第13話-準備
「んー……」
私こと桐崎美玲は、トースターで焼かれたパンを口にしながら、今後の活動方針を具体的に練っていた。
レイアの奴隷もそれなりに数が増えたし、この国の守り手に困ることはなさそうだから、そろそろ次の段階に移れると思ったんだ。
レイアはレイアで、購入する奴隷を選ぶことによって、何やら色々と最大限のリターンを得ようと頑張ってるみたい。
待ちの手札も数枚揃えてたみたいだけど、その手札達を切るのは大分後になりそう。その手札をレイアしか居ない時に切らせるわけにはいかない。危険過ぎるからね。
私が望んでるのは、外部が干渉してくるのをひたすらに待つだけの手札ではなくて、この世界にこちらから干渉できる手札だ。
その手札が色々と落ちてるって話は風の精霊王であるシルフィーネから聞いてて、早く回収に行きたいんだけど、今の今まではレイアを守らなきゃいけなかったし、国の設備を私が整えなきゃいけなかったから手を離せなかった。だから、行けなかった。
「……おはよう、ございます」
そう言ってリビングに入ってきたのはレイアだ。その後ろには咲良と、それからグラティーナ王国第三王女のリリアーナが追随する。
リリアーナはレイアと背丈が同じくらいで、レイアの銀色の髪の反対である金色の長髪に、エメラルド色の宝石のような瞳をしていた。
元々は元騎士団長サマをやる気にさせる為に、レイアが大金を払って購入した彼女だけど、流石元王族って所なのか、かなり仕事が出来るみたいで、レイアは彼女を咲良と共に常に傍に置いていた。
ちなみに、咲良は金髪ギャルだったけど、今は黒茶色になってた。
ダイニングテーブルには、もう既に椅子が一つ多く追加されていて五人席になっている。
「レイア、疲れてるね?」
彼女達がダイニングテーブルに座った。レイアが本当に眠そうな顔をしてたから、つい心配になって声を掛けた。
「昨日遅かったんですよね……」
「何かあったの?」
「ああ、いえ、何かあったというよりは、国全体でどうやってお金を稼ごうかなって」
「考えてたら寝れなくなったと」
「……まあ、そんな所です」
「その感じ、何か進展でもあったの?」
国を挙げたお金稼ぎの手段は私も常に考えてるんだけど、この土地はそもそも人が来るのが難しい場所だからね。
この国は山の頂上にあって、頂上に上る為の馬車道は一切存在してなくて、私が車でこじ開けたクレーター道路が唯一の道っぽいモノになっちゃってる。
その道に辿り着くのでさえ、何処かの森を抜けて辿り着かないといけないから本当に手間なんだよ。目的地に向かう為の道を探す所から始まっちゃうからね。
「整備した宿の方は、新たに来訪した冒険者の方々がお金を落としてくれています」
「そだね。最近は増えてきたよね」
冒険者とは、冒険者ギルドに名義登録している社員さんみたいなモノだ。私は冒険者ギルドの運営形態を聞いた時は派遣会社味を感じた。まあつまり、そういう企業の人達なんだけど、彼ら彼女らって結構腕のある人が居るから、我が身一つでこんな辺境の地に来たりするんだよね。
冒険者は結構粗暴な人が多いみたいだけど、今の所はそんな感じはしない。ギラティブに聞いた所によれば、ここが辺境過ぎて勝手に振るいに掛けられてるんだってさ。
冒険者にはこの国は結構ウケが良いみたい。辺境なのにしっかりとした建物が建ってるとか、結構面白いギャップみたいだよ。陵の道場にも何人か来たりしてて、実際に指導してるのも見た事ある。
「冒険者、変な人とか居たりしない?」
「ギラティブさんが居るので、今の所は大丈夫そうです」
ギラティブに勝てる冒険者は殆ど居ないから、あの爺さんはかなり抑止力になってるみたい。
明確に強い人が陵とギラティブの二人も居るから、暴れたりするのはそう簡単には出来ない。粗暴な人には暴力で抑え込むのが一番早いから、この手は間違ってなかったと思ってる。
「他はある?」
「んー……、その、奴隷じゃない人達で子供じゃない人達、居るじゃないですか?」
シルフィーネの頼みついでに連れ帰った人達の、更にその中の成人済みの人達の事だね。
「居るね」
「未だに私の指示に従がってくれない者が居るんですよね」
「あー……、まだナメられてるんだ?」
「はい……」
初対面の時も横暴な態度を取ってきたから、陵に殴らせたんだよね。そっか、まだ立場が理解できてないのが居るんだ。
「働かないとか?」
「何人か居ますね。食事と住処を与えられるのが当たり前だと思ってるらしくて」
「あーね。じゃあ、そいつは他の子にも悪影響だから外に追い出しちゃおうか」
レイアに任せないで私がやった方が良いんだろうね。他の拾ってきた子供達は一所懸命に道場で剣を振って、山菜を取りに行って、国民に対する炊き出しをしてくれてる。
そんな中に働かない大人が居るのはちょっと容認出来ない。
「わかりました」
「あ、いや、それは私がやるから」
「え、でも……」
「だって、レイアがやったら子供達が納得出来ないでしょ」
それなりに子供達には目を掛けて、声を掛けて、気を遣ってるからね。レイアはお仕事の話をするけど、私は不安とか辛い事とかを聞く役に徹してるから、私が他の子に悪影響があるって大義名分を口に出しながら追放すれば、子供達はそんなに怖がらないはずだ。
子供達には体調が悪い時は休むように何度も何度も伝えてるから、私が伝えれば、少しでもサボったら追い出されるんだ……とは、ならないはずだから。
「まあ、確かにミレイさんの方が簡単かもしれませんね」
「それは私がやっておくとして、他には?」
「他は……、問題は無いはずです」
「ん、じゃあ、何かあったら教えて」
ちょうど会話が終わるタイミングで、陵がこんがり焼けたパンをテーブルに並べた。
「ありがとうございます」
レイア達の分だね。基本的に朝食は私か陵がやるんだけど最近は陵が多めかな。
「じゃあ、私達は先に行くね」
私と陵は各々のすべきことをする為に家を後にした。
**
「朝だからって手を抜くなよー」
朝早くからの道場練。参加者は子供達とレイアの奴隷達、それから数名の冒険者だ。子供達も奴隷達も、もちろん全員が全員参加してるわけじゃない。
レイアの奴隷は4交代制で鍛錬と護衛とを行っている。子供達は3交代制で鍛錬と勉強、食事を作ったり山菜狩りを行っている。
算数や数学、中学範囲までの理科を教えるのもこの道場の役目だ。だから、俺も割と仕事は多い印象がある。知識は金なりって言うし、教えられることは教えないと勿体ないから、俺はこの立場に異論があるわけじゃない。
ただまあ、どの知識も地球のモノだから、例えば中学範囲の生物分野を教える時には、レイアに聞きながら教えるとかをやってる。この世界の生物の構造とかわからないし、動物が魔法を使うってなんなんだって話だからな。
「リョウ殿」
「掛かってきな」
朝でも昼でも無い、ちょうどそれらの中間辺りにギラティブが顔を出した。
彼が振り回す剣を躱して、毎度の如く速攻で仕留める(殺しては無い)。
最初は“なんだこいつ面倒だな”って思ってたけど、今はギラティブと毎日手合わせをして圧倒する事によって、冒険者内での俺の評価がどんどん上がっている事を感じるから、この手合わせが無駄になっていないと思えば、そんなに面倒にも感じなくなってきた。
ギラティブとの手合わせが終わると、毎度の如く冒険者達を一人ずつコテンパンにしていく。
俺もやってみたいって言う冒険者が多いんだよ。それを見たレイアの奴隷達が触発されて、そいつらもまたコテンパンにして、更にそれに触発された子供達には優しく相手をしてやる。
子供達はそれが終わったら、勉強の時間が始まる。他はそのまま稽古に残るのも居れば、仕事や用事で抜けていく者も居る。
ここ最近の毎日は大体こんな感じだな。
**
「君と君と君は、もう出てってもらうから」
私は男達が住まう長屋で開口一番にそう告げた。もう既に昼を回ってるのに、未だに部屋に居るのも謎だよね。
しかも、部屋に残ってるのが大人しか居ないってのが、如何にもナメてますって感じ。
「何故……ですか?」
「何故って何? なんで君らはグーダラしてるのさ」
朝起きれないとかもあるからね、それは仕方ないと思うよ?
でもさ、起きてる状態で一切頑張ろうとしないのは違うんじゃないの?
「王様にはわかんないですって」
けたけたと危機感の無い小馬鹿にした笑みを浮かべる奴まで居た。
うーん、腹立つなぁ。
「ま、わかんなくても良いから、さっさと出て行きな。申し開きもせずに、このまま残る事を許すと思うなよ?」
明日までに何もせずに残ってたら、強引に森の中に捨てる事にする。
「勝手に絶望して、勝手に諦める。そんな奴に用意してやれる場所なんて無い。戦おうとしない奴は要らないから」
そう言い残して、私はその場を後にした。
女子寮の方は綺麗さっぱり誰も居なかった。年取った大人が居なかったからだろうね。
**
「陵、明日の昼後に出発ね」
ベッドの上で横に転がった美玲は、じっと上目遣いでそんな事を言った。
「ん、わかった。それまでに色々と済ましておけば良いんだろ?」
話の脈路が無かったけど、特に驚くことはない。
「うん」
彼女を抱き寄せて、明日起きてからやるべき事を考える。
考えてみると、そんなにやることは無いな。
道場に来た冒険者に説明するくらいか。子供達と奴隷達はレイアから伝えて貰えれば良い。
基本はいつになっても大事だから、子供達と奴隷達には素振りと基本技の練習だけ続けてもらうとして、冒険者達はどうしようかな……
どうしようもないな。
人の正しい殴り方と剣の振り方、武器の扱い方を教えたから、我流じゃこれ以上強くなれないと感じてる奴らだけやれって言うしかないな。
あんまり気にし過ぎても意味ないし、複雑な指示を出しても、それを監督無しで一切間違わずにやるってのは難しいだろう。
むしろ、基本じゃないとダメだな。
「陵?」
「ん?」
「難しい顔してるよ」
「色々考えてるんだよ」
「そっか」
可愛い彼女をちょっとだけ強く抱きしめた。
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