第6話-王って面倒くさい
「み、ミレイさん、王族の方が……」
宿の主人が、扉をノックしてそう言った。焦ってるみたいだけど、私も王様なの忘れてない?
「陵」
「行くか」
私の掛け声で、陵も立ち上がった。ずっとベッドでゴロゴロしてたから、ちょっとだけ髪がはねてる。
「頭下げて」
「ん」
魔法で水を出して、陵の髪を撫でて大人しくさせる。その後に宙に火の玉を浮かせて、風をおこして、ドライヤー代わりにして彼の髪を乾かす。
「魔法、便利だな」
「陵は使えないの不便だよね~」
私も最高神のアラティナさんに力を貰わないと使えなかった。一度使っちゃうと、もう魔法の無い生活には戻れない。
「まあでも、美玲にこうやって貰えるの好きだし良いかな」
「私も嫌いじゃないけどね。こういうの」
好きな人に触るのは嫌いじゃない。
「王様か~、礼儀作法とか全然わかんないね?」
「それな~、もうどうしようもない」
相手の王様に対する配慮とか、この国の作法とか全く知らないし興味ないから、色々と知る為に観光しに来ましたって事にしようかな。
あれ、それって敵情視察みたい……?
言葉に気を付けよう。マジで気を付けよう。戦争になったら目も当てられない。喧嘩を売ってきたら話は別だけどね。
「ま、好きにやったら良いよ」
「そうだね。そういう時は任せたよ」
何かあっても、陵がひっくり返される事は無いよね。
扉を開けた。
そこには涙目になった宿屋の主人が居た。
**
俺達はライゼンヘルス王国の王家の紋章が掛かれた馬車に乗り込んだ。騎士が数人と第一王子とやらが一人いた。
「ミレイ王はこんなにもお若いのに、一国の王になられたのですね」
「成り行きだけどね」
「とても素晴らしい事だと思います」
「ん、ありがと」
こんな感じで、第一王子と美玲の会話は続かない。太陽王モードの美玲の雰囲気に押されてる感じもする。
第一王子が顔色を窺って、如何にも接客してますって感じだからか、美玲が興味を持ってない事も原因かもな。
「どれくらいかかるの?」
「大凡15分ほど」
「そっか。答えてくれてありがとう」
異世界に来て、あまりにも自然に使ってるから今まで違和感を感じなかったけど、この世界も分単位で会話が出来るんだよな。
翻訳された結果がそうなってるだけなのか、元々分単位で向こうが喋ってるのかわからないけど。
『分単位に直している事もあります。が、分単位で伝えて来る人もいます」
なるほど。気にしなくて良いのはわかるけど、ふと、ちょっとだけ気になった。
やがて、馬車が止まった。
「着いたの?」
「はい。お開けしますね」
俺達と一緒に乗り込んだ第一王子が扉を開けてくれた。
「ありがとう」
一言だけ感謝を述べて、俺達は馬車を降りた。
後から降りてきた第一王子と数名の騎士に連れられて、恐らく王城だと思われる建物に足を踏み入れた。
豪華な建物だから多分王城だと思うんだけど、そういう場所に行った事ないから、わかんないんだよなぁ……
「グレーテル王はここに居るのかな?」
「はい。この扉の向こうに」
大きな観音扉の前に案内された。
「ふーん? まあ、良いけどね」
美玲は少し面白そうな顔をした。
やがて、扉が開けられた。
ぎぃって音がして、その先に見えたのは、少し高い場所に座っているグレーテル陛下の姿だった。
ここって、王と部下が謁見する時に使う為の場所だよな。
訪問者を下に、自らを上にして会話をするのは、自分の権威を象徴する為なのはわかった。
特に他意はないんだろうけど、俺達はその文化に慣れてないから、ん?って感じがした。
俺達って呼び出されたのに、完全に格下扱いなんだなって思った。
美玲は何も言わないから、俺も何も言わない。
もしかしたら、自国で自身の権威を見せつけるのは、当然な行為かもしれないからな。
それに、他国の王様が自国をフラフラしてるなんて、普通は無いだろうし。
「此度はよく来てくれた。ミレイ王、リョウ殿」
王は座ったまま、軽く頭を下げた。
「どうも、グレーテル陛下」
美玲も軽く頭を下げた。
「まずは、我が国への来訪を歓迎しよう」
「あはは、それはどうも」
美玲は結構困った顔をしている。俺もこういう時になんて返せば良いのかわからない。
「やはり、あの大会か?」
「まあそうだね。絶対に優勝出来ると思ってたからね」
「……確かに、リョウ殿とルビア殿は一線を画していたな」
俺とルビアは決勝以外の全試合が圧勝だった。あのクソ野郎との試合を除けば、全て瞬殺だったしな。
「決勝は凄まじかったな。ルーグア騎士団長、貴殿はどう思う?」
グレーテル陛下の隣に立っていた強そうな騎士は、この国の騎士団長らしい。
……まあ、そりゃそうか。
俺を招いておいて、この場に実力者を用意しないはずはない。
騎士団長以外にも、何人か腕の良い騎士が居るな。
「他国の戦士で無ければ、是非とも我が軍に欲しいですね」
騎士団長はのらりくらりと躱すような、そんな返事をした。
「はは、そうだな。我らにもリョウ殿程の一騎当千な騎士が居たら心強いな」
ああ……ダメだ、話題も会話も面白くない。ねっむ……
「と、挨拶はここらで終わりにしよう。リョウ殿も眠たそうだからな」
「んあ?」
顔に出てるとは思わなかった。
「リョウ殿の願いを聞こう。勿論、我々が叶えられる範囲で……、だが」
ああ、やっとその話か。
俺が好きにして良いんだっけ?
美玲に視線を向けたら、目配せしてきた。やったね、好きにして良いみたいだ。
「今回の試合会場で使われた死んでも生き返るシステム、あれを見せて頂きたいです」
指輪に解析させて、システムの仕組みを持ち帰りたい。
**
グレーテル王直々に案内されて、私と陵は王城の地下に来ていた。
大会で使われてたシステムがここにあるらしい。
機密情報な気がするんだけど、私達に見せちゃって良いのかな?
それとも、余所に見られた程度では、パクられたり破壊されたりしないと思ってるのかな。
グレーテル王は複数人の騎士を連れてたから、地下通路が狭かったのもあって、ちょっとギチギチになってた。
「ここだ」
グレーテル王が扉を開けた先には、私達が見たことのある結晶体が置かれていた。
「……ダンジョンコア?」
「ほう、知っているのか」
思わず声が出ちゃったけど、どうやらそれで合ってるみたい。
そうなんだ。大会のシステムってダンジョンコアが使われてるんだ。
あ、陵が指輪をシステムに向けてる。解析を始めたみたいだね。
「ダンジョンコアなんて、よく用意出来たね?」
人がダンジョンコアに到達した前例って、無かったみたいな話を聞いたんだけどな。
「このダンジョンコアは、遥か昔の勇者が手に入れたモノでな」
「ほーん、そうなんだ」
陵の解析が終わるまでは、話を続けてあげたい。このシステムがあったら、彼はもっと楽しめるだろうしね。
私と居る時は楽しそうな顔をしてるけど、それ以外で楽しそうな顔をする時って、自分の全力を出せる時だけだから。
弱い相手に全力を出すと、誤って殺しちゃったりもするから、地球に居た頃にやってた組手とかも、あんまり楽しそうな顔をしてたイメージはないんだよね。
でも、このシステムがあれば、多少は全力を出しやすくなると思うんだ。
誤って殺しちゃっても、生き返ってくれるからさ。
「そんなに、このシステムに興味があるのか?」
「うん、私の国にもダンジョンコアがあるから」
「ほう。それは……まさか」
「私達が取ってきた」
「……なんと」
グレーテル王がとても驚いた顔をした。レイアにダンジョンコアが何たるかを力説されたから、その表情に驚きはないけど、王様って立場の人がそれで良いのかなとは思う。
……ああ、思いっ切りブーメラン刺さった気がする。私も気を付けなきゃだね。
「争うのは避けたいところだな」
「ダンジョンを攻略するのって、そんなに難しいんだ?」
「我らの先祖である勇者様以外、聞いたことがない」
ふーん。大昔の他国の歴史だから、レイアが知らなかったってのもあるのかな。
今度、勇者って知ってる?って聞いてみよっと。
「美玲」
解析が終わったみたい。陵に指で丸を作って返事をする。
程々にグレーテル王の話を切り上げて、今日の謁見?面会?は終わった。
話す目的の無い王様と話すのは、本当にめんどくさい。
良い経験にはなったのかな。今後は本当に用がある時以外話すの止める。絶対に嫌だ。
話題に困るし、言葉遣いは翻訳されるから細かい所は気にしようが無いけど、口にする内容はめちゃくちゃ気にしなきゃいけないからね。
帰りは馬車での送迎を遠慮した。陵と二人で歩いて帰りたかったから。
「あの試合のシステム、実現出来そう?」
「……んー、結構足りない物はある感じだな」
ダンジョンコアだけじゃダメなんだね。
「あれって誰が作ったんだ?」
「それは聞いてないや。ダンジョンコアを取ってきたのは、大昔に居た勇者らしいから、他の素材も勇者が持ってきたのかもね」
「そうなんだ。んー……」
「そんなに悩むことある?」
「ヤマトの事もあるからさ。他の素材を集めに行く時間は暫く無さそうだなーって」
あー、確かにそうかもね。
でも、今やらなきゃいけないことは、そんなに無いような気がするけど……
「何が必要なの?」
「えっと……、まずはダンジョンコアだろ?」
「うん」
「天使の翼」
「翼」
「神龍の牙」
「牙」
「国が滅ぶくらいの規模の魔物が10体」
「魔物……えと、生きたまま?」
「死んでて良いみたいだけど、全身が必要みたい」
なんか色々とツッコミ所はあるんだけど、天使の翼は前にアマたんが倒した天使の死骸があるから、それで何とかなりそう。
神龍は知らないから、レイアに聞いてみるしかないね。もしかしたら、"神"って名前が付いてるくらいだし、最高神のアラティナさんも知ってるかもね。
最高神のアラティナさんは、最高神だけあって、あんまり下界に詳しくないから、聞いてもまともな情報が帰って来ない事が多い。
……あ、風の精霊王のことを忘れてた。
「シルフィーネ」
「はぁい」
風の精霊王は常に私の周辺の風に溶け込んでる。だから、いつでも呼び出せる。
「神龍って知ってる?」
「んー、知ってるけど……」
「けど?」
とても言い辛そうな顔をした。
「もう死んだわよ」
「「えっ」」
まさかの素材回収不可?
「……そんな簡単に倒せるの?」
「倒されたというか、この人になら倒されて良いと考えたというか……うーん」
言葉のまま倒された訳ではない……と。
「倒した人、あなた達のすぐ側に居るわよ? 本人に聞いたら?」
「えっ?」
「誰だ?」
私も陵も心当たりがない。
「あの黒い人。確か、ルビアだっけ?」




