第4話-武闘大会二日目②
「そろそろか……」
肩を軽く回して、闘技場に足を踏み入れた。
次の敵は……まじか。
"東條鋼牙"
俺が唯一覚えている嫌いな男だった。
所属国は"聖王国ブライドリース"か。大方、自らの戦力をひけらかして世間様の光に当てるって寸法……か?
俺達と考えてる事は一緒だな。
取り敢えず言えるのは、俺が嫌いな奴が敵だってことだ。
「久しぶりだな。まさか、テメェもこの世界に来てるなんてな」
「……」
金髪にイキってギラついた瞳、これをコイツは美玲に向けたのだ。
腰にあるのは長剣。それなりに業物ではありそうだが……お前なんかに使えるのか?
「あの時とは違ぇぞ? ぶち殺してやるからなぁ!」
大方、神様から貰った"力"で蹂躙してきたんだろう。高校の時から下衆な表情は一切変わらないな。
俺は漆黒の刀を取り出す。鎧は必要ない。
「審判、早く始めろ」
嫌いな敵と会話をするなんて、あるわけないだろ。
「急かすなよ。怖いのか?」
「……」
調子に乗り過ぎだ。昔ボコった時から、立ち振る舞いから何から何まで進歩してない。
ああ……でも、美玲に手を出したコイツを、今なら殺せるのか。
「あーあ……、この世界はホントに、理性を捨てろって言ってくるよな」
その事実が可笑しくて、その欲望に耐えられなくて、つい、ふと言葉が漏れた。
「あん?」
「そろそろ始まるぞ」
審判の開始の合図が鳴り響いた。と、同時に俺は敵の両腕を斬り飛ばした。
一回戦目のバトルロイヤルで気が付いたんだけど、死にはしないが痛みは現実そのままらしい。火傷も結構痛かったしな。
つまり、斬られた痛みは脳に届くらしいぞ。
イキった顔は痛みに歪んで、悲鳴をあげた。
「終わってねえよ」
金的を全力で蹴り飛ばす。
敵は痛みに蹲った。
次は脚を切り分けた。
悲鳴が煩いから、鞘を口に突き刺す。
「……力を貰った程度で俺に勝てると思ったのか?
生憎だけどな、あの時に恨みを抱えたのはお前じゃなくて、俺なんだよ」
美玲に手を出して、逃げられた腹いせにイジメの発端を作ったのはコイツだ。
単調に言えばそれだけの話。だけどな、それを起こしたって恨みはな、解決したって事実だけで解消されるわけがないんだよ。
背骨が切り離されないように、刀で内蔵だけを斬り裂く。背骨がイッたら死ぬからな。
目に指を入れて抉った。
鼻に刀を突っ込んで引き裂く。
鞘を喉奥まで突っ込んで、串刺し状態にして、鞘を取っ手代わりにして、素振りの容量で地面に叩き付ける。
鮮血が舞う。
コイツは殺す。
試合という名の一方的な暴力の時間が終わりを迎えた。
**
「アイツも来てたんだ」
無遠慮に私に触れたクソ野郎だ。
陵の顔を見て、愉悦そうに表情を歪めたから、彼にボコられた後も更生は一切しなかったんだろう。
嫌な思い出が過って、鳥肌が立って寒気すらする。
「大丈夫か……?」
隣に座っていた炎帝ことエリスが、私の内心を気取った。
「大丈夫だよ」
土足で踏み入られたくない領域だから、私はあっさりと内心から追い出した。
ちょっとだけ下を向いていたら、観客から悲鳴が聞こえた。
なんだろうって思ったら、もう試合は始まっていて、クソ野郎の腕が宙を舞っていた。
「なんだ今の速さは……」
エリスはしっかりと見ていたのだろう。口を開けて唖然としていた。
多分、陵が全力を出したんだと思う。
ただ、そこで終わらなかった。
金的をけたたましい音ともに蹴り潰して座り込ませると、四肢を全て斬り離した。
煩い悲鳴に蓋をするように、鞘を喉奥に突っ込んで、斬りつけて、地面に叩きつけた。
一方的な虐殺だった。
この闘技場じゃ死なないけど、だからこそ、二度と立ち上がれないように、生きていけないように、廃人になるように、ボコボコにしたんだと思う。
陵が動きを止めて、審判に目を向けると、そこで試合は終わった。
**
このまま殺して帰るか、それとも、少し時間を空けてから殺すか。
……後にしよう。
指輪、あれの事を追跡出来るか?
『承知しました。対象に目印を付けます』
試合会場から運び出される前に、指輪から何かが飛んで、敵と一緒に外に連れ出された。
美玲の元に向かった。
「大丈夫だったか?」
観客席に座っていた彼女に話し掛ける。
隣には炎帝と呼ばれていた女が居た。いつの間に仲良くなったんだかな。
「大丈夫」
「そか」
元々空席になっていた美玲の隣に腰を下ろした。
「アイツ、この後、殺してくる」
彼女にだけ聞こえるようにボソッと呟くと、ビクッと身体を揺らした。
「キラは悪かったな。参考にならなくて」
「師匠、怒ってた?」
「……まあな」
子供から師匠って呼ばれたことと、内面を見透かされたことにむず痒さを覚えた。
周囲に座っていた観客の視線が俺に集中していた。
まあ、そりゃあそうか。
あんな一方的な虐殺を見たら、怖いよな。
「その剣技を教わることは……出来るか?」
そんな雰囲気の中で、炎帝は物怖じせずに訊ねてきた。
「無理だ。そもそも武器が違う」
西洋の叩き切るタイプを、刀と同様に使うのは無理だ。
「そう……なのか」
残念そうな顔をした。
「オリハルコンランクの冒険者は、皆その程度なのか?」
「他のオリハルコンランクは知らない。……が、そう思われても仕方がないな」
俺の不躾な問に、炎帝は苦笑いして俯いてしまった。
目の前の冒険者は素手の俺に負けてるからな。
さっきの試合で、もし本当にそれなりの強者であるなら、どれだけ実力が離れているかわかるはずだ。
「馬鹿にしたわけじゃない」
蔑んでいるわけじゃない。単純に期待外れだっただけだ。
「……そうか」
「それより、良い選手、戦士は居たか?」
炎帝から視線を美玲に戻した。
「居たには居たけど、街中で探すのは面倒くさいよね」
「あー、そうだな。軽く歩いて、出会ったらで良いか」
彼女の手を握ろうとして、やっぱり止めた。
「陵、それは違う」
彼女はギュッと、動きを止めた俺の手を握った。
「そっか」
日本では法律があって、殺しは良くないことで、だから、倫理的に怒りを抑えることが出来ていた。
だけど、この世界には怒りを抑える理由がない。殺したければ殺すことが許される世界だ。
怒りを武器に乗せて振るった。また一つ、日本の生活に戻れない理由が増えた。
「大丈夫、私はずっと陵と一緒に居るから」
大会が終わって、日も完全に落ちた頃、俺は活動を始めた。
目的は東條鋼牙の暗殺。
美玲は連れて行かない。
これは美玲の報復ではなくて、俺の怒りを発散する事を目的にしているから。
俺達が泊まっている宿には、武闘大会の参加者が何人か訪れていた。俺の噂を聞きつけてってことらしいけど、そこは美玲が対応してくれてる。
本当は放置していくのは危ないんだけど、まあ、今回は仕方がない。
……さっさと、殺して帰ってこよう。
宿の裏手から外に出た。
**
陵が外に出て行った。
ホントは一緒に行きたかったんだけど、あのクソ野郎の前で私は平静を装える自信がなかったから、彼の邪魔になるといけないから、やめた。
「エリス、うち来る?」
「ほう? どんな気変わりだ?」
昼間来るなって言った手前、主張を二転三転させてごめんねって思うけど、宿にやって来た選手、戦士を眺めてみると、彼女の腕は相当貴重だとわかる。
性格も良いし、私は少なくとも関わってて嫌な気持ちはしない。
あと、陵が居ない時のボディガードとしても使える。
「エリスの腕が思ったより凄いってわかったからかな」
「リョウ殿と比べんでくれ。誰だって霞んでしまう」
「来てくれたら家を用意するよ。あと、陵に教わる権利」
「ぬぅ……。だが、ミレイ殿は良いのか?」
「色目使ったらぶっ飛ばす」
「それはしない。ただ、あれ程の技術を手に入れるには、身を捧げるくらいせねば割に合わんぞ」
エリスの言いたい事はわかる。
陵が持っている技術って、ホントに超高級な磨きに磨き抜かれた宝玉みたいなモノで、お目にかかれる機会なんて圧倒的に少ないんだろうなって。
「それは無くて良いから」
「……まあ、わかった。それなら、そちらに邪魔させてもらおうか」
交渉成立だね。さっきくだらない理由で拒絶しちゃったし、色々と融通は効かせようと思う。
**
「よう」
街中を歩いていた東條に声を掛ける。
「お前…っ」
手の内に仕込んでいたナイフで、開こうとした口に突き刺した。
こんな大通りで殺したら、衛兵門兵警察……は来ないか、のお世話になること間違い無しだ。
たたら踏んだ彼を、裏路地にそのまま投げ込んだ。
壁に叩きつけられた彼を、路地に座り込んでいた餓死寸前のホームレスが見ていた。
後で口封じしないとな。
彼が悲鳴をあげる前に、俺の刀は首を斬り落とした。
遺体を指輪に仕舞って、証拠隠滅を図ってから、ホームレスにも刀を向ける。
特に戸惑うでもなく斬り殺した。遺体は指輪に仕舞った。
……顔色一つ変えずに、こんなクソみたいな事が出来るようになるなんてな。
何一つとして罪意識が芽生えない。罪悪感も無い。
なるだけ、自分の意思で人を殺すのは止めよう。でないと、本当に取り返しが付かなくなる。




