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第2話-武闘大会零日目②

「顔上げてね」


 私は土下座してきた家族の人達に、そう言った。そう言ったはずなんだけど、何も反応してくれない。


「顔、上げろって言ったよね?」


 少しイラつきを含ませて声を発すると、その家族の父親が顔を上げた。


「さっきも言った通り、私達は君らを雇う。家に案内して貰っても良いかな?」


 転がった死体を横目に彼に告げると、彼はまるで折れてしまうんじゃないかって程に、首を勢い良く縦に振った。実際に折れそうでヒヤヒヤしたよね。


 私が異世界ヤクザを殺したのが、かなり恐怖を煽ったみたい。


「は、はいっ!!」

「奥さんと子供達、放置してく気?」


 気が動転しているのか、他の家族を置いて行こうとしたから、ついつい口を挟んでしまった。


 仮にも家族なんじゃないの?


「あれ? それとも家族の人では無いのかな?」

「い、いえ……」


 パニックになって、彼はしどろもどろになってしまった。


「はあ……、すぐにじゃなくて良いからさ、一旦落ち着きなよ」


 この状態と、この状況を作り出した私が言うことじゃないんだろうけどさ。


 いくらパニックになってるからって、家族を置いて行ったりしなくない? ……なんて、そんな風に強く生きられる人間なんて、ホントに一握りなのは、理解してるんだけどさ。


 なんかちょっと、やるせない気持ちになったよね。


「奥さんと子供達もいつまで膝ついてるのさ。さっさと立ちなよ」


 そう言うと母親はすぐに立ち上がった。弟の方はなんで頭を抑えられたかわかってなさそう。姉の方は溶けた死骸を見て、顔色を蒼白にしていた。


 姉の方はそういうのが理解できるくらいの年頃なのかもね。まだ結構小っちゃいけど。


「怖がらなくても大丈夫だよ。子供には優しいからね、私」


 そんなことを言ったけど、ガチガチに震えている父母の姿を見た子供達が、恐怖を感じない筈が無いのも理解してるから、ちょっとどうしようもないかな。


「君達の名前は?」


 少し時間を置いて、私はもう一度、始めからコミュニケーションを取ろうとする。


「わ、私の名前はハイセンと言います。こっちが、が、妻の、ルシネルア、長女、の、ルルシア、長男の、ライルと、言い、ます」


 父親の震えは止まらず、ガタガタになりながら締まらない自己紹介、家族紹介をしてくれた。


「別に取って食おうってわけじゃ無いんだから」

「は、はいっ! あ、案内致しますっ!!」


 何とか自らの家族に付いて来るように手招きをして、彼は私達を先導した。


 **


 俺達が案内されたのは、ボロボロになった一軒の宿だった。


 硝子は叩き割られ、壁に落書きされ、立て付けられた扉は軽く歪んでいて、開けるのに一苦労しそうだ。これはもう嫌がらせの域を超えてるな。

 他人事だけど、随分と大変そうだな。でも、この人達を助けようって思えるほど、彼らに魅力があるわけでも無かった。


「へえ、宿だったんだ」


 美玲は少しだけ驚きの表情を浮かべた。俺も運良く助けた相手が、宿の主人だとは思わなかったな。


「こ、こ、こちらです」


 歪んだ扉を強引に開けて、ハイセンは俺達を案内する。


「壊れていない部屋はここしかなくて……」


 案内された部屋は、ちゃんと個室の状態を保てていて、まだなんとか泊まれるレベルだった。

 隣の部屋は穴ぼこが空いていて、この宿は泊まる場所すらマトモに用意できないことが伺える。


「これってさっきの人達がやったの?」


 美玲は穴ぼこを指差した。


「はい……」


 こんなことされたら、借りた金を返せる状況になんてならない。つまり、異世界ヤクザ達は最初から金を貸す事が目的では無くて、恫喝して何かを奪うことが目的だったのだろう。

 今のところ、姉のルルシアを親から奪おうとしている……のかもしれないけど、流石にそうだと断定出来る程の情報がない。


「ルルシアって子、何か特殊な能力を持ってたりしないか?」


 恐らく美玲もその可能性に気が付いているだろうけど、もし、彼女が相手を懐柔するという話になった場合、彼女には少女を心優しく受け入れた道化になってもらう必要がある。


 だから、能力に興味があるのはあくまで俺だって体にして、俺が彼に質問を投げかける。


「き、際立って普通の子な筈ですが……」


 ハイセンはそう言ったけど、彼が知らないのか言わないだけなのか、それとも本当に少女が持っていないのかはわからなかった。


「そうか。あの借金取りの目的が、最初からお金を回収することじゃないと思ったから聞いたんだ」

「えっと、つまり……?」

「ああやって恫喝して、ハイセンの家族から何かを奪いたかった。だから、あの時に連れて行かれそうになったルルシアが目的なのかも……と、思っただけだ」


 一応、怪しまれないように質問の意図の説明はした。


「なるほど。それで、ルルシアに何か特殊な能力が無いかって聞いたのですね……」


 さっきまで恐慌状態だった彼は段々と落ち着きを取り戻していた。言葉を交わすことによって、実態のわからなかった俺達が、段々と実態ありきの存在になってきたのだろう。


 普通の人間ってやつは、よくわからない存在がよくわからないままだと恐ろしく怖く感じるからな。


 とは言っても、彼の中で俺達は、会話のできる“よくわからない存在”で理解が止まっているだろう。


『敵性反応があります』


 指輪の声が響いた。美玲に視線を向けると彼女と目が合った。

 軽く守ってやって、ハイセンの信頼を勝ち取るとしよう。


「敵が来たみたい。表に出ようか」


 **


 宿には入り口があって、食堂があって、その奥に宿部屋がある。さっきまで居た宿部屋を後にして、食堂に顔を出すと、さっきの異世界ヤクザの仲間達であろう人達が子供を攫おうとしてた。


 でもやっぱり、手を引いて連れ出そうとするのは、姉のルルシアの方だけだった。絶対これ、ルルシアになんかあるでしょ。


 異世界ヤクザは怒鳴り散らして、ルルシアを掴んでいるルシネシアを突き飛ばした。


「母さんっ!?」


 食堂の椅子に思いっ切り頭をぶつけたのか、ルシネシアは額から赤い線が流れた。


 そろそろ介入しなきゃだね。


「私が泊まってる宿で、面白いことしてくれるね」


 私はあくまでも神王国ヤマトの王様として、この喧騒に言葉を落とす。


「お前さんかい? 王様だとか抜かした馬鹿は」

「陵、あいつ斬ってくれる?」


 ふざけた口調で私に話し掛けた男は、陵の刀であっという間に絶命した。


「君らさあ、発する言葉と口調には気をつけなよ?」


 罵倒や暴言を吐かれるのも面倒だから、変な口を効いた奴はその場で殺すことにする。


「で、何の用なの?」


 相手に会話を促す。けど、異世界ヤクザ達は口を閉じたままだった。


 あ、良いこと思いついちゃった。


「君らのボスの所に案内しな。拒否権なんてあると思うな?」


 このまま追い返しても、またやってくるだろうから、先に親玉を言いなりにするか、潰すかした方が話が早いなって思ったんだ。



 **


 俺と美玲は異世界ヤクザのアジト的な場所に来ていた。その建物はスラム街の奥の奥にあった。


 道すがらに骨と皮だけになったような死骸が散乱していたり、腐敗していたり、まるでディストピアみたいだった。


 建物の中は剣呑な空気で溢れていて、時たま殺気に近しいモノをを向けられたりもした。


 やがて異世界ヤクザの一人に案内されたのは、何の変哲もない一つの扉の前だった。

 流石にお貴族様のように、豪華な扉は用意されてないみたいだ。


「……開けないの?」


 だが、その男(異世界ヤクザ)は中々扉を開けようとしない。美玲の問い掛けにも反応を示さなかった。


 痺れを切らした美玲は、太陽王モードに変身して扉を蹴破った。


「ちょっと話があるんだけど?」


 美玲のその言葉には、“お話しよう”ではなくて“喧嘩しよう”の意味が含まれていた。


 **


「お前ら、何者だ?」


 その扉の奥には、体格が大きく荒事が如何にも得意そうな男が座っていた。その大男に睨みつけられて、私達をここまで案内した男は腰を抜かした。

 私は陵で慣れてるから、そんなに怖いとは思わなかった。ってか、ブチ切れてる陵の怖さはこんな生易しいモノじゃないし。


「神王国ヤマトの王の美玲。お宅の下っ端が大分目障りな行動してるから、殴り込みに来たよ」


 端的に要件を伝える。すると、その男は眉間にしわを寄せた。


「……知らない国だな」

「最近出来たんだよね。明日から始まる大会で、一気に知れ渡るんじゃないかな」


 どーせ、優勝するのは陵だからさ。


「もし、仮にその国が存在していたとして、王サマが直々に乗り込むなんざ、どういう神経してるんだ?」

「私は自分の足で稼ぐ派なんだよね。で、聞かせて欲しいんだけど、ルルシアって女の子のこと知ってる?」


 さっさと要件を済ませたいけど、先に知りたいことを聞いておく。男の表情が少し動いたから、多分なんかあるんだろうなって確信は持てた。


「答えると思うか?」

「答えてもらわなくても、それが答えでしょ」


 あの少女が何か持ってるんだろうなって知ることが出来れば、さっきした質問には充分な価値がある。


「じゃあ、本題に入るけどさ。あの家に手を出すの止めてくんない?」

「……それは出来ない相談だな」

「出来る出来ないは聞いてなくてさ。死ぬか生きるか選べって言ってんだよね」


 まどろっこしい交渉は必要ない。私はアマたんから得た力で脅しに来ただけだから。

 光線銃を取り出して、男の後ろの壁の半分を焼失させる。


「っつ」


 流石に強面な大男も、光線銃という兵器に顔を歪ませた。


「それとも、何か引けない理由があるの?」

「……あったらなんだって言うんだ?」


 そんなに訝し気な目を向けなくても良くない? 


「慈悲として、聞いてあげようかなって思ってね」


 慈悲って程でも無いけどね。もし解決出来るなら、してやっても良いかなって思って。


「この国の王族の依頼だ。実行できなければスラム上がりの俺なんてあっという間に殺される」

「ほーん、それは良いこと聞いたね。ルルシアは国の王族が欲しがるレベルの価値があるんだ?」

「その理由は知らない」

「知らないのはわかったよ。じゃあ、次だけど……


 ……君、私達の従者にならない?」


 如何にも柄の悪い厳つい大男だけど、私はこうやって言葉を交わして、あんまり不快感を感じなかった。

 この建物の中でも、自分の個室を与えられるくらいには上役みたいだし、スラムからの成り上がりって事は実力派であることは間違いない。

 だったら、スカウトと火種の解消を行った方が、今ここで彼を殺してしまうより、よっぽど合理的だよね。


 さあ、彼はどっちを選ぶかな。

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