第6話-方針転換④
某天堂、大〇闘スマッシ〇ブラザーズ。
アマたんにゲームで勝った。三機のストック制で私は3-0で勝利した。
「何度やっても勝てない……!!」
「このゲーム得意だからね」
何度もアマたんのリベンジに付き合ったけど、私の一機も落とされることはない。
「実は異世界にゲームを?」
「持ってこれるわけないでしょ」
「まあ、だよねえ。ああっ!?」
また一機、場外に吹っ飛ばした。
「レイアもやってみる?」
「え、良いんですか?」
「アマたんじゃ相手にならないからねー」
「むっかちーん」
勝ち過ぎて飽きたから、レイアにコントローラーを渡す。
「初心者はねー、この赤い帽子のオジサンが良いかな」
「鼻が大きいんですね……」
「言われてみればそうかも。あんまり気にした事なかったなあ」
Mの文字が入った赤いオジサンをレイアに選択させて、アマたんがキャラを悩んでいる間に基本操作を教える。
Aボタンで弱攻撃、Bボタンで特殊攻撃、Cスティックで強攻撃、AとBのボタンは移動用スティックの向きを変える事で四種に変化する。
「決まったよ」
「おっけ。ステージは最果ての地ね」
“最果ての地”という障害物が一つもないステージが選ばれた。最も基本であり最もプレイヤーの実力差が表れるステージだ。
「あっ」
開始直後、レイアのキャラクターがアマたんのキャラクターに一瞬で投げ飛ばされた。彼女は復帰コンボがわからずにそのまま下に落ちて行った。
「あわわわ……」
「次は上にこのスティックを倒して、Bボタンを押してごらん」
「は、はい」
ちょっとアマたん、完全な初心者に当たり強すぎない??
「ああーーーっ!?」
リスポーンしたレイアは、またも速攻でアマたんにやられてしまった。
「ごめんなさいいいい!! 折角お借りしたのにっ!?」
「気にしなくて良いよ。初心者なんてそんなもんだよ」
私だって初めてはそうだった。ってか、どのゲームでも最初はそうだよね。
さて、と。
「アマたん、言い残す事はある?」
「獅子は兎を撃つに全力を用う」
「言ったなお前。レイア、貸してもらっても良い?」
「は、はい」
獅子に全力で狩られても問題ないって事だもんね? 私が手加減してやったから調子乗っちゃった?
「アマたん、覚悟しな」
「残機一つで何が出来ーーー、ああっ!?」
アマたんのキャラクターをステージ外に叩き落とした。返事してる暇があるなら、手を動かした方が良いよ?
リスポーン直後の無敵時間を利用した攻撃も全部躱して、外に投げ出して強引に叩き落とした。これで二機目。あと残り一機。
「ねえ、アマたん」
「あ、うん、はい」
「初心者には優しく、だよね?」
三機目撃墜。これでゲームセットだ。
「アマテラス、私もやってみたいのですが」
「ええー……」
「こうやって下界に他世界の神が降り立つなんて、本当は言語道断なのですからね……?」
「ぐぬ……、わかった。わかったよ」
私とアマたんが握っていたコントローラーの他に、更に二つのコントローラーをアマたんは用意した。
「レイアもやったら?」
「あ、いいね。やんなやんな」
私とアマたんに強引にコントローラーを持たされるレイア。その隣で恐る恐るコントローラーを握った最高神のアラティナさん。
なんかちょっとシュールで面白い。
「あ、アマたん、チーム戦しない?」
「良いけど、チームの分け方は?」
「私とレイア、アマたんとアラティナさん」
「人対神か、良いね。そうしようか」
ダイニングテーブルに一人座って、陵は微笑ましげな視線を向けてくる。
陵はやらなくて良いのかなって、そう思って彼の顔色を伺ってみた。でも、そんな表情をしてたから気にしなくても大丈夫そうだ。
「よっしゃ!勝ちっ!」
レイアにサポートに走らせて、アマたんとアラティナさんを抹殺した。
「みっちゃんが強過ぎる」
ぐぬぬぬぬ、とアマたんは歯噛みしていた。
「ゲームって面白いですね。こちらの世界で再現って難しいのでしょうか?」
アラティナさんがそんな事を言い始めた。
「出来るか出来ないかって言ったら、出来ると思う」
この世界は魔法とか超常的な力が存在するけど、それ以外の物理法則は地球と大して変わらない。もっと言えば、地球にも魔法とか魔術とかの姿と影は存在してたからね。
「ミレイさん、このゲームの再現を求めます。広めましょう!」
「ええっ……」
このゲームが相当楽しかったのか、アラティナさんは食い気味にそんなことを言い始めた。
戦争が頻繁に起こる世界で、ゲームを含めた娯楽に時間を費やす人は居ないと思うんだけど、どうなんろうね?
「ごめんけど、そんなに興味無いかな」
人とどんちゃん騒ぎする為の一種の娯楽としてゲームをやるのはまだわかるけど、私は別にゲーマーってわけじゃない。態々手間暇かけて作ろうとは思わない。
「そ、そんな……。ど、どうしたらやってくれますか……!?」
ゲームにそんな顔する必要ある……!?
って思ったけど、それは人の趣味嗜好の問題だから、きっとそういう価値観もあるよね。
「どうしたらって言われても、そもそもどうやったら再現可能なのかはわかんないから」
娯楽とは言えど、ゲームって本当に沢山の技術が使われてる。
映像がコロコロと変わる画面を作るのだって、とんでもない技術が必要だし、ゲームコントローラーだって内部の回線はえらいこっちゃって感じだよ。
画面に映るキャラクターも、一つ一つデザイナーさんが手掛けて作ってるんだ。
私みたいにアマたんから凄い力を貰ったりして、幾ら簡単に人を殺したり物を破壊したり出来ても、誰かが楽しいって思うような創作物って作れないんだよ。
なんかね、なんて言うのかな、精密なんだよね。誰かの楽しいってさ。
「そう……ですか」
「うん。このゲームだって本当に色んな人間の手が入ってるんだけど、それが簡単に出来るだなんて言われても困る」
初めてゲームを見た時って、ただ楽しいだけの物なんだよね。だから、ただ"欲しい"って思うのは、ある意味で自然な反応なんだと思う。
「美玲、ちょっと怒ってる?」
「いや、そんなことないよ」
陵の言葉に首を横に振る。それは意地を張ったわけじゃなくて、その裏のクリエイターさんの本気を見た事があったから、簡単な物じゃないって知って欲しかっただけだ。
「ただ、真剣な人を知ってる身としては、チャラチャラと答えるべきじゃないと思っただけ。でもま、出来ないって切り捨てるのは勿体ないのかな」
「んー、まあ、美玲にやる気があればやれば良いけど、この世界の文明レベル……簡単に電気すら確保出来ない世界で、普及するとは思えないなあ」
彼の言葉は本当にその通りだと思う。
この家はアマたんの力によって何故か電気が切れない。どうやって発電してるのか知らないけど、不思議な力でエネルギーを確保してるんだと思う。
けれど、この国の他の家ですら、夜の灯りは電気じゃなくて火なんだよ。
そんな中でゲームを流行らせましょう。作りましょうは無理だ。
「アマたん、どうやったらゲームとか作れるかな?」
「んー……、こっちの世界を知らないから何とも……」
「だよねー」
頼みの綱のアマたんですら首を傾げていた。そりゃそうだ。こっちの世界のことなんて知らないもんね。
「私達の国だけに流行らせるなら……まだ、可能かもしれないけど、ゲームにハマって仕事しなくなったら困るんだよね。戦争が身近にある世界だから、そんな風にならないかもだけどさ」
「あー……、否定し切れないなあ」
ゲームってのは如何せん面白過ぎる。この世界って本当に娯楽が無いから、そんな面白過ぎる物が出来てしまったらどうなっていくのか想像が出来ない。
少なくとも一定数は、今ある仕事をやらなくなるだろう。
「取り敢えず、どうしても作って欲しいなら電気を作る手段を用意するしかない」
「電気……ですか?」
アラティナさんは首を傾げた。この世界も普及してないし、神様に電気って必要なさそうだから、その反応に驚きはない。
アマたんだって、電気なんて無くても何一つ不自由せずに生きていけるだろうし。
いや、それ以前にそもそも電気って、生物が生きていく上で必須な物じゃない。火や水、大地や食物に比べたら、圧倒的に優先順位が低いんだから仕方ない。
「電気がどんな物かって、どうやって説明すれば良いんだろう?」
「見たことない人には難しそうだよな。流動的な力、エネルギーみたいな?」
「なるほど。それがあれば作れるのですか?」
「それが無いと絶対に無理、って感じ」
アラティナさんは顎に手をやって、真剣に何やら考え始めた。
「常にエネルギー、力を作り続ける物じゃないとダメですよね?」
「それはそうだね。発電機とかもあるけど……」
「発電機……ですか?」
「そういう道具ってか、機械かな。でも、それが作れないんだよね」
「私が創造すれば良いのでは?」
「あのさ、それやり始めたら絶対普及しないからね?」
「確かに……」
神って私利私欲に忠実過ぎない? って思ったけど、自分の力を使うのに抵抗なんて普通は無いよね。
「あ、そもそもそっか。私が魔法で色々とやってみれば行けるのかな」
「魔法で出来そうなのだと、風車とか?」
「逆にそれ以外に思いつかないや。ここは高所だからもしかしたら、だけど」
「風力発電って発電量少ないからなあ……」
「完全にゲームの為だけの風力発電になりそうだね」
陵の懸念はよくわかる。風力って本当に発電力が低い。でも、発電力を上げるには原子力発電みたいなリスクを背負う必要がある。あるけど、ゲームを作る為だけなら今は要らない気もする。
「風力発電の機械だけ作ってみようかな……」
「無理はしない程度にな」
最近、陵とイチャつく時間も無いんだよね。ちょっと寂しい。
「設計書あげようか?」
「え? 何で持ってるの?」
「内緒」
アマたんがそう言って、何処からともなく紙束を取り出した。それを受け取って中身を見て、私は思わず苦い顔をした。
「銅線すら用意するのが難しいんだよねえ」
電気伝導率の高い金属って、この世界だとなんなんだろう? そもそも、世界が違うと金属すら違う可能性だって存在する。
「あー、確かに」
「うーん、ちょっと考えてみる。この設計図は貰っておくね」
「はーい。さてと、もう遅いし僕達も帰ろうか」
アマたんがアラティナさんの肩を組んだ。そして、次の瞬間にはリビングから姿を消した。
ゲーム機とテレビを置きっぱなしにして。
「これこそ本当の置き土産ってやつかな」
「かもな」




