表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/145

第5話-襲撃と再確認

 事態が動いたのは、俺達の仕事が出来たのは、商談が終わってすぐの事だった。

 商談を終えて、レイアが部屋から出た瞬間の出来事だった。


 凶刃が彼女を襲った。


 それを届かせるほど、俺達も遊んでいた訳じゃない。


 俺が刃物を弾き落とすと同時に、美玲が銃声を鳴らした。銃弾は確かに突き刺さったのに、そこに犯人は居なかった。


 そこにあったのは成人男性程の大きさの人形で、複数の銃弾が突き刺さり、バラバラに砕け散った。


 美玲が使った銃は世間一般的に自動式拳銃と呼ばれている。

 光線銃は街中戦においては過剰威力で、使うのが非常に難しい事と、実銃の方がかつての射撃訓練の感覚に近い事から、彼女は自動式拳銃を使う事にしたらしい。


 恐らく、この人形は魔法か呪いの類だろう。


 手を出しといて当の本人は安全地帯から、ほくそ笑んでいるのだろうと思うと、滅茶苦茶イライラする。


 人の命を狙っといて、自分は安全な場所から見てますって、本当にクソ野郎のやる事だ。マジで気に入らねえ。


 ……絶対に引きずり出してやる。


「ブライド、護衛を任せた」


 指輪、敵の位置を割り出せ。


『周囲、半径3km以内をスキャンします。

 ……

 ……

 ……

 目標確認』


 美玲にもデータを送ってくれ。


「行こう」


 俺達は外に出て、今回の犯人を追った。



 街の表通りは、とても活気があり民衆で賑わっていた。

 俺達が向かう先は、そんな表舞台ではなく、裏の……それこそ、スラムと揶揄されるような場所だった。


 スラムは表と比べて本当に酷くて、時折人の死骸なんかも転がっていた。


「気持ち悪……おぇ……」

「大丈夫か?」

「気持ち悪い〜」


 生理的嫌悪感を燻らせる環境に、長く居たいとはとても思えなかった。ゲーム風に言うならSAN値が削れるって奴だな。


「さっさと引きずり出そう」


 指輪の提示した目標に向かって足を走らせる。


『目標発見。そのフードを被った人間です』


 走って曲がり角に差し掛かった瞬間、指輪の指示に従い武器を抜いた。


「動くな。じゃないと撃つよ」


 美玲が銃を向け、制止の声をあげる。


「何故貴様ら、ここがわかった?」


 フードの声は男っぽかった。それに、滅茶苦茶イラついていた。


 そりゃそうだよな。バレないと思ったから、こんな事したんだろうし、それがバレた見つかった、殺されるかもとなれば、イライラもするだろうさ。


 ……俺はお前のやり方が気に食わねえけどな。


「んー、なんとなく?」


 そうやって首をコテンと傾げた直後、銃声が何発も鳴り響いた。

 動いたら撃つんじゃ無いのかよ。動かなくても撃つのかよ。


「ぐあっ!?」


 放たれた弾丸は、両肩と両脚に命中する。命中と同時に何かが展開された。


「う、動けない……!?」


 両肩両脚には、その空間に縛り付けるような形で魔法陣が発生した。


「貴様、何をした!?」


 フードの男はとても慌てたように美玲に叫ぶ。俺も今彼女が何をしたのか、全くわからない。


『解説します。

 美玲様が使っている自動式拳銃は、特殊効果を付与した弾丸を生成し、撃ち込むことが可能です。

 今回は捕獲用に封印術式を乗せた弾丸を射出しました』


 なるほど、中身は銃弾が魔法みたいになってるのか。

 でも、捕まえたは良いけど、どうやってこの状態で犯人を連れてくんだ?


「大人しくついてくる気はある?

 正直に喋れば、命までは取らない。……というか、私があまり人を殺したくない」

「敵を前に殺したくない……だと? ナメられたものだな」

「……大丈夫、殺そうと思えば殺せるから」


 銃口を額に押し付ける。


「次の攻撃はあなたの頭を貫く。つまり、絶対に死ぬ」

「……わかった。なんか、可笑しい奴だな」


 美玲は人を懐柔する事がとても上手だ。俺とは違って、人と話す事に長けている。


「じゃあ聞くけど、雇い主は誰?」

「雇い主___」


 フードの男の首が光り輝く。その次の瞬間、美玲は銃弾を額に撃ち込んだ。

 男は額に走った衝撃で、目を白黒させていたが、首に付いていた壊れてしまった物に触れて、状況を理解した様だった。


「危なかったね。雇い主に殺される所だったみたい」


 美玲の言葉は俺にもよくわからない。殺されるって何だよ。

 正体をバラすと殺されるみたいな呪いでもあったのか?


『その通りです。

 フードの男には、呪いが掛けられていました。

 それは雇い主の情報を話したり、相手に寝返ったりする動作を見せると発動する様です』


 なるほどなあ。随分と警戒心高めの雇い主じゃないか。

 俺は……そういうの、めちゃくちゃ嫌いだけどな。人を殺すなら、自分の手を汚せよって思うから。

 人を殺したいけど、自分の手は汚したくないが二重に重なった訳だ。マトリョーシカみたいで本当に滑稽だ。


「……そうみたいだな」

「で、話してくれる?」

「な、なあ。話す代わりに……その……俺を部下にしてくれないか……?」


 フードの男は美玲にすっかり懐柔されたらしい。


「え、嫌に決まってるじゃん。急に仲間になりましたとか、冗談きついよ」


 彼女は冷え切った視線を男に向けた。

 まあ、だよな。美玲は懐柔するのは上手いけど、別に優しい訳じゃないし、万人受けしたいとも思ってない。


「ど、どうしたら良い?」

「んー……うちの雇い主の前で土下座して謝罪して、誰にどうやって指示されたか、詳細までしっかりと話してくれたら考えるかも」


 うわぁ……そこまでやってもバイバイするだろお前……

 俺は知ってるぞ。そこまでやった同級生を足蹴にして、完全無視を決め込んだのを……


「わかった」


 フードを被った男はそう言った。彼女の見た目だけの善性にあっさりと騙されているみたいだ。



 **


「本当に申し訳ありませんでした!!」


 フードを被った男は、今は顔を陽射しに晒していた。

 男の目の前には少女が居て、なんかとても驚いた、いや、信じられないような顔をしてる。

 そんな顔を見せられたら私も不安になる。でも、間違った事をしたとは思ってない。


「……駄目だったかな?」

「い、いえ……そうではなくて……」


 私の問い掛けに、レイアはしどろもどろになった。ちょっと年相応な感じが垣間見えた気がした。


「?」

「相手を捕まえて連れてくる事なんて、今まで一度も出来なかったので……」


 なるほどね。殺したパターンはあっても、捕獲パターンはなかったんだ。

 じゃあ、お手柄じゃん?


『お見事』


 いや、あなたのお陰でもあるからね?


『人を懐柔させるのは道具では難しいです。

 フード男がペコペコ頭を下げてるのは、間違いなく美玲様の功績でしょう』


 そんなに褒められると……ちょっとこそばゆいかな〜なんて。


「……本当に危険性は無いんだろうな?」


 ブライドはとても不安そうだった。その顔は軽薄なイメージとは打って変わって、大真面目な顔付きをしていた。

 犯人の前に主人を置く事が危ない事なのは、流石の私も理解してるよ。


 ……余計な事をしたらぶち抜く。


「ひっ!?」

「……まあ、あったら俺が殺すから」

「ひっ!?」


 陵も帯刀していた。下手な動きをした瞬間に、様々な部分が切断するつもりだ。

 私が引鉄に指を掛けるより、陵の抜刀は圧倒的に速い。


 私は人殺しを何も思わずに出来るようにはなれないと思う。彼みたいにはなれないし、無抵抗だと、やっぱり殺せないよ。


 殺し合いだったら……まだ、その、理性的に殺す必要性を理解出来るから、納得出来るんだけどね。


「俺を雇ったのはグリム・バレル。バレル家の長男だ」


 あれ、バレルってレイアと同じ苗字じゃない?


「やはり、兄の手の者ですか」


 レイアは"やはり"と言った。


 ええ……予想出来てた事なんだ。


 家族に狙われるって、どんな家族関係なんだろう。


 私には家族同士で殺し合いなんて理解出来ない……と、思わなくもないけど、日本にも殺し合いにまでは発展しなくても、恨み合っていがみ合っている家族達は居るし、人の命が軽いこの世界なら、あっさり殺し合いに発展するんだろうな……とか、納得出来ちゃう。


「他にも雇われた者は居ますか?」

「はい。ですが、その、正確な人数までは……」

「何人以上……とかで、教えてください」

「50以上は居るかと」


 50は多過ぎない? てか、こんなに可愛い妹を、よく殺す気になるよね。


「そう……ですか」


 少女らしからぬレイアも、流石に眉を顰める。その表情には戸惑いよりも困惑の色が強い。


「大丈夫だよ。いざとなったら守ったげるから」


 なんか、力になってあげたいと思っちゃったんだよね。道端に可愛い美少女が困ってたら、誰だって助けるでしょ。


「それは、心強いですね」


 とは言え、兄を殺すって訳にもいかないんだよね?

 それは難しいのかな?


『そこまで難しくはないと推測されます。問題はレイアの精神状態にある物かと』


 あーね、家族を殺すのは抵抗があるよね。じゃあ、提案だけはしとこうかな。


「そのお兄さん、殺しちゃったら?」

「えっ!?」

「だって、命狙ってくるんでしょ?」

「で、ですが、そんな事をしたら私達が国から追放されて、それに、そもそも大貴族の長男を殺すなんて……とてもですが、その……戦力が……」


 確かに国外追放はヤバそうだね。それに大貴族の長男だから、大量の私兵を持ってたりするのかもね。


 私兵に関しては、正直な話をすれば全く驚異には感じられない。遠くから光線銃で焼き払ってしまえば問題は無いからね。

 国外追放も私達には痛くも痒くもない。けど、この国に生まれたレイアにとっては、心を軋ませる痛ませる事柄なのかもしれない。二度と国には帰って来れないって事だからね。


「ご両親はどうなの?」

「多分、父は知らないと思います。

 私が帰ろうとしたら、多分もっと酷い襲撃が予想できますし、今の所は伝える手段もないのです」


 流石に両親が加担してる訳じゃないのね。

 だとしたら、レイアを両親の元に届けてあげるのが一番ベストなのかな。


「証拠はその男が居るし、別に悪くないと思う。取り敢えず、実家に帰って色々と混ぜっかえそうよ。

 このまま襲撃ばっかり受けてても、面白くないと思うよ」

「ええ、ですが、その……」

「大丈夫。向こうがその気なら、こっちも全員ぶっ飛ばすから」


 一応、指輪が何を持ってるのかを把握してるし、私一人で簡単に蹂躙くらいは出来ると思う。

 問題は私が人を殺したくないって事なんだけど、でも、今回の提案も私の気持ちからなんだよね。


 だってさ、こんなに可愛い妹を殺そうとするなんて信じられないよ?

 てか、お兄さんは死んだ方が良いんじゃない?マジで。それに、文句あるなら自分で言えよ。人に殺させようとすんなよ気持ち悪い。って所かな。


「どちらにせよ……その、今すぐにとは言えませんし、商談もありますので……その、はい。今は……その、一旦保留でお願いします」


 レイアはおどおどしてた。私達を雇った時はとても立派に見えたのに、今は随分と年相応に見えた。


 ……そんな事ないか。


 肉親ぶっ殺そうぜって言われて、ハイ賛成!とはならないのが普通だよね。

 でもね、血の繋がりって、私にはそんなに大切には思えないんだ。






 **


 ドタバタとしたけど、無事に仕事を終えて、夜を迎える事が出来た。


「んね、陵」


 隣で横になっていた彼女の顔が、ゆっくりとこっちに向いた。


 なんかちょっと良いなって思った。 


 宿部屋はベッドが一つしかない。いや、全然悪い事なんてないんだけど、こうやって見つめ合うと、彼女との距離が近い事も理解出来て、何だかとてもくすぐったくなる。


「どした……?」

「陵はいつ、手を出してくれるの?」


 美玲の唐突な疑問は、否が応でも俺の心臓を跳ねさせる。


「いや……うん、え……」


 心臓が跳ねて、正しく言葉にする事が出来なくて、しどろもどろになってしまう。

 そりゃ俺だって思ったよ。昨日だって眠る前に、彼女が隣に寝てるって事で悶々とした程だ。

 けど、彼女に対して本能のままに、色々としたいとは思わなかったんだよ。大切な人だから、本能の好きで理性の大切さを汚したくなかった。

 そもそも今までは幼馴染で、つい最近付き合い始めただけなんだ。手を出すは時期尚早な筈だ……って思ってたのに。


 そんな事を言われたら、揺らいでしまう。


「陵って、自分の気持ちを正直に言う事って少ないよね」

「……そうかな」


 結構、言う方だと思ってたんだけどな。


「そうだよ。やりたい事をやっちゃダメな理由を見つけて、いつもするの止めちゃうの」


 それは止める上で、正当な理由だと思うんだけどな。ダメな理由があったら、それはやってはダメな事だと思う。


「やりたいは……せめて、声に出して欲しいと思う。私も……不安なんだよ?」

「……そうだな。ごめん」


 彼女の言葉に素直に謝罪した。きっとその漠然とした不安は、美玲の正直な弱音なんだろう。


 その不安な心が行き場を探し求めていたのか、彼女の手が伸びてきて俺の手を握る。その柔肌を確かめながら、そっと握り返した。


 そうだよな。しっかりと言葉にしないと駄目だよな。


「俺は美玲の事が大切だよ。他の人の所に行ってほしくない……ってずっと前から思ってた。

 彼女とか付き合うとか、そういう事じゃなくて、ただずっと一緒に居て欲しいよ」


 女性として……じゃなくて、一人の人として、美玲の事を手放したくないなと思う。


「それは……女の魅力が足りないって言いたいのかな?」


 ぷくーっと膨れた、幼馴染で、親友で、彼女で、大切な人の顔は可笑しくて、つい、笑いが堪えられなくて……


「笑うなんて酷くない!?」

「ごめん。……ありがとう。大好きだよ。大切だよ。……愛してる」


 好きだけじゃなくて、大切で、愛おしくて、可愛くて、ちょっとした時に良いなって思って、偶にドジだなとか、心配に思ったりとか、焦らされたり、驚かされたり……言葉が足りないんだ。


 様々な感情が一人の相手に向いた時、“それ”を伝える言葉はきっと存在しなくて、愛してるなんてありふれ過ぎていて、だからきっと、それを口にする事は戸惑ってしまう。


 でも、そうじゃない。


 多分、伝わらない事を相互理解した上で、“それ”の一端にでも触れられるように願って、相手に伝えなきゃいけないんだと思う。


「大好きだよ」


 もう一度、言葉にして彼女に伝えた。


 **


 その言葉は温かくて嬉しかった。


 彼の好意なんて、彼の性格を知ってる私が理論的に考えたら、疑う余地なんて無いって答えを出す事が出来る筈なのに、何故か漠然と不安になって、怖くなって、気が付いたら、彼を困らせる様な言葉を発していた。


 でも、彼は困った顔をせずに想いの丈を、私にぶつけてくれた。


 身体は茹で蛸みたいに熱くなるし、恥ずかしくて顔も見れなくなって、彼の胸に埋めるしか出来なくなる。


 彼の手が伸びてきて、ゆっくりと撫でてくれる。


 これは幼馴染としての手だ。落ち込んだり悩んだりした時に、そっと隣に居てくれる時の手だ。


 こんな風に優しくされると、恋愛事如きで不安になる私がちっぽけに感じられる。


 ……でも、そう感じられる事が嫌に思えなくて、ずっと、彼の中のちっぽけな存在になれたら良いとか、そんな事を思っちゃうから、もう末期だ。


 彼との関係性は嫌いじゃない、嫌じゃない、好きで、大好きだ。


 それで良い筈なのに、どうせ私は不安になるんだ。明日か明後日か、来週か来月か、もしくは来年に……ね。


 こんな私を許して欲しい。許してね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いします!

小説家になろう 勝手にランキング

学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ