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第8話-ダンジョンの調査③

「美玲〜、お客さん連れてきたよー」


 玄関扉が開かれて、陵の声が聞こえた。


 今は私だけが家に居る。

 レイアは街に出て行ってしまった。子供達に新しい指示を出さなきゃいけないんだってさ。


「おおっ?」


 陵が連れてきたお客さんは、大分前に出会った事がある人物だった。


「確か、魔王だっけ?」

「ミレイも忘れてたのか……」

「いや、会ってないから。それより、何の用?」


 くだらない用事で陵がここまで連れて来るとは思えない。


「アラティナからダンジョンについて教えてやってくれと言われたから来たのだ」

「あーね、アラティナさんが頼んだのは魔王だったんだね。

 確かに魔王はダンジョン詳しそうな雰囲気はあったけど、ダンジョンコア使ったことあるの?」

「あるもなにも、私以上に詳しい者は居ないだろう」

「へえ、大した自信だね」


 魔王らしい自信があるのが見えた。


「信用出来ないならダンジョンを見せてやろうか?」

「いやいや、ダンジョンって持ち運び出来ないでしょ……」

「それがな、一つ工夫するだけで出来るんだ」

「……へえ?」


 私やレイアが知らない技術を使ってるってことかな?


「外に来い。見せてやる」


 魔王がそんな事を言うもんだから、私は陵の顔を見て大丈夫なのかと問い掛ける。


「大丈夫だろ」


 彼は肩を竦めた。


 魔王に先導されて私達は外に出た。


「少し待っていろ」


 魔王は手を空に向けると、向けた先の上空が段々と空色から無機質な金属色に変わっていく。


「……これ、空飛んでるってこと?」


 私達の目に映ったのは、大きさで言えば東京ドームほどは有りそうな、空に浮遊するには大き過ぎる建物だった。外見はまんまお城って感じ。


「飛ぶ、というよりも浮遊しているが正しいな」

「へー、ダンジョンって浮遊させられるんだ?」

「ダンジョンの能力ではないが、な」

「ダンジョンとは別に浮遊させる道具があるんだ?」

「ああ、浮遊石と呼ばれる鉱石を使ってる」

「ふーん……」


 私達みたいに地面に貼り付けたダンジョンとは違って、一種の飛行船みたいに空をぷかぷかと浮いていた。


「魔物の氾濫とかって無いの?」

「私のダンジョンは無いな」

「なるほどね。魔物の氾濫ってダンジョンコアが原因ってわけじゃないんだ」


 一つ解決したい事が解決された。これで、ダンジョン自体の危険性は無くなった。


「話変わるけどさ、魔王ってボッチなの?」

「いや、流石にあの中に部下は居るが?」

「そっか」


 部下もセットで持ち歩いてるんだね。ちょっと便利だなとか思ってしまった。


「暫く滞在するの?」

「そのつもりだ。リョウも居るからな」

「格闘戦だけにしてくれ。道場の外に行くのがダルい」

「……わかった」


 強者が陵に集ってるようにしか見えない。


「戦ったの?」

「勝った」

「なるほどね」


 もう既に事後だった、と。


「この地に錨を降ろしても良いか?」

「あのお城が飛んでいかないように?」

「そういう事だな」

「良いよ」


 すると、空を浮遊していた城から尖った何かが射出された。

 それを魔王は片手でキャッチして、地面に突き刺した。


 うーん、流石魔王と呼ばれてるだけあって、馬鹿げた怪力を持ち合わせている。


 錨の大きさ、優に四メートルは超えてたと思うんだよね……


「だが、魔族が歩いても大丈夫なのか?」

「なんか問題あるの?」


 魔王の言葉に首を傾げることしか出来ない。ダメな理由ある? ないよね?


「魔族は他の種族と仲が悪い」

「仲悪いの?」

「下々の者には荒くれ者しかいない。私も魔族を全て管理している訳ではないからな」

「あーね」


 中にはそんなのも居るって程度なんだろうね。


「とある宗教団体には敵認定されているからな」

「へー、大変だね」


 この国は宗教団体が居ないから、特に気にする必要も無さそうだね。


「じゃあ、暫くは聞き放題って感じだね」

「まあ、そうなるな」


 後で魔王をレイアに紹介しておこう。


「「「「「魔王様〜っ!」」」」」


 城から羽付きの人型が何人も飛んできた。悪魔って感じの雰囲気がする。

 どの人型も蝙蝠っぽい翼とボンキュッボンの身体を持った女性なのが、余計に悪魔っぽさを感じさせた。イメージはサキュバスみたいな感じ。


「その人達は?」

「弱そーう」

「ねー、魔王様が態々来る必要ないよねー」


 魔王の周辺を飛び回って、私達を見て好き放題に言ってくれる。


「ふぁ……」


 さっきまで作業続きだったから、ついつい欠伸が出てしまった。


「あー、魔王様の前で無礼だ〜」

「そーだそーだ〜」


 流石に五月蝿い。


「魔王、コイツら消し飛ばしても良いよね? ほら、一応私も王様だからさ、ナメられたまんまだと良くないと思うんだよ。どうかな?」

「待て、ミレイ、待ってくれ。お前達も謝れっ!?」

「えー、やだー」

「なんで人間なんかにペコペコしなきゃ……」


 光線銃を取り出して、遥か上空に向けて照射する。


「あん?」


 太陽王モード全開。手始めに一人の脚を掴んで地面に叩き付けた。

 普通の人間だったら死ぬんだろうけど、魔族って言うくらいだし、気軽に魔王に話し掛けるくらいだし、何よりナメた口聞いたんだから、その程度でくたばる訳も無いよね?


 叩き付けられた先は見事にクレーターになってた。小っちゃい隕石が落ちたみたいだね。


「きゅう……」


 叩き付けられた魔族はあっさりと意識を手放した。戦闘不能の相手を更に殴ったら、流石に魔王と言えど怒る気がするから大人しく脚から手を離した。


「次は誰?」


 ギラっと睨み付ける。すると、魔王もその周りの魔族も一斉に後退りした。


「魔王は逃げなくても良くない?」


 可愛い可愛い美玲ちゃんだよ? めっちゃ強い魔王サマが逃げる必要なんて無いと思うんだけどな?


「いや、来るな。怖いから」

「ええ?」


 そうやって言われたら、そっちに行きたくなっちゃうじゃん?


 魔王の周りを浮遊していた魔族が一人逃げ出した。


 なんで逃げられると思ったのかな?


 草の魔法を使って、蔓を伸ばして魔族の脚を掴まえる。伸び切った蔓を私は強引に引っ張った。すると、その勢いのまま魔族は私の目前に墜落した。


「二人目♡」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

「だーめっ」


 太陽王モードの慣れてない拳を魔族の腹に叩き付けた。その魔族も血反吐を吐いて意識を手放した。


「ヒッ」


 それを見ていた他の魔族も一気に逃げ出し始めた。


「だーかーらー、逃がすと思った?」


 蔓で雁字搦めにして、全員を私の目前に叩き伏せる。


「み、ミレイ、その、そこら辺で許してやって欲しい」

「え、やだ♡」

「許してください許しくださいっ! 何でもしますからっ!」


 魔王の懇願を無視したら、魔族達がそんな事を言い始めた。


「なんでもする?」

「しますっ!」


 こう言われると私も弱いなあ。殴るより使った方が合理的だし……


 うーん、でもなあ、させることが無いからなぁ。


「わかった。何かやる事があったら魔王を通して頼むことにするよ。それまでに逃げたら、地の果てまで追い掛けるからね」

「「「は、はいっ!!」」」


 取り敢えず屈服させ終わったって感じかな?


「ミレイさん、そちらの方々は? ……というか、何でこんなに地面がボコボコなんですか?」


 ちょうど良いタイミングでレイアが帰ってきた。


「魔王とその仲間達」

「魔王っ!?」


 レイアは毎度毎度しっかりと驚いてくれるから飽きないよね。


「実はダンジョンマスターらしいよ」

「と、言う事は以前のアラティナ様が仰られていた人は……」

「そう。この人みたいだね」

「な、なるほど。レイアって言います。このダンジョンのダンジョンマスターです」


 彼女は気を取り直してぺこりと頭を下げた。こういう切り替えはレイアの長所だと素直に思う。

 でも、あのゴブリンの時はここまできっぱり割り切れて無かったから、それだけこの世界ではゴブリンが嫌われてるってことがわかる。

 魔族も他種族と仲が悪いって言ってたけど、彼女の魔王への反応を見る限りそんなことは無さそう。


「これはこれはご丁寧に、私は第100代魔王、グラウディック・バイス・ゴリアレイスと言う。暫くは滞在する予定だ。ダンジョンでわからないことがあれば聞いてくれ」

「はい、ありがとうございます。ところでミレイさん、あの空に浮かんだ建物は何ですか?」


 レイアは空を指差した。その先には魔王のダンジョンがあった。


「あれダンジョンらしいよ」

「ええっ!? 本当に色々な事が出来るんですね……」

「だね」


 もしかしたらこの山一帯をダンジョン化できるんじゃないかなって思ってる。


 今の所はそれをする必要がないけど、山の頂上にある国ってアクセスし辛いから、冒険者は冒険者という名前に相応しく勇んで来るけど、商人なんかは来るはずがない。

 どんな土地かを見聞きする為だけに来た商人達は、今はもう足も遠退いてしまっていて、元々無かった国の賑やかさが更に薄れていってしまってる。

 もし、山登りを始める前の場所に様々な建物や店なんかを置くことが出来れば、もうちょっと客足も増えると思うんだよね。

 湖には定期的に他国の貴族が観光に来ているらしいけど、そっちの対応は完全にレイアに任せっ切りで私自身は貴族と面識が無い。

 もちろん貴族の中には私に挨拶に来ようとする人は居るらしい。でも、貴族達とレイアが顔を合わせて話す時は決まって私が国に居なかったり、忙しかったりするから、物理的に会うのが無理ってなって終わるらしい。

 私が暇してる時はレイアは私と行動を共にしてる事が殆どで、逆に彼女が貴族とがっつり会話をすることが無いんだよね。


 エネルギー発生所はドワーフ族と死人の姫様(アストレア)に任せてあるから私に出来ることは何もない。それをただ待つだけも面白くないし、山の麓に試しに街を作ってみるのもアリかもしれない。


「ねえ、魔王。山を全てダンジョン化するって可能?」

「それはもちろん可能だが……」

「そっか。どうやったら出来るの?」

「莫大な力が必要だ。それこそ、神々のような……」

「それはちょっと面倒だね。山の麓に洞窟を作って、そこに何とか一階層分だけ作れないかな……」

「それなら出来るはずだ。ただその場合、どちらかと言えばダンジョンマスターの器用さが試される」

「ふぅん、なるほどね」


 レイア次第ってわけか。


「ミレイさん、今日は嫌です。他にやる事があるので」

「そっか、残念。じゃあ、明日ね」


 レイアに“やろうよ”って視線を向けたらあっさりと断られた。

 明日ならレイアも良いっぽいから、明日やってみようっと。

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