第9話-購入
私はレイアを連れて、やってきた商人達にプレゼンをした。
今は太陽王モードでも何でもないよ。一応、ちゃんと対応するってギラティブに約束しちゃったし。
内容は主に二つ。
一つは、湖を使った観光業をやるのに手を貸してくれないか? ということで、
もう一つは、ギラティブを瞬殺出来る陵が開いた道場の運営に力を貸してくれないか? ということだ。
ギラティブは冒険者ギルドで有名な人らしいし、冒険者ギルドじゃなくても有名みたいだから、そうやって引き合いに出した。
何人も商人が居たんだけど、やっぱりあんまり反応は良くなかった。まあ、そりゃそうだよね。
確かに湖は綺麗だけど、綺麗ってだけで他に娯楽はない。
確かに道場主は強いけど、明確な名声があるわけじゃない。
問題点はわかってるんだけど、それを解決する手段は無いんだよね。
あ、いや、順序を逆にすれば良いのかな。
陵には先に遠征に行ってもらう。名声を得るために。
湖を観光業にするのは、もっと国民を集めてからにする。
金だけ払えば何とかなる問題でもない。
国民は最悪、盗賊に捕まってる人達や難民を集めまくれば、あっさり終わる話ではある。
あるんだけど……、それを陵に任せるのは適材適所の真反対だ。
彼は戦う事においては、誰の追随も許さないけど、それも相まって、初対面の人からしたらかなり怖い。
ってなると、国民の確保は私がやるしかないわけで、というか、尊敬されやすいことは私がやらないと意味が無いわけで、じゃあそれでこの場を留守にしたら今度はどうなるか……まあ、間違いなく子供達だけだと生きていけないよね。
レイアも腕っ節はからっきしだから、食料の確保が出来なくなる。
王の代わりには向いてると思うんだけどね。
人手が足りないなぁ……
「レイア、お金借りて良い?」
「えっ? 私の手からは使えない物なので、別にそれは良いですけど……」
確かこの世界って奴隷が居たはずだ。それも、呪いでしっかりと縛って言いなりに出来るやつ。
人手がないから何も出来ないってボヤいたら、ギラティブが奴隷ってのがあるぞって教えてくれたんだよね。
あの人なんだかんだで私に距離を詰めるのが上手くて、簡単な相談役ポジに居るんだよね。陵にはあんまり好かれてないみたいだから、距離を詰めるのが上手いのもそうだけど、それ以上に性格の相性だとは思うけどね。
「一旦、出してもらって良い?」
「はい」
なんで態々商人の前に出させたか。それは簡単で、レイアが持っている通貨が使えるのかわからなかったから。
「この通貨って使える?」
目の前に並んでいる座っている商人に尋ねる。
「もちろん、使えます」
その中で一番お金を持ってそうな商人がそう言った。
「合計で幾らくらいあるの?」
「白金貨100枚くらいです」
白金貨100枚って言うと、金貨100枚が白金貨1枚だから……うん、よくわかんないね。
白金貨100枚、というのを耳にした商人の顔付きが変わった気がした。
「何かお求めで?」
お金を持ってそうな商人は、身なりは少しふくよか……いや、オブラートに包まずに言うと太ってて、変なちょび髭を生やしてる。
「レイア、そのお金を使って、この国の周りの森で、絶対に死なない、腕の立つ奴隷を買えるだけ買ってもらえる?」
私は初めて、レイアに商人としての仕事を命じたように思う。
「契約主は全てレイアで良い。あと、使った分は後で何らかの形で返すから」
レイアは少しポカンとしてたけど、段々と好戦的な笑みと歓喜の笑みが混ざったような表情に変わった。
そこからは鮮やかな手付きで、レイアは商人達と交渉を進めた。
やがて、奴隷100人の購入を決定した。
100人単位でこの国は人が増えるんだね……
奴隷は人扱いじゃないらしいけど、それはそれ、これはこれだね。
「はーっ、久しぶりに取引したって感じします」
商人との話を終えて、私達は来客用の建物に案内した後に、自らの家に帰った。
「おつかれ、レイア。ごめんね、お金使わせちゃって」
「良いんですよ。どっちにせよ、私名義だと足が付いちゃうので」
レイアという名前で取引した場合、間違いなく逃げ出したあの国から狙われる事になる。
私達、一応は公爵を殺しちゃってるからね。
あの国の名前、忘れちゃったけど。
「でも、良かったんですか?」
「何が?」
「全部、私名義の奴隷にしちゃって……」
「私達は自衛出来るから、要らないよ」
後から補填するとしても、奴隷の主になる気はない。
「ああ、まあ、そうですよね」
「私はレイアがずっと心配なんだよね。自衛する手段とか持ってないじゃん?」
レイアは優秀で有能で、自衛さえ出来れば国の全てを任せてしまえるのに、なんて、何度思ったかわからない。だって、そうすれば私と陵は好き勝手に色んな事が出来るから。
経営の知識とか何もない私より、そういう事を知っているレイアの方がよっぽど適任だ。でもまあ、思い切りとか決定力に欠けてる気はちょっとするけどね。
「それを今回で……ですか」
「まあ、そんな所かな」
奴隷は日本には無い文化だけど、似たような物はあっただろうし、私はその身分自体に抵抗が全く無い。
「奴隷って普段はどんな扱いされてるの?」
ふと、思い当たった事があったから聞いてみる。
「冷や飯食わされれば良い方ですね。結構使い切られるモノだと思われてます。……だから、私も今まで手を出してこなかったんですよね。人が死んだら買い替えるってのは、その、あんまり面白い事では無いなって思ってて」
その言葉は私にとっては意外だった。だって、親族が死んだことを比較的あっさりと受け入れられていた子なのに、人が死んだら買い替えるって感性には奇妙さを覚えているから。
「意外だね? まあ、良いんじゃない?」
「あんまり、商人には向かない気質なのは理解してるんです。でも、使い捨てなんてそんなの、お母さんみたいだから……」
ああ、そっか。レイアは家族に家族を使い捨てられたんだ。なんなら、使い捨てられた先の子だった。
「ごめんね、言いたくないこと言わせたね」
「え、いいえ。もう終わった事ですから」
軽く謝ると、首をブンブン横に振って勢い良く否定した。
「レイア、使い捨てなくて良いからね」
「へ?」
「私の世界にも昔は奴隷って身分があってね。実際は全部が全部そうじゃなかったんだけど、私達の時代には使い捨てられて当然の身分って解釈になってたんだよね。だから、レイアが使い捨てるつもりなら、止めるつもりだったんだよ」
私達の世界にも奴隷って言葉はある。でも、実際に古代に遡ると、奴隷は只の身分って解釈だったりする事もある。だから、全部が全部じゃないんだよね。でも、どうやらこの世界の奴隷への一般認識は、使い捨てられるモノらしい。
「そう……なんですね」
「奴隷にも今暮らしている住人と同じくらいの暮らしを与えてあげてね。……まあ、今の住人の暮らしもあんまり良くないんだけどさ」
今の住人は8割が子供で、2割が大人って感じになってる。今は大人は大人でシェアハウスみたいな事をして貰ってて、子供たちは男女別に長屋で生活してもらってる。
食事は皆で固まって食べてるし、仕事も各々の事をしている訳ではなくて、山菜取りと獣狩りだけだ。何処に暮らしが良いって要素があるかわからない状態なんだよね。
衣服もそうなんだ。レイアが持ってたり、私が作り方を教えて子供に作らせたりして、色々とやったんだけど、それだって良い暮らしって風には見えない。まあ、作れれば問題無いって話はあるんだけどね。
「それはその、私の事を気遣って?」
「いやまさか。そっちの方が最後の最後で人に助けて貰えるってだけだよ」
他人がやっている奴隷の扱い方ではなくて、他人よりも少し良い奴隷の扱い方をするだけで、奴隷からして見れば、この人ってなんなんだろう?って興味を持つ対象になる。
これは高校生活で言う所の、スクールカーストの最下位をちょっと上に持ち上げただけで、この人なんなんだろう?って思われるのと一緒だね。
あ、私? 私は陵の存在もあってカースト最上位でした。悪口を言おうとしても陵に仕返しされるからって事で皆が口を噤んでたし、そもそも私自身が色んな子に優しかったから、やっかみ以外受ける事がなかった。成績も良かったよ。
「助けてもらえる……ですか?」
「うん、だからなるべく、買った奴隷には時間を掛ける事をお勧めするよ」
私の経験から言えることってこれくらいなんだけどね。これに関しては奴隷じゃなくても一緒だけどね。