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第3話-出会い

 この世界に来て数日が経った。俺達は無様にも森を彷徨っていた。

 あっちに歩いてもこっちに歩いても、森は抜けられないままで、最初に居た草原に戻る事すら叶わなかった。

 それでも俺達の間に焦りはなく、唯々景色が変わらない事に対する鬱憤だけが溜まっていた。

 野獣も居たし、食べる事が出来る植物も存在していて、それを見分けるのも調理するのも指輪があるから何とかなってしまった。だからかもしれないけど、森を抜ける為に本気で物事を考える事が無かった。

 俺達が森を抜けられないのって、絶対そんな怠惰が原因だ。でも、そんな怠惰でも森なんて歩いていれば抜けられると思っていた。


「まじでいつになったら抜けられんの!?」


 美玲が鬱憤を空虚で静かな空間に叩き付けた。叫びたい気持ちは痛い程わかる。


「ほら、美玲、大声出さない」


 ここは森の中、大声を出したら野獣が迫ってくる……なんて事もあるかもしれない。日本には態々人間を襲う猛獣は居なかったが、本来はそんな存在が居たって可笑しい事は無いんだ。例えあの平和な国であってもな。それが今や無法地帯とも思える森の中に俺達は歩いていて、どうして不用意に叫ぶ事が出来るのか。


 ……いや、まあ、気持ちは痛い程わかるから、叱ったり怒ったりする気には全くなれないんだけどな。なんなら俺も叫びたいくらいだ。


「陵……つらい……」

「わかる……正直……俺もしんどい……」


 異世界の生活は色々な意味でしんどくて、夜も昼も上手く眠れなかった。きっと慣れていない環境のせいなのだろうと思う。そうすると、ほら、男たるものしんどい部分が出てきちゃってな。すぐ側に、手が届く距離に彼女が居るのも……なんかこう、環境に悪意を感じるよな。


 まあ、絶対にその手の事はやらないけどさ。俺が嫌だし、もし仮に良いって言われても嫌だ。


 美玲がそれを正しく理解しているから、眠る時は本当に無防備な姿を晒してくる。安心から来る行動だってわかるから、とても嬉しくてこそばゆく思う反面、辛いなって思う。身内の情を抜きにしても、彼女の見目はとても整っている。高校でも何度か告白されてたのも知ってる。


 ……今思い出すと、なんかちょっと嫌だな。


『陵様、65度の方面に直進してください』


 指輪の声が頭に響いた。先程までブー垂れていた美玲も静かになった。どうやら彼女にも同じメッセージが聞こえたのだろう。


「行こうか」

「おっけー」

『陵様を軽量のフル装備にします』


 この先では戦闘が起こっているらしい。俺達はお互いに頷き合って走り出した。



 **


『鎧が統一された戦士が5人、装備がバラバラな戦士が20人、互いに睨み合っている状態です』


 指輪はドローンで得た詳細情報を告げる。統一された……ってことは、片方はどっかの国の兵士なのかな?


『止まってください。ここから1人見えます』


 見えたのは粗暴そうな見た目の男だった。まさに蛮族って言葉がお似合いで、夜道で出会ったら悲鳴を上げて逃げるレベルで、人前に出て良い格好はしてなかった。


 これからこいつらは蛮族って呼ぼっか。


『承知しました』


 これって蛮族が正規兵を襲ってる状態なのかな?


『状況だけを見るとその様に見えますね。

 統一された戦士は馬車周りを護るように立っています。……戦闘が始まりました』


 正規兵に手を貸せば、何か情報が得られるかもしれない。

 でも、殺し合いだよね。そんな場所には行きたくないよ。例え助けるって名目があっても、殺し合いなんてしたくない。


 そんな私の躊躇いを他所に、彼の右腕には大きなクロスボウが握られていた。光線銃は光が強くて位置がバレてしまうから、自然の音に射出音が紛れやすいクロスボウを彼が選んだのは理解出来た。

 そしてそのまま、陵は矢を放った。蛮族の頭に吸い込まれるように直撃して、鮮血が飛び散った。気持ち悪い……


「次、私やるから」


 気持ち悪いけど、彼にやらせて私がやらないなんて出来る訳が無い。いつまでも隣に居たいから、今ここで私も人を殺す。

 右腕にクロスボウを装着して迷彩柄のマントを羽織る。このマントは光学迷彩の機能が付いていて、辺りの景色に同化する事が出来る。

 最初は手元が狂うかもしれない。もっと近付いて絶対に外さない距離で撃つ為に、戦場に一歩踏み出した。


 **


『光学迷彩です』


 なんだそれ、やばいな。マント羽織るだけで見えなくなるってエグい性能だな。


『お褒めに預かり光栄です。それより、戦線が崩壊してきました』


 俺が表に出て加勢したら、勝てると思う?


『私にバックアップさせて頂ければ、容易いかと』


 おーけー、バックアップは任せた。大刃のマチェットが右手に装備された。


 俺が鍛錬して磨いた技術は本来は戦場で輝く物ばかりだ。俺は親父や爺ちゃんがやってたから真似をして始めただけで、元々は戦う為に磨き始めた技術じゃない。それなのに何故か、今は自身の中に高揚を感じられて少し驚いている。

 実際に目の前の戦場を見て、俺がどこまで通用するのか気になって仕方がなかった。そりゃあ、負けたら死ぬのも嫌と言う程に理解しているけど、どうしても自身を抑えられなかった。


 そのまま森を抜け、馬車を襲っている蛮族を後ろから斬りつけた。男はバターのように2つになり、地面になめらかに崩れた。


 斬れ味ヤバいな、この武器。それに、人を殺したってのに何も感慨が湧かない。湧かない感慨に振り回される事は無く、しっかりと戦場を見据える事が出来た。段々と自らが一つの刃になっていく様な、そんな気がした。


 一人斬り殺したって、多勢である事に変わりはない。だから、敵の集団が正しく理解するよりも早く、より多くの敵を殺さなければならない。


 相手の動揺が消える前に出来る限り敵を倒す。どんな環境であれ戦場においては鉄則だ。


 容赦無く足が止まった蛮族を撫で斬りにして、更にもう一人も叩き斬った。


 良かった。爺ちゃんの所で色々と教わってたから、訓練通りの動きが出来ている。俺の足が止まる事は無かった。


『スキル:土魔術』


 そんな声が響いた。けど、俺にはよくわからない。そのまま別の人間を斬り捨てた。


『前方10m先の戦士を援護します』


 そこで初めて、俺は前方で小競り合いをしている正規兵に気が付いた。敵じゃないから認識してなかったな……


 放たれた土塊が蛮族の頭にヒットし態勢が崩れる。その次の瞬間に正規兵は敵を斬り伏せた。


「お前は何者だっ!?」

「道途中で襲われているのを見つけた。援護する」


 戦士の驚きなんて俺の知った事じゃない。弁明してやる気にもならない。

 乱戦の最中、一人の蛮族が俺の目の前に立ち塞がった。斬り捨ててきた奴らに比べて、多少なりとも腕がたつ事だけはわかった。背丈も高いし、正面から斬り合うのは骨が折れそうだ。


 ……刀ってあるか?


『通常の刀を装備します』


 俺の問い掛けに指輪は直ぐに反応した。マチェットが手の中から消えて、刀が腰に引っ下げられた。


 抜刀術とは最初の一手が肝心であり、逆に言えば最初の一手が必殺技になりうる。だから、鞘と刀はセットなんだ。

 鞘に収まっている事で蛮族は刀の射程を見誤った。


 距離を見誤ったが最後だ。蛮族の首を刀で斬り飛ばした。


 身体で刀を隠して刃の距離を誤認させたから、あっさりと首を吹っ飛ばせただけであって、正面から戦ったら流石に何回か打ち合う事になったはずだ。

 強い敵を簡単に倒せるなら、最初から刀を使えば良いとか思われがちだ。でも、それは大きな間違いだ。マチェット等の西洋武器は比較的使い方が杜撰でも機能する物が多いが、刀においては杜撰な使い方をすれば斬れない事もあるし、折れてしまう事すらある。

 だから、乱戦は雑に使える西洋剣の方が良いんだ。だから、敵によって武器を変えられる事が、今の俺にとってはとても嬉しい事だ。

 爺ちゃんに色々な武器の扱いを教わったから、一つの武器で戦い続けなくても良い今の状態は、俺にはとても適していた。


 最初は20って言ってたのに、蛮族の死骸が全く足りてない。けど、森から蛮族が出てくる気配はない。


『美玲様が隠れている蛮族を処理しました』


 美玲がっ!?


 大丈夫かな……


 俺みたいにちょっと特殊な環境だったら、百歩譲ってまだわかるけど、人を処理するってかなり心を痛めるものだ。平和ボケした俺達が簡単に人を殺せる環境の方が可笑しいんだから、せめて殺すなら一人にしておいて欲しかった。口で言っても聞きはしないから、俺は何も言わなかったけど、沢山殺すなんて聞いてない。 


『私共は止めたのですが、言って聞かなかったので全力でサポートしました』


 静止の声はあったのに、美玲がそれを拒んだのか……


「陵〜」


 茂みの中から彼女は姿を現した。間延びした声で緊張感の欠片もない。


「大丈夫か……?」

「気持ち悪いけど……うん、大丈夫。陵にばかり任せる訳にはいかないから」


 その気持ちは素直に嬉しい。俺と同じ光景を見ようと頑張ってくれる事は本当に嬉しく感じる。……でも、好きな人が“人殺し”をしたという事実はとても重たかった。


「陵、私も嫌だからね」


 ハッとした。


 そっか、俺も美玲からしたら同じもんか。

 俺は自分が“人を殺す”事に対して気持ち悪いとか嫌だとか思わないけど、彼女からしたら俺は手を汚しているのと変わらないのかもしれない。


「大丈夫だよ。地獄に堕ちるなら一緒に堕ちようよ」


 彼女の言葉は俺からしたら眩しかった。けれど居心地が悪くはならなかった。色々と考え込んでしまっても、それをあっさりと吹き飛ばしてしまうのだから、本当に頼りになる親友だよ。

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学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

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