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第4話-武闘大会二日目

「んん」


 目を覚ますと、そこには一糸まとわぬ私達の姿があった。


 昨日嫉妬したでしょって言われたから、嫉妬しましたって白状したら、陵にひたすら甘やかされた。


「……好きだよ」


 未だに目を覚まさない陵の身体に、ピタリと自らの身体をくっ付けて、彼の体温を全身で感じる。


 愛おしさが込み上げてきて、またちょっと心が温かくなって、身体がジーンと熱を持つ。


 今は何もしないけどね。だって、そろそろ起きる時間だから。

 それがわかってても、一番大切な人と一緒に居るって事実は、どうしようもなく心も体を熱くしてくれる。


 そうやって感じられることが、幸せなんだ。





 **


 部屋を後にした俺達は、宿の食堂に向かった。


 食堂にはガリアスと子供達がいた。


 段々と宿の住人が増えてきたな。


 宿の主人が朝食を子供達に配膳していた。


 大会が終わるまで子供達の世話をしろ。報酬は金貨10枚。美玲はそう言って金貨の入った袋を宿の主人に投げていた。


 だから、流石にタダ働きはさせてない。というか、子供の世話をさせるのに金銭の類を渡さないのは考えられない。

 金が関わって来ないってことは、即ち責任を負わなくても良いということだ。つまり、簡単に言えば、金銭の類を渡されていないから虐待しましたがまかり通るってことになる。


 ……それは困る。


「私達も食事を貰って良いかな?」

「はいっ! 今お出ししますっ!!」


 この宿で食べる必要は無いんだけど、子供達と距離も近くなるからと、美玲がここで食べたいと言った。

 俺としてはどっちでも良かったけど、神王国ヤマトに居た時も美玲はそうやってたから、いつも通りにしたって所だな。

 なるべく、子供達と触れ合えるようにしてるからこそ、国にいる子供達からの彼女の評価は高い……というよりも、しっかりと懐かれている。


 俺達は子供達が座っている場所とは、少し離れた所に座った。あんまり俺が子供を好きじゃないから、彼女がそれに気遣ってくれたんだろう。


「じゃあ、待ってて」

「ん」


 頷きを返すと、美玲は食卓に座っている子供達に話し掛けに行った。子供達の中には食器の使い方を知らない子も居て、それを一人一人教えることにしたみたいだ。

 それを見たガリアスが即座に立ち上がり、彼女の隣に立った。美玲は子供の表情が強張ったのを見て、彼のことを叱った。


 そりゃあ、裏世界のギャングみたいな風貌の大男が俊敏に動いてたら、慣れていなかったらそりゃ怖くも感じる。


 ガリアスは執事にでもなったつもりか?


 彼の腕っ節はあくまで体格通りって感じだけど、それ以外が有能だから、美玲が傍に居るのを許す理由もわかる。


 俺は面倒なことはしたくないし、ゆっくりしたい。彼女みたいに人と関わる事が楽しいと思える人種でもない。だから、ガリアスみたいな人材が居ると助かる。


 ホントに、俺と美玲は対極な性を持っている。


 子供達に話し掛け、楽しそうに笑う彼女を見ると、不思議と“らしいな”と思ってしまう。この世界に来て、俺しか話し相手が居なかった頃とは段違いに楽しそうだ。


 ……嫉妬じゃない。


 彼女の生き方や、感じ方が、他者と一緒に居る事を求めている。彼女自身は俺が居れば良いと思っている節はあるけど、じゃあなんで、こんなにも他者と触れ合おうとするのか? 


 彼女にとっての娯楽が、他者と生きて会話をして楽しむことだから。


 昔から変わらない彼女の性は、俺からすればホントに眩しいモノだった。


「陵?」


 そんなことをボーっと考えてたら、彼女が目の前に立っていた。


「どした?」

「そろそろ食事が出来るからって言われてね」


 向かい席に美玲は腰を下ろした。最後はいつも、こうやって自らの娯楽を犠牲にして、彼女は俺の元に帰ってくる。


「そっか」


 その事実を素直に受け止めて、少しだけ素っ気ない返事をした。


「今日はどういう予定か知ってる?」

「一対一のトーナメント戦をやるとしか聞いてない。最後まで大会を見てたら、もしかしたら当たる相手がわかったかもな」


 俺の試合が終わり次第に武闘大会から抜け出して、目の前の子供達を拾ってきた。だから、昨日の結果を知らないのは当然だ。

 ……まあ、あんまり興味も無いしな。昨日倒した赤髪の女性がオリハルコンランクと呼ばれる冒険者ギルドのトップランカーだと聞いて、残念な気持ちになったくらいだし。

 彼女は大技が多かったから、もしかしたら巨大な獲物を狩るのが上手いのかもしれないけど、それでも、武器を使わないという舐めプをして、オリハルコンランクの冒険者を倒せてしまった。あの程度で正しく優勝候補だったらしいし、その程度の大会に興味を持てって言われる方が苦痛だ。


 宿の主人に目の前に食事を置かれた。肉とパンとスープだった。特に会話する事も無く、さっさと食事を終えた。


 宿にある時計を確認すると、7時になったばかりだった。武闘大会は朝9時のスタートだから、まだ二時間もある。


「暇だな」

「暇だったら、あの子の話を聞いてあげてよ」


 美玲が視線を向けた先には、一人の子供が立っていた。俺が捕まえる時に、全力で逃げようとした男の子だ。俺に似ていたから顔は覚えてるけど、名前は知らない。


「なんだ?」


 男の子に問う。


「俺を鍛えて欲しい」


 その瞳は真剣そのもので、彼の視線には本物の意思を感じた。


「国に帰ったら道場があるから、そこでちょくちょく教えてやるよ」

「それって、いつ頃になるんだ?」

「さあ? 俺が帰って気分が乗ったらかな」


 道場生に対する親愛の情は零に等しい。ハイエルフのジェネが他よりも本気で俺の課題に取り組んでるから、ちょっと気になるかな程度だ。

 次帰った時に、しっかりと基本をやっているようだったら、俺達に付いて来ることを許可しても良いかもしれない。


「それで、強くなれるのか?」

「さあ?」


 道場の練習、稽古は強くはなれるだろうけど、俺みたいにはならないだろうな。あくまで精強な兵士が生まれる程度だろう。一騎当千の戦士にはなれない。


「それじゃダメだ」

「ダメって言われてもな」


 しっかりと弟子として扱うなら、それなりに時間とコストが掛かるから、途中で折れるくらいならやりたくない。


「どうしたら教えてくれる?」


 やる気はあるけど、今だけな気がするんだよな。


「……弟子になるなら」

「なるっ!!」


 目をキラキラさせて即答した。


「もしなったら、途中で逃げる事は許さないぞ?」


 キツイ視線で男の子に確認する。


「やるっ!!」


 あんまりわかってない気がするけど、これで良いのか? 


 美玲に視線を向けてみると、良いんじゃない?って視線を投げ返された。


「名前は?」

「キラ」


 キラ、か。

 見た目はシンプルな茶髪と茶目で、体付きも今までの環境に似合ったモノでしかない。センスがあるかもわからない。


「じゃあ、今日から付いて来い」


 それでも、彼を育てて何処まで強くなるのか気になった。良い機会だし、本気で育ててみようと思う。




 **


 観戦席でゆったりと座りながら、私達は陵の試合を待ちながら、他の人の試合をガリアスとキラって男の子と眺めていた。


 めっちゃスカウトしたいって、前のめりになれる人はいないね。

 私が見ると、どうしても陵が基準になるから良くないなって思うけど、じゃあ、誰かに代わりが務まるかってなると、そうじゃないからね。


 スカウトって難しいね。


 なんてことを考えながら、じっくりと吟味をしていると、後ろから声を掛けられた。


「君はリョウ殿の奥方の……」


 声を掛けてきたのは"炎帝"と呼ばれている女性だった。


 赤髪でスラッとしてて、でも筋肉質で、顔立ちも整ってて、私なんかとは天と地の差かも。


「おはよう」


 一応、声を掛けてくれたし挨拶はしておく。


「ああ、おはよう。君は参加しないのか?」

「私はこういうのあんまり好きじゃないからね」


 私の言葉を聞くと炎帝はちょっとムッとした。自分が好きな物を好きじゃないと言われたんだから、こんな観客席の最前線に座っているのに、そんなことを言い出すんだから、気に入らないんだろうね。


「じゃあ、何故ここに?」

「私の国に人が必要なんだよ。そのスカウトの為に来てる」


 私だって来たくて来てるわけじゃない。でも、国を守るには武力が必要だからね。


「私の国……だと?」


 炎帝は愕然とした顔をした。


「ん? 言ってなかったっけ。じゃあ、改めまして、神王国の王の美玲だよ。君の名前は?」


 そう言えば、炎帝の名前を知らないや。


「私はエリス。ミレイ殿、今までの非礼お詫びさせて頂く」


 彼女が頭を下げてきた。


「別に良いよ。出来たばかりだからね」

「……そうか、わかった」


 私の言葉を聞くと、すぐに頭を上げた。

 ここら辺は思い切りが良くて、話しやすそうな感じはする。


「スカウトしたいと思う人材は居たのか?」

「粒揃いだけど、目星はつけてるよ」


 声を掛けるだけ掛けて、断られたらあっさりと諦められる程度だけど。


「……私のことはスカウトしないのか?」

「うーん、陵に気があるからやだ」


 公私混同するなとか言われるかもしれないけど、陵に色仕掛けして良いのは私だけだよ。


「そ、そんなことある……わけ……」

「実際に無かったとしても、私にはそう見えたから嫌」


 昨日は沢山可愛がって貰ったけど、それでも嫌なもんは嫌。彼は私のだ。


「確かに魅力的な男性だが、君から奪えるとは思えないぞ」

「わかってるよっ! 陵が他の人に興味が無い事もわかってる。でもね、嫌なのは嫌なの」


 エリスがどんなに期待をしても、陵は私だけを選んでくれるだろう自信がある。

 でも、他の人に言い寄られてるのを見て、嫌な気持ちにならないほど、私は出来た人じゃない。

 私が彼に言い寄りたいのに、って嫉妬しちゃいそうになるからダメなんだ。


「わ、わかった……」


 エリスは諦めてくれたみたい。

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