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第2話-弟子

「キラ、今日はそれだけやってろ」


 キラに教えたのは正しい人の殴り方。どうやらこの世界は徒手格闘術が発展してないらしいから、キラには剣を持たせる前に体術からじっくりと教える事にした。


 久しぶりに開いた道場には、今まで俺に習いたくても習えなかった冒険者達でごった返していた。


 冒険者達の中には新顔もいた。恐らく俺が居ない間に来たんだろうな。遠路はるばるやってきたのに、お目当ての人物が居なくて可哀想だとは思う。だからって何かしてやるわけじゃないけど。


「リョウ殿っ! 一戦お相手お願い致すっ!!」


 そう言って道場に飛び込んできたのは、毎度お馴染みのギルドマスター、ギラティブだった。


「良いぞ、掛かってこい」


 とまあ、ギラティブは瞬殺しておいた。


 ルビアと戦ってから俺の身体の動きも良くなって、今までに比べて段違いな練度の動きが出来るようになった。

 成熟してからは全力を出したことかなかったから、新たに身に付けた技術を本当の意味で使うことがなかった。そのせいで、全力で刀を振るった自分と、技術を編み出して身につけた自分の間に、無意識下に様々なズレがあった。

 そのズレがルビアとの戦いで、しっかりと歯車に噛み合った。そのお陰で技術、身体、精神が今最高に冴えている。


 ギラティブ程度じゃ苦戦のしようがない。


 ギラティブが地面に転がされると同時に、冒険者達からはどよめきが起こる。そう言えばコイツ、これでも冒険者ギルドの中では強いんだよな。


「更に腕を上げたな……?」

「どうかな」


 少し恨めしそうな顔をしたギラティブに肩を竦める。

 腕が上がったかと言われると微妙な所だと思う。だって、元々あったモノが上手く使えるようになっただけだしな。


「ほらお前らっ! 見てないでさっさと自分の練習をしろっ!! やる気ないなら帰っていいからな〜」


 冒険者達がこっちに視線を集中させたまま自分の練習に戻らないから、声を張り上げて強引にやらせる。

 やる気ないなら帰った方が時間も有意義だし、ちゃんとやって欲しい。


「……師匠、帰ってきてたんですね」


 冒険者達をかき分けて道場に入ってきたのは、ハイエルフのジェネだった。

 以前会った時と身長も特に変わらず、けれども少しだけ、腕の筋肉が締まった気がする。俺が言ったことを律儀に守ったのかもな。


 薄いエメラルド色の髪に銀色の目をしていて、顔立ちも相当に良いから、道場内に居た男性冒険者達の視線がジェネに釘付けになる。

 ロリコンキモいなぁ、と思わなくもないけど、美少女に目を引かれる気持ちはわからなくはない。


 レイア、リリアーナ、ジェネの3人は、基本的に何処を歩いても目立つ程に顔が整ってる。

 レイアとリリアーナは目立つ事を求められるけど、ジェネは別に関係無いからなぁ……


「言いつけ通りにやってたみたいだな?」

「やりました。……これで、正式に弟子にして貰えますか?」

「良いよ。これからキラとジェネの二人で俺の傍付きをやってもらうから」

「キラって?」

「そこにいるガキ……じゃなくて、男の子だよ」


 ジェネは透き通るほどの銀色の瞳をキラに向けて、そして、また俺の方に視線を戻した。


「師匠、どうして私は最初はダメだったんですか?」


 おっと、大変ご立腹なご様子で……


「あの時は弟子を取るつもりが無くてな?」

「そのキラって人の方が、私より先に弟子になった……って事ですよね?」

「……どっちが、先とか関係無くないか?」

「関係ありますよっ!!」


 えぇ……あるんだ……


 ジェネはぷくーっと顔を膨らませていた。


「わかった、色々と気をつける。それより、出した宿題の答えを見せてみろ」


 彼女の右手の木刀に視線を向けて、今日までの練習の成果をさっさと見せろと急かす。


「……わかりました」


 まだ言い足りなさそうだけど、それに付き合ってやる気はない。


 ジェネは渋々と木刀を握って、上から下にゆっくりと振り下ろした。

 まだ初心者だから、あんまり期待はしてないけど、今の上から下へのゆっくりとした動作で、彼女が俺が居ない間にかなりやり込んだ事が伺える。


「行きます」


 ジェネはそう言って、上から下に一振りした。その体格にしては力強く、それでいて鋭い一撃になっていた。

 始めて数ヶ月でここまで出来るようになるなら、大分上出来だと思う。


「どうですか……?」

「良くなってるよ。ただ、まだ素振りはしておきな」

「……はい」


 いつまでこれをやらないといけないのか。彼女はそう言いたげだった。

 俺が教え始めてからは素振りだけだし、そろそろ痺れを切らしても可笑しくない。


「別の事を教えても良いけど、弱くなるのはお前だぞ」

「……はい」


 基本が全てと言っても過言ではない。紆余曲折を経た特殊な動きをする技であっても、磨きに磨かれた基本技のゴリ押しに潰されることが多々ある。

 ある程度の応用は必要だけど、基本だけでも割となんとかなる。何より基本が出来ないのに高純度な応用なんて出来るわけがない。


「って言っても、実感が無いと納得出来ないよな……」

「いえ、信じます」

「……まあ、強くなれることは保証する」


 キラには素手の基本から、ジェネには剣の基本から教えている。

 ジェネには剣の基本+足技の基本を教えて、それから素手の基本を教えようとは思ってるけど、基本に習得の文字は無いから、俺が良いと言える最低ラインまで、全部で合わせたら最短でも一年半は掛かる。


 そう言えば、この世界に来てそろそろ三ヶ月が経つのか。


 そう考えると、今までの生活の約六倍の時間が彼らには必要になるわけだ。次の段階に入るまでは、気長に待つしかないな。


 ジェネとキラから目を離して、道場練習に参加している冒険者達を見て回る。

 変な振り方をしてる人に、軽くこんな振り方があると教えてみたり、その動きの後にはこうやってカバーしたら良いとか、伝えられることは沢山あるんだけど、その中でも要点を絞って教えてる。

 あんまり踏み込んだ意見を渡しても、その人にはその人のやり方があるだろうし、別に俺のやり方でやって欲しいわけでもない。


 特殊な武器の振り方が、それが流派なのか我流で何も考えてないのか、大体はわかるけどわからないこともある。だから、なるべくソフトな伝え方をしてる。喧嘩をしたいわけじゃないしな。

 だから、変な振り方をしてる人を見ても、俺の剣の振り方を見せるだけでそれ以上は何も言わない。


 それ以上に言うのは弟子とか、身近な人間だけだな。


「リョウ」


 真っ黒な剣士が道場にやってきた。


「ルビアか」


 そんな剣士は一人しか知らない。


「暇だから来た。軽く付き合え」

「木刀のお遊びなら良いよ」


 そう返して、余っている木刀をルビアに投げた。


「真剣でやるとどっちかが死ぬのと、この道場が壊れる」

「……仕方ないか」


 彼は少し残念そうな顔をした。俺も残念だよ。本気でやり合えないなんてな。

 でもまあ、本気じゃなくてもルビアなら楽しめるだろう。


「先手は貰っても?」

「良いよ」


 ルビアの申し出によって、試合稽古の始まりはルビアの攻撃から始まる。


 恐ろしく速い踏み込みで、一気に俺を肉薄にする。


 やっぱり、人の形をしてるくせに人の身体能力をしてない。肉薄にされた次の主観に振られた木刀に木刀を合わせようとすると、反対側の腕で腹を殴られた。そのまま、後ろの壁に叩き付けられた。

 まさか、いつも俺がやってる動きを他人からされるとは思わなかった。


 咄嗟に後ろに避けて流したけど、貰ってたらシャレにならなかった。


「相変わらずの馬鹿力だな」


 馬鹿力で尚且つ剣に精通してる。ほんとに戦い辛い相手だよ。


「……来ないのか?」

「……」


 脳無しで飛び込んでくればカウンターを叩き込めたんだけどな。試合の結果からキッチリと学習されてて戦い辛いな。


 今度はこっちから仕掛けた。



 結局、お互いの木刀が折れて試合稽古は終わった。


「あー……疲れた」


 その場で腰をおろした。只の人相手なら、こんなに疲れないんだろうな。

 剣の腕だけでも、ギラティブと比べると遥か高みに彼はいる。それに馬鹿力が加わるんだから、本当にシャレになってない。

 まあでも、これくらい強い相手だから、俺の腕がメキメキと上がってくのが実感出来る。


「リョウは普通の人……なんだよな?」

「そのつもりだよ。お前みたいに馬鹿力も無いし、魔法も使えない」

「それで俺と互角かそれ以上なんだから、流石だな」

「……そう言えば、その馬鹿力って元々なのか?」


 ルビアは普通の人には有り得ない力を持っている。それは先天的なのか後天的なのか。


「これは神龍を倒させてもらった時に受け継いだ力だよ。それまでは剣一筋だった」

「なるほどな」


 他人が真似をするのは無理だな。


「こうやってリョウとやりあってると、剣の道に力は要らない気がするな」

「そこまで極端に要らないとは言えないけど、必要は無いかもな」


 幾らでも別のやりようがあるだけだ。力が必須では無いだけで、無いよりは有った方が良い。


「やっぱりそうだよな」

「じゃなかったら、俺はルビア相手に立ち回れてない」


 力が全てなら瞬殺されてる。


「一旦、神龍の力は封印しようかな」

「実際、その力を使ってる時ってどんな感じなんだ?」

「細い木の棒を折れないように慎重に振ってる感じ。この腰の剣は魔剣だから折れないけど、木刀は本当に細い木の枝って感じ」

「それはそれで面倒くさそうだな」

「それなりに神経は使うな」


 ちょっと面白い事が聞けたな。


「よっと、ちょっと冒険者達を見てくるかな」

「俺は帰るよ。また明日な」

「あいよ」


 ルビアはそのまま道場から外に出て行った。

 この感じだと敵に回ることはなさそうで一安心だ。あれが敵側に居たら本当に困るからな。


「ジェネ、キラ、少し休憩してこい」


 永遠と素振りを続けている二人に声を掛けて、道場の外につまみ出した。口で言っても休憩する素振りが見えなかったお前らが悪い。


 道場に居る冒険者達を眺めながら俺自身も鍛錬を行う。やがて、日も暮れて家に帰る時間になった。


「ジェネとキラは今日から俺の傍付きだから、帰る先が違うからな」


 もう既に美玲に許可は貰ってる。

 個人的に弟子は傍に置きたかった。実戦練習をさせない分だけ、俺の近くで俺の動きを見てて欲しいんだよな。


 ジェネとキラが戦えるようになるまで、実戦経験は俺の戦いを見る事だけになるからな。

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