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第8話-道場

 道場の中では、複数人の子供が木刀を振っていた。俺はそれを全体から俯瞰し、ダメな所は一つずつ直していく。


 なんで、こんな事をしているのか、それはギラティブと手合わせした日の夜に遡る。



「陵、ちょっと良い?」


 冒険者ギルドの職員と別れて、俺と美玲とレイアの三人になった。普通に話し掛ければ良いのに、改まって口に出すものだから、きっと、何か頼み事でもあるのだろうと思った。


「道場、やってみない?」


 彼女の口に続いたのはそんな言葉。

 道場……ね、確かに俺の腕だったら、それなりに教えを受けたい奴も集まるだろうな。


「それは良いけど、なんで?」

「子供達が戦えるようにして欲しいのと、冒険者ギルドに対するマウンティングかな」


 マウンティング……ねえ、ま、俺は自分の技術が潔白だとも思ってないし、そういう俗な使われ方をしても構わない。


 それに何より……


「俺が教えるモノを好きに選んで良いんだよな?」

「もちろん」

「おっけ」


 つまり、第二の俺を作れるような道場を運営しろって言ってるんじゃなくて、門下生を強くしろって言ってるわけじゃなくて、俺の裁量で好きにしろって言ってるんだ。


「で、冒険者ギルドへのマウンティングって態々言ったって事は……」

「だね。冒険者って荒事が多いみたいだから、もしかしたら見てもらう事になるかもね」

「りょ」


 子供達と冒険者、その二つの面倒を見る施設を運営しろ……か、中々面白そうだな。



 ってな訳で、あれから一週間くらい経って、稽古場も用意されて、俺は大人しく子供の面倒を見ているわけだ。

 子供が強くなれば、俺が山菜狩りでついて行く必要も無くなるので、実質人手を増やす為にやっていると言っても過言ではない。

 俺の裁量で好きにやって良いことにはなってるけど、俺は子供相手には手を抜く気は無い。一からしっかりと、目が潰れないようにやるつもりだ。


「リョウ殿、今日もお手合わせ願いたい」


 道場の扉を開けたギラティブがそんな事を言う。この爺さん、毎日来て俺にボロ負けして帰って行くんだよな。

 この人の技術と身体を使えば、俺に対して結構良いラインまで行くはずなのに、いつもボロ負けするんだよな。

 いつも、身体と技術が勿体ないなと思いながら相手をしてる。


「今日は子供も居るから道場内でやろう。お前ら端に除けろー」


 良い機会だし、軽く実戦がどんな物か見せておくか。ま、道場内の手合わせに実戦もくそも無いけどな。


「おい、良いのか?」

「何が?」

「……燃えるぞ?」


 ああ、前に使った魔法の話か。


「今日は本気でやってやる。魔法を使う時間なんて無いぞ」


 ギラティブと戦う時は、いつも真剣でやる。子供達には絶対に握らせないけど、魔法を斬ったりとかもするから、木刀だとどうしても実戦から感覚が離れすぎてしまう。


「今までが本気ではなかった……だと?」

「逆に、今までボロ負けしておいて、俺が本気になったと思ってるのか?」


 冒険者ギルドの中ではそれなりに強いらしいけど、本気になる程じゃない。


「ぬぐぅ…」

「良かったな。俺の本気が見れて」


 悔しそうにギラティブは眉を潜めた。爺さんの悔し顔とか誰得だよ気持ち悪いな。


「このコインが落ちたらスタートな」


 実戦によーいドンなんて物は無いけど、道場の中だしな。


 コインが地面に落ちた。


 その瞬間、俺は全力でギラティブの懐に飛び込む。案の定ではあるけど、彼は反応出来てない。


 全力で袈裟掛け斬りを振り抜きに対して、ギラティブの剣が合わさるよりも先に、更に半歩踏み込んで、完全に剣の間合いを潰す。

 ギラティブって剣は良い腕してるんだけど、近間に入ると何も出来ないんだよな。徒手の技術が著しく低い。

 とは言え、右腕で左から右に全力で振り抜く態勢だったから、左で殴るよりも刀の柄をぶつけた方が早い。


 刀の柄が正面から胸に突き立てれて、ギラティブが吹っ飛んだ。


 子供達から歓声があがった。人がとんでもない勢いで飛んで行ったら、そりゃ面白く見えるよな。


「げほっ」


 咳き込んだギラティブの正面に立って、屈んだ状態になった彼の顔面を蹴り上げる。屈んだ状態って、武器を隠したりしやすいからな。だったら、一度立たせてから決めた方がリスクが少ない。


「これで終わりだな?」


 蹴り上げられて身体が広がったギラティブの首の薄皮一枚を斬り裂いた。そこからは血が零れ、流れ、実戦だったら殺されている事を明確に判らせる。


「いつも以上に完敗だ……」


 残念そうにがっくりと肩を落とした。いつもはもっと軽く落ち込んでいるのだが、今日は俺が本気でやり過ぎたな。


「そもそも、俺は剣士じゃないからな」


 一応フォローをしておいた。もし実戦で強くなりたいなら、素手の技術も高めることだな。斬る練習ばっかりしてると打撃が疎かになって、超近接戦闘になった時に押し負ける。

 


「よしお前ら、続きの稽古するぞ」


 道場の隅で湧いていた子供達に、真ん中に戻ってくるように手招きをして、また稽古を始めた。




 **


「美玲さん、冒険者ギルドのギラティブさんが来てますよ」


 湖の周りをぶらぶらして、家に帰った所で、レイアに呼び止められた。


「大きい方?」

「はい」


 私は軽い確認だけして、大きい方のリビングの扉を開けた。そこには建てられた当初とは違って、二つのソファが向かい合って置かれていた。


 そして、座っていたギラティブの向かい側に座った。


「どうも、こんにちは」


 軽い挨拶を投げてみる。


「ミレイ様、この度は…「そういうの要らないから、要件は何?」」


 長い建前を喋ろうとした年寄りの言葉を一刀両断する。

 その様子を見て、彼はくつくつと笑った。


「相変わらずだな」

「で?」


 私は基本的に、良いと思ったモノ以外に手を伸ばしたくない。

 例えば風の精霊王の依頼とか、最高神の依頼とかね。

 つまり、冒険者ギルドに関しては全く興味が無くて、時間を使うのも惜しいと思ってる。


 私も色々やってるんだよ?


 水、電気、火の施設作成とか、何か足りてないのかとか、常に探しながら国を歩いて、一つずつ直したり、足りないのは埋めたりしてる。


 神王国が出来て一ヶ月って事もあって、足りない物が多過ぎるし、色々と細かい不備も出たりしてる。

 その一つ一つを、太陽王モードで対応したり、時には持ち前の器用さで対応したりしてる。

 高校生活で出来なかったことが無かったからってのと、知らなければ指輪に聞けば良いってのが相まって、全部を一人で対応してる現状だ。


 陵に道場をやってもらってるのは、道場を私の国の特産物にしようと思ってるから。

 腕を磨きたい人が長旅をしてでもやってくるような、そんな道場にしようと思ってる。


 目の前のお爺ちゃんは、冒険者ギルドの中でかなり強いんだけど、陵はそれに勝っている。

 つまり、少なくとも冒険者ギルド内には需要があるということで、私はこれなら国の発展の為の持ち札として使えると思ってる。


 まあ、陵にはギラティブが冒険者ギルドの上から一桁台の実力者だとは伝えてないんだけどね。


「明後日に、一つの商隊が来る」

「それで?」

「だから、相手にしてもらっても良いか?」

「まあ、それは別に良いけど。態々こうやって言うってことは……」

「冒険者ギルドの顔を立てて欲しい…ということではある」


 冒険者ギルドの影響で、段々と神王国ヤマトの名が拡がっているらしい。

 理由は知らないけどね。


「んまあ、顔を立てるべきだと判断したらね」


 わかったとは言えない。だって、それを決めるのは私だから。


「そう言えば、なんでこの国の名前が広がってるの?」


 その代わりに、一つ疑問を落としてみた。


「この国はかなり特殊だからな。その特殊性と、あとは成り立ちから見て、人の目を惹きやすい」

「それだけなら、一回来たら終わりになっちゃうね」


 少なくとも国としては機能しない。住民が増えるなんて事も無い。……まあ、別にそれは困らないんだけどさ。

 建国は、あくまで色々な事をこなす為のガワを作っただけに過ぎないわけだしね。


「冒険者はそうでも無さそうだがな」

「へえ? なんかしてくれたの?」

「儂が負けた事を吹聴した、それだけだ。あとはまあ、儂に会いに来る奴も居るからな」

「なるほど、それは良いね。じゃあ、多少は商人に色の良い返事をしようかな?」


 相手が恩を売ってきたなら、大人しく買っておいた方が良い。何故なら、それは既に報酬が用意されているようなものだから。

 とは言っても、姿形のある物でもないから、逆に言えば蔑ろにしても何も困らない。


 そういう便利なモノなんだよね。恩って。


「現金だな」

「そりゃそうでしょ」


 肩を竦められたから、オウム返ししておいた。


「じゃあ、商人は何の為に来るの?」

「それは知らん」

「え、つっかえ」


 思わず出てきた言葉に、ギラティブは目を丸くした。強そうなお爺ちゃんが目を丸くしても、何にも面白くないね?


「取り敢えず、売れるようなモノなんて無いから、先にそれだけ伝えといてね」


 少しだけつまらない談笑をして、ギラティブにはお帰り願った。



 陵にはこの国を発展させる為に、ちょっと遠い未来だけど、遠征に行ってもらう事になる。

 風の精霊王の力で、使えそうなモノや為になりそうなモノの情報がバンバカ入ってきてるから、それを陵に回収してもらって、国の発展に繋げようって話だね。


 その間はレイアと私だけになっちゃうけど、太陽王モードがあるから、もし戦闘になっても大丈夫。

 というか、私の隠し球(戦力)って太陽王モードだけじゃないしね。

 もっと言うなら、太陽王モードで人を殺した事すらないし、戦闘したこともない。

 組手では陵を結構困らせられたから、それなりの強さにはなってるから、問題無いかなって思ってる。


 商人の件は冒険者ギルドから言ってこなければ、こちらから誘ってくれないかと提案したし、ギラティブさんがしつこく道場を訪ねる事を許してるのは、今後を見据えてって感じだね。

 レイア曰く、商人は勝手に来るはずだから、こっちから冒険者ギルドに紹介を求めるのは良くないから、こうやって向こう側が言い出すのを待ってたってのもある。


 あー、ダメだ、色々とやんなきゃいけない事多過ぎて頭がパンクする……


 えっと、取り敢えずこれからやらなきゃいけない事を箇条書きしてみると……


 1.金儲けや集客になる物を見つける。

 2.陵に使えるモノを集めてもらう。

 3.国を纏める。


 ……だね。


 ……うーん、国民は8割りが子供だから、纏めるも何も無いんだよねぇ。

 2の陵への依頼も、今すぐに出来るってわけじゃない。道場とかもあるしね。


 って事は、現実的に今やらなきゃいけないことは、1番の金儲けについて考える事かな。


 商人が来る前に商人にウケそうな物を考えておこう。道場は商人にはウケ悪そうだしね。

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