第7.5話-死人の欲望
「じゃあ、グー達は明日からよろしくね」
会議が終わって大雑把な制作案設計案も決まった。細かい所はその都度修正していこうって話になった。
資源開発の責任者は今までとは違って完全に私だけだ。
レイアはこの件に関しては完全に私の下の立場で、対等な立場での意見の交換はしないことになってる。
指揮系統がバラバラになると面倒くさいから、そういう風にしてる。
グーが帰って、テーブルに残ったのはレイアとアストレアだ。
「これが成功したら、凄いことですよね」
「そうだね。成功したらね」
明日から少しずつドワーフ族に部品を作ってもらう。彼らの仕事のペースはアストレアが生産できる鉱石の数に比例させる。
エネルギー発生所、というのが今回の計画で建てようとしてる建物の名前だ。
文字通りエネルギーの発電所って感じで、もし失敗して不慮の事故が起こったとしても、ダンジョン内であれば外部から隔離できるから、ダンジョン内部に建てる予定だ。
そうなると今度はダンジョンの土地ももっと広げないといけないのと、ダンジョン内の空間って何で出来てるのか分からないから、エネルギー発生所に必要な機械を作りながら、その土地についても研究を重ねる必要がある。
今後私が最も尽力しないといけないのは、ダンジョンの機能の解析になる。物作りはドワーフ族とアストレアに任せておけば何とかなるから、レイアがダンジョンを怖がってるのも含めて、私はダンジョンについて勉強しないといけないだろうね。
もう既に外部からダンジョン内に人を入れるのは成功してるから、ダンジョン内部から外への繋がりを保つ事は可能だと立証されている。
それ以上はまあ、今後に期待だね。
今日の話を頭の中でもう一度きっちりと整理した。今回の計画は絶対に失敗させたくないから、流石に私も何度も何度も石橋を渡るように確認をする。
よし、この話に特に不備は無いはずだから、一旦は端に置いておこう。
私にはもう一つ、気になっていることがあった。
「アストレア、何点か質問させて欲しいんだけど、良いかな。あー、レイアは外に出て貰って良い?」
「は、はい。わかりました」
「多分、聞かれたくない内容だと思うから、私と陵以外は出て行ってもらおうかな。あ、でもゴブリンは……どうしよっか?」
『このままで大丈夫です』
「そ、わかった。じゃあ、色々と聞かせてもらうね」
アストレアは謎が多い。いつの時代から存在しているのかもわからない死人なのだから、少し話したくらいでわかるはずがない。でも、彼女の力は酷く強大で、少なくともレイアが抑えられるような存在ではない。
私達が国を離れたりした時に、どこまでをどの様に信用して良いのかもまだわからない。だから、対話をする必要がある。
「まず、なんで自分の手でゴブリンを直さなかったの? 時間魔法って怪我をする前に巻き戻す事が出来るよね?」
『はい。それは、その、時間魔法は相手の記憶ごと時間を巻き戻してしまう可能性があるからです』
「記憶ごと?」
『時間魔法は本当に制御が難しく、特に生命体に使用する際には何が何処に影響を及ぼすかわからないのです』
「今は制御が出来ない?」
『最後に生命体に使用したのは百年前です』
慣れてないから出来ない。正確に言えば"やりたくない"かな。
「なる……ほど、取り敢えず時間魔法の理解はその程度で良いよ。次は何で君は態々ゴブリンなんて拾ったのかってこと。だって、ゴブリンなんて何処にでも居るよね? あの“最果ての地”にも居たし」
『私が住んでいたあの土地にゴブリンが存在するなんて、有り得ないはずですが……』
「えっ? でも、私達はあの土地に到着した時に一番最初に戦ったのはゴブリンだったよ? 確かに私も聞いていた“最果ての地”の情報とゴブリンって合わないなーって思ってたけど」
ゴブリンっていうのは集団になれば人を殺せるくらいの魔物ではあるけど、逆に言えば集団にならないと人を殺せない魔物でもある。だから、外的要因から人が住めない土地であった“最果ての地”にゴブリン程度の魔物が居る事に違和感を感じたんだ。でも、多分特殊なゴブリンなんだろうなって思って陵に処理してもらった。
「アストレアって何年前からあの土地に居たの?」
『五百、六百年単位ですかね?』
「そのゴブリンを拾ったのは?」
『三か月くらい前です』
「その時もまだゴブリンの発生はなかった?」
『そこまでは流石に把握してません。私もあの土地の領主という訳ではありませんから』
「そーだよねー」
ぶっちゃけ私もそこまで興味はないんだよね。わかってることがあるなら聞きたかっただけだし“最果ての地”に行くことももう殆ど無いだろうし。
「で、なんで拾ったの?」
話がずれたから本題に戻した。
『あの地には珍しいと思ったからです。最初は実験体として使うつもりでしたが……』
「ゴブリンにしては頭が良かった?」
『そうですね。まるで人みたいな動きばかりするのです』
「それは私も初めて会った時に感じたなー」
『ですよねっ!』
「おおう、そうだな?」
アストレアが前のめりになって同意を求めてきた。どうどう、どうどう。
『あ、すみません』
「まあ、そう言った理由から拾った、と」
『そうですね』
「じゃあ、最後の質問ね。
やっぱり、人に頼むくらいなら自分で治した方が良かったんじゃない?
説得がしやすかったから、私達にとっては確かにありがたかったんだけど、ゴブリンが記憶を失くすと困る理由でもあったの?」
ただ拾った程度の魔物の記憶の喪失などに、何百年も存在している態々拘る必要があるのかな。
きっと、彼女の中にも助けたいって欲はあったと思うんだけど、別に助けられるなら記憶くらい無くなっても良いよね。少なくとも、自身の技術や能力を相手に売りつけてまでゴブリンを助けて欲しいなんて頼まないよね。
色々と彼女の行動はガタガタなんだよね。少なくとも理論的では無いように思える。
『それは…その』
表情は強張り、その中に微かに言うべきか言わざるべきかを悩んでいる色が見えた。
「その?」
言いづらいから言わなくて良いよとは言わない。これは彼女を私達が保護するか否かにも繋がってくるから。
この国に住んでもらうことに変わりはないんだけど、アンデットっていうのはこの世界の歴史上で最も嫌煙される存在の一つだ。それは地球の幽霊騒動なんかと変わらない。
その中で何処まで私達が彼女の味方をするのが正しいのかを計る必要がある。
もしかしたらアラティナさんにも渋い顔をされる可能性すらある。生命倫理的には間違いなくアウトな存在だからね。
『忘れられたくなかったのです』
彼女の言葉に思わず目を丸くしてしまった。まさか、死人である彼女はこんなにも繊細な人間的な感情を持っているとは思わなかったから。
「三か月を?」
『はい。私は数百年と一人で存在してきました。だからか、彼を手元に置いておきたいと思ったのです。……私と親しくなった後の彼を』
「そっか……」
たかがゴブリンされどゴブリン、人にも勝てない劣等種であり人の嫌悪を掻き立てる魔物である。けれど、彼女にとっては彼女とコミュニケーションを取った唯一の存在だった。
だから、理屈に合わない選択肢を取った。
逆に言えば、このゴブリンが死ねば私達との縁は切れる可能性があるんだね。聞いといて良かった。
彼女は自身の感情だけでは私の資源開発の計画に、エネルギー発生所の建造に助け船を出してはくれないだろう。
「ゴブリンの名前ってあるの?」
『知りません』
「まあ、そりゃそうだよね。喋れないし」
あのゴブリンに喋るだけの知能がないのか、それとも、知能はあるけど喋れないのか。
「取り敢えずはこの家で経過観察かな。彼は」
この家の部屋はまだ空いてるはずだから、そこでアストレアとゴブリンに住んでもらおう。
今の国の情勢で勝手に外に出られると、大騒ぎになること間違いないからね。




