第8話-ダンジョンの調査②
「ここらで良いかな?」
「俺は何処でも構わない」
「豪胆だね」
「戦場を選んでいたら、意味は無いだろうに」
魔王の言葉に肩を竦めて返す。
俺と魔王-グラウディック・バイス・ゴリアレイス-は頂上より少し下がった森の中にいた。そこには木々が生い茂っていて、頂上とは違って人が住む建物も無い。
「それもそうだ。じゃあ、始めようか」
「好きにしろ」
どちゃっ。
地面が抉れた音と共に彼の身体が俺の身体を肉薄にする。
やべ、思ったより速いぞこいつ……
外見に似合わない速度で突っ込んできた魔王は右拳を突き出して、そのまま俺の身体に叩きこんできた。
躱すことも受けることも出来ない距離だったから大人しくその拳を身体で受けた。脱力して、衝撃を後ろに流して、極力身体にダメージが無いように自身も後ろに跳んだ。
九割以上の力を流せたから身体に殆ど痛みは感じないが、力に逆らう事を全くしなかったため、一気に後ろに吹っ飛ばされた。
吹っ飛んだ先の木々に激突した。その衝撃がさっきの魔王の拳よりも重たくて鈍い痛みが走った。
「いっつ……」
久しぶりにダメージを受けた気がするな。
それにしても、魔王は肉弾戦が得意なのか。意外だな。魔王と言うくらいだからてっきり魔法が得意なのかと思ってた。
魔王は木々によろめいている俺に容赦なく追加で拳を振るった。結構な距離を吹っ飛んだはずなのに、彼はぴったりと付いて来た。ちょっとくらい距離が取れたと思ったんだけどな。
「肉弾戦はお前の専売特許じゃねえよ」
魔王の拳を掌に吸い込ませると、そのまま拳の力を微細に流して地面に叩き付けた。
これは合気と呼ばれる術理の一つだ。
相当な勢いで頭から突っ込んだのにも関わらず、叩き付けられた魔王は特に怯むこともなく身体を地面に転がしたまま蹴り返してきた。
無理に足を掴むことも、蹴りに対して反撃する事もせずに後ろに距離を取って躱した。
「でも、君は剣があった方が良いだろう?」
「……お前が武器を使ったらな」
距離を取ったのに彼は速攻で距離を詰めてきた。完全に身体能力が人のそれとは違うってことを実感させられる。
それとも、魔族だからではなく魔王だからこの身体能力なのか。
投げ出された彼の左拳を左腕で巻き取るように流して俺から見て左側に身体を傾ける。と同時に右拳で彼の顎にフックを叩きこんだ。
「っつ!?」
人だったら脳震盪を起こして倒れているであろう一撃も、魔王からしたらなんてことないのかもしれない。
顔色一つ変えることなく、抑えた腕を振り払われた。
剛腕の一撃が俺の真横をすり抜ける。その腕を躱して彼の懐に潜り込む。
一本背負いで地面に思いっ切り叩き付けた。
「別に武器を使っても良いんだよ?」
「まだ要らないな。お前だって魔法とかあるんだろ?」
隠してるモノを使わないのはお互い様じゃないか。
結構な勢いで叩きつけたのに、魔王は相も変わらず冷静に蹴り返してくる。
……頑丈過ぎるだろ。
今回はその蹴りを後ろに躱さずに紙一重で身を避ける。
その蹴りとすれ違う様に全体重を乗せて、魔王の鳩尾に四股踏みと全く同じ動きで足裏を叩きつけた。
その名も浸透脚。浸透系の技の中で最も火力の高い技だ。
「っつ!?」
「やっと効いたな?」
魔王が血を吹き出した。身体が頑丈過ぎて打撃技は全く通用しないが、内蔵にダメージを与える浸透系の技であれば通用するらしい。
魔王とは言えど所詮は人型。頑丈な身体を鎧に見立ててしまえば、どうと言うことは無さそうだ。
少し怯んだ魔王に対して俺は試したい事があった。種族が違くてもカーフキックは効くのか、だ。
カーフキックはローキックの種類の一つで、脚を蹴って歩けなくする技術だ。
その中でもカーフキックは脚の筋肉が付かない所を蹴り、つまり、絶対に耐えられないであろう所を蹴って相手の脚を壊していく技術だ。
転がったまま怯んだ彼の脹脛に、垂直に蹴りを叩き込んだ。
だが、特に痛みを感じなかったのか、彼は反撃の蹴りを繰り出してくる。
流石に下から上への蹴りを、何度も見る機会を得た上で貰うことはない。
魔王は立ち上がろうと手を付いた。その手を脚で払って彼の背を地面に再度くっつかせる。最早ハメ技と何ら変わらない。
手を払った勢いで自分の身体を一回転させて、垂直に右足を魔王の顔面に落とした。
「ぐっ……」
「何となく攻略法がわかってきたよ」
とんでもない怪力を持っているのもわかるし、とんでもなく頑丈なのもわかるけど、どんな技でも通用しない訳じゃなさそうだ。
「ぬぅ……!?」
あらゆる手段で立とうとする彼を先回りして阻止し、地面に貼り付けて隙が出来る度に全力で浸透勁や打撃を叩き込む。
もちろん、ローキックが効くのかを知りたいから、脚もちょこちょこ蹴ってる。
「いつギブアップしても良いぞ」
「ぐぬぅ」
動けなくした魔王をフルボッコにしてる状態だ。あ、この外身って手刀で切れたりするのか?
手に力を込めて、脱力し、魔王の決死の抵抗に合わせて振り抜いた。
うーん、流石に出血はしないらしい。
手刀では流石に切れないか。
「立たせねえよ?」
「ぐうっ」
魔王は地面を横に蹴って、俺の前から逃げようとした。でも、それを事前に察知した俺は突っ張ろうとした脚を蹴り払ってしまう。
「その体勢じゃ大した力も入らないだろ」
逃げようとしたお返しに、踵落としを顔面には叩き込んだ。
「仕方ない……」
俺の後ろに急に現れた氷の棘。
頑張ればそれらを打ち落としてこのままハメ技を続けられたかもしれないが、少しでも遅れたら棘で滅多刺しになってしまうので、冷静に前に飛んで距離を取った。
距離を取ると同時に氷の棘は発射され、俺が居たところに突き刺さった。
魔王が魔法を使った。つまり、ここからは何でもありの第二ラウンドだ。
指輪、フル装備を。
『承知しました』
左腰には刀が、右腰にはレイピアが帯びる。
その上で、長細い剣と少し短く太い剣が一本ずつ背中に背負わされる。
昨日の戦いを経て、俺は少しだけフル装備時の武器種や配置を変えた。
更に左腕には短剣が一本、右腕には短刀が一本装備される。
右脚にはビームソードの柄が装備され、左脚には投擲用のクナイが装備される。
どの武器もそれなりに重さはあるが、それが武器を装備するということだからな。
『右から抜いて、剣を振ってみてください』
何の指定かはわからないが、指輪に指示されたから右から剣を抜いて振り抜いた。
すると、その剣は振り抜いた軌道上の木々を一掃し、魔王が飛ばしてきた無数の氷槍すらも吹き飛ばした。
「な、なんだいその武器……」
魔王はその衝撃をマトモに受け止めたせいで、腕から白い煙が登っていた。
『カラドボルグ改です』
カラドボルグって地球の神話の中の武器じゃなかったか?
確かに伝承通りに刃がドリルのような形状になっている気もした。
『天照大御神様が、遥か昔に他国を真似て造られた模造品の一つです』
つまり、普通の武器じゃないってわけだ。
『天照大御神様が泣いておられましたよ。様々な神話級武器を送ったのに陵様が使ってくれないと』
いや、神話に出てくるような武器をホイホイと使えるわけ無いだろ。
てか、そもそも持ってることすら知らなかったな。
『折角の機会ですから、全て試して天照大御神様に感想を送ってください』
んな無茶な……
とは言え、軽く使ってみるくらいはしようかな。
カラドボルグ改を背中の鞘に仕舞った。と同時にもう一本の剣を抜いた。
こっちは細い長剣で名前はなんて言うんだろうか……
『不壊の剣です』
壊れないだけの剣ってことか?
『はい』
そう言うので良いんだよ。
カラドボルグみたいに災害なんて引き起こさなくて良いんだよ。
絶対に壊れない剣とか、絶対に斬れる剣とか、せめてそんな機能だけで充分だ。一振りしたら山が吹っ飛びましたとか要らないから。
『では、その様に伝えておきます』
ヤバめの武器は美玲に送れってアマたんに言っておいてくれ。俺には災害を引き起こす力なんて要らないから。
不壊の剣を片手に魔王に斬りかかった。
ガツンと乾いた音がする。
魔王が取り出した片手剣によって受け止められていた。
受け止められた瞬間に、俺の後ろからあらゆる属性の魔法が飛んでくる。
剣を離して、それらを左腰の刀で全て斬り落とした。
「うっそ」
「驚くくらいなら蹴りの一つでも入れるんだったな」
斬り落とした後に刀を彼に振りかざす。その刃の進路は妨害される事なく、そのまま首元に吸い込まれた。
「……負けだ」
「まあ、勝ちは勝ちだな」
魔王の降参を聞いて、俺は武器を降ろした。試し斬りが終わる前に、戦いはあっさり終わってしまった。
「しっかし、なんだったんだい? さっきの武器は」
「さあ、俺もわからん」
沢山の武器を装備して、いつでも抜いて斬り裂けるようにと装備を変えたのに、それを更にアマたんの力で勝手に変えられるのはどうにかしないといけないな。
自分の力ではない強大な力を使う気にはなれないし、今後も絶対に使わないから、せめて、不壊の剣みたいな災害が発生しないような武器にして欲しい。
『……伝えておきます』
貰うだけ貰っておいて悪いんだけど、次それやったら流石にアマたんを呼び出して説教とまではいかないけど、お話をしないといけなくなる。こっちも想定した武器と違うと困るんだよ。
「わからんって、自分が使ってる武器の事もわからないのかい?」
「用意した筈の武器が勝手にすり替えられてたんだよ。俺に言うな」
フル装備を指輪に仕舞って、代わりに真っ黒の刀を右手に装備する。
「取り敢えず、家に案内するから、そこでダンジョンについて洗いざらい話してくれると助かる」
「その言い方だと私が犯罪者に聞こえるな」
「きっと気のせいだ」
「ちょっとお話する必要があると思うんだが……」
「知らない、そういうのは美玲に言ってくれ。俺はそこまで魔王サマに興味はない」
「面と向かって興味ないって言われたら、流石の私も傷付くんだが?」
「良いから、さっさと行くぞ」
魔王のダル絡みを抑えて俺は頂上に戻った。そこはいつも通り閑散としていて、やはり、イマイチ人が住んでいるような気配はしなかった。
「こっちだ」
頂上の更に上にある俺達の家に彼を案内した。




