第3話-戦争/グラティーナ王国②
「あちゃあ、一撃では全滅には至らなかったか」
フルパワーじゃなかったってのもあるけど、それでも、軍隊が姿形を維持してる方が驚きだよ。
光線で目がちょっとチカチカする。その中で薄らと、何者かが盾を持っていたのが見えた。
……もしかして、光線が防がれた?
「美玲、下がれ」
「俺がやろう」
陵に庇われて、ルビアが走り出した。
**
グラティーナ王国に強襲を仕掛けると言われ、報酬が莫大になりそうだから俺は依頼を受けた。
依頼された分は働かなければならない。だから、俺は手頃な強そうな奴に斬りかかった。
「名を聞こう」
魔剣を長細い盾に叩き付けて、俺は問う。
「グレン・バッハーカ」
「覚えておこう」
何処かの貴族の出なのはわかった。強さは行ってもオリハルコンランクくらいだな。
脚で盾を蹴り飛ばし、少し距離を取ってから、もう一度一気に距離を詰める。
狙うは足元。
向けられた切っ先は盾により防がれた。
後ろをチラリと見る。彼らは特に何も思ってないのか、のんびりと俺の戦いを鑑賞していた。
待たせているから、さっさと終わらしてしまおう。神龍から得た力を解放して、もう一度力任せに盾に叩きつけた。
すると、盾を持ったまま彼は吹っ飛んでいった。リョウのような高度な受け流しの技術は持っていないらしい。
先程の光線の余波を、彼が一体どうやって受け止めたのか知らない。だが、このまま此処で殺してしまうのには惜しい腕をしていた。
目的は此奴の殺害じゃなくて障害の排除だ。なら、殺さなくても許されるだろう。
吹っ飛んだ彼に、体勢が不十分な彼に、盾の無い場所を目掛けて力任せの回し蹴りを叩き込む。
そのまま軍隊から遠く離れた何処かまで飛んでいった。流石に魔物や野獣に食われるかどうかまで面倒見切れない。生き残りたければ、好きに生き残ってくれ。
「ルビア殿、退いてくれ」
その声と共に後ろを振り向くと、エリスが既に剣を構えていた。その剣に強力なエネルギーを感じて、大人しく彼女の後ろに退いた。
やがて剣は振り下ろされ、軍隊に超巨大な炎が叩き付けられた。その炎は瞬く間に軍全体を飲み込むように広がっていき、やがて、全てを燃やし尽くした。
**
ルビアが勝手に一人の騎士を生かしたのは知ってる。咎める気は無いんだけど、気が付いてないわけじゃない。
それよりも、エリスの炎が案外優秀なことを知った。私の光線銃よりも討ち漏らしが少なそうだね。
私のはまとめて吹っ飛ばす感じだけど、彼女のはじわじわと広がっていく感じだった。
「次に行こうか。シルフィーネ」
取り敢えず私達の国に向かってる敵は倒したから、後は本丸を叩くだけかな。
「はあい。飛ばすわよ」
私達の身体がフワリと浮く、グラティーナ王国の王城に向かった。
グラティーナ王国の王城の上空で、私達は待機していた。
確かに報復をしには来たんだけど、民衆を虐殺したいわけじゃないからさ。
出来る限り周りに被害が及ばないように、どうやって襲撃するか吟味してた。
あと、どの程度の人達がどういう態度をしたら殺すのか、殺して良いのか、それとも生かすのかも共有しないといけない。
「まあ、基本的に殺しは無しね。武器を向けられたら殺っても良いけど」
「なんだとっ!?」
エリスが本気で驚いてた。まあ確かに、この面子だと王城を全てぶち壊すくらいの勢いはあるよね。
「特に王サマ殺しちゃったら、誰が戦勝金を払ってくれるのかわからなくなるからね」
報酬の確保の為に、支払い者の生存は必須だ。
「報酬の為に殺すな……か」
「そういうこと。逆に脅しになりそうなら、何をやっても良いかな。出来るだけ民衆に関わるのは無しの方向で」
王族に嫌われるのは良いけど、民衆が敵に回るのはあんまり良い感じがしない。感覚的な話だけどね。
「まあ、それはそうだな。頼まれてもやりたくない」
「俺も良い気はしないな」
ここら辺の感性はルビアもエリスも私と似たり寄ったりみたいで、無理に合わせる必要が無いから助かる。
「最後に突入場所はどうする?」
「正面突破」
ルビアが言い切った。
「その心は?」
「正面から叩き潰すのが、心を折るのに一番最適だからな」
「なるほど、やれるかな?」
「やれる」
彼がそこまで言うなら、それで行こうか。
「それで良い?」
陵とエリスに確認を取った。
「シルフィーネ、正門の前に」
「はーい、頑張ってね」
私達四人は、王城の前に降り立った。
**
「何者だ?」
門兵に槍を向けられて問われた。槍をスルッと掴んで、そして、鎧越しに掌底を叩き付ける。
体内に波を起こし、内蔵にダメージを与える鎧通しを、久しぶりに本来の運用方法で使用した。
「貴様っ!」
それを見たもう一人の門兵が槍を振り上げる。この距離で振り上げたって、素手で殴った方が早いだろうに。
……と、そんな事を思って構えようとした寸前に、ルビアの回し蹴りが門兵の顔面を捉えて派手に吹っ飛んだ。
「派手にやった方が良いんだっけ?」
美玲がそんな事を言う。心を折るって目的なら目立った方が良さそうだけどな。注目されないと意味無いし。
「注目された方が良いだろうな」
「おっけー、じゃあ次は私がやるよ」
ルビアの言葉を聞いた美玲は、太陽王モードのまま大地に手をついた。
その次の瞬間、王城の庭が隆起して滅茶苦茶になって、そのついでに門が壊れた。
「行こう」
こうしてやっと、王城の敷地に足を踏み入れた。踏み入れると同時に、何処からか騎士が現れた。
逃げ回らずに、正面から潰した方が良いんだったな?
「俺がやる」
ルビアの言葉と共に、彼の背には龍の顔が浮かんだ。龍のオーラを身に纏った彼は、身に纏われた龍は火を吹いた。
これがドラゴンブレスってやつか。
放たれた息吹は一瞬で騎士達を溶かした。原理現象は多分違うけど美玲の光線銃みたいだな。
あの剣の腕に広範囲の火力か。正直チート過ぎないか?
……まあ、楽が出来るんだし、気にしなくて良いか。
城内に繋がる扉を刀で斬り裂き、蹴り飛ばした。中にはさっきよりも強そうな騎士が何人も居た。
「対魔法装備か」
「……なんだそれ?」
「魔法を無力化する装備のことだ。つまり、さっきみたいにササッと片付けられないってことだ」
初耳だったけど、聞けばそんなに驚異には思えなかった。結局、魔法が使えない俺には何も変わりがない。
ルビアもエリスも順当に剣で打ち倒していく。俺もって思ったけど、美玲の傍から離れるのは抵抗があった。
近くに寄ってきた敵だけを一刀両断する。鎧ごと斬ってるから、鎧があるから切られないと思ってる騎士は涙目だろうな。
「一方的だね」
ルビアもエリスも鬼神の如き強さを発揮していて、恐らく強いであろう騎士達がどんどん倒れていく。
「そうだな。俺の仕事は無さそうだ」
「私を守るって仕事があるからね?」
「いつもに比べたら、楽な方かな」
人手があるだけで、俺は美玲を置いて攻めに転じる必要が無くなる。それだけで、既に半分くらい仕事が無くなっている。
守る対象を自分から離して置いておくのは、対応出来たとしてもあんまり気持ちの良いものではない。
楽な仕事だと構えていたら、今まで聞かなかった鍔迫り合いの音が耳に入った。
そっちに視線を向けると、エリスと男の騎士が戦っていた。
……確かに、あの男は強そうだな。
美玲は徐ろに回転式拳銃を取り出すと、そのまま騎士の額を撃ち抜いた。
撃ち抜かれた騎士を押し倒したエリスは、先程と同じように剣を振り続ける。
あのまま放置してたら、彼女は騎士に囲まれて袋叩きにされていただろう。
ここは闘技場じゃなくて戦場だ。正々堂々の二文字は存在しない。だから、どんなに一個人が強くたって、闘いを始めてしまった時点で、余所者に横槍を入れられるのは寧ろ当たり前とすら思える。
これは"戦い"であって"闘い"ではない。鍔迫り合いなんてしてる暇は無い。
「これで最後か?」
ルビアが最後の一人の首を斬り飛ばす。
**
「だろうね。王サマって何処に居るんだろうね?」
「取り敢えず上に登るしかないだろ」
陵に先導されて、私は二階に登った。
『敵性反応が
ざんっ!!
ありました』
指輪の警告よりも速い陵の刃が、目の前に現れた騎士を横一閃する。本当の最後の一人がまだ残ってたみたいだね。
「リョウ、俺達が先に行く」
「ん? ああ、そうした方が良いか」
ルビアとエリスが私達の前に躍り出た。けど、さっきの騎士で最後だったのか、敵が出てくることはなかった。
一番奥に大きな観音扉があった。きっと、そこに王サマが居るんだろう。
「開けるぞ」
ルビアは特に戸惑うことなく、扉を開け放した。
「誰も居ないね」
夜分の襲撃だったからか、王サマはもう仕事してないのかもしれないね。
「王サマの居場所、聞いとけば良かったな」
「シルフィーネ、王サマの居場所を教えて」
どうやら、ここから少し離れた王宮に王サマは居るらしい。
「走るよ」
シルフィーネの案内に従い、私達は王城を後にした、
私達は街道を走る。先程の襲撃のせいで街中にはあちらこちらに兵士が湧いている。
陵とルビアにとって、剣を抜く必要も無いのか、そのまま素手で殴り倒して先に進む。
民衆から悲鳴があがる。気にしてはいられない。
「お前達っ! 何をしているっ!」
「あーもうっ! なんでこのタイミングで出てくるかなっ!?」
急に出てきたのは見知った顔だった。そう、同郷で馴染みのある顔だった。
けれど、陵とルビアは容赦なく投げ飛ばして、その道を突破する。
幾ら日本人の見知った顔だからって、今は立ち止まれない。立ち止まってしまったら私達は大損してしまう。
まずは王サマを抑えて、それから考えるっ!




