第6話-王って面倒くさい②
「ルビア、神龍って知ってるか?」
ルビアの部屋をノックすると、暫くして扉が開けられる。開口一番に俺は訊ねた。
「……なんで知ってる?」
「陵、直接的過ぎるから。風の精霊に聞いたんだよ。君が神龍を倒したって」
怪しまれたのを見て、美玲に割って入られた。正面から隠さずに聞いた方が早いと思ったんだけどな。
「精霊が人と会話出来るなんて初めて聞いたが……」
「あえ、そうなんだ。私の精霊は精霊王だから、ちょっと特殊なのかもね」
精霊って皆喋るモノだと思ってた。異世界の常識は難しいな。
「精霊王と契約したのか……?」
「そそ。まあそれは良いんだよ。君が神龍を倒したのは本当?」
「倒したというか、倒させてくれたというか、微妙な感じだな」
「なるほどね。実は私達さ、神龍の牙を探しててね」
脱線しそうな話を強引に戻して、彼女は話を続ける。
「何故?」
「今回の試合会場って、死んでも復活しただろ?」
試合会場の話は俺がした方が良いから、美玲にバトンタッチしてもらう。
「ん? ……ああ、そうだな」
「あのシステムを俺達の国にも作りたいんだよ」
「あれって、作れるのか……?」
「めちゃくちゃ手間だけど、あれがあれば、よりリアルに実戦の練習が出来るからな」
実際問題、本当に手間がかかる。
何処に居るかもわからない天使と、何処に居るかもわからない神龍、取りに行くのが面倒なダンジョンの奥底にあるダンジョンコア、更に国が滅ぶ規模の魔物を10体も集めないといけない。
「そのシステムを作るために、神龍の牙が必要だってことか」
「そういうこと」
彼は少しだけ悩んだ素振りを見せた。
「他に必要な素材が集まったら、条件付きで牙は譲っても良い」
「ありがとう。条件って?」
持ってるだろうなとは思ってたけど、こんなにすんなり頷いてくれるとは思わなかった。
「俺にもその施設を使わせろ」
「それはもちろん」
ルビアが相手してくれるなら、むしろ願ったり叶ったりだ。彼程の強者を、俺は見たことがない。
「それなら良い」
「わかった。美玲は何か話しとくことある?」
「話すこと? あ、そろそろ出発するから準備しといて」
「ああ、わかった」
俺達はルビアの部屋を後にして、食堂に向かった。
「で、陵」
「ん?」
「国が滅ぶ規模の魔物なんて、倒せるの?」
「どう……だろうな」
とても大きな魔物だったら、倒せるって断言は出来ない。刃が通っても刃が届かないってことも考えられる。まあ、それでも何とかしてみせるけど。
「光線銃で纏めて焼き払った方が早いかもね?」
「あー、それはそうだろうな」
目的の魔物が極端にデカいなら、美玲に一撃は任せて、俺は遊撃に回った方が効率は良さそうだ。
そんな話をしながら、宿の食堂で腰を下ろした。椅子がぎぃっ……と鳴った。使い古された椅子なのがよくわかる。
「戦ってみないとわからないけど、国が滅ぶ程の魔物がポンポンと現れるとは思えないよね」
「それなんだよな。国が滅ぶってことは、死人も沢山出るわけで」
「んー……まあ、そうだよね」
魔物の作り方なんて知らないから、規模がどれだけ大きかろうが小さかろうが、俺達は魔物の自然発生を待つしかない。
国が滅ぶほどの規模の魔物となると、そんなのが沢山現れるような世の中だったら、この世界の人間は全滅してるだろうし、ちょっと考えれば、世界的に見ても出現頻度がとても少ないのは想像に難しくない。
「困ったな」
「今の所、パッと思い付くのは冒険者ギルド経由で情報を得て、現地に急行することくらいかなぁ」
うーん、って感じで美玲が呟く。それしかないよな……
「なんにせよ、のんびり待つしかないな」
「だね」
焦っても意味はない。
「あ、天使の羽はあるからね」
「あるんだ?」
いつ確保したんだ?
「前に家が襲われた時があったよね?」
「んー、ああ、アマたんが助けてくれたやつか」
「そそ。その時の敵が天使だったんだよ」
「へー、知らなかった」
知らなかったってか、興味が無かった。
「その時の死骸は保存してあるからさ」
「へえー、そうなんだ」
ってことは、後はダンジョンコアと魔物か。
「あ、キラが戻ってきたね」
キラには、まとめて拾った子供達を叩き起こしに行ってもらってた。キラにもそろそろ稽古をつけないとな〜なんて思いながら、そのまま放置してしまってる。
ヤマトに帰ったら、取り敢えず基本動作だけ教えるか。
「キラ、ご苦労さま」
「はいっ」
彼は元気の良い返事をした。
小さいガキって、どうしてこんなにエネルギッシュなのかな。
「エリスは何処にいるの?」
「エリスは先程、買い物に行きました」
「おっけー、ルビアはエリスが帰ってきたら声を掛けようか」
ガリアスには武闘大会参加者に声を掛けておくように、命令を出しておいた。
武闘大会参加者の中でも、特に俺達が重要視してるのはルビアとエリスだ。
ルビアはその剣の腕や実力から無視する事は出来ない。逆に、エリスはそこまで優れた実力ではないが、美玲曰くヤマトを拠点にしてくれるらしいから、その一点において無視することは出来なかった。
それに、俺と戦って相手にならなかったとは言え、世間一般的に見たら強い部類らしいからな。
「ん? あ、待たせてすまないな」
エリスが帰ってきた。
「じゃあ、ルビアを呼んでくる」
ルビアは俺が声を掛けた方が良い。美玲には宿に集まった人をまとめるって仕事があるからな。
ゆっくりと立ち上がって、彼の部屋に向かった。
**
「来てくれた人達はありがとうね。今から空を飛んで、私達の国に移動します」
集団を引き連れて、私達は街の外に出た。
「空を飛ぶ……とは?」
「こんな風に?」
私は魔法で、ふわりと体を浮かせた。
街の外に出てきた集団は50人程度で、流石に私の魔法の熟練度だと全員運べないから、ここは大人しく風の精霊王に任せる手筈になっている。
「ミレイ殿は魔法が器用なんだな」
「そう? 誰だってこんなもんじゃない?」
エリスに器用って言われたけど、私にそんな自覚はない。そもそも人と比べたことがない。
最高神のアラティナさんに押し付けられただけの力でもあるから、世間一般的な魔法と同じかどうかもわからない。
「シルフィーネ」
「はぁい」
シルフィーネが現れて、エリスを含めた武闘大会出場者が一気に距離を取った。
あ、ルビアだけはのほほんとしていたよ。多分、彼にとってシルフィーネは脅威ではないんだろうね。
「じゃあ、行くよー」
私は自分自身と陵に魔法をかけて宙に浮いた。
『左90度、直進です』
指輪の指示通りの方向に、私は風を起こして飛んだ。シルフィーネが飛ばした集団からは悲鳴が上がっていた。急に空に飛ばされたら、確かに怖いよね。
人も多いし、シルフィーネ程の速度は私が出せないから、私達はゆっくりと空を流されることになった。
今何kmくらいなんだろ。
『時速70km前後ですね』
シルフィーネが全力で私達を飛ばすと、時速数百km出るから、今のノロノロ運転とは雲泥の差だ。私の魔法だと、どんなに早くても100はいかないからね。
さーて、ヤマトに帰ったら何しよっかな。
「そろそろか?」
神王国ヤマトが存在する山の上を、ちょうど通り過ぎた。
「そろそろだね」
後は山上まで登るだけ。飛んでるけど。
そのまま特に困ることもなく、ノンストップで私達は山頂に辿り着いた。
大会前に植えたダンジョンコアのお陰で、私達の家は広い山頂の中でも、更に上に突き出ている。そのお陰かちょっとトクベツな場所って感じがした。
家に帰るのは、かなり後になりそう。やらなきゃいけないことが、本当に沢山あるからね……
「どこに降ろそうかな」
大勢の人を降ろせる場所がない。
この国は土地が無いから開けた場所も無い。家と家の間がかなり狭い。冷静になってみれば当たり前なんだけど、全く考えてなかった。これは今後の課題かもしれない。
アマたんに力を借りて建物を作るまでは、それなりに空き地も多かったんだけど、建物を建て過ぎちゃったんだよね。空き家ばっかりだし。
「仕方ないから、街道に降ろして貰える?」
シルフィーネに命令する。
「わかったわ」
道の途中で暫く待って貰うしかないね。土地の問題はどうしようもないよ。
そうやってヤマトの上空をくるくると浮遊してると、私達の姿を見て、何人かが顔を上げ始めた。
シルフィーネが一人ずつ地面に降ろしてるのも、住民の注目を集めてる。
なんか、人が増えた気がする。
私に全部丸投げされたレイアが、きっと色々やったんだろうね。
いやでも、それにしても早くない? 私がここを離れてたのって何日だっけ? そんなに長い間は離れてない気がするんだよね。
「ミレイさんっ!!」
レイアの叫び声が聞こえた。
そっちに視線を落とすと、前に見たまんまの彼女の姿があった。
「陵、降りたら、新しく来た人をまとめておいて」
「ん」
地面に降り立つと同時に、陵はシルフィーネが降ろしている人達の方に、私はレイアの方に向かった。




