第4話-新生グラティーナ王国?
「レイアも来ちゃったんだ?」
「……来ない訳にはいかないじゃないですか」
風の精霊王への依頼はグラティーナ王国第三王女のリリアーナを連れてくること。だった筈なのに、目の前にはレイアも居た。
「リリアーナ、君は今日から王様をやってもらうよ」
「えっと、えっ?」
私は玉座から立ち上がって、金髪美少女を玉座に座らせる。
「王様倒しちゃった」
「倒しちゃったじゃないですよ……ったく」
最近、レイアの口がどんどん悪くなってる気がする。
「私、今日から国王なんですか?」
「そういうことになるね」
リリアーナは目を白黒させていた。
「いやいやいや、出来るわけないじゃないですかっ!?」
「武力面は私達がしっかりとサポートするから、大丈夫だよ」
「いや、あの、ええっ!?」
手を一生懸命に横に振って、いやいやいやと彼女は言う。うん、知らん。使える物は使う主義なんだよね。
「……父はどうなったんですか?」
「倒した」
殺したと言わなかっただけ温情だと思ってほしい。殺したけど。
死骸は指輪に隠したよ。リリアーナは私達が殺した王の娘な筈だから、その肉親の前で無造作に放置しようとは思わなかった。
そう言えば、彼女はどう思ってるんだろう?
レイアと気が合うのは知ってるし、少なくともレイアと話が合うくらいには頭の良いリリアーナの事だから、私が“倒した”って言い換えた事に気が付かないはずはない。
いったいどれくらい私達は恨まれてるのかな? 何も思わない感じないは小さな少女には難しいと思うんだけど、どうなんだろうね。
リリアーナは言う事を聞かなければいけない立場だから、うんうんと大人しく頷いているけど、実際の内面は全くわからない。
あとでレイアに聞いておいて貰おうかな。
「で、ですがこの国は男性至上主義で……」
「それはまあ、知らないよ。文句言うやつは片っ端から潰すつもりだし」
リリアーナが良い。リリアーナじゃないと私達が面倒くさい。
「私の優秀な秘書が居なくなるんですね……」
レイアは少し落ち込んでいた。確かに彼女の所有物だし、そこは私があーだこーだ言える問題では無いんだけど……
「ダメかな?」
「ヤマトのことを考えるなら、ダメって言えないのわかってますよね?」
めっちゃ恨めしそうな視線を送られた。割とちゃんと怖い。
「ミレイさん、風の精霊王様をお借り出来ませんか?」
はぁ……と溜息を吐いて、レイアがそんなことを言い出した。
「ん? 私は良いけど、出来るの?」
「出来るけど嫌よ」
結構テキトウな頼みも聞いてくれるから、良いって言ってくれるかなーとは思ったけど、流石に拒否されてしまった。
「リリアーナが一人で内政を出来るとは思えないんですよね」
「暫く私達がこっちに居ようかなって思ってるけどね」
「ミレイさんも大して役に立たないですよね? そもそも、ミスった時にそのミスにも気が付かないですよね?」
「うっ……」
レイアの辛辣なコメントが胸に刺さる。辛い。
「で、でも仕方なくない??」
「そうかもしれませんけど……」
そう、仕方ないんだよ。だって、急だったもん。
「こうなったのは、急にミレイさんが強行突破したからです」
「でも、今日戦わなかったら手遅れだったよ。山の下のちょっと先まで進軍してたし」
「あ、そうなんですかっ!?」
「や、そこまで予想してなかったけどね」
軍を見つけたのは結果論だ。もしかしたら既に進軍してるかなくらいの気持ちだったから、本当にあんなにデカい大軍を動かしてるとは思ってなかった。
「あ、ミレイさん、そこの男の人の名前は?」
私達が和気藹々とする中で一人会話に取り残されている人物がいた。さっきまで騎士団を率いていた男だ。他の騎士は邪魔だから帰ってもらった。
「名前なんて知らないよ」
「じゃあなんでここに居るんですか?」
「なんか、国の行く末を見届けないといけないらしいよ?」
「ホントにそういう所に興味無いですよねっ!?」
実際マジで興味無い。騎士の誓いとか志とか犬に食わせたって腹なんて膨れやしないよ。
「リリアーナ、知ってますか?」
「ええ、知ってます。私を護衛していたスローネを、騎士団長から引き摺り下ろした男です」
「ああ、あの老騎士を」
リリアーナを購入する理由になった老騎士だ。陵からはそれなりに動きが良いと聞いていた。歳だから無理はさせられないって言ってたけどね。
……ん?
あの人を連れてきたら、この国の事をもっと詳しく知れるかもしれないね。
「レイア、スローネって老騎士をここに呼ぶことって出来るかな?」
「私も同じ事を考えてました。彼しか出来ない仕事を振ってるわけではないので可能です」
「おっけ。シルフィーネ、もう一仕事お願い。スローネって老騎士のことわかる?」
「……はあ、わかったわ」
風の精霊王は死ぬほど面倒くさそうな顔をしていた。うん、ごめんね。申し訳なさはあるんだよ。でも、他に頼めないから許して欲しい。
シルフィーネは私達の前から姿を消した。
「リリアーナが嫌なら、この騎士は外に追い出すけど」
「あ、いえ、ミレイ様にそこまでして貰うわけには」
「いやいや、私も結構無茶を言ってるからさ。気になるならそれくらいお安い御用だよ?」
急に王様やってねとか意味がわからないよね。
利益を追求したらそういう選択を取るしかなくなってしまったわけだけど、それを押し付けて受け入れてもらって、リリアーナが受け入れたからきっと不満が無いんだろうと考えるのはまた別だ。
「いえ、大丈夫です」
けれども、彼女は首を横に振った。ここまで言ってもやらなくて良いと言うのなら、本当に気にしていないのだろう。でも、別に外に追い出す事を止める必要もないよね。もしかして、この騎士に何か用があるのかな?
「リリアーナは聞きたいことがあるのでしょう?」
レイアがリリアーナに発言を促した。普段一緒に居るだけあって、彼女もそれなりにリリアーナに対して理解があるらしいことが伺えた。彼女達は髪色は正反対だけど雰囲気が似ているから、もしかしたら、彼女達には似た部分があって理解しやすいのかもしれない。
「ゲルググ、今の国の状況をこの場で説明しなさい」
「……」
「早くなさい」
「はっ! リリアーナ殿下が行方不明になられてから、特に大きな変化はありませんっ!!」
その騎士はリリアーナを見て惚けていたのか彼女の言葉に対して反応が少し遅れた。それを叱責されてやっと正気に戻ったのか膝を折って頭を垂れた。ゲルググって名前なんだね。
「リリアーナ、彼ってどんな人なの?」
「彼はこの国の騎士団長です。リョウ様のような素晴らしい腕を持っている訳でもなければ、スローネを超える程の経験があるわけでもないです」
騎士団長ねえ……、あんまり貫禄が無くて騎士団長って言われるとパッとしないなって印象を受ける。でもそれ以上に、リリアーナの中には恨みっぽい何かが渦巻いてることがわかる。恨みってより見下している感じかな?
「まあ良いでしょう。ミレイ様、スローネを騎士団長として置く許可をください」
「良いんじゃない?」
そこは彼女の判断で好きにすれば良い。そこまで口煩く言うつもりも無いし、スローネって老騎士を騎士団長に挿げ替えるのは良い判断だと思う。
目の前に膝を折っている騎士の表情がどんどん怖くなってるのはリリアーナに言うべきか悩むね。必ず何処かで爆発すると思う。
「リリアーナ、今の時間で出来る事ってある?」
「今は特に何も……。強いて言えば地方の貴族に政権交代を伝えることですが、それも動ける人材が把握出来ないので難しいです」
どんな貴族が居て、どんな文官が居て、どんな武官が居るのか、全くわからない現状ではどうしようもない。待ってれば向こう側から来てくれる気もするけどどうなんだろうね。知識も経験も無いから困っちゃうよね。
「あ、冒険者ギルドを使おうか。どの街にも基本的にあるんだよね??」
「そう……ですね。確かにそれなら情報が伝わりやすいと思います。その分、事実と違うことも流れるかもしれませんが」
「あーね。でもまあ、今回は背に腹は代えられないからね」
そうと決まれば、さっさと冒険者ギルドに向かった方が良いね。
「陵、エリス、リリアーナと一緒に行ってきてくれる?」
「あいよ」
「わかった」
ルビアも居るから私達は別行動でも問題無い。少なくとも目の前に頭を垂れ続けているゲルググとリリアーナを一緒にする訳にはいかない。
そう言えば、騎士団長ゲルググはどれくらい強いのかな? 陵ほどじゃなくてもエリスくらいの実力はあるのかな?
陵達が出て行ったのを確認して視線をゲルググに向けた。さっきからずっと膝を折りっぱなしで誰も顔を上げて良いって言わないもんだから、もし言わないままだったら死ぬまでそのままなんじゃないかとすら思える。
「顔を上げな」
「は、はいっ!!」
彼はパッと顔を上げた。
「君ってどれくらい強いの?」
「この国の騎士の中では、最も強いはずです」
「ん~、それわかり辛すぎる。ルビア、お願いしても良い?」
「……戦うまでもない。エリスって言ったか? あれよりも弱い」
ルビアは剣を抜く事すら嫌がった。エリスよりもって事はオリハルコンランク未満の強さだってことかな。だとしたら、それ以外にあるのかな。騎士団長を騎士団長たら占める所以の能力が。
……でも、その前に。
「ルビア、彼はそれに納得してないみたいよ?」
「んなこと言われてもな」
ルビアは心底面倒くさそうな顔をした。対極にゲルググは内心に小馬鹿にされた怒りを抱えていた。
「もし仮に戦うとして、何処までやって良いんだ?」
「好きに料理したら良いかな。最悪息してれば良いよ」
「……ゲルググと言ったか? どのタイミングで掛かって来ても良いぞ」
ルビアの言う通りなら、例え彼が素手であっても多分ゲルググは彼の相手にすらならない。
「……では、失礼します」
ゲルググは立ち上がり、ゆっくりと剣を構えた。戦いを見て無かったからあれだけど、ルビアが素手で瞬殺してた。
「これで満足だろ? 二度目は殺す」
「っつ!?」
ルビアは何事も無かったかのように私の隣に戻ってきた。
「ねえ、この国の騎士って本当に君より強いのいないの?」
「……いません」
「そっかあ、大変だね」
他人事ならぬ他国事ではあるんだけど、この国って他国からの侵略とかどうしてたんだろう。
「今の貴族の武力構成と騎士団の武力構成を全部教えて。騎士団長って言うくらいだから、きっと知ってるよね?」
自国の武力について詳しくなかったら、彼は何のための騎士団長なのかってなるからね。リリアーナが帰ってくるまでに聞いておこう。
あ、その前に。
「レイア、リリアーナがどう思ってるのか聞いといて欲しい」
こそっと耳打ちをした。すると、はあ……って顔をした。
「大丈夫ですよ。……まあでも、聞いておきます」
彼女はボソリと言葉を零した。




