が出来るのかもしれない。


「どんな名前が良い?」


 俺にも名前が付くらしい。


「それはちょっと…… いや、それはめっちゃ犬みたいだから」


「うん、うん、じゃあこれにしようか」


 ミレイ王が何度か拒否したのを見て、いったいアストレアはなんて言ったのだろうと気になった。


「君の名前は今から()()()()だ」


 その名前を正確に認識した次の瞬間、俺の意識は手放された。


 **


「まぶしっ」


 名前を付けた瞬間、ゴブリン(ミリシャ)の身体が光り始めた。私も初めての眷属化を“丁度良い実験体が居たからやってみた”って感じだ。


 眩しい中でも強引に瞼を開けて、指の隙間から覗いて、私はゴブリンの進化から目を逸らさない。


 誰も彼もに実験として名付ける訳にはいかないし、そもそもの話、名付けってのは魔物にしか役に立たない。これは魔王に教えて貰った。


 魔王曰く、魔族には二種類いるらしい。


 一つは魔族同士が交配して生まれた者。これは他の種族と大きく変わらない。


 問題なのはもう一つ。


 それは、魔物から進化して魔族に成った者だ。


 魔王は魔物から進化して魔族に成った者らしく、魔物から魔族への進化の方法も大きく分けて二種類あるらしい。


 一つは自らが強者となり、喰らい続けた事により進化の域に自らを到達させる。


 もう一つは強大な存在から名前を与えられる事により、その存在から力を得て強制的に進化をさせられる。


 つまり今回は、魔物を魔族に私の力で強制的に進化させようとしてる。


『身体が大きくなってる気がします』

「……そうだね」


 アストレアに言われて目を凝らす。段々と私の腰ほどしかなかった緑色の肉体が、段々と私の頭よりも高い所に行こうと大きくなっていく。


「え、ヤバくない? ちょっとこれは想定外……」


 ミリシャは正しく緑色の()になった。いや、人になっただけなら別に良いんだよね。問題はばちくそ()()()()だってこと。


『はう……』


 アストレアはゴブリンに目を掛けるくらいだから、美醜なんて興味が無いと思ってた。けれど、この恍惚とした表情は……、うん、間違いなく興味あるし何ならミーハー状態って奴だね。


 小さかった服が次第に破れていく。


「アストレアっ! 服っ!!」

『は、はいっ!!』


 破れ始めた服の代わりに大きなタオルをミリシャに被せた。


 やがて、眩い光は収まってミリシャの身体は地面に倒れ伏そうとする。さっきタオルを掛けて近くに居たアストレアが彼を受け止めた。


 うひゃあ、成人男性と同じくらいの身長になったね?


「えっと、私は居ない方が良いかな?」


 アストレアの目が変質者のそれ。怖い怖い怖い。放置したら気が付いた時にはヤッてそう。


 私の問い掛けにアストレアは返事をしてくれない。そんなに外見どストライクなの?? いや、確かにめっちゃイケメンだと思うけどさ。


「今日欲しい金属は貰ったから、明日にまた来るね」


 私はそろりそろりと外に出た。




 **


「んん……?」


 俺は……、そうか、さっき気を失って……


 むにっ……


 ん?


 めっちゃ柔らかくて冷たい何かに右手が当たった。


 えっと、今はどういう状態なんだ……?


 取り敢えず柔らかいモノを避けて、ベッドに手を付けて起き上がる。


「はあっ!?」


 え、なんで、なんで、アストレアが隣に眠ってるんだ? 


 しかも服を着てない。えっちょ、ちょっと、これは刺激が強すぎる……

 しかも、俺も服を着てない。

 いや、俺は服がない以上に肉体の形が今までと完全に違っている事に驚いた。緑色だけど確かにこの身体はゴブリンのモノじゃない……


 さっきまで掛かっていた布を彼女に掛けて、ベッドから転がるように外に出た。


 ってことは、さっき触ったのってアストレアの……


 ってか、待てよ。さっき声出たよな?


「あ、あ、あ」


 えっ、こ、声が出たっ!?


 ちょっと待て、何がどうなってるんだ?


 アストレアが隣で一糸まとわぬ姿で眠っていて、俺は不慮の事故で彼女の身体に触れて……って、いや、それはどうでも良い。それから、声が出るようになって……


 あ、あれ……? 心無しか腕が太くなってる気がする。ってか、長くなってね? 色は変わらずに緑だけど……


 いや、待ってくれ、変わり過ぎだろ……


 わけがわかんねえよ……


 いや、わけわかんなくねえか。今までずっと望んでたモノが手に入っただけか。


「はあ……」


 なんて理解と納得をした所で、上の空になることを止められなかった。


 あ、鑑定してみるか。何かわかったら良いけど。


 名 前:ミリシャ

 種族名:人緑鬼(ヒューマンゴブリン)

 称 号:太陽王の眷属

 性 別:♂

 スキル:

 鑑定 Error

 翻訳 Lv1

 悪食 Lv5

 異種族交配 Lv1

 成長促進 Lv1

 技能取得促進 lv1

 剣術 Lv4

 無属性魔法 Lv5


 ミリシャという名前が付いて、種族名が変わって、称号も無職から太陽王の眷属に変わった。色々と変わってるのはわかった。わかったけど、文字でわかったところで現状は何もわからないままだ。


「はあ……」


 再び上の空になった。



 ごそ……


 途方に暮れていたら、ベッドの方からシーツが擦れる音がした。


 そっちの方に視線を向けると、一糸まとわぬアストレアがせっかく掛けた布を剥がして、外に出て来ようとしているのが見えた。


「あの、アストレアさん……?」


 それを静止しようと声を掛けると、彼女は驚いた表情で俺を見た。


「あ、あの、せめて、その、服を着てくれません?」


 ゴブリンごときの矮小で些細なお願いを聞いてくれると本当に助かる。それ程に貴女の外見は蠱惑的で魅力的だから。


 けれど、そんな俺の願いが聞き入れられることはなかった。


 彼女は布から飛び出して、何も身に纏わない状態で俺に抱き着いた。


「ちょっと、それは、マズイ……」


 そのまま押し倒された。進化はしたらしいけど、俺の力は未だ彼女に勝てないらしい。


『進化、しましたね』

「……そうですね」


 彼女の冷たい柔らかさが身体に直にぶつかって、受け答えすら上の空になる。


『嬉しい』


 この人は純粋に喜んでくれるのか。……なんだか、パニックになってた俺が馬鹿らしくなってきた。


「色々と、ありがとうございます」


 今までの感謝を込めて彼女に伝える。


『ふふ、どういたしまして』


 アストレアは今まで俺に向けていた柔らかい笑みとは違って、獰猛な肉食獣のような表情を浮かべた。


「ど、どうしてそんなに?」

『ど、どうしてでしょう?』


 俺の問い掛けに彼女は自問自答とも取れる言葉を作って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


「あの、そろそろ、その……」


 そんな肢体で抱き着かれたら、誰だってドギマギするだろ……


『私の肢体(死体)はお嫌い?』


 上目遣いでそんなことを言われる。えっと、ちょっと待て、これってそう言う事か?


「あの、ゴブリンって知ってます?」


 いや、知ってるよな? だって、あんたから借りた本に書いてあったんだから。


『知ってますよ?』

「じゃあ、こういう事をしたらヤバいのって……」

『ゴブリンは死体には反応しませんよ。彼らは突き詰めれば生殖が目的ですから』


 あ、え、まじか。って事は俺ってもう……


『手遅れなようですね』


 既に彼女に()()()いるらしい。

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学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

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