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第4話-新生グラティーナ王国?③

「流石にオールは眠い……」

「玉座で船を漕ぐな」


 陵に顔をむにぃってされた。


「誰も来ないんだもん」

「まあ、それはそうだけどさ」


 誰か来た時に死骸だけ転がってたらヤバいから、リリアーナはレイアに託して私、陵、ルビアの三人は玉座周りでのんびりとしていた。

 あ、いや、玉座でのんびりとしてたのは私だけか。


 陵とルビアはずっと剣術について議論を重ねてた。ホント好きだよねそういうの。ルビアと出会ってから陵はずっと楽しそうだ。

 言い方が変かもしれないけど、まるで新しい玩具を見つけた小さな男の子みたいで、逆の見方をすれば本当に今まで如何に抑圧された環境で生きてきたのかがよくわかる。


「人が来たな」

「……そうみたいだな」


 彼らは談義を止めて私の左右に立った。


「何人くらい?」

「五十」

「多いね。敵かな味方かな」

「ルビアはどう思う?」

「俺はどちらでも無いに一票」

「それはずるい」


 けらけらと笑った。陵が私以外にも心を許せる人が出来て嬉しいよ。


「そう言えば、弟子は連れてこなくて良かったの?」


 なるべく近くで戦うのを見せたいって言ってたのに、陵はキラとジェネを連れてきてない。


「今回は急だったから、ってのもあるかな。まだ戦場は早い気もするし」

「ふぅん」


 彼も彼なりに考えがあるみたい。私は別にどっちでも良いけどね。


「来るぞ」


 謁見部屋の観音扉が押し開かれた。扉の先には複数の騎士が姿を現した。私達が倒した騎士の鎧とは違うから所属が違かったりするんだろうけど、今の私にはその鎧を見ただけじゃ何処の所属かわからない。


「スローネ、知ってる?」


 リリアーナ付きだった老騎士で、この国のかつての騎士団長に訊ねる。


「アラツネ公爵の騎士です。この国において最高の武力を持っています」


 老騎士に似合わないスラスラっとした声で、私に耳打ちしてくれた。


 この場にはスローネとゲルググも居る。ゲルググに聞くのはスローネがわからない時だけだ。


「アラクネ公御本人もオリハルコンランクの冒険者であられます」

「へぇ、冒険者なんだ」


 アラツネ公爵、面白そうな人だね。少なくとも普通の貴族では無さそうだ。

 態々この地に私兵を動かしたということは、私達のことを倒せると思ってるのかな。


 太陽王モードを発動させて光線銃を右手に握る。


「でも、本人の姿は見えないね?」

「いえ、あちらに」


 スローネが手で示した先に、一人だけ鎧も着ないヘルメットも被らない男がいた。

 白髪に赤眼でヒョロっとしてて幻想的な見た目をしていた。年若く私達よりちょっと年上かなーって感じだ。


 その男は前に行きたがってるけど部下が必死に抑えている。けど、その部下の制止を振り切って騎士達を飛び越えて先頭に出てきた。

 騎士達のヘルメットを踏んで身軽にジャンプして来たから、ちょっとビックリしちゃった。


「俺の名はリグル・アラツネ、お前の名は」


 公爵としてではなく一人の人間として彼は名を告げた。


「私の名は美玲。君達は戦争をしに来たの?」


 だから、一人の人間として名を返す。


「だと言ったら?」


 濃密な殺気を彼は向けてきた。けれど、陵もルビアも動かなかった。つまり、この殺気はブラフだってことだね。

 陵で慣れてるからちょっと肩がこるな〜くらいで、怯えたり怖がったりは出来ない。


「なるほど、本当に腕に自信があるんだね」

「おいおい、マジで俺の事を知らないのか?」

「知らないし興味も無いかな。残念だったね」


 結構有名な人らしいけど、私の知ったことじゃない。


「有名な人なの?」


 スローネに視線を向ける。


「はい、この大陸全土に轟く程の伝説をお持ちの方です」

「ふぅん。なるほどね、騎士が弱くても許されたのは、彼が居たからなんだ?」

「……お恥ずかしながら」


 素人目で見たって、ゲルググが十人居たって彼に敵わないのはわかる。


「で、結局何の用?」

「そりゃあ、王を倒した逆賊を……」

「嘘が下手。貴方が彼らに勝てるわけない」


 彼がどんな存在かは知らないけど、陵とルビアが手持ち戦力として自由に動かせる状態で負けるわけがない。


「み、ミレイ様、彼は不死身です。どんなに優れた技術があっても……」

「……へえ?」


 スローネは強ばった表情でそう言った。不死身……不死身ね。不死身の仕組みも色々とあるから、それを解せば殺せなくはないんだよね。


「陵、黒い刀だと殺せる筈だから」

「ん」


 彼は漆黒の刀を片手に私の前に出た。


「不死身対策、してないわけないんだよね」


 異世界召喚を行った聖王国ブライドリース、その元凶であるクソ神を倒す為の道具として、私達は対不死身用の武器を何点か所持している。その内の一つが陵が愛用している真っ黒な刀だ。


「本当に不死身なら、この武器の危険性がわかるはずだよね?」

「武器を持った程度で俺を殺せると?」

「殺せるよ、彼なら」

「殺せるだろうな」


 私が頷いて、ルビアもそれに追随するように頷いた。


「神龍の力を受け継ぎし者が、そんな調子で良いのか?」


 へえ、ルビアの事情も知ってるんだ。


「……お前には関係ない」

「ルビアの知り合い?」

「いや、知らない吸血鬼だ」


 へえ、これが吸血鬼なんだ。確かに吸血鬼っぽい顔はしてるなって思うけど、こんなにわかりやすい吸血鬼が居るんだね。ちょっとビックリだよ。


「ま、そういうわけだけど、戦っても良いよ?」


 負ける気はしないかな。


「一武人として貴殿の力を体感してみたい所ではあるが、神龍の継承者にここまで言われるということは、限りなく強いのだろうな」

「俺もお前とは戦ってみたい。確かに強そうだ」


 あ、陵の変なスイッチが入った。


「陵、今はダメ」

「ちぇっ……」


 最近、陵は欲望に忠実になった。それはきっと、自身の力を余すことなく発揮出来る環境を見つけたから。

 でも、戦いが終わったらガッカリしてることが大半なんだけどね。思ったより弱かった……って。

 ルビアみたいなのが何人もいたら私は嫌だよ。どんなに神経を張り巡らせても足りないじゃんってなる。


「はははっ、面白いな貴殿は。名を何と言う?」

「陵」

「リョウ殿か、俺のことはリグルと呼んでくれ」


 アラツネ公爵は陵のことが気に入ったらしい。てか、そんなことはどうでも良いんだよ。


「で、やるのやらないの? それとも大人しく引いてくれるの?」

「それは襲撃者の台詞ではないと思うが……」

「私達にはリリアーナが居るから、完全に襲撃者とは言えないと思うけどね。只の政権争いで王様が負けたとも言えるよ?」


 正確には言い張れる、だけどね。


「リリアーナが生きてるのかっ!」

「公爵様なのに知らなかったんだ?」

「アラツネ公爵は他の貴族とは違うのです。場合によっては王よりも強い権力を持つ程です」


 スローネが私の疑問に即座に答えてくれた。公爵と言っても名ばかりの名誉職的な感じなのかな?


「スローネの言う通りだ。俺は人では無いからな。基本的には貴族とやり取りをする事すらない」

「じゃあ、なんでこのタイミングで姿を現したの?」

「グラティーナ王国が存続の危機に襲われると、俺達が動く手筈になっている」


 確かに王が死んじゃってるし、存続の危機ですって言われたらそうかもね。


「なるほどね。国が存続の危機に瀕すると、リグルが表舞台に出てくる仕組みなんだ?」

「……まあ、そうとも言う」


 人智を超えた存在であるリグル・アラツネは普段は属世に干渉しない。でも、王国が存続の危機に瀕すると表舞台に姿を現し王国を守護する英雄的な存在、なのかな?


「私達は王国を潰す気は無いよ。君が知らないから教えるけど、先に喧嘩を売ってきたのはグラティーナ王国だから」

「ほう、戦争をすると言うのは初聞きだな。ゲルググ、どうなっている?」

「はっ! 神王国ヤマトに囚われたリリアーナ様を救出するという大義名分を元に我々は挙兵しました」


 リグルの問い掛けに、ビシッと膝を折ってゲルググは答えた。何度聞いても腹立つ大義名分だよね、ホントに。


「実際はどうなのだ?」

「奴隷になっていたリリアーナとスローネを買っただけだよ」


 レイアがね。ま、こうやって面倒くさくなる事は承知の上だったから、予想外予定外ってわけじゃないんだけどさ。


「で、負けたと」

「まあ、そうなるね。その大義名分をどれくらいグラティーナ王国の民衆が鵜呑みにしてるのか知らないけど、私達に石を投げようものならその場で殺すから」


 これは王国に対する脅しだ。目の前に超強い公爵サマが居るとか関係ない。


「それは随分と過激だな」


 リグルの咎めるような視線が刺さる。


「まさか、石を投げておいて自分が投げ返されないとか思ってる?」

「王の言葉ではない」

「私は善王じゃないからね」


 何よりも大事なのは、陵にレイアにそれから周りの人達だから。


「王の首で怒りが収まっただけ良しとするべきか。だが、王を殺しておいて、その後はどうするつもりだ?」

「リリアーナを王にする。その為の支援は惜しまないよ。とは言っても、あんまり出来る支援も無いんだけどね」


 内政が得意な人材は神王国ヤマトにも居ない。武闘大会の時に拾ったガリウスなら、ちょっとだけそういうのも得意かもしれないけど、それでも、国を回せる程じゃない。レイアは絶対に譲れないし……


「ふむ。そういう事なら、俺がリリアーナが自立するまで内政の面倒を見よう」

「あ、それは助かるかも。賠償金さえくれればね」

「……言っててなんだが、ぽっと出てきた相手に折角打倒した国の内政を任せてしまって良いのか? 俺の事は何も知らないんだろう?」

「国を支配するとか興味ないんだよね。こっちに手を出されなければ、ぶっちゃけどうでも良いし」


 属国にする必要はない。私達に刃を向けないなら。

 神王国ヤマトは私がやりたいことを実行する為に必要だったってだけで、それ以上でもそれ以下でもない。だからレイアの好きにさせてるし、国もあんまり大きくならない。

 レイアの人生には責任を持つって決めたからね。もしちゃんと国として機能し始めたら、王座はレイアに正式に譲るつもりだ。


「あでも、私達の監視下を離れて次また同じような事があったら、その時は王の首一つで許されると思わない方が良いよ。

 ってか、王の首一つで許されるんだーって思われたらこまるから」

「王の首が取られる前提で戦争を起こす奴など普通は居ない」

「普通はでしょ? 普通じゃない事態でも関係ないからね」

「……肝に銘じておこう」


 例え原因がこの国でなかったとしても、私はこの国の事を許さない。

 国が崩壊することで、どんなに多くの民衆が路頭に迷うとしても、私はこの国を許さない。


 それが私が選択するという事だから。

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