第6話-方針転換
「これで良いと思う?」
「良いと思います」
レイアに連れられて、私こと美玲は魔法で空き家の改築をしていた。その空き家は神王国ヤマトの中で最も大通り沿いにあって、空き家から足を踏み出したらそこには冒険者とか商人とかが歩いてる。
この国でここまで栄えている場所は他にはない。そもそも、他の国から人が来ることが少ないから、他国の人間が目の前を歩く環境ってだけで大分レアな立地だ。
「こんなに良い場所を来たばかりのドワーフ族に与えて良いの?」
「大丈夫です。ドワーフ族は絶対にこの国に客を呼び寄せてくれます」
「凄い自信だね……」
「はい、人族からすれば道具の制作をドワーフ族に依頼することが、特殊で希少な機会なんですよ」
地球でも物作りが物凄く上手い種族ってイメージがあったドワーフ族だけど、この世界もその認識は変わらないみたい。
さっき指輪に解析させた“対話の水晶玉”も、ドワーフ族なら案外簡単に作れたりするのかな。
「一応簡易的に寝具台を十人分作ったけど、人数分足りてるかな?」
「さっき数えた時に十人だったので大丈夫だと思います」
一通り家具とかも揃えて、すぐに暮らせるようにはしたつもり。ドワーフ族は鍛冶屋をすることが多いらしいから、少し大きな鍛冶部屋も用意したよ。
「ちょっと、見て回りますね」
レイアは最終チェックと言わんばかりに、一階から四階までをフラフラと見て回った。空き家って言うけど、一階はドワーフ族が店舗経営出来るようにテナントになっていて、二階以上が住居スペースになっている。
「これなら、満足しなくてもこちらの熱意が伝わってくれるでしょう」
「だと良いけどね~」
もし失敗したら、それはそれでドンマイで終わる話。
「では、ドワーフ族の皆さんを呼びに行きましょう」
レイアは軽い足取りで第一区画まで行き、ドワーフ族のグーって人に話し掛けた。彼女が住居の説明をするとグーはすぐに他のドワーフ族を叩き起こした。
そしてすぐに、さっき作った空き家に戻ってきた。
「これ全部、皆さんに貸します」
「えっ!? ……見返りはなんでしょうか?」
初対面の時はレイアを子供扱いしていたグーは、今や完全に彼女を上に見ている。
「本当は税とかも取りたいんですけど、今取るって言っても無理ですよね?」
「……はい」
グーを始めとしたドワーフ族は暗い顔をした。
「まあそもそも、この国は住む人が少なすぎて税金なんて取れないんですけどね」
「……」
誠に遺憾ながら本当にそうなんだよね。人が集まらない以上は仕方がない。
神王国ヤマトって、現状は国って名前を冠しただけの何かでしかない。
「なので、皆さんの力を使って人々をこの国に呼ぶお手伝いをして頂けませんか?」
「人を呼ぶ?」
「はい。ドワーフ族だから物作りをしろとは言いません。ですが、もし良かったら、今回の事で少しでも恩を感じてくださっているのなら、いつでも構いませんから、この国が豊かになるようにお手伝いをして欲しいのです」
レイアの言葉はちょっぴり王様らしいなって思った。国民から啓蒙され敬愛され、そうして国の舵取りをしていく、それが彼女が目指している先なのだとわかった。
「では、こちらがこの家の鍵になります。使い方はわかりますか?」
家の鍵を渡すと、グーは玄関扉に視線を向けてゆっくりと頷いた。
「ミレイさん、行きましょうか」
レイアは彼らが空き家を使える事を確認して、くるりと身体の向きを変えた。もうここに用は無いんだね。ささっとドワーフ族から遠ざかった。
私達はその場を後にした。こうやって人の善意を信じる経営スタイルは嫌いじゃないけど、国民が少な過ぎるから上手くいくかもしれないってだけで、きっとこれから色々と話を詰めていかないといけないんだろうなって思った。
この国にはマトモなルールも無いからね。基本的に皆が皆、私達の顔色を伺いながら生きている。私がルールだと言えばそうなんだけど、それを国民が知れないと国が立ち行かなくなるのは流石にわかる。
「神王国ヤマトのルール、作らないとだね」
「そう……ですね。今日は帰ったら簡易的なルールを決めましょうか」
「だねー。基本的に私基準にするつもりだけど」
「王様ですからね。そこは私は何も言えないので」
「レイアも良くないなってのが有ったら言ってね」
「はい、もちろんです」
足は自然と私達の家に向いていた。帰る途中で第一区画に大きな獲物が運び込まれるのが見えた。
「おおー、大物じゃん」
「奴隷達もああいう大物の魔物を危なげなく狩れるくらいには、成長してるんですけどね」
「頼もしいね」
大きな獲物を運んだ大人の後ろに、山菜を籠に敷き詰めた子供達が続いた。
「農作物とかもやらないとヤバいよね」
「そう……ですね。この国が高地にあることもあって、中々育つと思える作物が無いんですよね」
「あー、確かにそれはあるかもね」
「私も今まで通りずっと山菜や獲物が取り続けられるとは思ってないので、一応実験などはしてみてはいるのですが……」
「そもそも、畑を作れる場所なんて無くない?」
レイアは実験とか言ってるけど、この国は端から端まで建物が立っている。完全に空き地が無いかと言われると、それはないけど、でも畑をやるだけの広さは絶対に確保できない。
「ダンジョンの中で作ってます。階層によって気候を変えたり出来るので……」
「え、ダンジョンってそんな事できるのっ!?」
「一階層目は普通の洞窟だったけど、二階層目は砂漠でした。は、大きいダンジョンではよくある話だと聞いてます。なので、出来るかなーって思ったら出来ました」
へー、ダンジョンって階層毎に気候が変わるの珍しくないんだね。私達がダンジョンコアを取った時はずっと洞窟でつまんなかったなー
「でもそれなら上手く行きそうだけど、なんかあるの?」
「植えたは良いのですが、一人で回収できるとは思えないんですよね……」
「ああ、人手の問題なんだね。んー…それはもう、仕方がないんじゃないかな?」
「仕方がない?」
「人手をダンジョンに入れるしかなくない?」
いつまでもリスクリスクって言ってても仕方がないと思うんだよね。
「もしダンジョンが国を滅ぼしたら……」
「それさ、具体的に大昔に何があったの?」
「魔物が氾濫して、ダンジョンの外に溢れだしたんです。その魔物は国を飲み込み、全てを食い荒らしたと言われています」
「魔物の氾濫……ね。じゃあ、魔物を生み出さないでダンジョンを運用したら良いんじゃない?」
「……それは、そうかもしれませんけど」
レイアの顔が明らかに濁った。魔物が嫌ならダンジョン内に魔物を造らなければ良いだけなんじゃないの? それなのに何でそれに煮え切らない態度をするのかな?
「何が不安なの?」
「強力過ぎる力を扱うのが怖いんですよ……。ダンジョンを少しでも危険性がある方向に傾けるかもしれないことが怖いんです」
「……ふぅん」
レイアには重過ぎる責任なのかな。
「じゃあ、私が責任を取るから、明日から第一区画の子供をダンジョンに入れようか」
「えっ!?」
「そういうことでしょ?」
「で、でも、実際に国が無くなるかもしれないんですよ?」
「目に見えない危険性に対して、悪魔の証明をし続けても意味無いよ」
それが怖いことなのはわかる。
「そう、ですね」
「まあでも、足が竦む気持ちはわかるけどね」
私達だけリスクを背負わないで、手を汚さないで生きていくなんて無理な話なんだよ。
私の決断で目に見えない危険が突如目の前に現れて、私の大切な人達を押し流していく可能性は重々承知してる。
でも、今の私達はよその大切な人を押し流して生きてるんだよね。だから、それくらいの危険性を背負えないなら、自らの大切な人達が他の人に流されちゃうと思うんだ。
人の命には人それぞれの順位がある。私にとっては陵が一番で、この世界で二番目はレイアかな。他の人を殺してでも、押し流してでも生きていて欲しい人達だ。
もちろん、第一区画に住んでいる子供達だって、国外の人間に比べたらよっぽど大切な人達だ。だからこそ、ダンジョンをダンジョンマスターであるレイアが自分以外に触れさせたくない気持ちも想像は出来る。魔物の氾濫なんて起こった暁に真っ先に食い殺されるのは、そのダンジョンの中に居る人達だからね。
大昔に起こった魔物の氾濫の原因がダンジョンであることに、恐らくは間違いはないとは思うんだけど、それはダンジョンの中で何をしたから起こった事なのかまではわからないんだと思う。
魔物を生み出さないって選択肢も取れるダンジョンというある種のシステムの中で、様々な応用が利くシステムだと気が付いていながら、やれることを試さないのは怠惰だと思うんだよね。
もし魔物が氾濫したらこう対応しよう。とか、ダンジョンの中の人をこうやって外に逃がそう。とか、そっちの方がよっぽど建設的だし未来が見えてると思うんだ。
「ミレイさんは危険性を正しく理解していますか?」
「さあ、どうだろうね」
恐らくダンジョンを解放するか否かという話に答えはない。見方の違いによって正しさの違いがあるだけだ。
「やっぱり、王様はミレイさんが良いですね」
「なんでそうなるのっ!?」
「私はまだそうやって選べないです」
「あー……まあ、確かにそれは、うん、そうかもね。ちょっと私が舵取りしてみよっか」
確かにそう考えると、レイアにはまだ王様って地位は早いかもね。
神王国ヤマトの管理はレイアに任せっきりだったけど、ほんのちょっとの期間だけ私が主導でやってみようかな。




